障がいを持った人、障がいを負った人でも、バイクに乗ることができることを現実のものとし、バイクに乗ることで見えるその世界を堪能してもらいたい、という「オートバイに乗る」という夢をサポートする一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)が行っている「パラモトライダー体験走行会」。その2024年最後の回が2024年12月23日(月)、ファインモータースクール上尾校で開催された。
■文・写真:青山義明 ■協力:一般社団法人サイドスタンドプロジェクト(SSP)
健常者しか楽しめないと思われているバイクだが、機能障がいを有する方々にも乗ってもらいたいと、『青木三兄弟』として有名な青木家の三男で2度のWGP世界チャンピオンを獲得した青木治親が立ち上げたSSP(一般社団法人サイドスタンドプロジェクト)が展開している「パラモトライダー体験走行会」の年内最後の会が開催された。
この活動は、青木三兄弟の次男で、現在は車いすレーサーとして活躍している青木拓磨を再びバイクに乗せるプロジェクト『Takuma Ride Again』をきっかけに、その対象を一般の障がい者にも拡大しようとスタートしたもので、2020年の初開催からすでに丸5年におよぶ活動となっている。
今回参加したのは5名のライダー。それぞれが走行終了時に記念撮影を行うことも多い。今回は2名が奥様と一緒に。SSPのボランティアスタッフももちろんパラモトライダーたちを支えるが、そもそもここまで家族の支えがあってやってこれたということで、家族に感謝の意味を込めて記念撮影を行うことも多い。
サーキットや自動車学校、駐車場などの閉鎖された空間を利用し、各個人の機能障がいに合わせてカスタムしたバイクを使い、バイクの体験をしてもらうというもの。発進・停止時のバイクが不安定になるタイミングではボランティアスタッフがこれを支える、まさにサイドスタンドのように誰かの協力があって支えてもらえば、車いす生活を余儀なくされている方でも、全盲の方でも、バイク乗車経験を得ることができる、ということを実体験できる機会となる。
そしてこの活動を通して、障がいがあっても夢をあきらめないという思いを持ち続け、自身の夢を追い続けるすべての人々を後押ししたい、と開催されているものである。
今回は自動車免許取得のための教習所であるファインモータースクール上尾校がその会場。その休校日を活用する形で、体験走行会が行われた。この学校のサポーター(指導員)2名も参加し、プロの指導の下での走行会となった。
バイクに乗るための装具もSSPが用意する。サーキット走行する際はレーシングスーツを持ち込むが、今回は各参加者のサイズに合わせたプロテクターを用意し装着する。
バイクへの移乗もボランティアスタッフがサポートをする。両側から抱え上げながら同時に車いすを外し、とコンビネーションよく乗車をサポートする。
当日は冬晴れの好天で、若干風は強かったものの比較的過ごしやすい1日であった。今回は新たにパラモトライダー体験走行会に参加する5名の新規参加者が実際に教習所のコースを走行した。視覚障がい、脊椎損傷による下半身の麻痺、脳性麻痺など障がいはさまざまだが、それぞれに合わせてシフト操作のアクチュエーターやアウトリガー(補助輪)の脱着などテキパキとボランティアスタッフが行い、1年で最も日の短い時期の開催だったものの、無事に5名ともに既定の時間内で事故なく走行を終えることができた。
SSPが用意したのはペダルのない自転車風の補助輪付きの乗り物。これ、実際に乗ってみると補助輪を使わずにまっすぐに走るのは難しいと実感できる。
この練習用の小型バイクでは、角度の違うアウトリガー(補助輪)を3種類用意しており、まずは低速でもまっすぐ走れることをチェック。
参加者たちの大半はバイク復帰組で、「もっと乗りたい」であるとか「次の走行会にすぐに申込する」と次の走行の機会を心待ちにしている様子であった。次回のパラモトライダー体験走行会は、2025年2月12日(水)、神奈川県平塚市にある平塚競輪場(ABEMA湘南バンク)での開催を予定している。また、今回も新規のボランティアスタッフも多く参加していたが、この活動をサポートするボランティアスタッフも引き続き募集している。バイクの楽しさを知っているライダーこそ、この感動の1日にぜひとも参加すべき、だ。
(文・写真:青山義明)
走行後の記念撮影。左の写真の松下星矢さん(脳性麻痺)は、ヤマハ発動機勤務ということで会社の同僚と。家族はもちろん、近いところで支えてくれている人たちへの感謝もこういったところで目にすることができる。そして、当日バイクを押してくれたボランティアスタッフとの記念撮影もあり、だ。
農作業中にトラクターが横転しその下敷きになってしまった岡野善記さんは脊椎損傷で車いす生活を余儀なくされている。その事故まではオフ車から2ストレプリカ、さらにはツアラーとさまざまなバイクを経験してきていたが、事故以来20年以上バイクに乗ったことはほぼなかったという。「最高でした。もっと乗りたいという思いだけです。ぜひ次の機会を設けてもらってもっと走りたいですし、先輩パラモトライダーさんから箱根ターンパイクでの貸し切りツーリングの話も聞いたので、早く他のパラモトライダーさんに追い付きたいですね」と語ってくれた。
網膜色素変性症による視覚狭窄で、手を伸ばして持ったタブレット端末がなんとか全部見られるほどの視野しか持っていないという金子裕二さん。視野狭窄が始まった2021年まではバイクに乗っていて、現在も免許はあるもののバイクを下りてしまっているという。ふたたび公道に出てみたいと思いながらもどこまで自身の運転が大丈夫なのかを確認したいということもあっての参加となった。「補助輪はなかなか慣れることができませんね。ただこのコースを走行する分には問題ないということがわかりました。もう少し違った環境でも走り込んで、慣れることも必要かなと思っておりますのでまた走りに来たいと思います」と語ってくれた。
脳血管疾患で右片麻痺の吉留隆治さんは、脳出血で倒れる前まではBMW S1000RRに乗ってバイクライフを堪能していたのだが、今回はその時以来3年ぶりのバイクとなった。そもそものきっかけは奥様の通っていた美容師さんから「こんなイベント知ってる?」とSSPのことを教えてもらったことがきっかけ。そしてまず奥様がボランティアに参加した上で治親に相談し、この参加につながったという。半身麻痺の状況もあり、移乗についても右肩脱臼の恐れがあるとして慎重に行われた。また右手をハンドルに添えることも難しかったため片手での運転となったが、しっかりとクラッチ操作を行って走行をしていた。「バイクはいいですねぇ。もっと練習したいです。もっと走りこんでいって徐々にうまくなっていければ、と思います」。
脳性麻痺で、今回ライダーとして初参加の松下星矢さんは、これまでに見学とボランティア経験をしてSSPの活動を理解したうえでの参加となった。今回は会社(ヤマハ発動機)の同僚にサポートをしてもらっての走行。さらに同社からは社内報用に取材も行い「この活動をもっと広めたい」という思いも持っての参加となった。実際の走行を終えて「まず楽しかったです。クラッチの感覚は初めてで半クラってのがわからなかったり、ブレーキを掛けると手首が一緒に動いてしまったり、左を意識すると右がおろそかになったり、やることが多くて、てんぱることが多かったです。が、思っていたよりもアクセルが軽かったり、シフトを入れたときのガチャンという感覚は楽しかった」と語ってくれた。
先天性の弱視で現在は右目が完全に失明、左目は視野が半分くらいという川島源樹さん。大学時代にホンダエコマイレッジ(スーパーカブのエンジンに1Lの燃料でどれだけ走ることができるかを競う競技大会)に参戦しており、マシン設計を担当していたという。そのこともあってバイクについては大学の敷地内でのカブの乗車経験はある。「最初はいろいろな操作に頭がいっぱいになってこんがらがってましたが、丁寧な指導のおかげで最終的には落ち着いて走行をすることができました。また走りも味わう余裕も出てきて気持ちよく走れました。これからもなるべく参加してステップアップしていきたいですし、今回はアクセルをほとんど開けなかったので、そのパワー感も感じたいですし、自由にバイクを操れるようになりたいですね」とコメントしてくれた。
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