10月16日、ホンダは新基準原付モデルである新型「スーパーカブ110 Lite」「スーパーカブ110 プロ Lite」「クロスカブ110 Lite」「ディオ110 Lite」の4モデルを発表。東京都内で発表会を行い、その実車を披露した。ここではそれら新基準原付モデルの詳細を紹介する。
- ■文:河野正士
- ■写真提供:ホンダモータサイクルジャパン
- ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン
ホンダが先陣を切って、日本国内市場に新基準原付モデルの新型車を投入した。新基準原付モデルとは、原付二種車両(総排気量50cc超125cc以下のエンジン搭載車)をベースに、最高出力を4.0kW以下に抑えることで原付一種免許、いわゆる原付免許で乗車可能なモデルだ。
したがってホンダが新たにラインナップした4モデルのベースは、それぞれ排気量110ccエンジンを搭載するカブ・シリーズとディオであり、その基本設計をそのまま継承しつつ、カブ・シリーズは3.5kW/ディオは3.7kWに最高出力を抑えている。その新基準モデルと原付二種モデルを見分けるポイントはいくつかあるが、もっとも分かりやすいのはロゴマークに追加された「Lite(ライト)」の文字だ。
開発陣に話を聞いたところ、出力抑制方法は混合気容量の抑制であり、それを機械的と電気的の両方で行っているという。機械的抑制についてはその詳細を開示してもらえなかったが、そこで絞った混合気をECUのプログラムで補正するという電気的手法で最適化しているという。したがって変速機をはじめとする車体の基本構成パーツは、すべてのLiteモデルが110ccモデルと共有している。
こう聞くと、出力制限によってアクセルを開けても前に進まない車両を想像してしまうが、それについてはスーパーカブLiteシリーズの開発責任者である八木崇(やぎたかし)氏も、ディオLiteの開発責任者の石田眞一郎(いしだしんいちろう)氏も、110ccエンジンをベースにしたことによる低中回転域の豊かなトルクと、その特性を造り込むことで新基準原付モデル特有の、余裕のある走りを実現することができたと説明した。またスーパーカブ50シリーズと同等の燃費性能が実現できたのも、110ccという排気量がもたらすメリットによるものだという。
またスーパーカブLiteシリーズは、110シリーズと同じ、フロントにABS装備のディスクブレーキと前後アルミキャストホイール&チューブレスタイヤを標準装備。ディオLiteは新設計のローシートを採用。110に対して15mm低いシート高とし、新基準原付車両らしい扱いやすさを実現している。そして両モデルともに、60km/hの速度計やタンデムステップの廃止など、Liteシリーズ独自のディテールも採用している。
新基準原付モデルについては、関係省庁である警視庁、オブザーバーとして経済産業省や国土交通省が中心となり、2023年に「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会」が開催されている。その検討会の開催の背景は、国内第4次排出ガス規制の導入が決定したことにある。国内第4次排出ガス規制とは、2017年5月の中央環境審議会第13次答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」を踏まえて導入が決まった新たな排出ガス規制で、二輪新型車には2020年12月、継続生産車には2022年11月から適用が開始。原付一種車両は、2025年11月以降に製作される車両に適用されると決定した。問題となったのが原付一種車両、くわしくは総排気量50cc以下で設計最高速度が50km/hを超える二輪車への国内第4次排出ガス規制の適用である。
多くの内燃機が採用する触媒は、排出ガス浄化システムとして広く普及している解決策である。しかしその触媒は約300°Cを超えないと浄化が始まらない。原付一種車両は総排気量が小さいことから、触媒の温度上昇に時間を要するため、短時間での浄化能力が不足し、触媒が機能する前に排出ガスモード規制値を超え、国内第4次排ガス規制の基準を満たすことができない。
また原付一種車両の設計最高速度を現行の60km/hから50km/hに引き下げれば国内第4次排出ガス規制は適用されない。しかし加速性能や登坂性能が低下するため、一部の国内地域で走行できないという問題が発生することから、設定最高速の低下は代替案にならない。
したがって、それまでの原付一種車両では、国内第4次排出ガス規制に適合する車両開発は困難であり、なおかつ開発費用に見合う事業性の見通しが立たないと結論づけられたのだ。
その解決策として誕生したのが新基準原付モデルだ。小型二輪車が搭載するエンジンは、総排気量が大きいためマフラー内部への高温の排出ガス流入量が多く、触媒の温度上昇に要する時間が原付一種車両搭載エンジンに比べて短く、国内第4次排出ガス規制に対応可能だったのだ。
それらを踏まえ、2022年4月、全国オートバイ協同組合連合会および日本自動車工業会から、小型二輪車の加速性能に関わる「最高出力」を原付一種モデルと同等に制御することにより、原付免許で運転できる車両の実現について検討して欲しい旨の要望書が出され、先に出た「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会」が開催されたのである。
そして警視庁は、道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令および、交通の方法に関する教則の一部を改正する告示を2024年11月13日に交付、2025年4月1日から履行することを通達。原付一種の新たな区分基準である新基準原付が追加された。また2025年11月以降に製造される総排気量50cc 以下で設計最高速度が50km/hを超える二輪車である原付一種車両に、国内第4次排出ガス規制の適用を開始した。
今回のホンダの新基準原付車両/Liteシリーズの発表は、その道路交通法施行規則の一部改正と、2025年11月以降に製造される原付一種車両に適用する第4次排出ガス規制の開始にタイミングを合わせたものだったのだ。
ホンダモーターサイクルジャパンの代表取締役である室岡克博(むろおかかつひろ)氏は新基準原付モデルについて以下のように語った。
「まずは社会のインフラにもなっている原付一種のカテゴリーに、新基準原付モデルを提供することを目標としました。そのカテゴリーは電動モデルも投入していますが、内燃機搭載モデルが適している地域や使い方があり、根強い人気と要望があります。その要望に対してホンダのプロダクトを提供することは、庶民の生活を支えるというホンダの理念であり、いち早く新基準原付に適合したモデルを提供することはホンダの原点を継承することであると考えています。新基準原付の市場が今後どのように推移するかは市場状況を注意深く観察する必要があり、今後の予定は決まっていません。まずは新基準原付モデルのフィードバックを吟味することからはじめたいと考えています」
- 【関連資料】
- 「一般原動機付自転車の車両区分見直しの概要」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/menkyo/20250306.pdf
- 「二輪車車両区分見直しに関する有識者検討会報告書」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/menkyo/nirinhoukokusho_002.pdf
- 「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令等について(通達)」https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/menkyo/20250331.pdf
■型式:8BH-JA76〈8BH-JA77〉[8BH-JA79] ■エンジン種類:空冷4 ストローク単気筒SOHC 2バルブ ■総排気量:109cm3 ■ボア×ストローク:47.0×63.1mm ■圧縮比:10.0 ■最高出力:3.5kW(4.8PS)/6,000rpm ■最大トルク:6.9N・m(0.70kgf・m)/3.750rpm ■ 全長×全幅×全高:1,860[1,935]×705<730>[795]×1,040<1,065>[1,110] mm ■軸距離:1,205〈1.225〉[1,230] mm ■シート高:738〈740〉[784] mm ■車両重量:101〈111〉[107] kg ■燃料タンク容量:4.1L ■変速機形式:常時噛合式4 段リターン ■タイヤ( 前・後):70/90-17M/C 38P〈70/100-14M/C 37P〉80/90-17M/C 44P]・80/90-17M/C 50P〈80/100-14M/C 49P〉[80/90-17M/C 44P] ■ブレーキ(前・後):油圧ディスク(ABS)・機械式リーディングトレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:タスマニアグリーンメタリック、バージンベージュ〈セイシェルナイトブルー〉[マットアーマードグリーンメタリック、ハーベストベージュ、ボニーブルー] ■メーカー希望小売価格(消費税込み):341,000 円〈385,000円〉[401,500円]※〈〉はスーパーカブ110プロ Lite、[ ]はクロスカブ110 Lite
●Dio110 Light主要諸元
■型式:8BH-JK46 ■エンジン種類:空冷4 ストローク単気筒SOHC 2バルブ ■総排気量:109cm3 ■ボア×ストローク:47.0×63.1mm ■圧縮比:10.0 ■最高出力:3.7kW(5.0PS)/5,250rpm ■最大トルク:7.6N・m(0.77kgf・m)/4,000rpm ■ 全長×全幅×全高:1,870×685×1,100 mm ■軸距離:1,255 mm ■シート高:745 mm ■車両重量:95 kg ■燃料タンク容量:4.9L ■無段変速式(Vマチック)■タイヤ( 前・後):80/90-14M/C 40P・90/90-14M/C 46P ■ブレーキ(前・後):油圧ディスク(ABS)・機械式リーディングトレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・ユニットスイングアーム式 ■車体色:キャンディスターレッド、マットギャラクシーブラックメタリック、パールスノーフレークホワイト ■メーカー希望小売価格(消費税込み):239,800 円