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ヤマハ・ファクトリーマシンから若手有望選手は何を感じたのか?

 ヤマハファクトリーレーシングチーム(YFRT)車両試乗会が宮城県のスポーツランドSUGOで開催された。ヤマハが推進している育成プログラムのbLU cRU(ブルー・クルー) 活動の一環として行われたもので、全日本ロードレース選手権JSB1000クラスで中須賀克行が12回目のタイトルを獲得し、世界耐久選手権でYARTがチャンピオンに導いたヤマハYZF-R1の試乗会だ。

 ヤマハMS統括部の倉田幸彦氏は「好結果を残しているR1をファクトリーライダーの中須賀、岡本(裕生)選手以外のライダーたちに試乗してもらい、印象を聞きたいということに加え、この機会を今後のレースへのモチベーションにつなげてもらえたら」と語った。

 全日本ロードに参戦するライダーたちの中から「今後の期待を込めた5人」がセレクトされた。JSB1000クラスの児玉勇太、芳賀瑛大、ST1000クラスの豊島怜、ST600クラスからは井手翔太、伊達悠太が参加した。数年前にはオーディションとして試乗会が行われ、そこから野左根航汰と藤田拓哉が選ばれ、ヤマルーブレーシングへの所属が決まった。だが今回は、オーディションへの意味合いは薄く、ヤマハ車でレース活動するライダーたちへのご褒美の意味合いが強い。それでも、憧れのヤマハファクトリーチームへ、自身をアッピールできるチャンスだ。


 選ばれたライダーは緊張感を持ちつつも、期待に瞳を輝かせていた。吐く息が白くなるほどの寒さが訪れ、天気予報では雨の心配もあったが、この日は雨雲はどこかへ行き晴天となり、暖かな1日で「ヤマハライダーたちの普段の行いが良いのだ」と青空を見上げた。

 午前中は、それぞれに自身のマシンでの走行が行われ、いよいよ午後からは試乗会のスタートだ。中須賀がマシンの確認のための走行を終えたマシンに乗り込む。セッティングは全日本ロードレース選手権SUGO大会のものがベースだ。

 それぞれに与えられた時間は20分、単独で9周を走る。スタッフは、当然だが中須賀を支えるチャンピオンチームのスタッフだ。吉川和多留監督、中須賀、岡本裕生のファクトリーライダーが見守る中で走り出してゆく。

 児玉は「乗り出した瞬間から、自分が乗っているマシンと同じとは思えなかった。キビキビ動いて乗りやすく、このセッティングを教えてほしい。軽くて、動きやすく、接地感も感じる。きっと最高速はそんなに変わらないと思うが、マシンの向きの変わり方が違う。どんなふうにしたら、こんなキャラクターのバイクになるんだろう。このマシンなら、誰でもタイムが出るというわけではないこともわかった。短い時間ではあったが、ものすごく勉強になった」と感激していた。


 豊島は「すごかったです。別物過ぎて、パワーも軽さも全然違って、切り返しの軽さ、加速のすごさを感じた。ブレーキングも、握ったらその感覚で止まる。600から1000に乗り換えたくらいのインパクトがある。う~ん、1500ccくらいに感じました。身体にかかる負担も大きいですし、このマシンを乗りこなしている中須賀さんのすごさを感じた」と語った。あまりの嬉しさに周回数を間違えた豊島は「長く乗ってしまってごめんなさい」と謝っていた。「出禁になったらどうしよう」と心配していたが、ヤマハスタッフは「大丈夫」と慰めていた。


 井手は「こんな楽しいバイクがあるんだ」と興奮気味。「戦闘力、パワー、もう全てがすごすぎて、感動しました。攻めれば攻めるほど応えてくれる。レーサーマシンに乗ったのが初めてなので、レーサーってこんな感じなんだ……。最初の3ラップは、人生で1番疲れた。ワークスマシンを舐めていました。このマシンに乗るレベルに自分が達していないので、本当の力を機能させられていない。でもバイクに求めるイメージが出来たような気がします。いつかこのマシンに乗れるライダーになりたい。なる!」と誓った。


 伊逹は「別物のバイク。攻めて行っても大丈夫という感覚が楽しかった。すごい、ずっと乗っていたかった。止まるし、曲がるし、進むし、このマシンでレースが出来るように頑張りたいと思いました。自分がライダーとして甘えて部分があったんじゃないかと感じた。もっと、努力しようと思いました」と語る。


 芳賀は「言葉が出ない」としばらく放心状態。「自分が履いているのと同じタイヤでも、この車体だと違ったグリップ感を感じた。パワーがあって、押し出す感じがありました。車体がしっかりしていて乗りやすく、ブレーキの効きも、切り返しの軽さも、加速も、何もかもが違った。理想のバイクに乘れた」と語った。


 あくまでも試乗会で、タイムを競う走行ではなかったが、児玉が1分30秒88、芳賀が1分31秒66、伊達が1分32秒11、豊島が1分32秒36、井手が1分32秒78となった。彼らは「ファクトリーライダーの中須賀、岡本のすごさを、すこしではあったが、知ることができた。すごいマシンにすごいライダーが乗っているということがわかった」というのが共通のコメントだった。

 岡本は「自分が初めてR1に乗った時の感想とみんなのコメントが同じでした。マシンが固く感じるんですが、全てがまとまっている。限界が先にある感じがします。マシンの限界値の高さを感じて、自分がとても遅いと思ったことを思い出しました」と言う。

 中須賀は「みんなの生き生きした目を見ていて、自分の若い頃を思い出した。皆がマシンを褒めてくれて、開発の方向性が間違っていなかったと思えたし、良いバイクだと言ってくれて嬉しかった」と語った。


 倉田氏は「内心はドキドキしていた部分もあり、無事に走行が終わってホッとしています。それぞれに、課題や目標を見つけてくれたようで、有意義な走行会になったと思います。今後もライダーたちの育成につながることを考えて行きたい」語った。

 長男である芳賀瑛大のチーム監督である芳賀紀行もSUGOを訪れていた。芳賀は、ワールドスーパーバイクで活躍したレジェンドライダー、ヤマハファクトリーに所属していたライダーでもあり、中須賀は後輩ライダーだ。試乗したライダーたちが口々に「速い」と言う言葉を聞いて、芳賀紀行は「現役時代、自分の乗っているバイクを速いなんて言ったことない」と語ると、中須賀も「自分も言ったことない、もっと速くってしか言わない」と答えていた。頂点を極めるライダーの世界が、ほんの少し、垣間見えた会話だった。

(レポート:佐藤洋美)

王者・中須賀がスポーツランドSUGOをライディングしたオンボード映像
https://www.youtube.com/watch?v=tut3WeNELDc&t=3s







2023/11/26掲載