あのモトグッツィがついに水冷車を発売。そのカタチは縦置きVツインであることには変わりないが、完全に次の世代に代ったという印象を与えてくれたこのマンデッロ。速いというだけではなく、忘れかけていた、汎用性の高いネイキッド的スタンダードマシンというカテゴリーの復活にも思えた?
速いグッツィがあっても良い
伝統的に空冷のクランク縦置きVツインを作ってきたイタリアのモトグッツィ。過去にはパフォーマンスを追求したモデルもあったし、今もクラシックレースなどで使われることもないわけではない。いやむしろ、クラシック耐久レースでは好成績を残しているほどなのだから、チューニング次第では相当な力を発揮するのだろう。しかし近年の市販車レベルではやはりどこか牧歌的な乗り味をしており、車体もスポーツというよりはベーシックなカタチをしているものがほとんどで、メインの使用シーンはツーリングという方向性だった。
しかしこのマンデッロはモトグッツィに新しい風を吹き込んでいる。新作の水冷エンジンは大幅にコンパクト化され、クランクケース一体のミッションや湿式多版クラッチといった、他社ではすでに一般的でもグッツィとしてはこれまで取り入れていなかったエンジン形式をしている。パワーは115馬力、上級版の「S」は電子制御サスまで備えるなど、縦置きVツインという形式は継承しつつ本当に最先端の進化を遂げているのだ。
ハーフカウルの美しさ
近年はアドベンチャーカテゴリーが浸透したことで、ツーリングはアドベンチャーに任せてネイキッド系バイクはストリートファイター然としたものが多かっただろう。スタンダードなネイキッドにハーフカウルがついていると言えばホンダのCB1300スーパーボルドールがあるが、他にはあまり思いつかない。しかしスーパーボルドールは名車である。万能ネイキッドにハーフカウルがついてさらに汎用性が高まっているのだから。
マンデッロはまさにそんなイメージ。カウルが無ければ本当にスタンダードなネイキッドといった感じになりそうだが、高速域での快適性など考えたらカウルは必須。しかしグッツィのアイデンティティでもある縦置きVツインはしっかりと見せなければいけない……となればやはりハーフカウルだろう。メーカーとしてのアピールである機能部品はしっかりと見せながら、快適性を確保するという意味ではハーフカウルはとても有効に思う。かつての耐久レーサー的なスタイリングにも見え、これまたカッコイイと思うのは筆者の好みだけではない、と思いたい。
さらにこのカウルが新しいのは、他車でも備えている電動スクリーンがあるだけでなく、左右に開閉可能な「はね」、いわゆるウイングレット的なものが備えられているということだ。モトGPで使われていることから、市販スポーツモデルにも広く備えられるようになったウイングレットだが、マンデッロのそれはスポーツ走行時のダウンフォース目的ではなく、ライダーの快適性を狙ってのもの。速度に応じて自動で開閉しライダーに当たる風を調整するだけでなく、レインモードでは常に開いた状態にするなど、状況に合わせ走行風のコントロールをしている。
これはこれまでになかったアプローチだろう。特に最近のバイクは熱量が大きいことも考えると、夏場では一定の温度になった時にカウルが開閉して排熱するなど、そういった快適性追求のためのカウルも今後の課題となるかもしれない。グッツィがその先陣を切ったのが面白い。
普通に速くて普通に快適。これはイイゾ!
今回試乗できたのは電子制御サスを備える「S」ではなく、スタンダードモデルの方だ。電子制御サスだけでなくクイックシフターも省くなど、近年の電子制御の充実度合いからすると幾分ベーシックに感じるほどに簡素である。がしかし! それがイイ!! もちろん、様々な電子制御を否定するわけではないが、最近は少し複雑すぎるものもあるように感じていた筆者からすると選択項目がパワーモードだけで、あとはただ走るだけ! というシンプルさがむしろ好印象だった。赤い車体色も「S」のシブいグリーンよりもアクティブな印象で、いわゆるステータスとしてのバイクというよりは走りを楽しむイタ車に乗っているという感が強かった。
始動すると水冷エンジンらしくメカニカルノイズはとても少なく、アクセルに対する反応も極めてナチュラルでいてダイレクト。牧歌的な空冷グッツィの印象とは大きく違いグッとモダンである。湿式多板となったクラッチも操作性抜群でクラッチミートもスムーズ、そして常用域からドカドカッ! と頼もしいトルクが立ち上がる。決して乱暴ではないのだが、大きめにアクセルを開ければ微速からでも蹴飛ばされるような加速を楽しむことも可能だ。
走り出すとそのナチュラルなポジションが絶妙。シート高は815mmだが、クッションの設定なのか着座位置の関係なのかもっと低いようなイメージ。エンジンの後ろにスポッとハマっているような一体感があり、上半身はカウルに守られていることもあって常に気持ちに余裕が持てる殿様ポジションで白バイ的にすら感じた。アドベンチャーモデルに比べると圧倒的に地面が近く、まさにスーパーボルドール的な万能感に包まれる。シートの表皮も非常に上質でグリップが良く、タンデムエリアも広くて使い勝手が良さそうだ。
コーナリングもまた絶妙で驚く。縦置きクランクにありがちなアクセル開閉による車体の左右方向のフレもほとんど感じることなく、軽やかにコーナーにアプローチが可能。上体が起きたまま、極自然に車重が前輪に乗っかっていく感覚はバイクに対する信頼感を持たせてくれるもので、豊かな接地感からついついどんどんとバンク角も増えてペースも上がってしまう。こんな気持ちでグッツィに接したことはこれまでなかったことだ。
そして改めて、エンジンがとても速い。パワーモードはいくつかあるが、どのモードもあまり変わらずアクセルを大きく開ければ四の五の言わずにすっ飛んで行ける。115馬力は驚く数値ではないものの、パワーバンドというかトルクバンドがもの凄くワイドなため、もっとパワーのあるバイクに感じさせてくれるのだ。素晴らしいハンドリングと合わせ、これなら公道ワインディングは相当気持ちの良いペースが可能である。なお、クイックシフターがついていないのは今どき珍しいかもしれないが、アクセルをスッと抜いてあげるだけでカチャっと次のギアに吸い込まれていく精度の高いギアボックスのおかげで、そんなことは一切気にならなかった。
220万円でイタリアの名門を
今までモトグッツィというブランドをあまり認識していなかった人もいるかと思う。確かにイタ車の中でもちょっと目立たないブランドだったかもしれない。そんな中でも堅実なモノづくりを続けてきていたわけだが、この新作水冷エンジンはモトグッツィの新たな章を開いたといえよう。また快適性追求のカウリングや、伝統を感じさせてもくれるスタイリングをしつつ、実用性や汎用性も確保するあたり、これはアドベンチャーやストリートファイターにはない、懐の深い商品となっていると感じるし、90~00年代のビッグネイキッドに立ち返ったような、親しみやすい感覚もあった。
220万円という価格はこの電子制御を省いたスタンダードモデルのもので、電子制御サスを備える「S」は264万円というプライスタグだ。「S」はハイエンドなモデルとしての立ち位置だろうが、このスタンダードモデルでも新作エンジンの魅力は変わらないし、素晴らしい乗り味も同様。ブレンボブレーキを備えるなどハード面での装備は「S」と共通のため、むしろお得感すらあるだろう。
所有感という意味で言えば「S」モデルとなるだろうが、若めのライダーが敢えてこのスタンダードの方に乗り、気持ちよくワインディングを駆け抜けたらそれはそれはカッコ良いことに思う。そんなアクティブな使い方にもしっかり応えてくれるグッツィが誕生したのであり、ブランドそのものが若返ったような印象を得たのだった。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:渕本智信)
■エンジン種類:水冷4ストロークV型2気筒DOHC 4バルブ ■総排気量:1042cm3 ■ボア×ストローク:96.0×72.0mm ■圧縮比:– ■最高出力:115HP/8,700rpm ■最大トルク:105N・m(10.7kgf)/6,750rpm ■全長×全幅×全高:2,125×835×–mm ■軸間距離:1,475mm ■シート高:815mm ■車両重量:233kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6 段リターン ■タイヤ( 前・後):120/70R 17・190/55R17 ■ブレーキ(前・後):油圧式ダブルディスク(ABS)・油圧式ディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式■メーカー希望小売価格:2,200,000円~2,640,000円
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