第119回 「とき(と)そば」
新潟と聞いてみなさんは何を連想しますか? 米どころ、とき、佐渡に田中角栄元首相も有名です。B級グルメではイタリアンやバスセンターのカレーも今や全国区。私の場合、新潟といえば、たぶんほとんどの人が思い浮かべることのない「新潟銘酒あかい酒」というフレーズと赤いビンが今も昔も第一位です。
父は新潟出張が多く、お土産はほぼ笹だんごでした。小学生の私は「キャッホー笹だんご!」とカツオのようなお土産喜びの舞を披露することもなく、「パンダじゃないんだから」とクールに笹だんごを食べていました(ちなみにパンダが上野にやってきたのは1972年)。あるとき「あかい酒」を買ってきました。今も赤い酒はありますが、すらっとした細いビンでオシャレ。私の記憶の赤い酒は、ぼてっとしたビンでした。テレビで帝銀事件の特番(たぶん)を見た直後だった偶然も重なり「妖しい赤い液体=なんかやばそう」とインプットされたのでしょう(あかい酒の名誉のために言っておきますが、妖しいお酒ではありません。念のため)。以後新潟と聞くと反射的に「あかい酒」が頭に浮かぶようになりました。小学生だか中学生だか忘れましたが、名産品を答える問題があって、新潟県は「あかい酒」と書いたような記憶もあります。
あかい酒を呑んだことありません。新潟に行ったら買おうと思っているのに、現地ではなぜか思い出しません。新潟駅で何度も「にいがた〜」と聞いているはずなのに……新潟と聞いて思い浮かべる第一位とは、開いた口がふさがりません(他人事)。
あかい酒と出会った数年後、中学の卒業式が終わったある日、父は「新潟に出張いっしょに行くか?」と言いました。進学祝いのありがたい親心でした(たぶん)。しかし最初で最後の父と2人の新潟旅行について記憶がほぼありません。かすかに覚えているのは、寝台急行天の川号で早朝の新潟駅に到着後、時間つぶしのためサウナ風呂に行ったこと、帰りは181系に乗りたかったのに、時間が合わず183系の1000番代だったことくらいです。写真もメモもろくにないし……よけいな事をして父に怒られふてくされていたのかもしれません。
長々とあかい酒ならぬアカの他人(共産党員の他人という意味ではありません)の思い出話に合わせてごめんなさい(ついでに共産党員のみなさんにもごめんなさい)。やっと本題です。今回はいつものように、前ふりとは全く無関係な方向に驀進するのではなく、素直に新潟(駅)のお話です。
高架化工事が始まる前(少なくとも2007年末頃)までの新潟駅は、在来線に4つのホーム(1、2-3、4-5、6-7番線、1番線は片側のみ)と、新幹線の2つのホーム(11-12、13-14番線)がありました。このうち11-12番線以外にはすべて立喰・ソがあり、さらに万代口と西口の改札外もという、どこにいても立喰・ソにあくせくせずともアクセスできる立喰・ソ・ヘブン・ステーション(略してTHSではなくタヘス=以後出てきませんからすぐに忘れてください)でした。
高架化工事が始ると次々に幻立喰・ソになってしまい、2012年頃には1番線と新幹線ホームの新潟庵、西口改札外のやなぎ庵の3つのみ(万代口の駅デパートCoCoLo地下にちぢみという立喰・ソがありましたが、いつごろ出来たのかは不明)になってしまったようです。そして在来線ホーム最後の砦、1番線の新潟庵は2018年11月30日に幻立喰・ソになり、地元のテレビや新聞でも報じられました。愛されていたんですね。2020年9月27日には万代口のやなぎ庵が(ちぢみは2020年3月27日閉店)幻立喰・ソになってしまい、残すは新幹線ホームの13-14番線のみ。在来線側はついに立喰・ソ飢餓地帯(=タキチ。ですが昨今これが当たり前なので覚える必要はありません)になってしまいました。
それでも万代口を出たバス乗り場の向かい側には大きく「うどんそば」の看板が凜々しいみゆきが控えていますから、新潟の立喰・ソ愛は磐石なのです。ちなみに仮店舗でカレーライスのみの営業だった万代バスセンターも2020年9月18日から復活しています。すごいぞ新潟! そもそもそばは、米が作りにくい土地で栽培されたもので、米どころの新潟と縁がなさそうな気もしますから、これほど立喰・ソだらけだったのが今さらながら不思議です。
新潟駅の高架化と共に万代広場整備事業も進行しています。いかにも地方都市の鉄道管理局がある大きな駅という風情を備えた国鉄風味の駅舎や、排出ガスでくらくらしそうな(今ではまったくクリーンです)バスターミナルが醸し出す昭和の新潟は、令和の装いに一変し2023年度供用開始(詳細は新潟シティチャンネルでどうぞ)の予定です。そのとき立喰・ソは復活するのか。それは立喰・ソ神のみ知る、というような問題ではないでしょうけれど、新潟といえばあかい酒という部外者の私は、立喰・ソ神に復活を願うばかりです。
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