前回は、ボアアップキットを組み込み80ccとなったXLR80R改50改80のナラシ運転の模様などをレポートしました。今回はそのナラシの終わった80ccエンジンをバラしました(笑)。
「すぐ壊れた?(笑)」なんて期待されて(?)いる方もいらっしゃるかもですが、残念ながら違います。「じゃあ、なんだって組んだばかりのエンジンをまたバラすのよ?」ってことになりますが、以前レポートしたとおり、組み込んだメーカー不明のボアアップキットは、ピストンクリアランス(ピストンとシリンダーの隙間)がかなり狭かったのです。純正部品で組んだ際のメーカー規定値は、APE50のサービスマニュアルを持っていないのでAPE100の数値となりますが1/100〜5/100mm。対してボアアップキットのクリアランスは実測で最小部が1/100mm。APE100のノーマルであれば基準値内ですから問題が発生することはないのですが、社外のボアアップキットだとそうともいいきれません。そこで部品の状態を確認すべくエンジンをバラしたというわけです。
ちなみにピストンクリアランスの設定値は、いろいろな要素から設定されているそうで、その要素のひとつが各部品の熱膨張。金属はご存知のとおり熱が加わると膨張します。エンジンはガソリンを燃やして動力を得ているわけですから当然ながら熱が加わり、エンジンが掛かっている時(温間時)、シリンダーやピストンは膨張した状態となるので、それを見越して、ピストンクリアランスを設定しているそうです。今回組み付けたボアアップキットの場合であれば、冷間時に測定したピストンクリアランスは最小値で1/100mmだったので、温間時となれば間違いなく1/100mm以下になっているはずです。
「とはいえ、基準値内なんだから問題ないでしょ?」と思われるかもしれませんが、純正部品と社外パーツでは材質が異なります。ピストンやシリンダーがアルミで、スリーブが鉄という大まかな材質は同じですが、そのアルミや鉄の細かな成分的な話としての材質は恐らく違うはず。成分が変われば熱膨張率も微妙に異なるんですよ。「そんな微妙な違いを気にしなくても……?」と思われるかもしれませんが、1/100mm台のクリアランスの話となるので、ピストンクリアランス基準値の真ん中辺りのクリアランスであれば熱膨張率が大きい方に振れても小さい方に振れても特に問題もないと思えるわけですが、今回のケースは最小側、最悪は温間時のクリアランスが足りずにシリンダーとピストンが焼き付いてしまうことも想定されます。
果たしてエンジンの中身はどうであったかというと、当たりの強い部分に浅い縦傷こそあるものの、焼き付きが発生した痕跡もなく、このまま使うことができそうです。いや〜、良かった良かった(笑)。分解して確認するまでは、焼き付くかも? という不安が頭の片隅にあったもんで、恐る恐るスロットルを開けていましたが、これからは心置きなくブン回せます! ちなみにナラシ中は、ノーマルのバルブスプリングとエイプ50純正カムを組んでいましたが、ボアアップキットが問題なく使えることが確認できたので、エンジン再組み付け時には、もっと上まで回せるようにキタコ製の強化バルブスプリングとエイプ100純正カムを組んで、フルパワー仕様(?)にする予定です。
空冷単気筒なので、シリンダーの摘出は割と簡単です。作業手順としては、カムカバーを外す→カムチェーンテンショナーを外す→圧縮上死点に合わせる→カムプーリーを外す→カムホルダー、ヘッド、シリンダーをクランクケースに固定するスタッドボルトのナット4つとボルト1本を外す→カムホルダーとカムを外す→シリンダーヘッドを外す→シリンダーを外せば摘出完了。2〜3回もやればあっけないほど簡単にバラせるようになるはずです。ちなみに取り外すボルトやナットの数は、エンジン単体であれば、たったの10個だけ。