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2025年10月4〜5日、全日本ロードレース選手権シリーズ第6戦「スーパーバイクレース in 岡山」が開催された。最終戦を待たずに、J-GP3クラスでは尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)が5度目、JSB1000クラスでは中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)の13度目のチャンピオン決定がかかる大会となった。
- ■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝
■J-GP3クラス
“尾野劇場”を見せられたか?
#1尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)は107.5ポイント(P)でランキングトップ。71.5Pでランキング2番手につける#2若松 怜(JAPAN POST docomo business TP)とは昨年もタイトルを争い、最終戦で先着した方がチャンピオンという緊迫した戦いを繰り広げ、尾野が勝利してタイトルを獲得。
「過去のタイトル争いの中で最もヒリヒリするような緊張感があった」と尾野は振り返る。しかし今回は、若松が事前テストでのケガにより欠場してしまう。
逆転タイトルの可能性が残るのはランキング3番手の#11中谷健心(MotoUP Jr Team)だが、尾野との差は51.5P。中谷が優勝したとしても、尾野が14位以上を獲得すればチャンピオンが決まる状況だった。
中谷はMiniGP出身で、尾野がアドバイザーを務めた“教え子”のような存在。まだ17歳の高校生ライダーだ。その中谷と尾野が、トップ争いを繰り広げることになる。
金曜日のスポーツ走行からの雨は予選日も続き、路面はウェットコンディション。開始直前の気温は約21度と肌寒さを感じるほどだった。
J-GP3の予選が始まると雨が強まり、「雨に自信がある」という中谷が好タイムを連発。トップとなる1分53秒268を記録した直後に転倒。同周回で転倒者が相次ぎ赤旗中断となる。2番手は#51知識隼和(MotoUP Jr Team)だが、トップの中谷とは約4.5秒差。再開後、雨が止み、尾野は最終ラップに1分53秒台へ突入するも、1分53秒763で中谷に0.756秒届かず。これまで連続でポールポジション(PP)を獲得してきた尾野が、今季初めてPPを逃す。
「残念ですが、大事なのは決勝とタイトル」と、ベテランの小野は冷静に次を見据えた。
決勝は、ライン上がドライながらウェットパッチが残る難しいコンディションで、ウェット宣言のもとスタート。
ホールショットは中谷、これに尾野が続き、この2台が後続を引き離す展開に。5周目に尾野が首位を奪うが、8周目に中谷が再び前に出る。終盤まで一騎打ちが続くが、尾野は中谷のミスを見ても無理に抜かず、14周目に満を持して前へ出る。「最終ラップでは何かあった時に対処できない」との判断から、ラスト3周で仕掛け、ラスト2周にはファステストラップを記録し中谷を突き放して優勝を飾った。
3位争いは#4岡崎静夏(JAPAN POST Honda RACING TP)、#7松島璃空(BREASTO B-TRIBE RACING)、#19仲村瑛冬(Team Life.HondaDream Kitakyushu)、#50富樫虎太郎(SDG Jr. 56RACING)、#51知識隼和(MotoUP Jr Team)による激しいバトル。松島がトラブルで離脱すると、#5高杉奈緒子(TEAM NAOKO KTM)が加わる。最終ラップのヘアピンで知識が3番手に立つが、最終コーナーの立ち上がりで岡崎がスリップストリームを使い逆転。岡崎が3位、知識が4位、富樫が5位、高杉が6位となった。
この中には中谷同様、MiniGP卒業生である14歳の中学生ライダー知識と富樫もおり、若いエネルギーがレースを盛り上げた。
尾野は、生来の1番手ではないと許せない自分自身と向き合っていた。
「公開テストからレースウィークまでウェットで非常に厳しい状況でした。勝ってチャンピオンを決める理想の形にしたい気持ちを抑え、タイトル獲得を優先させなければならないのかと思っていました」
だが、「天気が味方をしてくれ、ドライになりました。この状況にチームも自分もアジャストでき、勝ってチャンピオンを決められました」と、その喜びを語った。
一方、中谷は先輩である小野を讃えた。
「尾野さんの後ろでタイヤを温存したかったけど、そうはさせてくれなかった。前に出て逃げ切りたかったが、ずっとすぐ後ろでエンジン音が響いていた。そんな考えは甘かった。自分は限界で走っていたけど、尾野さんには余裕があった。本当に強かった」
尾野は「中谷選手は急に速くなったわけではなく、トップ争いをしたことも意外ではなかった。良い刺激をもらっている。最終戦では、皆が期待してくれている尾野劇場を見せたい」と、すでに最終戦を見据えている。
尾野のタイトル獲得レースを見てJSB1000クラスの中須賀克行は「自分も勝って決めなければ」とプレッシャーを感じることになる。
■JSB1000クラス
中須賀克行の強さ──
#2中須賀克行のタイトル決定がかかるJSB1000クラスは1レース制。予選はノックアウト方式で、35分間のQ1で全車が走行し、上位10台がQ2へ進出。11番手以下はその順位でグリッド確定となる。
予選日は雨が降ったり止んだり、それも時おり雨脚が強くなったり、小雨のようになるなど不順な天候となる。
Q1は名越哲平の代役参戦の#46阿部恵斗選手(SDG Taem HARC-PRO.Honda)、#3水野 涼選手(DUCATI Team KAGAYAMA)、スポット参戦の#16渥美 心選手(Yoshimura SERT Motul)、4番手に中須賀。Q2では、中須賀がトップタイムとなるが、それを水野、阿部が越えて行く。最終的に水野がトップ。阿部が2番手、中須賀3番手、4番手に#10長島哲太(DUNLOP Racing Team with YAHAGI)で、この4名が1分44秒台。予選5番手に#30鈴木光来(Team ATJ)、6番手の#4野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)が1分45秒台となる。
水野は開幕以来のPP獲得となり「ここまで抱えていた問題が、イタリアからドゥカティのエンジニアが来てくれたことで解決した」と速さを取り戻す。
金曜日のスポーツ走行から雨が続いていたが、決勝日の朝には雨が止んだ。晴れ間が覗き、気温も路面温度も急激に上昇し、ドライコンディションでレースが行われた。
中須賀選手は、1ポイントを獲得すればチャンピオン決定となる。誰もが中須賀のタイトル決定を疑う者はなく、勝って決めることが出来るのかが焦点となった。
序盤、中須賀は水野、長島との接近戦を展開する。トップは長島だが、ヘアピンコーナーで中須賀がインに飛び込み、リボルバーコーナーでトップ浮上すると、周回毎にリードを広げて行く。ファステストラップタイムを叩き出しハイペースを維持して勝利へと突き進む。
2番手争いは長島と水野と野左根。5周目のヘアピンコーナーで野左根選手が水野選手を捉えた。水野は遅れてしまう。長島と野左根の一騎打ちとなり、終盤に野左根はヘアピンで前に出るが、長島はぴたりと野左根をマーク、その差はコンマ差で接近戦が続いた。
レースは、最終ラップに転倒車があり赤旗提示で、そのままレース成立となる。中須賀は後半ペースを押さえながらも、2番手に13秒232のビハインドを築く圧巻のレースで13度目のタイトルを決めた。
イニングランを終え、表彰台の前で待ち構えるスタッフの前に戻った中須賀の顔は、安堵と歓喜の涙で濡れているように見えた。この道のりが、決して平たんなものではないことを物語っていた。
祝福に訪れる人々との抱擁が相次ぎ、中須賀はそれに応え続けた。
2番手争いは野左根が2位を守り切った。長島は3位で、今季このクラス初の表彰台を獲得した。
中須賀がレースを振り返る。
「公開テストでドライに対する手応えはあったが、雨では水野選手が一歩リードしており、雨の走行開始からリズムが作れずに緊張がありナーバスになっていました。幸運にも決勝はドライとなり、自分がアベレージを持っていたので、序盤から集中しました。
先にJ-GP3クラスで尾野選手が優勝でチャンピオンを決めたので、自分もしっかり全力を出し切って、それが優勝なのか、2位なのか、3位なのかわかりませんが、全力で挑もうと思っていました。勝って決めることが出来て非常に良かったです。
13回目ですが、何回経験してもチャンピオンを決めるレースは緊張します。ミスなくコースに送り出してくれたチームスタッフと戦って来た形が、チャンピオンという結果に繋がっているので、本当に感謝したいです。応援して頂いたファンの方にも、最後まで後押しして頂いたので、こうやって力を出し切ることが出来たのだと思います」
タイトルを決めた尾野、中須賀は、その重圧から逃れて最終戦では、勝利を目指す。
ST1000クラスは#3羽田太河(Astemo Pro Honda SI Racing)が今季3勝目を挙げた。
ST600クラスは#2長尾健吾(TEAMKENKEN YTch)が今季初優勝を飾った。
この2クラスは、最終戦決戦でチャンピオンが決まる。
最終戦は2025年10月25日(土)~26日(日)に三重県鈴鹿サーキットで開催される。
(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)
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