Q:HAWK 11を造ろうというキッカケを教えて下さい。
吉田昌弘(開発責任者代行):最初のキッカケはアフリカツインのエンジンを使ってロードスポーツを造れないか、という発案があり、それをLPL(ラージ・プロジェクト・リーダー:開発責任者を意味するホンダの社内呼称)を始めチームでカタチにしてきました。LPLは昔気質の開発者、親分肌の強い人で意志も固い。HAWK 11を担当するタイミングが定年前で、最後のLPLということも解っていました。チームに自らの思い、技術の伝承もしてもらえたのかなというのがありました。アーキテクチャー・シリーズ・プロダクト(ASP・エンジン、フレーム、足周りなどから構成される車体を活用しながら現行ラインナップとは異なる位置づけの派生機種展開として、市場規模、設定台数に応じた造り方などの検討成果も取り入れて開発を行うこと)というコンセプトで企画された第一号がHAWK 11となります。( HAWK 11の試乗インプレッション記事はコチラ→ https://mr-bike.jp/mb/archives/31018 )
Q:HAWK 11は国内専用モデルと発表されていますが、今後、世界展開は?
吉田:この3月のモーターサイクルショーで世界に先駆け日本で初お目見えしたばかりなので、今後の評判によっては海外への展開の可能性はあると期待しています。
Q:FRP製のロケットカウル。ここに注目が集まるHAWK 11 です。素材にFRPを使ったのはデザイン的にFRPでないと表現出来ないコトがあったからでしょうか。それと射出成形などの生産設備にコストを掛けないため?
田治健太郎(スタイリングデザイン担当):それは前者です。コストに関して言えばぶっちゃけFRPでカウルを造るほうがコスト的には掛かっています。コストを掛けてでも、FRPの一体成形ならではの表現になるロケットカウルを造りたいというのが開発側の思いです。
Q:ちなみに一体成形のカウルを造るための型は何分割で造ったのでしょうか?
三木総介(車体設計担当):型割についてのノウハウはお話し出来ないこともあるのですが、大枠で言うと型は二つです。外側が二つ、という感じです。そんなに多くを使わずに生産しています。
Q:最初、HAWK 11は、全体的に「長いバイク」に見えました。しかし走らせるととてもコンパクトに感じました。乗りやすい。そのあたりのヒミツを教えて下さい。
大和風馬(ハンドリング、乗り心地担当):走りに関しては、ハンドリング、乗り心地などが一体感のある走りにつながっている部分だと思います。ライダーの姿勢を前傾にして加減速Gとのバランスを考慮しました。今回はスポーツモデルということで、CBR1000RR-Rから103ミリ上げたハンドル位置がベストだと判断。そうした細かなポジション選択も乗りやすさとして感じて頂けたのではと思います。
Q:特にコーナリング時です。ツーリングペースで走るワインディングでも一体感ある曲がり方でした。時折シュっと素早く曲がることもありましたが、CBR/RR系のように曲がろうと思ったらもう曲がり終わっていた、というふうに、飛ばさないと退屈する、ということがありませんでした。そのへんのチューニングはどう整えたのでしょうか。
大和:今回のコンセプトは速さそのものではありません。そのことに関して我々は、特にハンドリング、乗り味では開発時に噛み砕いて考えました。RR系のソリッドなものよりも、ライダーに速さを感じさせるようなフィーリングを積極的に提供するものとしています。その理由はライダーとマシンが対話する時間をあまりにも短くしてしまうと、すぐに旋回が終わってしまう。サーキットで最速タイムを狙った走りを考えたらその方向なのですが、時間、速度という速さではなく、ライダーが感じる速いフィーリング、そこからスロットルを開けてゆくフィーリング。それはRRなどとは異なるHAWK 11の世界を創っています。
Q:ASPという造り方のコンセプトの中で一つお聞きします。アフリカツインのフレームをベースにスイングアープピボットからフレームを前回りさせるように前傾させることでディメンションをロードスポーツに合わた造り方をした、と製品説明で教えて頂きました。以前アフリカツインの開発者からは、メインフレームにエンジンをマウントするためのマウントステーをいくつか設け、そのプレートの長さ、角度などで剛性バランスを取っている、と聞きました。今回、ロードスポーツモデルであるHAWK 11に採用するにあたり、そうした部分は改良されたのでしょうか?
大和:そのまま使っています。アフリカツインのフレームはとても素性がよく、その良さを最大限活用しながら、今回HAWK 11を開発しました。メインフレーム以外では、新作したシートレール、フロントフォークを支えるトリプルクランプの上側、つまりトップブリッジですね、その剛性の調整をするようなところで今回のハンドリングを作り込んでいます。
Q:とはいえ、ASPというコンセプトで既存のものを土台に新しいキャラクターを創る。そのためには、それぞれの開発領域で「ホントはもっとこうしたいけどあそことの兼ね合い、あるもんな」で苦労したような部分、結果オーライだった部分など多々あったのでは、と想像します。そのあたりのビハインドストーリーがあったら各領域の方からお聞きしたいのですが。
田治:FRPのカウルに関しては見た目に重きをおいて造ってきました。そのFRPの一体成形が持つ魅力を各開発領域と共有しながら進めてきました。アーキテクチャーという点があるので、ベースのフレームを使いシートレールは専用のものとしていますが、車格が大きなバイクをベースとしているという点では苦労がありました。長いという点ですね。基本骨格をいかしつつスタイルをまとめるのはやはり苦労がありました。
Q:ロケットカウルでは様々な拘りがあるのでは、と思いますが。
田治:クレイモデルの段階では最終的に1ミリ単位で前端位置は詰めていきました。最終的にこのパッケージでベストなものに出来ました。デザインの狙いでもあります。
倉澤侑史(吸気系、排気系担当):私は吸気系、排気系を担当しました。吸気系はHAWK 11のために新設計しています。吸気系はエンジンの上にエアクリーナーボックスがあり、その上にタンクがあるという配置です。今回、ロケットカウルとタンクのデザイン、ラインを護るためにかなり高さを抑えてエアクリーナーボックスを設計する必要がありました。その中で目標とする出力をいかに出すか。そこは苦労したポイントです。具体的には限られたスペースを有効に使うために、エアクリーナーケースそのものは、ブロー成形という手法で造っています。
Q:型の中で樹脂を空気で膨らませ成形する手法ですね。
倉澤:エアクリーナーボックス内のクリーンサイドもダーティサイドもブロー成形したものでエアクリーナーエレメントを挟み込むような構造としています。それもエアクリーナーボックスの容量はギリギリ。そこで吸入する空気がケースを有効に使えるよう、圧損を可能な限り下げるような流路設計をして目標出力を達成しています。
※最高出力、最大トルクという部分ではなく、一般道で走行する場合、全開か全閉か、という操作は極めて希。ライダーの手首が1mmアクセルを回すレベルであり、それも開ける速さなどによってエンジンに期待する反応は異なる。つまり、幾万通りもある開け方に対して、不満のないドライバビリティーを作り出す上で吸気系の容量、流路設計が相当関わっている。ましてや1100㏄、2気筒レイアウトだけに、シリンダーに吸い混む空気の量が多いエンジンであり、この部分こそHAWK 11の走りの評価を上げもするし下げもする重要な部分。個々の部分からのリソースをけちると、ドンツキや乗りにくさが出てしまうからだ。HAWK 11の特徴的なスタイルの下にそんな苦労が潜んでいたのだ。
倉澤:あとはフロントカウルをFRPとしてそのデザインもツルっとした形状です。通常カウル内にあるエアクリーナーへの吸入ダクト付近にはカウル側に、動圧の影響を受けにくいようリブを立てるなど工夫をすることがあります。しかし今回、一体型のFRP製ロケットカウルだと製法的にそれが難しい。そこで吸入口の配置も最適になるよう調整しながらという苦労がありました。
Q:乗った印象では素晴らしいドライバビリティーでした。CRF1100Lアフリカツインで体験した穏やかにもトルキーにも、ワイルドにも走れる楽しさがあったので、そんな苦労があったとは……! 続いて、吉田さん、いかがでしょうか。
吉田: HAWK 11はあえてMTのみ。あえてクイックシフターも付けず、クルーズコントロール等の電子デバイスも省いたシンプルな仕様としています。これはプリミティブなバイクの魅力をエキスパートなライダーに届けたいという思いからでもあります。
我々としてはこの先、このモデルが成長してゆく中で、装備の充実化も視野に入れていきたいなと思っています。DCTについてもこのエンジンには搭載が可能なので、お客様の声によっては可能性が様々あると考えています。
Q:車体設計の三木さん、いかがでしょうか?
三木:車体設計領域から言えば、デザインの主な特徴となっているFRPカウルをいかに侵さないようにするか、に注意を払って開発を進めました。例えば外観です。ロケットカウルを取り付けるボルトを極力見せないようにしたり、ミラーの位置にしても工夫をしました。通常であればカウルから出すのが普通です。あえてそうしなかったのは、ロケットカウルがもつフォルムに気遣いをしたからです。
それだけに、このバイクで負担を掛けたな、と思うのは製造現場の領域です。ロケットカウルがFRP製なので、塗装前の表面の磨き工程や、カウル内面の処理、塗装後のストライプの段差など仕上がるまでに現場にお願いをすることが多かったモデルです。そのお陰で完成車では綺麗な仕上がりの素晴らしいものとなっています。HAWK 11は、そうした製造現場でしっかりとした手間をかけて生産されています。
Q:FRP製ロケットカウルはどのように造るのでしょうか?
三木:一般的には職人さんが型にFRPを張り、ローラーや刷毛で樹脂をしみこませるというものですが、HAWK 11の場合、バキューム製法と言われる造り方も用いながら効率の良い造り方で量産性、品質性を上げています。
Q:ロケットカウルとハンドリング、なにかご苦労はありましたか大和さん。
大和:ハンドリングの領域では、HAWK 11で象徴的なロケットカウルとの両立という点に苦労がありました。実際のところ、ロケットカウルのデザインはあれでいく、という狙いがありました。変更はできない。それ以外の部分でそのバランスを取る必要がありました。具体的には、ラジエターをカバーしている部品があります。そこに秘密がありまして、そのカバーにある面の角度ひとつ、穴の位置一つをハンドリングにとって理想的になるよう拘り抜いた部分です。側面の角度、その前の面取りをしてある幅など、ハンドリングの向上のためにテストを繰り返しながら進め、他の設計部署に説明をしながらこういう理由だからこの部分をこういうカタチにやらせて下さい、というやりとりをしながら押し引きしつつ進めました。
※ハンドリングにおいてカウリングがあるモデルの場合、走行時の空気の流れが大きく影響を与える場合があるそうだ。これは過去に取材した話だが、CBR1000RRのマイナーモデルチェンジ時のこと。デザイナーがスタイルと空気抵抗低減を考慮して造ったフロントフェンダー。その形状はスムーズに走行風圧をしっかりとかき分け、抜群の効果を持っていたという。が、高速試験路でテストライダーが乗ると、レーンチェンジやストレートからコーナーへのアプローチでバイクのロール方向への動きが重たいとの声が。フェンダーの周りを流れる空気がフェンダーに綺麗に沿うために起こる現象で、テストライダーとデザイナーは、開発中、高速周回路で試作されたクレイのフェンダーを走っては削り、ある程度空気の乱流を発生させ、生まれた乱流の負圧により左右へのバイクの動きを軽くした、というストーリーを聞いたことがある。このHAWK 11の流面体のようなロケットカウルもカウル側面を綺麗に流れる空気とは別に、あえてラジエターカバーなどでピタッとカウルに沿った空気とは別にロール方向に軽く動ける空気の渦、乱れを造る必要があった、という開発者のお話だ。
HAWK 11の開発者インタビューを終えて。
聞くほどに面白いビハインドストーリーが出てくるHAWK 11。納得出来る走りを実現するんだという意気高いLPLの指揮の下、このバイクを世に出すことへと集中した開発スタッフ達。LPLを担当し定年を迎えた後藤さんは、実際に本田宗一郎さんとともに開発をし、時に雷を落とされた先輩に鍛えられ、揉まれながら古き良き時代のホンダイズムを継承するような人だったのではないだろうか。
今回、あえてFRPのロケットカウルをデザインの核に据えた造り込みも含め、個性タップリのHAWK 11が生まれた背景を垣間見れたコトは大きな収穫だった。どんなモデルでも大いに苦労をした開発者の想いがこもっている。このHAWK 11がまとう深い色をしたロケットカウルが、ショールームでアナタを魅了するとしたら、それはそうした見えない思いの集積体として心の琴線を鳴らしたワケだ。さ、これに乗ろう。ユーザーもそんな熱い思いでそれに応えたい。それに相応しいプロダクトだということがよく解った。
(インタビュー・文:松井 勉)
■型式: 8BL-SC85 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ ■総排気量:1,082cm3 ■ボア×ストローク:92.0×81.4mm ■圧縮比:10.1■最高出力:75kW(102PS)/7,500rpm ■最大トルク:104N・m(10.6kgf・m)/6,250rpm ■全長×全幅×全高:2,190×710×1,160mm ■ホイールベース:1,510mm ■最低地上高:200mm ■シート高:820mm ■車両重量:214kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式: 6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:パールホークスアイブルー、グラファイトブラック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,397,000円
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