私のバイク仲間にはカワサキ車乗りが何人かいる。GPZ900Rを筆頭にZEPHYR750、ZZR1400、W650、MEGURO K3、すでに手放したモデルも含めればエストレヤ、KSR110、Z900RSなど、みんなコダワリを持ってカワサキ車に乗っている。周囲のカワサキ車乗りを見てカワサキ車に興味を持ちつつも、今までカワサキ車にはご縁がなかった。しかし今回、昨年末に発売された「KLX230 SHERPA(シェルパ)」を実走検証する機会に恵まれた。初のカワサキ車ということもあり、試乗期間中はワクワクドキドキであった。
- ■試乗・文・撮影:毛野ブースカ
- ■協力:カワサキモータースジャパン
このシェルパという名前を聞いてピンときた方がいるのではないだろうか。かく言う私もそうなのだが、1997年から2007年まで生産されたカワサキのトレッキングバイク「SUPER SHERPA(スーパーシェルパ)」である。1980年代から1990年代にかけてデュアルパーパス系が全盛だった時代に誕生したスーパーシェルパは、ライバルであるヤマハのセローやホンダのSL230とともにスリムで軽量、足着きが良く扱いやすいエンジンが搭載されたトレッキングバイクというカテゴリーを確立させた。三つ巴の中でスーパーシェルパは足着きの良さに加えて、KLX250のエンジンを空冷化した249㏄空冷単気筒DOHCエンジンを採用し、セローとSL230との差別化を図っていた。アドベンチャー系やデュアルパーパス系が好きな私はかつて愛車候補としてスーパーシェルパを考えたことがあり、シェルパの名前を冠したKLX230 SHERPAが発表された時からずっと気になっていた。
KLX230 SHERPAは基本モデルであるデュアルパーパス系のKLX230を中心に、ローシート仕様のKLX230S、スーパーモタード仕様のKLX230SMで構成されるKLX230シリーズのひとつである。シェルパという名が冠されているようにKLX230 SHERPAはトレッキングバイクとして位置づけられている。かつてのスーパーシェルパはエンデューロレーサーをベースとしたKLX250とは一線を画す、セローやSL230と同じトレッキングバイクらしいデザインを取り入れていた。それに対してKLX230 SHERPAはシュラウドやハンドガードなどの専用外装と車体色を導入しつつ、ベースとなったKLX230のデザインやエンジンを踏襲しており、一見してKLX230シリーズだとわかる。
KLX230はインドネシア市場向けに発表され、2019年に日本市場に導入された。「ライトウエイト&パワフル、だれもが楽しめるオフロードスポーツモデル」というコンセプトのもと、KLX250のようなオフロードや未舗装の林道をバリバリ走りたいというコアなユーザーよりも、ツーリングや街乗りにプラスしてオフロードも走りたいライトオフユーザー向けに作られたモデルだ。2024年に外装を中心にリニューアルされ、その際にKLX230 SHERPAがラインアップに加わった。スーパーシェルパより排気量は小さくなったものの、トレッキングバイクという視点から考えると、むしろKLX230 SHERPAのほうがセローやSL230に近いのかもしれない。
実車を見ると、いかにもデュアルパーパス系らしいシンプルながらも逞しさを感じるデザインはカッコよく、ここ最近デュアルパーパス系の新車が少ないせいもあり新鮮に見える。今回の試乗車はミディアムスモーキーグリーンと呼ばれるアウトドアテイストなカラーリングで、他にホワイティッシュベージュ、ミディアムクラウディグレーが用意されている。サイズ感は私がかつて乗っていたスズキのジェベル200とジェベル250XCの中間くらい、前々回試乗したスズキのVストローム250SXよりコンパクトな印象だ。
KLX230との大きな違いは、先ほどチラッと挙げた専用外装が採用されていることだ。ハンドガードに加えて(個人的にはこれが標準装備されているのは嬉しい)ヘッドライトカバーやシュラウド、サイドカバーなどがコンパクトになり、全体的に引き締まった細マッチョなスタイルになった。さらにフレーム下にはエンジン下部を保護するアルミ製スキッドプレート、DIDのマークが入ったアルミ製テーパードハンドルバーを標準装備。KLX230との差別化が図られている。
シート高はオフロード走行を意識して最低地上高240mmを確保しつつ845mmに抑えられている。シートのデザインはデュアルパーパス系らしく跨り部分である鞍部の幅と厚みが狭めなので、長距離走行にどのような影響を与えるのかが気になる。リアキャリアや荷掛けフックなどは装備されておらず、荷物を積載したい場合はオプションで用意されているリアキャリアを購入する必要がある。大型の液晶ディスプレイにはスマホに接続して車両の状態が把握できるスマートフォン接続機能が搭載されている。液晶ディスプレイは切り替えしやすく必要にして充分な情報が表示される。
KLX230と同様の空冷4ストローク、232㏄、単気筒SOHC 2バルブエンジンはトレッキングバイクらしく中低速域での扱いやすさやフラットな特性を重視したセッティングが施されている。このあたりのフィーリングは実走して確かめてみよう。気になる燃費は定地燃費値がリッター60㎞(2名乗車時)、WMTCモードでリッター34.7㎞(1名乗車時)となっている。250㏄前後の軽二輪としては標準的な燃費だが、燃料タンクの容量は7.6リットルで、リザーブ容量を2リットル(5.6リットル消費したところで燃料警告灯が点灯と想定)で換算すると走行距離は約194㎞となる。意外と早いタイミングで燃料供給の必要がありそうだ。実走検証が楽しみである。
ギアは常時噛合式の6段リターン。足周りはフロント21インチ/リア18インチのスポークホイールにデュアルパーパスタイヤを装着。前後ともディスクブレーキで、ABSは路面の状況に応じて最適な制御が行なわれるデュアルパーパスタイプ。ABSを好みでオフにできるABSキャンセラーが装備されている。前後サスペンションのストロークもトレッキングバイクらしく充分に確保されている。
試乗車を受け取り、いよいよ走行しようと跨ろうとしたところ、サスの沈み込みがジェベル250XCやVストローム250SXに比べてあるせいか、私の場合はスタンドを立てたままでは跨りにくかった。跨る前にスタンドを払ってからのほうが跨りやすい。跨ってみると身長168cm、体重78㎏の私だと足着き性は良好。シート高は低めに設定されているが窮屈な感じはせずリラックスしたポジションで乗車できる。目線も高いので周囲の状況が把握しやすい。車体重量は134㎏で街中やオフロードでも押し引きしやすい。燃料タンクが小さいせいか見た目以上にコンパクトでスリムな感じを受ける。
ニュートラルから1速に入れてクラッチをつなげる。トルクは充分にあるので出だしは良好。単気筒の空冷エンジンらしい歯切れのいい乾いたサウンドを奏でながら2速、3速とギアをシフトしながら徐々にスピードを上げていく。エンジンはどちらかというとマイルドな特性なのでグンとスピードが伸びる感じではなく、流れのいい都内の一般道では4~5速で流したほうが走りやすく感じた。6速は高速走行時に使用したほうがいいようだ。ブレーキのタッチも自然で、ややフワッとした腰高な印象はあるものの総じてコントロールしやすい。路地裏みたいな低速走行が求められるシチュエーションでも走りやすく、トレッキングバイクらしいキャラクターがしっかり感じられた。
都内を走行して徐々に慣れてきたところでお待ちかねの実走検証だ。今回の実走検証は実燃費に加えてどのくらい距離を走行したら燃料警告灯が点灯するのかがポイントだ。KLX230 SHERPAでロングツーリングを想定している方は気になるだろう。そのへんのところを踏まえて実走検証を行ってみた。果たして結果はいかに!? (後編に続く)
(試乗・文・撮影:毛野ブースカ)
■エンジン:空冷4ストローク単気筒SOHC2バルブ ■排気量:232cm3 ■ボア×ストローク:67.0×66.0mm ■圧縮比:9.4 ■最高出力:13kW(18PS)/8,000rpm ■最大トルク:19N・m(1.9kgf-m)/6,400rpm ■全長×全幅×全高:2,090<2,080>[2,080]×845<845>[920]×1,170<1,140>[1,150]mm ■軸間距離:1370<1,365>[1,365]mm ■シート高:880<845>[845]mm ■車両重量:133<133>[134]㎏ ■燃料タンク容量:7.6L ■変速機:6段リターン ■タイヤ(前・後):2.75-21 45P ・ 4.10-18 59P ■ブレーキ(前・後):シングルディスク・シングルディスク ■車体色:ライムグリーン<ライムグリーン、バトルグレー>[ホワイティッシュベージュ、ミディアムスモーキーグリーン、ミディアムクラウディグレー] ■メーカー希望小売価格(消費税8%込み):594,000<594,000>[638,000]円 ※< >はKLX230 S、[ ]はKLX230 SHERPA
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