■第111回「密出入国うどん」
誰もが一度は叫んでみたい憧れの「レッコー ショアライン 長笛一発!」でおなじみの鉄道連絡船。代表格といえば石川さゆりさんの名曲、津軽海峡冬景色の青函連絡船。青森〜函館間113kmを約4時間で結んでいました。対する宇高連絡船は宇野〜高松間約20kmを約1時間で結んでいました。規模が違いますが、荒れる事も多い津軽海峡とは対照的に穏やかな瀬戸内海をゆく宇高連絡船もまた、違った風情がありました。そんな鉄道連絡船も青函トンネル、瀬戸大橋の開通によって廃止されました。
岡山県の宇野と四国の高松を結ぶ宇高航路は、国鉄の連絡船をはじめとして民間のフェリー数社が競合するドル箱路線でした。1988年の瀬戸大橋開通後も格安料金で人気があったのですが、ETCの普及による高速道路料金引き下げなどで利用者の減少が続き、令和元年12月16日、最後まで残っていた四国フェリーが運航を休止。事実上の廃止に至ったのです。フェリー好きならずとも寂しい限り……と感傷的になりますが、実はとてつもなく大きな問題を内包しているのです(わかっているとは思いますが個人的な感想です)。
フェリーにはうどんの売店がありました。高松といえば自らがうどん県と名乗るうどん大国ですから当たり前です。もちろん国鉄の宇高連絡船にもうどん店がありました。四国の人(といいますか、讃岐のみなさん)にとって、本州に向かうとき、帰ってくるときに連絡船上でうどんを食べるのがルーティンでした(おそらく)。県条例で制定されていたからではありません。讃岐人にうどんのように織り込まれたDNAの成せる技でしょう。他県人には理解できないかもしれませんが、連絡船でうどんを食べる=四国のイミグレーション(正確にはエミグレーションも)と呼ばれていたのです(これはホント)。
宇高航路の廃止によって船上のうどんも幻になってしまいました。つまり、四国の出入国管理が消滅してしまうのです。出入国うどんを食べる真讃岐人(※あくまで個人的な感想です)にとって、12月16日から不本意に密出国、密入国となってしまうのです。これは大問題と四国在住の事情通(鉄)に訴えると「はぁ?おまえ、いつの話してるの?」と露骨に嫌な顔をされました。どうやら宇高連絡船が廃止になった時点で、出入国は自由化されたようです(意味不明)。
とか知ったようなことを書いてますが、恥ずかしながら本家本元国鉄〜JRの宇高連絡船のうどんは未食です。それどころか国鉄の宇高連絡船に乗ったことありません。乗ろうと思えばいつでも乗れたのに、例によって「ねえマスター、作って後悔という名のカクテル」です。それでも四国フェリーは何度か乗ってうどんも食べました。気力も体力も充実していたけれど、お金のない(これは今も)頃は、岡山から最終のマリンライナーで瀬戸大橋を渡り、高松から四国フェリーの深夜便で宇野を往復して宿代わりにしたこともありました。乗船時間は1時間くらいなので寝られないのですが、フェリーには無料のお風呂がありました。夏場など汗を流してさっぱりして、夜明けの港で呑む缶ビールと、早朝から営業していた駅近くのうどん店のはしごは最高でした。が、そのあとに乗る電車は通勤のみなさんで満員。寝不足+満腹+朝ビールでとろ〜んとしている不審者に刺さる視線もたまりませんでした。もう、そんな楽しみも忘却の彼方です。
宇高フェリーのうどんは幻になってしまいましたが、高松駅には出入国審査場のごとくどーんと連絡船うどんが構えています。さすがうどん県。それに引き替えそば県はありません。もっとも、ラーメン県もやきそば県もそうめん県も、スパゲッティ県もほうとう県もありません(ほうとう県は名乗らなくても山梨県か)。そば県のイメージとしては長野県ですが、日本一まじめな長野県ですからそんなシャレは通じません。かといって日本一のそば生産を誇る北海道は観光資源だらけなので、そばに頼る必要などそば粉のかけらもないのです。ここはひとつ一由を始めとしてきら星のごとくS級店がひしめく荒川区あたりに、そば区と名乗っていただけたら幸いです。
そうそう、一由といえば、なんとこの駄コラムを読んでしまって一由中毒になったという、すばらしい読者様からはげましのおたよりをいただきました。ありがとうございます。一由で出会ったら、そっと後ろからネギをひとつかみ追加させていただきますと、いいかげんなことをほざきつつ今年はこれまで。
さて、令和元年、みなさまにとってどんな一年だったでしょうか。来年は今年以上によい年になりますように、と立喰・ソ神に願いつつ、来年もどうぞよろしくお願いいたします(一年に一度使える、特にオチがなくてもまとまるような気がするシメとともに、よいお年を!)
2019 立喰・ソ・レクイエム
残念ですが、今年幻になってしまった立喰・ソです。またも老舗店が、さらに誕生したばかりで幻になってしまった新店もある中、先代の志を継いで再会する名店の存在は心強い限り。末永くがんばっていただきたいと願うばかりです。