- ■試乗・文・撮影:毛野ブースカ
- ■協力:カワサキモータースジャパン
今回実走検証するKLX230 SHERPAはWMTCモードでリッター34.7㎞(1名乗車時)と250㏄クラスの中では平均的な燃費だが、燃料タンクの容量が7.6リットルと少なめなことと、トレッキングバイクというキャラクターから日帰りツーリングを想定したルートとした。いろいろと考えた結果、東京を出発して東北自動車道の羽生IC近くにあるビジネスホテルを基点に国道122号線を走って群馬県、栃木県に入り、日光を通過して国道122号線沿いの群馬県館林市に戻り、東北自動車道に乗って東京に戻るルートとした。想定した走行距離は約400㎞、確実に1回は燃料供給が必要になるはずだ。
スタート地点である埼玉県羽生市にどのタイミングで入るのか悩んだ結果、前日入りすることに決定。東武伊勢崎線の羽生駅近くにあるビジネスホテルにチェックインするためにアームズマガジン編集部のある新宿をスタート。ほどなくして首都高速道路に入り、しばらく高速走行が続く。一般道では穏やかなフィーリングだったが、いざスロットルを開けるとグイグイと加速していく。本線への合流や追い越しもスムーズにできる。やはり6速は80㎞以上の走行時に活きてくるようだ。
首都高速道路から東北自動車道に入り、ここから羽生ICまではアップダウンやカーブがほとんどないフラットな道が続く。100㎞/hもこなせるが、90㎞/hでの巡航がちょうどいい感じ。車体が軽く、デュアルパーパス系らしい腰高な乗車ポジションながら風に煽られることなく安定している。出発してから1時間30分ほどで目的地に到着。この時点で約80㎞走行し、燃料ゲージが2目盛り減っていた。WMTCモードの燃費から考えると40㎞前後走行すると燃料ゲージが1目盛り減る感じだろうか。高速走行時の振動は少なくお尻も痛くならず、走行距離が100㎞くらいなら不満を感じることはないだろう。
翌朝、午前8時00分にホテルを出発。ここからは国道122号線を日光市方面に向けてひたすら走っていく。通勤時間帯ということもあり渋滞が心配だったが車の流れはよく、利根川を渡ると群馬県館林市に入った。途中、群馬県内第1号店として話題になった「コストコホールセール群馬明和倉庫店」前を通過。館林市から太田市に入り市街地を進む、交通量が多くてストップアンドゴーが続く中でも中低速域で扱いエンジンのおかげで走りやすい。太田市から桐生市に入り「桐生明治館」前でひと休み。ここまでちょうど120㎞走行し、燃料ゲージが1つ減っていた。燃料警告灯が点灯するまで余裕はあるものの、走行する区間によっては燃料供給を想定する必要があるかもしれない。
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桐生市の市街地を抜けると流れはよくなり、渡良瀬川とわたらせ渓谷鉄道と並行して走っていく。周囲に自然が多くなりツーリングっぽい雰囲気になってきた。栃木県と群馬県を結ぶ国道122号線はツーリングルートとして人気があるせいか平日にもかかわらず多くのライダーとすれ違った。緩めのカーブとアップダウンが続く道をトレッキングバイクらしく淡々と走っていく。羽生市から走ること約2時間30分、約135㎞走ったところで最初の目的地であるわたらせ渓谷鉄道の水沼駅に到着した。
この駅には構内に日帰り温泉がある駅として知られており、以前入湯したことがあったので、今回あらためて入湯することにした。温泉は2番線ホームに隣接しており、構内に架かっている跨線橋を渡って温泉に向かう。水沼駅は無人駅なのでそのまま跨線橋を渡って温泉に向かうと、以前来た時とは雰囲気が変わっており、館内に入るとすごく綺麗でお洒落になっていた。受付の若いスタッフさんに聞いたところ、私が入湯した時の「水沼駅温泉センター」は休館となり、訪れた日の数日前の2025年4月17日に「駅の天然温泉 水沼の湯」としてリニューアルオープンしたとのこと。
ひとまずリニューアルした温泉に入湯してみよう。入湯料は平日1,350円、土日祝1,550円。入場ゲートを通って大浴場に進む。内風呂、露天風呂に加えてサウナが完備されている。リニューアルしたばかりなので大浴場はピカピカ。適温のお湯は無色透明で、さっぱりして肌触りが良く、のんびり浸かるにはちょうどいい。露天風呂はそれほど大きくないものの日差しが入り込んできて気持ちいい。以前の鄙びた雰囲気はないものの、現代風の館内とオープン直後というタイミングの良さに驚きを隠せなかった。
水沼駅を後にして再び国道122号線を日光市方面に向けて走る。天気は快晴で徐々に暑くなってきた。風は心地良くツーリングには絶好の季節だ。スムーズな流れに乗って国道122号線沿いにある草木ダムによってできた草木湖に到着。草木ドライブインでは多くのライダーが休憩していた。草木湖を過ぎて群馬県から栃木県に入って立ち寄ったのが「足尾銅山観光」だ。足尾銅山は1610年(慶長15年)に採掘が始まった日本史の教科書に登場する日本一の銅山である。1973年(昭和48年)に閉山し、現在は観光施設としてトロッコに乗車して坑道内に入坑し、坑道内や資料館が見学できる。今回初めて訪れたが、トロッコで入坑する際はワクワクした。さらに暗い坑道内はリアルな人形が時代や作業内容ごとに配置されており、なかなか見応えがあった。
足尾銅山観光から再び国道122号線を走るのだが、当初はそのまま国道122号線を走って日光に向かうつもりだったが、足尾銅山からほど近くにある県道15号線と県道58号線を通って「古峰ヶ原(こぶがはら)峠」と「古峯(ふるみね)神社」に向かうことにした。国道122号線から県道15号線に入り、道幅が狭くアップダウンとカーブが続く道を走る。まさにトレッキングバイクらしい粘り強い走りを見せてくれる。舗装はされているものの荒れた箇所もあり、デュアルパーパスタイヤの本領発揮といったところ。古峰ヶ原峠に到着して撮影後、走行距離が170㎞を超えて燃料ゲージが残り2目盛りとなった。もし日光まで向かうなら途中給油しなければならない。不安を抱えながらの走行となった。
道が下り坂中心になってきたので燃費を意識しながら走り続けたが、古峯神社に到着したところで燃料ゲージが残り1目盛りとなってしまった。一刻も早くこの先のルートを考えたいところだが、ひとまず休憩して古峯神社を参拝することにした。古峯神社は栃木県鹿沼市にある1300年以上前に創建されたとされる由緒ある神社である。別名「天狗の杜」とも呼ばれている天狗信仰の地でもある。境内は静かな森に囲まれており、都会の喧騒を忘れさせてくれる。参拝後、まだ昼食を摂っていなかったので、入口近くにあるお土産屋さんで煮込みこんにゃくと天ぷらそばをいただいた。
ライダーの腹は満たしたので、今度はバイクの腹を満たさなければならない。古峯神社から5㎞ほど離れた場所にガソリンスタンドがあったので行ってみたところ、なんと配達中で店員さんが不在だった。こうなると日光市内まで行かないとガソリンスタンドはない。燃料警告灯が点灯するまで30㎞は走れるはずなので、燃費を気にしつつ県道14号線を走って「道の駅 日光」を目指した。足尾から古峯神社に向かう道に比べて日光市内へ抜ける道は緩やかな道が続いて走りやすい。50分ほどかけて「道の駅 日光」に到着した時には約213km走行して燃料警告灯が点灯してしまった。想定どおりだったが、今回のようなことがあると給油のタイミングを事前に考えておく必要がある。
道の駅近くのガソリンスタンドで給油したところ給油量は5.02リットル、燃費はなんとリッター42.3㎞というWMTCモード以上の数値を叩き出した。高速走行や流れのいい区間が多かったとはいえ250㏄クラスとしてはトップクラスの燃費だ。この燃費の良さに運転している私が驚いてしまった。ここから東京まで帰る際の燃費が非常に楽しみだ。
道の駅 日光からは出発地点である羽生市に近い群馬県館林市へ向かって進む。国道119号線を宇都宮市方面に進み、国道293号線に差し掛かったところで国道293号線に入り鹿沼市方面へ向かう。地方の一般道らしく車の流れは良く、アップダウンも少ないのでスムーズに走れる。途中「道の駅 にしかた」で休憩。この時点で日光市から約34㎞走行し、総走行距離は約247kmとなった。まだ燃料ゲージは減っていなかった。
ツーリング前から宇都宮餃子もしくは佐野ラーメンを食べたいと思っていた。宇都宮市は過ぎてしまったので、館林市に向かう途中にある佐野市で佐野ラーメンを食べることにした。佐野市内に入り、国道293号線から県道16号線を館林市方面に進んだところに「佐野ラーメン・餃子 匠屋」というお店を発見したので入店。ラーメンと餃子を食べたが、佐野ラーメンらしい優しい味わいと、ボリュームのある餃子に大満足だった。
早めの夕食を摂り、再び館林市に向けて走り始める。県道16号線から県道270号線、県道7号線を進んで18時30分前に館林市に到着。ここまで総走行距離は約290㎞、燃料ゲージは2つ減っていた。ここから館林ICから東北自動車道に乗り、自宅のある東京都調布市に向かった。自宅に到着したのは20時過ぎ。総走行距離は約376㎞、燃料ゲージは残り2目盛りとなった。走行状況によるものの往復400㎞なら1回の給油で行けそうな感じだ。
東京に戻り、返却するまで最終的に総走行距離は約434㎞となり、日光市から約221㎞走行して消費したガソリンは5.88リットル、燃費はリッター37.6㎞となった。1回目の給油時に比べて数値は悪くなったものの、それでもリッター37㎞台は250㏄クラスとしては優秀だ。むしろこの数値のほうが通常の燃費と考えたほうがいいだろう。想定していたよりも燃費が良い感じだった。これで燃料タンクの容量が12リットル(リザーブを2リットルで換算)あれば400㎞は無給油で走れるだろう。
かつてトレッキングバイクを含めた250㏄クラスのデュアルパーパス系は各社から豊富にラインアップされていた。しかし今となっては絶滅危惧種になってしまった。そんな中でカワサキのKLX230シリーズは一筋の光明である。特に今回試乗したKLX230 SHERPAはヤマハのセロー250が生産終了となり一度は途絶えてしまったトレッキングバイク復権のカギを握っているといっても過言ではない。
最新のデュアルパーパス系に乗車して燃費の良さや走行性能の高さに感心するとともに、肩肘張らずにマイペースで走れて不整地走行もできるデュアルパーパス系の良さをあらためて実感した。通勤・通学、ツーリング、ライトなオフロード走行までこなせるデュアルパーパス系が欲しいユーザーにとってKLX230 SHERPAは期待を裏切らないはずだ。
(試乗・文・撮影:毛野ブースカ)
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