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試乗・解説






数々のアドベンチャーモデルがある中で、では実際にオンオフ問わず様々な条件で本当に「冒険」をするのであれば、リッタークラスではなくコレが良いんじゃないかと思う。これは入門機ではなく、むしろ達観した人が辿り着く選択肢ではないだろうか。ストリートから長距離までカバーするナイスバランスな一台が今、18万円引きで手に入る!
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
■協力:KTM JAPAN https://www.ktm.com/ja
■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/

400ccクラスのバランス感

 昨今は海外メーカーの参入や、スズキDR-Zの復活など400ccクラスがにわかに盛り上がりを見せているが、アドベンチャーモデルではホンダのNXかこの390アドベンチャーぐらいだろう。やはりアドベンチャーと言えば世界中を走破できそうな大排気量車をイメージする人が多いかもしれないし、今や各社のフラッグシップモデルとして電子制御などがフル搭載のハイテクマシンという立ち位置でもあるため、ミドルアドベンチャーはアピールが少し弱いかもしれない。
 しかし本当に長距離のアドベンチャー≒冒険に行くのであれば、リッタークラスの巨大なモデルよりも、こういったミドルクラスの方が現実的に思えてならない。特に延々と続く直線路や強大なパワーが必須となるような重積載やタンデムといったシーンが少ない国内においてはなおである。
アクセスしやすいサイズ感やいざ倒してしまった時にちゃんと対処しやすい重量、不整地でも「何とかなる」感がありつつ、さらに高速道路やタンデムでも軽二輪クラスとは一線を画すパワーもある。かねてから400ccは現実的でちょうどいいと発信してきた筆者だが、アドベンチャーモデルこそまさに「400ccクラスがちょうどいい」……というか、現実的に思うのだ。

#KTM390Adventure

Ready to Race

 アドベンチャーモデルの主な使用目的はツーリングなのだから、淡々と走る性能が重視されそうなものなのに、390アドベンチャーの車体にはKTMのコピーであるReady to Race と書かれている。そのコピーの通り、KTMの名機である390ユニットはアドベンチャーの車体に搭載されていても(Raceはともかくとしても)とても楽しい味付けになっていた。街乗りのストップ&ゴーで多用する低回転域やスロットル微開域ではとても従順で、373ccのシングルとは思えないスムーズさが特徴だ。ドドッと出るようないかにもシングル然とした感覚はなく、トルルッと出ていく感覚はツインとまでは言わずとも、1.5気筒(?)ぐらいのスムーズさを持っていて、急かされたり、あるいはクラッチミートに気を使わせたりするようなことはない。
 その従順な実用域のおかげで大柄な車体も意のままに操ることができ、街中での使い勝手もとても高いと感じた。どんな壮大なアドベンチャーでも出発点はストリートなのだ。まずはここで好印象でなければしょうがない。しかしそこだけで終わらないのがReady to RaceのKTM。高回転域を使うとフリクション感少なくビャーッ! と元気なパワーバンドに突入していく。この時のパワー感は同社250の比ではなく頼もしいし、同時にその軽やかさは690系にはないものであってまさに「絶妙」と感じさせる。高回転域を維持するような走り方をすればアドベンチャーであることを忘れてスポーツに没頭させてくれるのは、さすがKTMらしい味付けだな、と舌を巻いた。

#KTM390Adventure

19インチスポークながら

 オフロード走行も想定したスポークホイールを採用し、フロントはアドベンチャーモデル定番の19インチとしている390アドベンチャー。フレームマウントのヘッドライト周りや存在感のあるタンクシュラウドと合わせて、車体の前半部分がずいぶんとボリューミーである。その視覚的な感覚は乗り味にもそのまま表れていて、フロント周りがズシっと地面にくっついている感覚が強い。
 コーナーにアプローチすると兄弟車である390DUKEの軽快な切れ味とは違って、前輪が「絶対に路面を離しません」と言っているような頼もしさを伴ってオンザレールで旋回を始める。ブロックパターンながらグリップ感は高く、前輪に載った荷重がそのままグイーンと旋回力に直結し、長くバンクしているような大きなコーナーでもアクセルを開けながら深いバンク角を維持することが容易だ。先ほどまでは390ならではの軽さや気軽さが印象的だったのに、この時には逆に高い安定性が感じられ、DUKEとはちがうアドベンチャーならではの味付けを見せられた。これなら路面状況に関わらずあらゆるワインディングをいいペースで楽しめるはずだ。
 オフロード路も少しだけ走った。ワイドなハンドルやスタンディングも考慮したタンク形状などからフラットダートを走るには何も問題なく元気にアクセルを開けることができた。何よりも大排気量アドベンチャーに比べてUターン時の緊張感の少なさや足つき性の良さが自信を持たせてくれ、これならちょっとしたダートにも臆せずツッコんでいけるなと実感。やはりアドベンチャーモデルは400ccクラスが最適解なのでは? と再確認したのだった。

#KTM390Adventure
とにかくタンデムシートの広さとクオリティに感激している筆者。長身の筆者でも狭いと感じないシートとしっかり掴まることができるグリップは最高だ。振動も少なく排気音も静かな390アドベンチャー、パートナーもきっと気に入ってくれるはずだ。是非ともタンデムツーリングも楽しんでほしい。

 KTMの紹介文の中に「390アドベンチャーに走れない道はないのです」とあるのだが、まさにそれである。街中でも、峠道でも、長距離ツーリングでも、ダート路でも、本当にこれならあらゆる道において「ちょっとここはやめておこう」とならない高い平均点を持っている。加えてこのクラスでは珍しい広いタンデムシートや荷物が積みやすいテール周り形状をしているなど、実用的な部分もぬかりない。アドベンチャーモデルでありながら、毎日の通勤に使っても満足度はきっと高いはず。趣味のバイクであっても一定の実用性を大切に思う筆者は「これは本当にスーパーオールラウンダーだな!」と納得したのだった。
 そして同じような感覚を得た人にここで朗報だ。KTMでは6/30まで「ライダーサポートキャンペーン」なるものを開催しており、現行モデルをお得に購入できるのである。あらゆるモデルにおいてそれぞれ値引き額が設定されているが、390アドベンチャーではなんと約18万円引きの71万9000円で購入できるチャンスなのである。その背景には今秋、390シリーズにモタードのSMCRやエンデューロR、アドベンチャーRなど新たなモデルが加わるということもあるのだが、それにしても現行機種の魅力や総合性能を考えるととんでもなくお買い得である。
 長距離ツアラーとして高い性能を有し、常用域でも使いやすいのに高回転域ではKTMらしい元気さがあるエンジンを搭載し、それでいて軽量ゆえ日常的に付き合うにも苦がない390アドベンチャー。ナイスなバランスの一台でバイクライフを多角的に楽しみたい欲張りかつ現実的なライダーに強く薦めたい。

#KTM390Adventure

#KTM390Adventure
イレンサーがスリムなリア周りに対して、存在感のある19インチホイールをもつフロント周りやタンクシュラウドにより、フロントにマスが集中しているようなイメージの車体は乗ってもそのままの印象だ。フロント周りに上手に荷重が載っていて、高いコーナリング性を見せる。ポジションは極自然なアップライトなもので長身の筆者でもシート、ステップ、ハンドル、そしてスクリーンとの関係性に違和感はなかった。兄弟車のコンパクトな390DUKEに比べればだいぶ大柄ではあるが、巨大なリッター系アドベンチャーに比べればかなり自信を持って扱えるだろう。※ライダーの身長、186cm
#KTM390Adventure
最新の390DUKEは398.7ccエンジンを得ているが、390アドベンチャーは熟成の373ccユニットを継承。パワーでは新型に譲るもののスムーズさや振動の少なさでは373ccユニットに分があるとも感じられ、アドベンチャーとしてはむしろこちらの方が正解だろう。常用域での扱いやすさと高回転域でのKTMらしい元気さという二面性も魅力だ。

#KTM390Adventure
19インチのフロントには320mmのシングルディスクが組み合わされ、ラジアルマウントのBYBREキャリパーと合わせて制動力は高い。WP製倒立フォークに調整機構はないが、高い路面追従性に大きく貢献しているだろう。タイヤは前後ともチューブタイプである。
#KTM390Adventure
リアは17インチでタイヤはコンチネンタル製のブロック。スイングアームはKTMらしい内部補強を外側に見せているもので、リンクレスのリアサスはプリロードと減衰調整も備える。ステップにはゴムが張られて快適性を追求しているが、そもそも振動は少ない。

#KTM390Adventure
アドベンチャーとしては小ぶりなスクリーンに思えるが、そもそもライトユニットの搭載位置が高めのため意外と防風性を実感できた。ヘッドライトユニットがフレームマウントのおかげでハンドリングが軽いというのも魅力だが、そのヘッドライトユニットとタンクシュラウドが繋がっていないというのも特徴的。ETCやグリップヒーターといったものを取り付ける際に手が入りやすそうだな、と整備性の良さにも思いをはせた。なお純正アクセサリーである「パワーパーツ」ではスクリーン上部に追加するスポイラーも用意されている。
#KTM390Adventure
ライダー側も広く、タンデム部分もしっかり面積のあるシートはとても好印象。タンデムシート脇に設置されているグラブバーはタンデム時だけでなく荷物の積載・固定にも重宝することだろう。シートは意外と硬めではあるが幅があるため尻を広範囲でサポートしてくれ、長距離を走っても快適に思えた。なおシート高は855mmだがサスペンションの初期沈み込みも大きく、足つきはその数値よりもかなり良い。

#KTM390Adventure
#KTM390Adventure
●390 ADVENTURE SW 主要諸元
■エンジン種類:水冷4ストローク単気筒DOHC4バルブ ■総排気量:373.2cm3 ■ボア×ストローク:89.0×60.0mm ■最高出力:32kW(44PS)/9,000rpm ■最大トルク:37N・m/7,000rpm ■全長×全幅×全高:–×–×–mm ■軸間距離:1,430mm ■最低地上高:200mm ■シート高:855mm ■車両重量(乾燥):158kg ■燃料タンク容量:14.5L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):100/90-19・130/80-17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:オレンジ ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):926,000円


[『2020年型 KTM 390 ADVENTURE試乗インプレッション記事』へ]

[KTMのWEBサイトへ]

2025/06/18掲載