先鋭化したオフモデルへのアンチテーゼ
空前のバイクブームにとともにオフロードモデル市場も活性化したが、1982年をピークに減少傾向が続いていた。原因のひとつとして、先鋭化しすぎたレーサーレプリカ同様にオフモデルもレーシングフューチャーを積極的に取り入れ高性能化、高シート高化が進んだことにより、エントリーユーザーや一般ユーザーのオフロードモデル離れが考えられた。そこでオフ市場の活性化を図るべく、一般的なユーザーが日常的にストレス無く使え、さらにツーリングの延長上でのトレールランも楽しめるような広く浅く使えるトレールモデルとして投入されたのがセローであった。突出した性能ではなく、パワー、重量、ハンドリングのトータルバランスを重視しながら、林道トレッキングだけではなく、一歩踏み込んだトライアラー的なエッセンスも付加し「立てばトライアル、座ればトレール、走る姿はカモシカのよう」というコンセプトで山岳地帯を自由に走り回るカモシカをイメージして設計された。エンジンは4ストオフモデルXT200の空冷2バルブOHC単気筒をベースに中低速回転域での粘り強いトルクとパワーを得るため排気量をアップし、一軸バランサーを内蔵し振動の低減を図った。クセのない扱いやすさと、林道でも楽しめる走破性の高さから、ベテランのセカンドバイク、通勤通学など普段の足、入門者や女性ユーザーなど幅広い層に受け入れられた。
奈良のシカ
セローとはカモシカ(イメージはヒマラヤカモシカ)であり、タンクにカモシカをモチーフにしたデザインが描かれた。ところが初期型に描かれたツノは役割を終えた地デジカのアンテナをさらにふやしたようなタイプで、某動物愛護団体から「これでは奈良のシカだ」と指摘されたとか、されなかったとか。そこでこっそり訂正したというのが定説になっている(真偽の程を以前関係者にしつこく聞いたことがあるが、「まあ、そのあたりは、ね。ほら、いろいろあるから。そっとしておいてね」と、目が笑っていなかった……)。カタログは写真の入れ替えのみで基本的な構成は変わっていないが、今日のようにデジタル技術が発達していなかった当時、倒木を乗り越えている写真は、微妙に腕の位置を変えてツノが見えないようにするなど苦労の跡が忍ばれる。
初の特別仕様車
セローベースの兄弟モデル
セローをベースにしたエンデューロモデル。エンジンは排気量に変化はないが最高出力を22psに、最大トルクを3.1kg-mにパワーアップし、セミエア式のフロントフォーク、サスストロークの増加、ウインカーの廃止などの変更を行ないオフの走破性を高めた。主に北米、豪州に向けた輸出モデルだが国内でも9月上旬にコンペモデルとして345000円で発売された。
SUキャブなどマイナーチェンジ
登場から1年4ヶ月、幅広い支持を受けたセローは各部の熟成化と騒音の低減のためマイナーチェンジを行なった。主な変更点はキャブレターをVMタイプからフラットバルブのSUタイプに変更。ボア径も26mmから34mmへとアップした。急坂など車両姿勢の変化が大きい時でも油面レベルが影響を受けにくくなり、ピックアップ特性、アイドリング特性、高地実用燃費が向上した。併せて吸排気系の細部の見直しによって吸排気音の低減も図られた。フロントフォークには2月に発売されたYSPリミテッドに装着されていた減衰力調整機構が標準装備となった。
新色を追加
マイナーチェンジから半年後に新色のホワイト×チャピイレッドを追加。ホワイト×フォレストグリーン、ホワイト×コンペティションイエローとあわせ全3色のカラーバリエーションに。
セルを標準装備
オフ市場の活性化(前年度1月〜5月比約36%伸張)という当初の目的を見事に達成したセローは、要望の高かったセルフスターターを標準装備(キックは廃止)するなど大幅な改良が加えられた。セル追加に伴いバッテリーは12V3Ahから6AhのMF(メンテナンスフリー)へパワーアップされ、チョークレバーはノブ式からワイヤー式となり手元配置に改められた。タンクは8.8ℓに容量をアップし航続力を増加させ、コックも大型の樹脂製となり扱いやすさが向上した。足周りではフロントの減衰力調整機能が廃止されたが、リアはビルシュタインタイプが採用された。シートはクッション厚を5mmから8mmに増すと共に形状、硬度を変更、サスペンションセッティングの変更も相まって足つき性や乗り心地を向上させた。他にもハンドル幅短縮、フットレスト位置変更、ステンレスエキゾーストパイプ、ステンレス巻きサイレンサーの採用などが行なわれている。
バイクは昼間もライトオン
「遊び心。軽快感、元気、おしゃれ、目新しさ」を表現した新グラフィックを採用。あの世間をお騒がせした元アイドルがデザインしたキャラクターで大々的にキャンペーンが展開されたバイクの昼間ライトオン運動に合わせ(現在は道路運送車両法により義務化)ヘッドライトを昼間自動点灯とした。このためアイドリング時でもヘッドライトの明るさを保つためAC点火方式からDCバッテリー点灯方式に変更された。電装系も三相交流ジェネレーターやトランジスタ式フラッシャーリレーに変更され強化された。339000円。
カラーリングを変更
軽快感を強調したカラーリングへ変更。カラーリングを変更(※ハンドルスイッチ形状とグリップの材質を変更したという説もありますが、当時のヤマハのプレスリリースにはまったく記述がなく、確認できなかったため割愛しました)。339000円。
2000台限定のS
ビルシュタインタイプのリザーバータンク付リアサスペンション(伸び側(20段階)だけではなく圧側(20段階)の減衰力調整機構も追加)、テンションバー付アルミハンドル、バレル研磨仕上げのハンドルクラウン、ブッシュガードを装備して、WOODS RIDING FOR REAL EXPERTの文字入りクラブマーク調の専用エンブレム、森の中で映える専用カラーのスペシャル仕様を2000台限定で発売。359000円。
リアブレーキをディスクに
リアにも新たにディスクブレーキが採用され、前年発売された限定車セロー225Sに採用された別体式サブタンク付リアサスペンションも標準装備とグレードアップ。車名もセロー225W(Wはフロントとリアのダブルディスクということか?)に変更された。ぱっと見の形状はほぼ変わっていないがヘッドライトは60/55W大容量の小型ヘッドライトに変更さた。アルミ製アンダーブラケットやフットレスト部アルミ製プロテクターも新採用され、フロントサス作動性向上、シフトタッチ向上、フロントブレーキパッドの材質変更、ステアリング軸受がボールレスからアンギュラー軸受けに変更など各部の改良も行なわれた。また要望の高かったキックスターターはキックセット(9600円)がオプションで設定された。369000円。
1993モデルをさらに熟成化
リアがディスクブレーキとなった1993モデルをベースに、着座面幅を30mm拡大し材質を見直したシート、極低速からスムーズな応答性を得るためのキャブセッティングの変更、クラッチワイヤーを単縒りから細かいスチール線を使用した複縒りに変更し操作フィーリングを向上、フットレスト踏面前後幅拡大、フロントブレーキフィーリング向上、スタンディングハンドル形状をより握りやすい形状化、強化メインスイッチとピン回転式ヘルメットホルダーの採用と全8項目のマイナーチェンジが行なわれた。369000円。
誕生10周年の記念限定車
累計販売台数(1995年3月まで)が6万台を越えた1995年、セローの誕生10周年を記念して専用の立体エンブレム、ブリッジ無しタイプの軽量アルミハンドル、バフ仕上げのハンドルホルダー、前後アルミゴールドリムを装備したリミテッドエディションが1000台限定で発売された。379000円。
一部カラー変更
パープリシュホワイトソリッド1ビビッドレッドカクテル1が廃止され,新色のパープリッシュホワイトソリッド1×レッドEスパークルを設定。このカラーのみゴールドリムを新たに採用している。他の2色パープリシュホワイトソリッド1×ディープバイオレットソリッド1とパープリシュホワイトソリッド1×フォレストグリーンは変更なく継続。369000円。
1500台の限定色
専用カラーと専用エンブレムのリミテッドカラーエディションを1500台限定で発売。374000円。
WからWEへモデルチェンジ
「二輪二足でより深く、イージーに」をコンセプトに細部に渡る改良を受け車名もWからWEに変更された。一番大きな変更点は、要望の多かったタンク容量の変更で、8.8リットルから10リットルへアップしたことにより航続距離が延びた。単なる容量のアップだけではなく、形状変更により低重心化や足つき性の向上も図られ、さらに内面も防錆メッキが施された。他にも極低速域からのキャブレーション、放置後の始動性向上のためキャブレターが小口径のBST31に変更、約10%クラッチレバー荷重の低減、サスセッティング見直し、フライホイールマス変更、バッテリー保護のためエンジンのクランキング後に点灯する仕様のヘッドライト、セルモーターの回転数約13%アップなどの改良と、φ27+22mm異径2ポッドフロントブレーキキャリパー、リアチューブレスタイヤ、エキパイプロテクター、小型MFバッテリー、ハザードランプ、ロック付大型ツールボックスが新たに採用された。グラフィックは大空に漂う雲をイメージしたグラデーションとなり、各色は、グリーン=新緑に映える山々、ブルー=脈々と湧き出す渓流、レッド=紅葉の絨毯をイメージしている。
カモシカの弟は野生馬
レトロブームを背景にセローをベースにDT1のイメージのスタイリングとしたシティスクランブラーが製作された。キャブセッティング変更と1~2速ギアのレシオロング化、ホイールベースの短縮、フロント19インチ化などにより市街地での扱いやすさを向上させた。リアブレーキはドラム式。タンクカラーを全10色から選択できるカラーオーダーシステムも設定され期待されたが、残念ながら一代限りの短命なモデルだった。ブロンコとは英語で、北米に棲む野生馬の意。
ナビ機能付GPSを搭載
本来のメーター位置にGPS本体を固定し、GPSのアンテナはハンドルポストに設置しパイププロテクターで本体をガードした。ナビ機能付とは言っても、もちろん現代のいたれりつくせりの表示画面ではない。行き先のルート上のいくつかの地点の緯度と経度をあらかじめ入力すると、液晶画面に矢印と数字で方向を指示するという原始的なもの。当時としてはこれでもかなり先進技術であったが、市販化には至らず。
マルチカラーメタリック採用
モーターショーで展示されたGPSモデルは市販されなかったが、反響の大きかったヒマラヤカモシカをモチーフとしたイラストのタンクグラフィックは、見る角度により光の反射で色彩が変化するマルチカラーメタリックとなり採用された。379000円。
TPS付ニューキャブレター装備
誕生から15年が経過した2000年代に入っても手堅い人気に支えられ続けたセローは、耐熱性、冷却性、信頼性に優れたメッキシリンダーと鍛造ピストンやアクセル開度情報を点火系マップに反映させるスロットルポジションセンサー(TPS)採用のφ33BSRキャブレター、リアホイール周りからの騒音を低減するスプロケット圧入式ホイールダンパー、サイドスタンドのしまい忘れを防止するサイドスタンドスイッチ、排出ガス規制適応のためのエアインダクションシステムを追加してマイナーチェンジ。カラーもシンプルなメタリック系になりイメージを一新した。
初のブラック
大自然をイメージしたナチュラル系グラフィックを採用し続けたセローの長い歴史の中で、ストリート系を意識してか初めてブラック系カラーが登場した。艶のあるヤマハブラックは、今までの穏和な雰囲気から一変しクールな雰囲気が漂う。グリーン系のダークシアンメタリック8はシルバーリムに変更されて継続販売された。389000円。
カラーリングを変更
前年に登場したヤマハブラックは引き続き継続販売となり、ダークシアンメタリック8が新色のブルーメタリックCへとチェンジした。389000円。
225の最終モデル
225の最終型は、ヤマハブラックのカラー名に変更はないがグラフィックの変更によって、黒をさらに強調。ブルーメタリックCは継続されるというパターンの毎年一色づつのカラー変更が続いた。ちなみにカタログの写真はなぜか新パターンのヤマハブラックではなく、継続色のブルーメタリックCが使われており、しかもモノクロ写真のため2003年モデルと混同しそうで紛らわしい……389000円。
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