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2024年全日本ロードレース選手権は、最高峰JSB1000クラスで岡本裕生(ヤマハ)が、ST1000クラスで國井勇輝(ホンダ)が新チャンピオンとなった。ST600クラスは阿部恵斗(ヤマハ)がV2となり、J-GP3クラスは尾野弘樹(ホンダ)が4年連続でタイトルを獲得した。タイトル争いは、いつも、ドラマであふれている。

■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝

■ST1000

 #10國井勇輝(SDG Team HARC-PRO.)は、最終戦を待たずに第7戦岡山国際で初チャンピオンを決めた。開幕から2連勝を飾り、3戦目のオートポリスのレース1では代役参戦の#47羽田大河(Astemo HondaDream SI Racing)が勝利するが、レース2では勝って、その後の岡山国際でも勝利してタイトル獲得となった。

 岡山国際でポールポジションを獲得した國井は「チャンピオンTシャツが用意されていることやチャンピオンフラッグはこのコーナーで渡すからとか、普通にスタッフの人が言うんです。そんなこと言うんですね。そんなこと言われたらプレシャーです」と言っていたが、その表情もコメントも天真爛漫な明るさで重圧など感じていないように見えた。そして、この才能豊かな國井が、これまでチャンピオンの経験がないことにも驚かされた。彼にとっては、すべてが初めての経験なのだ。

#2024年全日本ロードレース選手権

 羽田の代役参戦についての質問にも「海外経験豊富で、テクニックをいろいろ持っているので強敵ですから嫌ですね。出来れば参戦してほしくない」と朗らかに答えていて、ライバル出現も喜んでいるように見えた。
 そして、タイトル決定戦で、きっちりと勝利しチャンピオンTシャツを着て、チャンピオンフラッグを持ってウイニングランした。この日が、チームオーナーである本田重樹氏の誕生日と重なり、勝利を本田氏に捧げた。
 最終戦を前に、来季はホンダチームアジアからMoto2に参戦することが発表されている。

 最終戦鈴鹿では、木曜日の走行1回目は昨年ST1000デビューイヤーで頭角を現し、今季のタイトル候補だった#2荒川晃大(MOTOBUM HONDA)が唯一の2分9秒台に入れた。走行2回目に國井が唯一の2分8秒台に入れて1番手タイムを記録する。金曜日にはさらにタイムを詰め、唯一の2分7秒台に入れた。予選でも7秒台を記録してポールポジション(PP)を獲得する。
 國井にはゴールドを入れたスペシャルカラーのツナギとマシンが用意されチャンピオンとしての参戦に華を添えた。

#2024年全日本ロードレース選手権
#2024年全日本ロードレース選手権

 決勝スタートで飛び出したのは羽田、#9岩戸亮介(Kawasaki Plaza Racing Team)、國井、#3國峰啄磨(TOHO Racing)、荒川が続き、トップ争いの激しいバトルとなるが、終盤には國井と羽田の一騎打ちとなり國井が羽田を振り切り勝利し5勝目を挙げた。
 國井は「来季はMoto2で、全日本のレベルが低いと言われないように頑張ります」と誓った。2020年~21とMoto3参戦経験があり、そこで示せなかった力を今度こそは示す戦いが始まる。

 羽田は代役参戦で挑んだオートポリスのレース1で勝利し、その後は國井を追い詰め連続2位となった。最終戦は予選で手を痛めてしまい思うようにならないレースだったが、そのポテンシャルを遺憾なく発揮した。3位には岩戸が入った。SUGO戦の2位に続く表彰台獲得だが「勝ちたかった」と無念さを滲ませた。4位には今季がST1000デビューシーズンで苦戦していた#31井手翔太(AKENO SPEED・RC KOSHIEN)が追い上げて入り、来季へと希望をつないだ。5位に荒川となった。
 トップ争いから転倒してしまった國峰は、今季限りでチームの全日本参戦終了が発表されたこともあり、「優勝で締めくくりたい」という願いがあっただけに無念のリタイヤとなった。

#2024年全日本ロードレース選手権

■ST600

 2023年に初めてのチャンピオンとなった#1阿部恵斗(SQUADRA TIGRE TAIRA PROMOTO)は「チャンピオンにはなれたけど、1勝しかできていなくて、納得できるシーズンではなかった」と後悔を抱えていた。だからこそ、今季は“全戦全勝”の目標を掲げた。
 開幕戦もてぎからポールポジション(PP)を獲得し独走優勝を飾り、2戦目のSUGO戦は2レース開催で、PPからダブルウィンを飾った。ここまで3連勝となり、それもぶっちぎりの独走を見せた。目標が“全戦ポール トゥ ウィン”へと変わった。
 3戦目のオートポリスはPPを獲得するが、レースはスタート時のアクシデントで中止となり、予選順位でハーフポイントが与えられることになった。

 4戦目の岡山国際は、最終戦を待たずにタイトル決定の可能性があり、ここで決めさせたくないというライバルの思惑もあり、予選から激しいタイムアタック合戦となる。
 曇天の中で始まった予選は40分の1回、#6伊達悠太(AKENO SPEED・MAVERICK)が4周目に1分34秒671でレコードブレイク、#4長尾健吾(TEAMKENKEN Ytch)が1分34秒831、阿部が1分34秒854と続いた。セッション中盤、阿部が1分34秒721とコースレコードを更新するが、伊達のタイムを超えることが出来ずに2番手、伊達が全日本初ポールポジション獲得となった。

#2024年全日本ロードレース選手権

 決勝レースでホールショットを奪ったのが伊達。阿部が伊逹をマーク、その後方で長尾と#5小山知良(ITORACING SHOTA BORG CUSTOM)が3番手争いを展開する。早くも表彰台争いが始まった。2周目に阿部がトップを奪うが、3周目には伊達が前に出て激しい争いとなる。3番手に浮上した長尾がトップを追う。4周目に阿部が再び首位となり接近戦が続いた。終盤に転倒車が出て赤旗が提示されレース中断。そのままレース成立となり阿部の優勝が決定しV2決定となった。
 阿部は「PPを獲得できなかったのは残念ですが、勝ってチャンピオンを決めることが出来たのは素直に嬉しい」と胸を張った。「最終戦も勝って、全戦全勝としたい」と願いを込めた。
 だが、最終戦鈴鹿は阿部の所属するチームの宗和孝宏監督の急逝により欠場となり、チームが活動を停止する判断を下して解散となった。

 V2となったチャンピオン阿部不在の戦いが始まった。予選ではセッション開始早々にリーダーボードトップの#9中山耀介(ITORACING SHOTA BORG CUSTOM)と2番手小山が接触転倒し赤旗中断となる。小山はケガを押しての参戦だったこともあり、ダメージを受けてその後の走行をキャンセルした。長尾が2分10秒861と、真っ先に2分10秒台に突入しPPを獲得する。長尾は「過去2年最終戦鈴鹿はリタイヤに終わっているので走り切りたい。完走して優勝を目指す」と語った。

 決勝好スタートを切ってレースをリードしたのは長尾。長尾が逃げ、伊達は#12松岡 玲(ITO RACING BORG CUSTOM)との2番手争いから前に出て長尾を追いトップ浮上する。長尾を松岡が追い、前に出ると伊逹に迫り首位浮上し、伊達とのトップ争いを展開する。
 その争いに#7鈴木光来(MOTO BUM HONDA)が追いつき、長尾、中山、#13藤田哲弥(TN45 with MotoUP Racing)の6台のトップ争いとなる。終盤、鈴木がトップ浮上しレースを引っ張る。6台が接近して飛び込んだ最終シケインで伊達が先頭に出て最終ラップに突入し、そのまま伊逹は後続を振り切るように優勝、2位に鈴木、3位に長尾となった。伊逹は念願の初優勝となる。前戦は赤旗で勝負しきれずに終わった反省からレース成立周回数と考えての勝利だった。
 2位に入った鈴木は、前戦の岡山国際はスタート直後に追突され決勝を走れず、その無念さをぶつけるように快走し力を示した。3位長尾は優勝ではなかったが走り切りチェッカーを受けた。

 激闘を終えた翌日に、SDG Motor Sports Officialが阿部をライダーとして加えることがアナウンスされた。SDG Team HARC-PRO.としてはST1000でチャンピオンを獲得した國井勇輝がMoto2参戦となり、その後任として阿部がST1000参戦の可能性もありそうだ。本人は「叶うならST1000に挑戦したい」とステップアップを願っている。

#2024年全日本ロードレース選手権
#2024年全日本ロードレース選手権

■J-GP3

 第7戦岡山国際が終了した時点のランキングではV3の#1尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED)が108P、#3若松 怜(JAPAN POST docomo business TP)が106Pとその差はわずか4Pだった。若松が開幕勝利を飾り、尾野は4位と出遅れたが、その後は3連勝と力を示した。しかし岡山国際では、僅差で若松が勝利しタイトル争いに望みをつないだ。

 若松は最終戦前に代役参戦でもてぎGPのMoto3に急遽代役参戦した。全日本チームで若松のエンジニアは世界グランプリ経験豊富な小原 斉氏、熱心にアドバイスしたのは小山知良、アカデミーで指導してくれた世界チャンピオンの坂田和人と豪華な面々が若松をサポートしていた。頑張れば頑張るほど、どうにもならないジレンマを抱えながら世界の壁に体当たりして走行毎にタイムを上げ、自身が目指す世界の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
 若松は「たくさんの人に支えられていて感謝しかない。だから恩返ししたい。全日本チャンピオンを獲得して応えたい」と逆転チャンピオンに挑んだ。

 木曜日と金曜日の4度の走行では若松が1番手、尾野が2番手。予選でも若松が2分17秒032でポールポジション、尾野が2番手2分17秒975と0.943秒と0.943差で若松の好調ぶりが印象に残る。
 尾野は「このウィークは、めちゃくちゃ大変で予選までずっと2番手。それこそ予選はコンマ9も離されていて、決勝日までは若松と戦える作戦もなかった。もう自分次第でどうにかするしかないと割り切れたことでウォームアップ走行でプッシュして予選タイムを上回って流れを変えられた」とグリッドについた。

#2024年全日本ロードレース選手権

 決勝は尾野、若松、#5高杉奈緒子(TEAM NAOKO KTM)の3台のトップ争いとなる。シケインでは若松が前、立ち上がりで前に出た尾野がコントロールラインでは前と攻防が続く。尾野は「前に出したら若松選手が逃げていく、作戦は考えず常に先頭にいようとした」と言う。若松はがむしゃらに尾野に挑み続けた。

 最終ラップの攻防は激しさを増し、尾野が首位に立ち、若松はシケインで勝負に出るがコースアウト、そのあおりを食って高杉も押し出された。その隙をついて4番手争いの#4木内尚汰(Team Plusone)と#12岡崎 静夏(JAPAN POST HondaDream TP)が抜け、尾野が優勝のチェッカーを受けV4を決めた。2位に木内、3位岡崎となる。若松は4位となるが、ショートカットと判断され30秒加算、走行妨害も適用されペナルティポイントが与えられ、11位のリザルトとなった。

 尾野は「木曜日の走行から若松選手の方がシケインで強いことがわかっていて、レース中も何度も刺してきていたので、最終勝負になれば来るだろうなと思っていましたが、レース中に“玉を隠して”いて、それを最後に使おうと思っていた」と言う。
 最終ラップでバックストレートの位置取りをリードし、ベタベタに若松がいる想定でブレーキングを試みて、そこまでブレーキを奥に取れることを隠して若松を翻弄した。
 さらに尾野は「作戦を2パターン考えていた」と言う。一つはシケインの攻防、そして「自分がトップで(最終コーナーを)立ち上がる時と、後ろで立ち上げる時、どちらでも勝てる想定はあったので、2番手で立ち上がっても、チェッカーラインまでには前に出ることができる。でもずっと左から抜いていて、最後は右に変え短距離を使う、と自分の方が勝てる玉は多かった」と言う。
「今日は勝てるレースではなかったので、チャンピオンを獲りに行くっていう気持ちだけ」と尾野は語るが百戦錬磨の力を遺憾なく発揮したレースで勝利をもぎ取った。

#2024年全日本ロードレース選手権

 チェッカー後の尾野の歓喜は、これまで見たことのない激しさでチャンピオンTシャツを着て、フラッグを何度も空高くつき上げ、バーンナイトで声援に応えた。
「この3年間とは違うチャンピオン争いでした。本当に最終ラップの最終コーナー、シケインまでタイマン勝負で、前に出た方がチャンピオンという戦いでした。優勝してチャンピオンを獲得できたのは初めて」

 尾野をここまで苦しめた若松を尾野は「素晴らしいライダーで強敵だ」と賛辞した。若松は涙にくれ、高杉の表彰台を妨害する形になったことを謝罪した。
 5位でレースを終えた高杉はチームトラックにこもり号泣、その泣き声が外に漏れ、支えるスタッフも泣いていた。最後までトップ争いを繰り広げた高杉の走りはファンの脳裏に焼き付いた。

 2位に入り「棚ぼたなので」といたたまれない表情の木内は勝利に向けて走り続けたシーズンだった。2位2回、3位2回とトップ争いの常連、来季の飛躍に期待を集めた。

 岡崎静香は、レース中のファーステストラップを記録してトップ争いを追い掛けた。木内同様に「棚ぼたなので」と語るが、それでも「応援してくれた人達に表彰台に登る姿を見てもらえたらことは素直に嬉しい」と語った。岡崎人気は高く、多くの声援を集めていた。全日本初の表彰台はほろ苦いものだが、「小排気量はそんなに筋力はいらないって言うけど、やっぱり、必要だとトップ争いを追い掛ける位置を走り感じたのでオフにはしっかりと筋力アップして挑んで行く」と誓っていた。

 6位に入った#10徳留真紀(MARUMAE MTR)は1994年~1999年までロードレース世界選手権で活躍、2001年から全日本参戦し23年もの間トップライダーであり続けたが、今季限りでフル参戦卒業。「古傷の治療に専念する時間を」と言う。ケガが癒えたら、また、復帰の可能性を残した。

#2024年全日本ロードレース選手権
#2024年全日本ロードレース選手権

 今季新チャンピオンを獲得したJSB1000クラスの岡本、ST1000の國井は、海外へと活動の場を移しST600クラスの阿部の来季はヤマハからホンダへと変わっての挑戦となる。尾野はV5を目指す。
 どのクラスも来年にはエントリーの顔ぶれが変わるだろう。ゼッケン1不在のクラスが3クラスとなり、新たなスター誕生となるか、実績あるキャリア組がリードすることになるのが興味は尽きない。
(文・佐藤洋美、写真:赤松 孝)

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2024/11/29掲載