前回からずいぶん間が空いてしまったのですが、またまた「恐いソロキャンプ」のお話です。
ワタシの旅はいつも、まったく予定など立てずの成り行き任せ。とりあえず行きたい場所だけを決め、あとはそのときの気分にまかせて、ただチンタラと走っているんです。
そのときも長野方面に向かうことだけを決め、朝から準備を始めたのですが、なんやかやと時間がかかってしまい、高円寺のアパートを出発したのが、なんとお昼でした。
まずは青梅街道を西へ向かいます。当初は荻窪を左折してカンパチ(環状8号線)に入り、そして甲州街道(国道20号線)を使う予定でしたが、急に気が変わり、このまま青梅街道を走って山越えをし甲府へ出て、そこから20号線に入ることにしたのです。
ところが途中何箇所も工事渋滞があり、なかなか前に進めないのです。青梅駅前を過ぎて奥多摩に入ったときはもう薄暗くなってきていました。
周りにはまったく民家などない、木々に囲まれた狭い道が続きます。このまま夜道を走って塩山あたりまで行き、ビジネスホテルでも探すしかないか……なんて思っていたら、ポツンと一軒だけある食堂が見えたのです。しかも「SK落合キャンプ場」と書いてあるではありませんか。飛び込んでみたら泊れるとのこと。ホッとしたのでした。
敷地はかなり狭いのですが、炊事棟やシャワーが完備してあり、目の前の小川ではイワナ釣り体験もできるみたいです。
ご飯を炊き、レトルトカレーで晩御飯を食べ、シャワーを浴びたあと夜空を見上げると満天の星空。ここは山梨県と東京都の境あたりになるのですが、まさかこんなすごい星が見られるなんて、本当に感激したのです。
ところがです、夜がだんだん更けてきたころ、突然前方にぼんやりとした無数の明かりが見えたのです。真っ暗な闇の中、ゆらゆらと揺れる灯がだんだんとこちらに近づいてくるのですよ。
そのとき思い出してしまいました。ついさっき、関東屈指の心霊スポット「おいらん淵」の前を通ってきたことを……。
おいらん淵とは、盗んだ金銀財宝を隠し終えた男どもを歓待するために呼んだ数十人の若い女性たちを、宴のあと、隠し場所を他言しないように、皆殺しにして谷底に落とした、という話です(諸説あります)。
「もしかして火の玉なのか」。とたんに恐怖が襲ってきました。客はワタシ一人。食堂の明かりも消えて真っ暗です。もしかしたら、自宅は別の場所にあり、帰ったのかもしれません。ワタシは持ってきていた寝酒の焼酎をガブ飲みして、テントの中でガタガタと震えているだけでした。
ザワザワとした話し声も聞こえてきます。テントの通気穴から覗くと、人影が……それもものすごい数です。ワタシは「どうか成仏してください。どうぞ成仏してください」。心の中で手を合わせていると、いつの間にか眠っていて、気がつくと朝になっていました。
「あ~あれはねぇ、この先の高校の生徒さんたちよ」。翌朝、食堂のおばちゃんに話すと、笑って教えてくれました。
なんでも、青梅街道をみんなで夜通し歩くという、昔から行われている伝統行事なんだそうです。あの明かりは火の玉なんかじゃなく、ただの懐中電灯だったという、くだらないオチでしたとさ。(チャンチャン♫)
ちなみに、おいらん淵の供養の碑は道の側の林の中にぽつんと立っています。昼間でもやはり一人だとちょっと恐い場所なんですよ。背筋がゾッとするのを感じるのです。
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