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2025年のHonda RC213Vは22戦44レースを消化して、2チーム4台が参戦。4人のライダーで、優勝1回、表彰台に3回登壇しライダーランキングは、ヨハン・ザルコの12位が最高位だった。昨年のこのインタビューで明かされなかった2024年モデルでのフルモデルチェンジ内容も判明したが、2025年は2026年への準備が完了するシーズンだったのだ。HRCレース運営室長・本田太一さんと、RC213V開発プロジェクトリーダー・辛島亮之さんに話を訊いた。
■文:中村浩史 ■写真:Honda 

予想通りだった2025年の成績

「ヨハン(ザルコ)が1回優勝してくれて2位も1回、それとジョアン(ミル)が2回表彰台に立ってくれました。我々にとってはまだまだ納得のいく成績ではないし、ファンの皆さんにとっても物足りない数字だったでしょうが、ほぼ予想通りの結果だったな、と思っています」(HRCレース運営室長・本田太一さん)
 本田さんが言う「予想通りの結果」とは、2024年からの継続でのことだ。2024年シーズン、HondaはRC213Vに「ありとあらゆるものをフルモデルチェンジした」と当時のインタビューで語ってくれた。具体的な内容は明かしてもらえなかったが、エンジン出力の向上、それを路面に伝えるトラクション性能をメインに、空力特性も、電子制御も、車体設計も大きく変えたのだ、と言っていたものだ。
 それでも2024年シーズンは、特にワークスチームのミルとルカ・マリーニのふたりがシーズン開幕直後から下位に低迷し、チャンピオン経験者であるミルはポイント獲得がやっと、マリーニにいたっては開幕から8戦連続ノーポイントで、初ポイント獲得が第9戦ドイツGPの15位、つまり1ポイントだった。

「(2024年は)それでも、シーズン中盤のミサノでのテストで、少し解決の糸口が見つかったんです。エンジン特性も電子制御も、車体設計もエアロも、やっとベースとなる仕様まで届いた。この方向性を伸ばしていけばいいね、と成績も少しずつ上向き始めて、25年シーズンへの足がかりができた。実は昨年のこのインタビューではお話できませんでしたが、2024年型モデルは、それまでの枠組みを大きく取り払ってのフルモデルチェンジで、かなり手探りのシーズンインだったんです」(本田さん)
 MotoGPマシンともなれば、毎年のように戦闘力向上のためにフルモデルチェンジを重ねるものだが、2023年型から2024年型への変更は、それ以上に“枠組みを取り払った”ものだった。前年モデルをベースにして、エンジンはこう、フレームは、電子制御は、エアロはこう変更していこう、という基本的なところからガラッと見直してのオールブランニュー。前年モデルを軸にすれば戦闘力の予想は立てやすいが、より大きなジャンプアップを狙うために、この大変更を施していたのだ。

#Honda_MotoGP-Interview
ワークスチーム「ホンダHRC カストロール」から出走した2台のRC213V。ゼッケン36がジョアン・ミル車、ゼッケン10がルカ・マリーニ車。

 この数年のHondaのウィークポイントといえば、やはり加速とトップスピード。もちろん、この2点は単にエンジンのパワーアップをすればいいという問題ではなくて、パワーをいかに路面に伝えるか、いかに加速でのウィリーを最小限にとどめるか、と多岐にわたる課題。たとえばエンジンパワーは上げることができても、コーナー脱出でホイールスピンをするとパワー制御が働き、電子制御が出力を落としにかかる。するとタイムも出ないわけで、最高速も伸びない。これを試行錯誤して、なるべく制御が入らないパワー特性、そして加速時にいかにウィリーしないエアロダイナミクスを作るのかが、現代MotoGPマシンの大きな勝負のカギといっていい。ここをHondaはガラッと一変させたのだ。

「私たちはトルクデリバリーと呼んでいるんですが、これは出力特性をはじめ、リアグリップのある車体やウィリーしにくい空力ボディ、すべてを指すワードです。ライバルに劣っているのは、このトルクデリバリー。マシン開発やセットアップでどれだけ対策や改良をやっても、完璧にはならない課題なんです。たとえばエンジンパワーが上がると、スピンも増えてウィリーしやすくなってしまって、コーナー進入ではブレーキングも厳しくなる。そのトレードオフ、つまりメリットとデメリットの足し算、引き算の繰り返しです」(RC213V開発プロジェクトリーダー・辛島亮之さん)
 辛島さんが言うマシンのパッケージ、総合的な動力性能のバランスの方向性が見えたのが、2024年のミサノテストだった。その結果、2024年シーズン後半戦ではマリーニがコンスタントにポイント圏内でフィニッシュするようになり、ミルは転倒こそ増えてしまったが、それは攻められるマシンになったからのチャレンジングな転倒で、ふたりはシーズンを終えたのだ。

 明けて2025年シーズン最初のテストはマレーシア・セパン。ここでHonda陣営は、2025年型マシンをライダーに供給し、マシンのセットアップをあまり触らずに周回を重ねてもらったのだという。これはライダーの感覚をシーズン中と同等に戻したあとに、次のタイ・ブリラムでのテストで2025年型のスタートスペックを渡し、実戦に即した本格的なセットアップを進め始めるためだった。2024年型から2025年型への変更内容は、もちろんトルクデリバリーの向上を軸とした戦闘力向上だ。
「開幕戦ではずいぶん戦えるようになったな、という手応えがありました。ジョアンはスプリントでトップ10に入って、フルレースでは転んでしまったけれど、いい位置を走っていたんです。ルカはスプリントもフルレースも15位以内に入ってくれた。ジョアンがスプリントでトップ10に入ったのは24年に1回だけだし、ルカが両レースで15位に入ったのは2024年に5回だけ。今年はやれるぞ、って思いました」(本田さん)
 その後もミルは2024年シーズンよりも走るポジションが上がり、度重なる巻き込まれや接触もあって転倒の多い前半戦だったが、マリーニは順調にトップ10フィニッシュの回数が増えていった。明らかに、RC213Vの戦闘力は上がっていたのだ。

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左が着任2シーズン目を迎えるHRCレース運営室長の本田太一さん、右が2015年からMotoGPの車体設計にかかわってきた、2025年モデルRC213Vの開発プロジェクトリーダーの辛島亮之さん。

数字に表れた進化

「2024年から2025年へのモデルチェンジは、2024年にトライしたブランニューマシンの熟成ということで、引き続きトルクデリバリーをよくすることに注力しました。ライバルとの差をきちんと分析して、その分析解像度も上げることで、シミュレーションの精度も上げてマシンを開発することができたんです。2024年モデルで良かったポイントは伸ばして、劣っているところを強化する。幸い、2024年に大きくマシンを変えたことで開発スピードが上がり、シーズン中にライバルチームが苦しんでいる地点まで到達できたのがよかったんだと思います」(辛島さん)

 成果は、徐々にあらわれた。順位という数字で見れば大きな変化はないように見えたが、レース中のペース配分や、1レース走り切ってのレースタイムが向上。例えば、同じ10位でも、トップからのタイム差が少しずつ縮んでの10位。マリーニは変わらずコンスタントにトップ10圏内に食い込み、ミルはマリーニにはないスピードを見せて上位陣に迫っていった。
 興味深いデータがある。本田さん、辛島さんがいう「トップスピードで劣っている」という点が、徐々に改善されていったのだ。
 例えば開幕戦・タイGPでの4台のRC213Vのトップスピードは、出走22台中18/19/20/22位だった。トップスピードの1位はドゥカティのフランチェスコ・バニャイアの335.4km/hで、Honda勢はマリーニ、チャントラ、ミルの329.2km/h。わずか6.2km/hの差だが、レーシングマシンでのこの差は大きいし、第6戦ル・マンでは、トップスピード1位をマークしたKTMのマーベリック・ビニャーレスに、なんと15km/hのビハインドを負ってしまっている。
 しかし、後半戦になると様相が一変。サマーブレイク明けのオーストリアGPでは、トップスピード1位がKTMのブラッド・ビンダーがマークした318.5km/hだったのに対し、Honda最上位のミルは2.8km/h差の3位となり、ついに第17戦・日本GPでは、ミルが316.7km/hでトップスピード1位となり、2位にはワイルドカードエントリーの中上貴晶という、最高速度ランキングながら、Hondaが1-2番手を記録したのだ。
 最終戦・バレンシアGPでもミル→マリーニの順でトップスピード1-2を記録。もちろん、トップスピードが伸びるからといって勝てるようになるわけではないが、シーズン後半からHonda勢の順位も向上。トップスピードと成績が、きちんとリンクしているのだ。

#Honda_MotoGP-Interview
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「2025年シーズンも、やはり後半戦でもう1段階レベルアップした感じでした。フレームボディを変更して、エアロも新しいスペックにトライ、ライダーも上手く乗ってくれるようになって、エンジン特性ともバランスが取れてきた。ラップタイム、レースタイムも上がって、(第14戦)ハンガリーGPではルカがスプリント4位に入ったし、(第17戦)日本GPではジョアンが予選2番手でスプリント4位、フルレースではついに3位表彰台に上がってくれた。今までできなかったことが改善できて来たということだと思います」(本田さん)
 2024年のフルモデルチェンジから、シーズン中盤のミサノテストできっかけを見出し、ステップアップを見せた2025年シーズン。RC213Vは確実に階段を一段ずつ上っている。これは20年に無冠となってからの6シーズンには見られなかった兆候。そして2026年シーズンは、ブランニューマシンの3年目、完成の域に差し掛かりたい。

#Honda_MotoGP-Interview
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「2026年は、ジョアンとルカがもう一段ステップアップして、常に表彰台争いをするような位置を走ってくれるだろうし、優勝回数も増えてくれると思う。2025年からは、ステファン・ブラドルに加えて、アレイシ・エスパルガロと中上君もテストチームに加わって、開発もスムーズに進むようになったし、レースウィークの作業の進め方も変えてみて、効果が出始めています。マシンがよくなってチームのオぺレーションも改善して、あとは結果を出すだけ。期待していてください」(本田さん)

 このインタビューは2026年1月中旬に行なわれたが、その半月後に始まった2026年シーズンへ向けてのプレシーズンテストで、まず各メーカーのテストライダー&ルーキー、優遇措置を受けているヤマハ勢が参加するシェイクダウンテストで、エスパルガロがトップタイムを出してテストを終了。レギュラーライダーが顔をそろえた3日間のテスト本番でも、初日にマリーニが2番手タイムを、2日目にミルがトップタイムをマークし、2026年の走り始めだというのに、2025年の予選タイムをクリアしてしまった。
 いまRC213Vに何かが起きている。その「何か」の正体は、もうすぐ開幕する2026年シーズンで明らかになる!
(文・中村浩史、写真:Honda)

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RC213Vの最新エアロパッケージ。フロントカウルとフロントフェンダーのウィングレット、センター&アンダーカウルのブリスター、テールカウルサイドとテールカウルのフィン、そして以前はスプーンと呼ばれていたスイングアーム下が1セットだ。

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かつては厚みのあるトップブリッジが採用されていたが、近年は高剛性よりもしなりを求める形状に変化しつつあるようだ。左右ハンドルスイッチにはパワーマネジメントのモード変更ボタンのほか、ホールショットデバイスやライドハイトデバイスのレバーが備わっている。

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フューエルタンク上面と側面は、ライダーが全伏せ姿勢を取った時に上体と密着する形状に。面が直線からへこんでいる部分はライダーのヘルメット顎部分を乗せる場所と、両腕にフィットする曲面になっている。
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かつてはテールカウルセンターにレイアウトされていた後方2気筒分のマフラーは、テールカウルサイドに。かわってセンターにはマスダンパーと呼ばれる車体の上下方向の挙動を抑えるデバイスが収まっているようだ。

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オーリンズ製カーボンフォーク、ブレンボ製カーボンディスク+アルミ削り出しのGP4と呼ばれるキャリパー。キャリパーの前面と背面に見えるのは冷却フィンだ。
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以前にはカーボン製にもトライしていたスイングアームは、近年はアルミスイングアームに統一。2024年モデルに比べるとスイングアームのロアカバーが追加され、前方2気筒分のマフラー長がやや後方に伸ばされている。


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2026/02/18掲載