新しいライトウェイト2気筒マシンとしての完成度は高いが、これはスポーツスターなのか。ハーレーダビッドソンの新型車「スポーツスターS」を試乗する前も、試乗を終えてからも、その疑問は消えることはなかった。
先に国内での発売が始まったハーレーダビッドソン初のアドベンチャーモデル「パンアメリカ1250」に採用された、可変バルブタイミング機構付き挟角60度のDOHC水冷V型2気筒エンジン/レボリューションマックス1250をベースに、さらに中低回転域のリッチなトルク特性を与えた「レボリューションマックス1250T」エンジンは、パンアメリカではさほど感じなかったVツインらしいエンジンの鼓動を感じることができた。そしてそこからエンジンの回転を上げれば、その鼓動感は一瞬にして消え去り、ワープするような加速を見せる。これはこれで、新しい“スポーツスター”としてのパフォーマンスとキャラクターと言えるだろう。
フロントに160サイズの17インチタイヤ、リアに180サイズの16インチタイヤを装着した、いわゆる“ボバー”スタイルを、新生スポーツスターのトップバッターとして投入した理由も、想像がつく。
2010年頃からスポーツスターは、ハーレーダビッドソンのライトウェイトスポーツモデルからライトウェイトカスタムモデルへと軸足を移していく。2011年モデルとしてデビューした、前後16インチホイールを装着したカスタムバイクのような ボバースタイルの「XL1200Xフォーティーエイト」の発表と、その爆発的な人気により軸足への荷重はさらに大きくなった。この新しく大きな潮流を新型スポーツスターに引き込むには、ボバースタイルの継承は必須だったのだ。
今年7月にオンラインで行われた新型スポーツスターの発表会で、デザインを担当したブリジット・フィルナーは「自分たちの中にある既成概念を打ち破り、スポーツスターに対する世間の期待を上回るものにしたかった」と語っている。そのことでも、フロント19インチ/リア16インチのホイールサイズにピーナッツタンクといった、いわゆる“The スポーツスター”なスタイリングを採用しなかった理由もよく分かる。
偶然にも日本では、ボバースタイルを採用する「ホンダ・レブル」シリーズが、ビギナーからベテランまで、幅広いキャリアのライダーを巻き込んで爆発的なセールスを続けている。足着き性の良さと、個性的なキャラクター、そして扱いやすいエンジンという点でボバーは、ビギナーを含めた多くのライダーを取り込むことができる新しいモデルカテゴリーとなったのだ。そうなると新型スポーツスターは、レブルで育ったユーザーがステップアップするときの受け皿になることも考えられるし、単純にトレンドのボバースタイルの上位モデルとして選択車両にあがることも多くなるだろう。
新型スポーツスターのもうひとつの特徴は、その軽さだ。228kgという車重は、現在は「アイアン883」というモデル名でラインナップされる883スポーツスターと同じスタイリングを持つモデルから約30kgのダイエットに成功している。しかしマスの集中化や低重心化によって、その数字以上に車体の取り回しは軽い。パンアメリカ1250でも感じたことだが、挟角が広く背の高い大型化したV型2気筒エンジンで、DOHCに加え可変バルブ機構をシリンダーヘッドに乗せているのだから、その重さと重心の高さからアンバランスな挙動を想像するが、それを一切感じさせない。この車体のまとめ方は、パンアメリカおよびスポーツスターといった、新生ハーレーダビッドソンらしさと言えるだろう。
ただそのハンドリングは、軽量ボディとマスの集中化を活かした、スポーティなものとは少し違っていた。直進安定性が強く、渋滞するクルマの後を走るときのような、左右に小さくハンドルを切りバランスを取りながら走行するときにハンドル操作が重く、その操作に対する車体の反応が重い。それを“安定感がある”と表現出来ないこともないがハンドル操作の軽さ、さらにはその操作と連動する車体の反応の軽さが、車体の軽快感を造ると考えていて、個人的にはもう少し素直に反応して欲しいと感じた。また車体を切り返すときにも重さを感じる上に、交差点のような低速コーナーでは曲がる方向にハンドルが切れ込んでくる。速度が上がればその切れ込み感は小さくなるが、今度はフロントが積極的に向きを変えていかない。足を投げ出すようなフォワードコントロールのライディングポジションでコーナーをガンガン攻めるタイプの車両ではないことから、そのようなスポーツバイク的なフィーリングを求めていないとは言え、このハンドリングは好みが分かれるだろう。
この新型「スポーツスターS」が、ハーレーダビッドソンのラインナップのなかでどんな役割を果たしていくのだろうか。ミッション一体型の4カムOHVという、1957年に初代モデルが発表されて以来スポーツスターが守り続けてきた伝統的なエンジンレイアウトを持つモデルは、ハーレーダビッドソン/クルーザーカテゴリーに所属ファミリーを変え、「アイアン883/1200」および「フォーティーエイト」としてラインナップされている。そしてレボリューションマックス1250Tエンジンと同じ、挟角60度の水冷Vツインエンジン/レボリューションXを搭載した「ストリート750」および「ストリートロッド」を揃えたストリートファミリーが消滅し、かわってスポーツファミリーが生まれ「スポーツスターS」をラインナップした。7月のオンライン発表会のなかでは、リア2本ショックのバリエーションモデルの登場も示唆されたことから、ファミリーモデルの拡充も予想される。
それらを総合的に見て推測するに、新生スポーツスターファミリーは、パンアメリカ1250同様、ハーレーダビッドソンの斥候的任務を携えているのではないか。ハーレーダビッドソンは、その圧倒的な存在感が、ときに新規ユーザーが二の足を踏む要因にもなっている。しかし新型「スポーツスターS」やパンアメリカ1250は、いい意味でハーレーダビッドソンらしくない。その“らしくない”からこそ、開拓できるユーザーやマーケットはまだまだ多いだろう。変わりゆく二輪市場において、新しいハーレーダビッドソンの姿をアピールするにも、新型「スポーツスターS」は最適だ。
既存オーナーやベテランたちにとっても新型「スポーツスターS」という新薬はよく効いた。スポーツスターのイメージが凝り固まっている私などはハーレーダビッドソンのマーケティングにすっかりヤラレているクチなのだ。冒頭に述べたように試乗する前も試乗後も、これはスポーツスターなのかと悩み続けていることこそ、ハーレーダビッドソンが思い描いていた市場の反応なのだ。そしてオンライン発表会でチラ見せされた、リア2本ショックのバリエーションモデルの登場が、気になって仕方がないのだから……そういうバイクファンは、少なくないはずだ。
(試乗・文:河野正士)
■エンジン種類:可変バルブタイミング機構付き水冷4ストロークV型2気筒DOHC REVOLUTIONMax1250T ■総排気量:1,252cc ■ボア×ストローク:105×72.3mm ■圧縮比:12.0 ■最高出力:–PS/–rpm ■最大トルク:125N・m/6,000rpm ■全長×全幅×全高:2,270×──×──mm ■軸距離:1,520mm ■シート高:755mm ■車両重量:228kg ■燃料タンク容量:約11.8L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):160/70 TR17・180/70 R16 ■ブレーキ(前/後):320mmシングルディスク+ラジアルマウント4ポットキャリパー/260mmシングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):倒立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,858,000円~
| 『Harley-Davidson PanAmerica1250』試乗ページへ |