YAMAHA MT-07 ABS 車両解説
2014年4月、YAMAHAから孤高のテイスティングクルーザー“MT”の名称が冠せられたニューモデルとして“MT-09”が発売された。
新世代の“MT”は水冷3気筒、846cm3、DOHC4バルブ、F.I.エンジンを搭載する「ネイキッドとスーパーモタードの異種交配造形による個性的なデザインを持つ」マシンだった。しかもそのエンジンは、MotoGPマシン“YZR-M1”のヒューマンフレンドリーなハイテク技術、クロスプレーン・コンセプト(※クロスプレーン・コンセプトは、慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率良く引き出す設計思想)にも基づいて開発されていた。
そして、2014年8月、MT-09の弟分として発売されたのがMT-07シリーズだ。3気筒、846cm3エンジンのMT-09に対して、MT-07は、689cm3の排気量を持つ水冷直列2気筒エンジンを搭載する“スポーツパッション&スマート”をコンセプトとしたモデルだった。
2気筒と3気筒という違いはあるが、クロスプレーン・コンセプトの設計思想により開発されたエンジンなど、MT-09との共通項は多い。日常の使用領域でパワフルながら扱いやすいエンジンを、軽量、コンパクトでスタイリッシュな車体に搭載する、というモデルだった。
2015年3月には初のマイナーチェンジが行われ、MT-07シリーズの中でもアップグレードモデルといえるABSを標準装備するMT-07 ABSに新色が設定された。ヤマハのレーシングスピリットを象徴する「レースブルー」をカラーリングに織り込んだモデルで、マットシルバーの車体をベースに、ホイールとフレームにレースブルーをアクセントとして採用していた。
2016年6月には、2016年モデルが登場。MT-07とMT-07 ABSに共通の新色「ディープレッドメタリックK(レッド)」が設定され、MT-07Aではさらにタンクにグラフィックが与えられた「マットシルバー1(マットシルバー)」もラインナップされた。「ブルーイッシュホワイトカクテル1(ホワイト)」と「マットグレーメタリック3(マットグレー)」の2色は継続設定となった。
2017年2月には、カラーリングが変更されて2017年モデルとなった。MT-07では「ブルーイッシュホワイトパール1」と「マットダークグレーメタリック6」2色の新色を採用。MT-07 ABSでは「ブルーイッシュグレーソリッド4」と「ディープパープリッシュブルーメタリックC」の2色の新色を採用するとともに、さらに「ブルーイッシュグレーソリッド4」では「アシッドイエロー」という目を惹く黄色のホイールカラーも採用された。
2018年4月発売の2018年モデル登場にあたっては、カラー設定の変更だけではなく、「よりMTシリーズらしい進化”をコンセプトに各部の見直しが行われている。具体的には、前後サスのバネ定数と減衰力のバランスを図り、ライダーの操作に対してよりリニアに反応するセッティングとしたこと、シート設計を見直し、ライディングポジションの自由度を高めるとともに、長時間の乗車でも疲労を低減、そして吸排気の流れや“塊感”を強調し、より力強さを感じさせるスタイリングとしたこと、の3点があげられる。
2019年3月、MT-07 ABSの2019年モデルの発売にあたっては、新色の採用のみで「マットライトグレーメタリック 4」と継続色の「ディープパープリッシュブルーメタリック C」「マットダークグレーメタリック 6」と合わせて3色のカラーラインアップとなっていた。
2020年3月発売の2020年モデルもカラーリングの変更のみで、ヤマハのスーパースポーツモデルのフラッグシップ「YZF-R1」の2020年モデルとリレーションを高めるため、ヤマハレーシングブルーをベースにマットグレーを組み合わせ、ダイナミックかつスポーティな新色としている。なお、“マットライトグレー”と“マットダークグレー”は継続して販売された。
2021年7月にモデルチェンジするにあたって、新たなコンセプトとされたのは「Accessible MT with a Fitter Body」で、幅広いライダーから支持を得ているCP2(クロスプレーン・コンセプト・2気筒)エンジンの特性を継承しながら、新しいデザインを採用し、さらに総合的なパフォーマンスを向上させる開発が行われた。モデルチェンジの内容としては、平成32年排出ガス規制への適合、より快適でアップライトなライディングポジションの採用、バイファンクションLEDヘッドランプ(Hi-Lo 一体)とLEDポジションランプ、フラッシャーランプの採用、そして次世代MTシリーズへ進化したスタイリングなどがあげられる。
2022年5月には、「パステルグレー」、「ディープパープリッシュブルーメタリックC」、「マットダークグレーメタリック6」の3色設定にカラーチェンジ。
2024年モデルは、スマートフォン連携機能の搭載、5インチTFTメーター、ホイールスイッチを採用したハンドルスイッチ、4グリップ位置を変更した新ハンドルバー、クラッチ操作なしに滑らかなシフトアップ操作を可能にするクイックシフターのアクセサリー設定などでマイナーチェンジ。
今回は電子制御スロットルYCC-T、φ41mm倒立フロントフォーク、剛性バランスを見直した新設計のフレーム、スイングアーム、不等間隔爆発特有のサウンドを際立たせるアコースティック・アンプリファイア・テクノロジーや5インチフルカラーTFTメーターなどを採用。スタイリングコンセプトは継承しつつ、小径LEDヘッドライト、薄型のポジションライトとテールライトなどによりデザインも一新した。また、シフトチェンジを自動化した電子制御シフト機構のY-AMT搭載モデルも設定した。車体色はMT-07 ABS、MT-07 Y-AMT ABS共にブルー、マットライトグレー、マットダークグレーの3色。
★ヤマハ ニュースリリースより (2025年2月4日)
ロードスポーツ「MT-07 ABS」をモデルチェンジして発売~クラッチ操作不要の「MT-07 Y-AMT ABS」をバリエーションとして設定~
ヤマハ発動機販売株式会社は、”クロスプレーン・コンセプト*“に基づく水冷・4ストローク・DOHC・直列2気筒・688cm³エンジンを搭載したロードスポーツ「MT-07 ABS」をモデルチェンジし、2月26日に発売します。
今回の「MT-07 ABS」は、”The Advocator of Riding Delight”をコンセプトに開発。トルクフルなエンジンに扱いやすいボディ、そしてコストパフォーマンスの高さなど従来からの特徴に加えて、大型スポーツバイクのエントリーモデルとして、質感、先進性、軽快感の充実を図りました。
主な変更点は、1)「YCC-T」(電子制御スロットル)の初採用、2)トルクフルなフィーリングを際立たせるサウンド、3)走行性アップに伴い剛性バランスを最適化した新設計フレーム&リアアーム、4)倒立式フロントサスペンションの新採用やリンク式モノクロスサスペンションのセッティング変更、「MT-07」専用設計のスピンフォージドホイールなど足回りの強化、5)つながる機能搭載の5インチフルカラーTFTメーターや新作の小型LEDヘッドライト・LEDポジションライトなどの機能装備、6)大型バイクならではの走りの楽しさを予感させる新スタイリングなどです。
また、クラッチレバーやシフトペダル操作が不要の自動変速トランスミッション「Y-AMT(ワイ・エーエムティ)」を備えた「MT-07 Y-AMT ABS」をバリエーションとして設定しています。
※ クロスプレーン・コンセプトは、慣性トルクが少なく、燃焼室のみで生み出される燃焼トルクだけを効率良く引き出す設計思想
- <名称>
- MT-07 ABS/MT-07 Y-AMT ABS
- <発売日>
- 2025年2月26日
- <メーカー希望小売価格>
- 968,000/1,056,000円(本体価格880,000/960,000円/消費税 88,000/96,000円)
- ※メーカー希望小売価格(リサイクル費用含む)には、保険料、税金(除く消費税)、登録などに伴う諸費用は含まれていません。
- ※本モデルはデジタル化推進および、環境配慮の観点から紙のカタログを製作しておりません。製品情報は下記Webサイトよりご確認ください。
- MT-07製品サイト:https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/lineup/mt-07/
- <販売計画>
- 800台(年間、国内)
- <カラー>
- ・ディープパープリッシュブルーメタリックC(ブルー/新色)
- ・マットライトグレーメタリック4(マットライトグレー/新色)
- ・マットダークグレーメタリックD(マットダークグレー/新色)
- 【新しい「MT-07」の主な特徴】
- 1)CP2エンジンとして「YCC-T」を初採用し、全回転域で滑らかなトルク特性を実現
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CP2(クロスプレーン・コンセプトの2気筒)エンジンではヤマハ発動機として初となる「YCC-T(Yamaha Chip Controlled Throttle=ヤマハ電子制御スロットル)」を新たに採用しました。吸入空気の取り込みの最適化と合わせて、全回転域での滑らかなトルク特性を実現。CP2エンジンが備える扱いやすいトルクをよりリニアなものとし、ライダーの意志に沿ったレスポンスや出力特性をもたらしています。
また「YCC-T」化によって、好みや路面状況にあわせてエンジンの出力特性や各種電子デバイスの介入度を選択できる機能「YRC(Yamaha Ride Control)」や、シフトダウン側にも対応するクイックシフターの装備が可能になり(スタンダードモデルにオプション設定)、より幅広い走行シーンへの対応を実現しています。 - 2)CP2エンジンのトルクフルなフィーリングを際立たせるサウンドの作り込み
「アコースティック・アンプリファイア・テクノロジー」搭載 -
CP2エンジンが発する不等間隔爆発特有のサウンドは、高音と低音が混じり合った和音がベースです。スロットル開度とエンジン回転数の上昇がもたらすそのサウンドを、よりトルクフルに感じられるよう吸気系をチューニング。ゴロゴロと唸るような「ランブル感」を引き出すことによって、MTシリーズのキャラクターを際立たせました。
その実現のため、エアクリーナーボックス、吸気ダクト、吸気ファンネル、吸気口カバーなどの形状やレイアウトを検証・調整しながら最適化。吸気口で発生した吸気音がライダーの耳に効率的に届くようレイアウトや燃料タンクカバー4か所の穴の設置など「アコースティック・アンプリファイア・テクノロジー」を採用し、ライダーへ魅力的なサウンドを届けます。 - 3)走行性アップに伴い剛性バランスを最適化した新設計フレーム&リアアーム
あわせてライディングポジションもアップデート -
バックボーン型高張力鋼管フレームの設計を変更し、強度剛性を引き上げました。電子制御スロットルや新たな変速機構(Y-AMT)の搭載とエアクリーナー容量確保の両立、倒立式フロントサスペンションの採用、スタビリティの確保などの要件を満たすもので、ヘッドパイプを除くすべての部位のパイプワークや径、肉厚、板金などを最適化。質量は、現行と同等(約14.8kg)としながら、倒立フォークの採用と合わせ、スタビリティ向上と軽快なハンドリングを実現する剛性バランスの最適化を図っています。
こうしたフレーム変更などに伴い、ライディングポジションも調整しています。車体との一体感をさらに高め、スポーティな走行を実現するため、ハンドル位置を手前かつ下方へ変更し、グリップ幅を拡大。あわせてフットポイントを下げ、ポジションに余裕を持たせました。また燃料タンクとカバーのスリム化を実現し、ニーグリップ時のホールドのしやすさと一体感を向上しています。 - 4)倒立式フロントサスペンションの新採用など足回りを強化
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フロントにはφ41mmインナーチューブの倒立式サスペンションを新たに採用。リアにはプリロードと伸側減衰力の調整機構を備えたリンク式モノクロスサスペンションを搭載しました。サスペンションは前後共に車体各部のアップデートやディメンションに合わせて剛性を最適化し、旋回時や制動時の良好な接地感を実現。優れた応答性を発揮します。
またフロントブレーキキャリパーには、取り付け剛性に優れるラジアルマウント式を新たに採用。安定した制動力と優れたコントロール性を実現しています。
さらに大幅な軽量化(従来モデル比)とそれに伴う慣性モーメントの低減に貢献するスピンフォージドホイールを専用に新設計し、「MT-07」として初採用。俊敏なハンドリングを支えます。 - 5)つながる機能搭載の5インチフルカラーTFTメーターなど便利な機能
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5インチTFTメーターを採用しました。速度やデジタルバーによるタコメーターの他、燃料計、平均燃費、水温計、気温計、シフトインジケーターなどの表示機能を搭載。各機能の情報操作、セレクトはハンドルスイッチの操作で行います。表示パターンは、4種から選択可能です。
また、専用アプリ「Y-Connect(Yamaha Motorcycle Connect)」をインストールしたスマートフォンと車両を接続し、手元でYRCのセッティングを行ったり、さまざまな情報や画像をメーターに表示できます。これにより車両の管理、電話やメールの着信通知など、多様なコンテンツが利用できます。
さらに「Garmin StreetCross」アプリをスマートフォンにインストールし、車両とペアリングすることによって、メーター画面上でナビゲーション機能も使用できます。加えて以下のような機能・装備を新たに採用しています。
・直感的に操作可能な新設計ハンドルスイッチ。
「MT-07 Y-AMT」は、ハンドルスイッチ左側にシフトアップとダウンを担うシーソー式レバーを装備。また、ハンドルスイッチ右側には、AT/MTモードの切換ボタンを追加しています。
・新機能を搭載したフラッシャー(左右方向指示とハザード時の点滅機能に加え「二段階フラッシャー機能」「エマージェンシー機能」「消し忘れ機能」を新追加) - 6)新スタイリング
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”Natural Simplicity for everyone”をデザインコンセプトに、先代が築きあげてきた俊敏さに寄与する軽量スリムなボディ、トルクフルな走りを想起させるスタイリングを継承しました。様々な体格や幅広いライディングスキルをもつライダーが走る楽しさを享受できるよう、マシンのプロポーションやフォルムは、よりナチュラルかつシンプルに洗練させました。特にタンク周りからシートにかけてニーグリップしやすくし、マシンとの一体感を感じやすいようにしています。
またイメージを一新した小型で薄い小径LEDヘッドライトを採用。その下部に薄型のポジションライトを配置し、二眼に見立てることによって、端正でありながら親近感を感じるフロントマスクとしました。またテールライトも薄型の新作としています。
なおカラーリングは、ヤマハのレースイメージを強調する”ブルー”、MTシリーズの新たな象徴カラーとして鮮やかなスカイブルーのホイールを組み合わせ、未来的でクリーンなイメージの”マットライトグレー”、シリアスなスポーツイメージを高める”マットダークグレー”の3色です。 - 7)コンパクトなレイアウトの電子制御シフト機構「Y-AMT」搭載(「MT-07 Y-AMT」のみ)
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「MT-07 Y-AMT」には、左手によるクラッチ操作と、左足によるシフト操作をアクチュエーターが担うことで、ギアチェンジを自動化したシステム「Y-AMT(Yamaha Automated Transmission)」を搭載しました。「 YCC-T 」を含め、クラッチアクチュエーターやシフトアクチュエーターなどのレイアウトを工夫することによって、CP2エンジンならではの軽量コンパクトさを維持しています。
ショートホイールベースで軽量な車体と新採用のサスペンションにマッチするように専用セッティングし、「MT‐07」本来の楽しさを簡単な操作で感じられます。「Y-AMT」を採用することで、有段トランスミッション特有のスポーティなシフトフィーリングを損なわず、ライディングの楽しさを最大限に引き出しました。
なお、「MT-07 Y-AMT」はATモードを搭載しています。街中やワインディングロードなどオールラウンドな走行に対応できるモードと、スポーティな走行が楽しめるモードを設定するとともに、迅速な加速を実現するためキックダウン機能を搭載。MT-07のエンジンに合わせた専用セッティングが施されています。
主要諸元
車名型式 | 8BL-RM48J【8BL-RM50J】 | |
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MT-07 ABS【MT-07 Y-AMT ABS】 | ||
発売日 | 2025年2月26日 | |
全長×全幅×全高(m) | 2.065×0.780×1.110 | |
軸間距離(m) | 1.395 | |
最低地上高(m) | 0.150 | |
シート高(m) | 0.805 | |
車両重量(kg) | 183【187】 | |
乾燥重量(kg) | – | |
乗車定員(人) | 2 | |
燃費消費率(km/L)※1 |
39.8【35.5】
(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)※2 |
|
25.4【25.8】(WMTCモード値 クラス3 サブクラス3-2 1名乗車時)※3 | ||
登坂能力(tanθ) | – | |
最小回転小半径(m) | – | |
エンジン型式 | M427E | |
水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ | ||
総排気量(cm3) | 688 | |
内径×行程(mm) | 80.0×68.5 | |
圧縮比 | 11.5 | |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 54[73]/8,750 | |
最大トルク(N・m[kgf・m]/rpm) | 68[6.9]/6,500 | |
燃料供給装置形式 | フューエルインジェクション | |
始動方式 | セルフ式 | |
点火方式 | TCI(トランジスタ式) | |
潤滑油方式 | ウェットサンプ式 | |
潤滑油容量(L) | 3.00 | |
燃料タンク容量(L) | 13 | |
クラッチ形式 | 湿式多板 | |
変速機形式 | 常時噛合式6段リターン | |
変速比 | 1速 | 2.846 |
2速 | 2.125 | |
3速 | 1.631 | |
4速 | 1.300 | |
5速 | 1.090 | |
6速 | 0.964 | |
減速比1次/2次 | 1.925(77/40)/2.687(43/16) | |
キャスター(度) | 24°20′ | |
トレール(mm) | 93 | |
タイヤサイズ | 前 | 120/70ZR17M/C 58W |
後 | 180/55ZR17M/C 73W | |
ブレーキ形式 | 前 | 油圧式ダブルディスク |
後 | 油圧式シングルディスク | |
懸架方式 | 前 | テレスコピック式 |
後 | スイングアーム(リンク式) | |
フレーム形式 | ダイヤモンド |
※1:燃料消費率は、定められた試験条件のもとでの値です。使用環境(気象、渋滞等)や運転方法、車両状態(装備、仕様)や整備状態などの諸条件により異なります。
※2:定地燃費値は、車速一定で走行した実測の燃料消費率です。
※3:WMTCモード値は、発進、加速、停止などを含んだ国際基準となっている走行モードで測定された排出ガス試験結果にもとづいた計算値です。走行モードのクラスは排気量と最高速度によって分類されます。