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全日本最終戦となる第7戦が三重県鈴鹿サーキットで開催された。前戦の岡山国際でJSB1000の中須賀克行(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が13回目、J-GP3の尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)が5回目のチャンピオンが決定していた。残るST1000とST600は、ここが決定戦となる。
中須賀、尾野は王者として勝利を求め、タイトルに挑むライダーたち、シーズンを優勝で締めくくりたいと願う者たちの闘志で、最終戦はいつも熱気を帯びる。
容赦のない強い雨が、そのドラマを混沌としたものにした。
■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝

■JSB1000(2レース開催)

 最終戦となる第57回 MFJグランプリは事前テストがないことから木曜日をテストとして走行が始まった。初日、#1中須賀克行が2分05秒128のトップタイムを記録するが転倒し負傷。#30鈴木光来(Team ATJ)も転倒により大事をとって決勝は欠場の判断がなされた。金曜日の走行では、世界耐久選手権(EWC)参戦のために欠場していた#31浦本修充(AutoRace Ube Racing Team)が全日本復帰して2分04秒763を記録する。
 ウェット宣言が出された予選だが、ライン上が乾き始めていた。ケガを押して走行の中須賀が2分06秒601でトップに立つが、浦本が2分05秒440のタイムを叩き出す。予選終了間際、#4野左根航汰(Astemo Pro Honda SI Racing)、中須賀、浦本が接近しながらラストアタックを行い、浦本が2分05秒407のトップタイムをマーク。ベスト(レース1グリッド)、セカンド(レース2)ともにトップタイムを記録し、ダブルポールを獲得した。

 レース1決勝は、スタート前から再び雨が降りはじめ、スタート進行中にレインタイヤへと変更。中須賀は天気図を見て回復すると判断しスリックを選択するが、サイティングラップ中に雨が強まりピットインしリタイヤを決める。
 レース中盤にはさらに雨が強くなる厳しい状況の中、#3水野 涼(DUCATI Team KAGAYAMA)がレースをリード。浦本が追うが、その差を広げてチェッカーを受けた。2位に浦本、スポット参戦の#14日浦大治朗(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)が追い上げバトルを制して3位に入った。

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 強さを発揮した水野がレースを振り返る。
「このレースウィークは、テストの段階から一度もウェットコンディションでの走行がなく、全員がぶっつけ本番で手探り状態でした。だからこそレース序盤のペースが大事だと考え、コースインの段階でレインタイヤを履いて皮むきをして、サイティングラップでもなるべくペースを上げて走るように意識したことで、スタートからいいペースで走り後続を引き離すことができた」

 翌日のレース2も雨の決勝となった。中須賀は欠場。野左根がホールショットを奪い、浦本とトップ争いとなる。そこに水野、#8岩田 悟(Team ATJ)が加わる。この集団から水野と浦本が抜け出し、後続を引き離す。雨が強さを増した5周目、ライダーたちが手を上げ危険をアピール。転倒車も出てセーフティーカー(SC)が入りギャップが詰まる。8周目にSCが解除されると、水野がスパートをかけて主導権を握り、独走態勢に持ち込んで優勝を飾った。2位に浦本、3位に野左根が入り表彰台に登った。

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 水野は3年連続で最終戦鈴鹿でのダブルウィン。開幕勝利を飾り、タイトル候補としてシーズンをスタートするも、第2戦SUGOの事前テストで負傷。復帰は第4戦もてぎだった。マシンの調整に苦しみながらも、この最終戦で本来の力を発揮した。
「3年連続の最終戦連勝は嬉しいですが、今年はドゥカティ2年目でチャンピオンを目指していたので、喜び切れない気持ちもあります。でもケガをしてからの苦しいシーズンの最後を、こういう形で締めくくれたことは嬉しく思っています」

 2位に入った浦本はライダーとして水野の心情を理解し「まずは水野選手に心から『おめでとう!』と伝えたい」と語った。浦本はBMWで雨のレース経験がない中での健闘で、両レースとも2位を獲得した。
 野左根は「最後に表彰台に上がることができたのは良かったですが、ランキング2位に入りたいと思っていました。今年はノーポイントレースもあり、反省も多いシーズンで、その目標には届かなかった」と振り返った。
 ランキングは1位が中須賀、2位に水野、3位に浦本、4位に野左根、5位に#9伊藤和輝(Honda Dream RT SAKURAI HONDA)となった。
 会見に出席した上位3名は「何人ものライダーが危険な状況であることをアピールしたのに、最後までレースが続行されたことに疑問を感じる」と苦言を呈した。視界を確保することも難しい雨量だったこと、セーフティカー解除後の危険性などを指摘した。

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■ST1000

 #3羽田太河(Astemo Pro Honda SI Racing)がランキングトップで最終戦の鈴鹿を迎えた。2番手の#33亀井雄大(RT Japan M Auto and Kamechans)とは16点差、3番手の#4國峰啄磨(TOHO Racing)と25.5点差。タイトルの可能性はこの3名に残されていた。ポールポジションは逆転を狙う國峰が獲得した。

 朝から降り続いた雨は決勝スタート前に止んだものの、路面はウェットコンディション。ホールショットを奪ったのは羽田だったが、S字で國峰が前に出てトップに立ちリードを拡大。その背後を羽田、#5荒川晃大(Astemo Pro Honda SI Racing)、亀井、#6井手翔太(AKENO SPEED・RC KOSHIEN)が追う。
 しかし3周目、首位を走っていた國峰が逆バンクで転倒。代わって亀井がトップに浮上する。その後方には羽田、井手、荒川、そして追い上げる#34ナカリン・アティラットプワパット(Astemo SI Racing with Thai Honda)と#8作本輝介(TOHO Racing)が続いた。

 5周目のスプーンカーブで、今度は「チャンスを掴むためには逆転チャンピオンになるしかない」と並々ならむ闘志で挑んだ亀井が痛恨の転倒。トップは羽田に代わり、井手と荒川がこれを追う。
 7周目、井手が羽田を捉えて首位に浮上。羽田も食い下がるが、シケインでラインを外し、井手がリードを広げる。後方ではナカリンをかわした作本が転倒するなど、厳しい路面が各ライダーを苦しめた。
 終盤、井手は冷静な走りでトップを死守。荒川が羽田をかわして2番手に浮上し、そのままチェッカー。井手がST1000で待望の初優勝を飾った。2位に荒川、3位に羽田。羽田はこの結果でシリーズチャンピオンを決定した。
 ヤマハ勢の優勝は、2021年最終戦・岡本裕生以来の快挙となった。井手は「ST1000に参戦してからの2年間は苦戦していましたが、自分とチームのホームコースである鈴鹿で勝てたことを心から嬉しく思います。支えてくださったチーム、スポンサー、そしてファンの皆さんのおかげで得られた1勝です」と喜びを語った。
 荒川は「支えてくれたスポンサーや応援してくれたファンの皆さんに、2位で表彰台に立つ姿を見せられたことは恩返しになったと思います。でも、勝てなかったことは本当に悔しい。来季こそは優勝を狙います」と誓っていた。

 シリーズチャンピオンを獲得した羽田が喜びを語る。
「ドライだったら絶対に勝てる自信がありました。だからこそ、この天気は残念でしたが、今回は“チャンピオンを獲ること”だけを意識しました。チームが素晴らしいバイクを用意してくれたおかげで、タイトルを獲得できました」
羽田は海外での経験も豊富な実力派。これまで代役参戦が多く、フルシーズン参戦は少なかったが、今季ついにキャリア初のシリーズチャンピオンを獲得した。
 羽田にに続くランキングは、2位に亀井、3位に國峰、4位に井手、5位に荒川となった。

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■ST600

 #3伊達悠太(AKENO SPEED・MAVERICK)が84.2点でランキングトップ。#44南本宗一郎(AKENO SPEED・YAMAHA)が70.8点で2番手、#6松岡 玲(ITO RACING BORG CUSTOM)が57.8点で3番手につけ、この3名にチャンピオンの可能性が残されていた。
 タイトル争いは伊達が圧倒的に優位と見られていた。だが今大会で台風の目となりそうな気配があったのが#11小山知良(JAPAN POST Honda RACING TP)だ。昨年の最終戦・鈴鹿で大ケガを負った小山は、復帰のために6軒の病院を巡ったという。まだ左手は完治してなく右手でマシンを操り、ドクターチェックを通過。レースを重ねるごとに速さを取り戻し、タイトル争いに影響を与える存在として注目を集めた。さらに、実力者の#2長尾健吾(TEAM KENKEN YTch)も絡み、上位勢は混戦模様となった。

 ポールポジションを獲得した松岡、優勝すればチャンピオンの南本、そしてタイトル獲得に燃える伊達とそれぞれの思惑が交錯する中で、決勝レースを迎えた。
 スタート直前に雨は止み、路面は回復傾向にあったが、コンディションは依然ウェット。
レース序盤から小山が先頭に立ち、長尾がそれを追う。その後方に松岡、南本が続く展開となる。小山と長尾が激しいトップ争いを展開し、南本が3番手に浮上。4台によるトップグループが形成された。伊達は5番手をキープし、タイトルを意識した慎重な走りを見せる。
 やがて長尾と小山の一騎打ちに。南本が追い、松岡がやや遅れる。最終ラップ、小山がトップで突入するも、シケイン進入で長尾が勝負を仕掛け前に出る。そのままチェッカーを受け、鈴鹿での初優勝を飾った。2位に小山、3位に南本、4位に松岡、5位に伊達が入り、伊達が見事シリーズチャンピオンを決定した。

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 長尾が優勝の喜びを語った。
「小山選手のペースが予想以上で苦しかったですが、最終ラップは“シケイン勝負”と決めていて、それを実行できました。鈴鹿で初優勝できて本当に嬉しいです」
 最後に交わされた小山は、それでも来期に向けての手応えを感じていた。
「ちょうど1年前の10月26日に鈴鹿で大ケガをして、今もリハビリを続けています。“去年のリベンジを果たす”という強い思いで臨みました。ウェットでフィジカルの負担は減りましたが、雨に強い長尾選手には勝てませんでしたが、こんな風にトップを走れたのは本当に久しぶり。ようやく自分のいるべき場所に戻ってこられたと感じています」

 一方の南本は悔しさを滲ませた。
「勝てばチャンピオンだったので、前の2人を必死で追いましたが、セッティングを変えたことでブレーキングが難しくなってしまいました」
 チャンピオンを決めた伊達は素直に喜んだ。
「AKENO SPEEDにとって初めてのチャンピオンということで、その最初のライダーになれて本当に嬉しいです。最高の気分です」
 ランキングは伊達が王者に輝き、2位南本、3位長尾、4位小山、5位松岡という結果となった。

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■J-GP3

 前戦・岡山国際サーキットで#1尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)が、自身5度目のチャンピオンを決めていた。最終戦・鈴鹿では「チャンピオンとして、優勝でシーズンを締めくくりたい」と挑む尾野に、一矢報いたいライダーたちの闘志がぶつかり合う戦いとなった。

 雨の予選でポールポジションを獲得したのは、#11中谷健心(MotoUP Jr Team)。決勝日も雨となり、朝のウォームアップランでは2番手に約3秒の差をつける走りでトップライムを記録する。一方の尾野は予選で転倒。マシンを修復し、緊迫した中でラスト1周のアタックで4番手タイムをマークするも、ペナルティによりそのタイムが抹消され、最後尾グリッドからのスタートとなる。

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 決勝でも中谷の速さは際立った。オープニングラップから独走体制を築くと、4周目には2番手に20秒近いアドバンテージを構築。終盤にはファステストラップを連発し、最終的には2位に約46秒差という圧倒的な速さでチェッカーを受けた。
 尾野は最後尾スタートから1周目で9番手まで浮上し、2番手争いに加わる。9台が入り乱れるバトルは、2周目には#19仲村瑛冬(Team Life.HondaDream Kitakyushu)、尾野、#4岡崎静夏(JAPAN POST Honda RACING TP)、#8大田隼人(MARUMAE Dream Kitakyushu CPARIS)、#17松田基成(Like a Wind・CLUB Y’s)の5台に絞られた。
 3周目には尾野が先頭に立つが、激しい攻防が続く。10周目、尾野が2番手以下を突き放しにかかるも、デグナーカーブでミスが出て差が再び縮まる。ヘアピンでは尾野、岡崎、大田、仲村、松田の順。
 尾野と岡崎は接戦を展開し、最終的に尾野が2位、岡崎が3位でチェッカーを受けた。

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 圧倒的な速さを見せた中谷が喝采を浴びた。
「優勝できて本当にうれしいです。最終戦がこんな天気になってしまって残念ですが、それでも現地まで観戦に来てくださった皆さん、本当に大好きです!」
 前戦の岡山国際でトップを走りながら終盤に尾野に抜かれた悔しさがあり「頑張った」と言う。新たなスター誕生となり、多くの注目が集まった。

 尾野も中谷を祝福した。
「予選のミスで最後尾になりましたが、見せ場ができたと気持ちを切り替えました。このアクシデントがなかったとしても、雨での中谷選手に追いつくにはリスクがあったと思います。中谷選手の健闘を称えたいです」
 岡崎は終始笑顔を見せる。
「各コーナーに応援してくださる方々がいて、とてもありがたかったです。正直、尾野選手とバトルできるとは思っていませんでした。走っている間は“尾野劇場の団員をさせられているな”と思いました(笑)。欠場している若松選手がいたら、自分は4位で、表彰台に登ることが出来なかったと思うので2位になりたかった。中谷選手には、ぜひ早く世界の舞台で活躍してほしいです」
 ランキングは2位に中谷、3位に岡崎。岡崎は女性ライダーとして自身最高位を更新した。4位に欠場の#2若松 怜(JAPAN POST docomo business TP)、5位に大田が入った。

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■CHAMPION

 最後はチャンピオン表彰式が行われ、4人のチャンピオンがチャンピオンTシャツを身にまとい、観客の声援に応えた。セレモニー終了後には、4人が揃って記者会見に臨んだ。
それぞれに「印象に残るレース」を尋ねた。

JSB1000クラス・中須賀克行
「非常に苦戦するシーズンになるのではないかと思いながら挑みました。勝てるところでは確実に勝ち切ることを目標に戦いました。キーポイントとなったのは、ダブルウィンできたSUGOで、印象に残っています」
 確かにSUGOで“強い中須賀”を見せつけ、一気にタイトルへ突き進んでいった。

ST1000クラス・羽田太河
「今年は世界耐久選手権(EWC)と全日本のダブルエントリーでした。EWC開幕戦のル・マン24時間では、トップを走りながらピットアウト直後に転倒してしまい、そこからなかなか良いレースができずにいました。全日本のもてぎ大会でやっと波に乗れた感じです。悪い印象としてル・マンですね」
 もてぎでは「楽勝」と笑顔を見せ、圧倒的な強さでタイトルを獲得した。

ST600クラス・伊達悠太
「もてぎで初めて独走優勝することができて、ランキング2位からトップに上がりました。勝ち方としても自信につながるレースで、そこから逃げ切ることができたと思います」
 ここ数年、トップライダーとして存在感を示してきた伊達だが、赤旗終了などの不運なレースも多かった。今季は“伊達らしい走り”で悲願のタイトルを掴み取った。

J-GP3クラス・尾野弘樹
「岡山国際サーキットでチャンピオンを決められそうなシーズンも過去にありましたが、転倒してしまうなど苦い思い出もありましたが、今年は、しっかりと決めることができました。いつもはイケイケドンドンのレース展開でしたが、中須賀さんのレースを真似して、後ろにつきながら終盤に前に出るという、自分らしくない展開で勝てたこと。そして、中須賀さんが『尾野選手が勝ってチャンピオンを決めたので、自分もそうしたい』と言ってくれたことが、めちゃくちゃ嬉しかったです」
 全戦全勝、そしてレコード更新を狙って挑んだ尾野は、その圧倒的な速さと強さで勝利するたびに“尾野劇場”と称された。

 鈴鹿サーキットに冷たい雨が降るシーズン最後の戦いから、勝者が生まれ、王者が誕生した。そして、挑戦者は新たな闘志を胸に2026年への戦いへと、すでに思いを馳せている。
(文・佐藤洋美、写真・赤松 孝)

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2025/12/03掲載