■試乗・文:毛野ブースカ
■撮影協力:玉井久義
■協力:スズキ https://www1.suzuki.co.jp/motor/
ジクサー150の「150」という数字を見て、私がパッと頭に思い浮かんだのが「高速道路を走れる」である。高速自動車国道法では、総排気量125cc以下のバイクは高速道路を通行できないのは、ライダーの皆さんならご存じのことだろう。一方、免許区分では125cc超400cc以下の「普通二輪免許」が必要となり、50cc超125cc以下の「小型限定普通二輪免許」では乗ることができない。つまりジクサー150はピンクやイエローナンバーの原付二種ではなく白ナンバー扱いになる。さらに細かいことを言えば、自動車保険(任意保険)の特約のひとつである125cc以下に限定されるファミリーバイク特約には入れない。通常のバイク保険に加入しなければならない。
このように「150cc」という排気量は、はっきり言って半端な数値である。しかし、それはあくまでも日本の法律や交通事情においてのことであり、世界を見渡してみると、特にアジア圏ではごく普通の、一般的な排気量なのである。ジクサー150は製造国がインドであり、現地法人のスズキモーターサイクルインディア社が製造して日本に輸入されている。つまりジクサー150はインドで製造されたインド向けのバイクなのだ。そこで、ジクサー150の特徴に触れる前に、インドのバイク事情に軽く触れておこう。
インドのバイク事情でまず思い浮かぶのが、無数のバイクが日本のラッシュアワーの比じゃない混雑した道路をクラクションを鳴らしながら走っているシーンである。みなさんもそのシーンはテレビや動画で一度は目にしたことがあるだろう。自動車が高価なインドではバイクは重要な移動手段であり、インドのバイク市場は2,000万台で世界最大という。インドのバイクは、都市部ではスクーターが広まりつつあるが、ネイキッドタイプが主流で、普段の足として使われており、定員以上の人数を乗せて走っていることが多く、それに耐えられるものが好まれるという。確かにネイキッドタイプにヘルメットを被らずに3〜4人乗せて走っている映像を見た記憶がある。どちらかと言えば趣味性が強い日本のバイク事情とは大きく異なる。
インドで生産されるバイクはモペッド(100cc)、コミューター(廉価モーターサイクル/100〜125cc)、スクーター(90〜155cc)、スポーツ(モーターサイクル/150cc以上)に分かれており、この中で最も多いのがコミューター、次にスクーター、そしてスポーツとなっている。さらにインドは日本の免許制度のような細かな乗車区分はなく、マニュアル車がAT限定かに分かれているだけである。
ジクサー150(現地名ジクサー)の現地価格は15万ルピー(約26万円)、日本でも販売されているスクーターのバーグマンストリートは約10万ルビー(約17万円)、アドレス125(現地名アクセス125)が約9万4,000ルビー(約16万円)、Hayabusaは170万ルピー(約288万円)となっている。これに日本の自賠責保険にあたる強制個人事故補償に加入しなければならず、5年契約で75cc超150cc以下は3,285ルピー(約5,600円)、150cc超350cc以下で5,453ルピー(約9,300円)、350cc超が13,304ルピー(約22,610円)となっている。さらに日本の消費税にあたるGST(付加価値税)が28%かかる。ちなみにインドの平均月収は約3万2,000ルビー(約5.7万円)、平均年収は38万4,000ルビー(約68万円)であることを考えると、バイクはインドの人々にとって普段の足とはいえ高価な買い物であることがわかる。ジクサー150はスズキモーターサイクルインディア社がラインアップしているネイキッド(スポーツ)タイプの中で最も排気量が小さいものの、150cc(実際の排気量は154cc)を超えていることから中高所得者向けと言える。
インドのバイク事情を垣間見たところで、ジクサー150をあらためて見てみよう。私は今までスズキのバイクは個人的にジェベル200とジェベル250XC、当WebのインプレでGSX-R 125(2021年6月)、Vストローム250(2019年7月)と、カテゴリー的にはジクサー150に近いバイクに乗ってきた。今回はこれらに乗車した際に感じたことを踏まえつつ、ジクサー150の特徴を見ていきたい。まず現車を見た第一印象は「スリムでカッコいい」。ショートテイルでヘッドライトがスラントしてリアに向かって持ち上がるような、ちょっと前のめりなデザインは、同じインド製の兄弟機種であるジクサー250/SF250だけではなくGSX-8S、GSX-S1000などと共通のデザインだ。エンジンが154ccの空冷単気筒ということもあり、エンジン周りがスッキリしており、スリムな印象を強めている。
跨ってみると、左右に張り出したタンクとシュラウドのせいで上から見るとファットな感じがするもののニーグリップはしやすい。足着きとライディングポジションは個人的には無理がなく、長距離でも疲れなさそうな印象。しかし、私よりやや小柄なアームズマガジン編集部のスタッフが跨った感じを聞いたところ、手が突っ張る感じがして長距離だと手が疲れるかもとのこと。このあたりの感じはツーリングで実証してみたい。
シートはセパレートタイプで、座った印象は悪くない。タンデムシートは一段高いところにあり、スポーツバイクらしいデザイン。乗車定員は2名だが、インドだと3〜4人は乗ってしまうのだろうか……。タンデムシート左右にはグリップがついているものの、リアキャリアはもちろん荷掛けフックのようなものは備わっていない。オプションでリアキャリアは用意されていない。インドでは人は乗せても荷物は載せないのだろうか。荷物を載せる時は工夫が必要だ。
スリムな印象通り装備重量は139㎏と、GSX-R 125の137㎏に近い。手押しした時はもちろん跨っても軽さを感じる。ジェベル兄弟のようなオフ車のような腰高な感じもない。走行時のコントロールはしやすそうだ。ちなみにジクサー250は154㎏、同じ排気量のVストローム250が191㎏、ジクサー兄弟と同じインド製のVストローム250SXは164㎏と、エンジン型式などが違うもののインド軍団の軽量さは際立っている。
車体の軽量化に貢献している排気量154ccの空冷単気筒SOHC 2バルブのスズキ独自のSEP(SUZUKI ECO PERFORMANCE)エンジンはロングストローク仕様で中低速のトルクと燃費性能を重視しているという。125ccながら水冷DOHC 4バルブの単気筒エンジンを積むGSX-R 125とは対照的。インドという土地柄を意識してシンプルで耐久性とメンテナンス性に優れるエンジンがチョイスされているのだろう。空冷(ジェベル250XCは油冷)単気筒エンジンだったジェベル兄弟は長時間走行や高速走行で熱ダレを起こすことがあったので、個人的には気になるところだが、日本より過酷な環境であるインド向けなら問題ないと思われる。燃費はスペック上ではWMTCモードで50.0㎞/Lとかなりいい感じだ。もしこれが正確な数値ならば、燃料タンク容量が12リットルなので満タンで500㎞以上走れる計算になる。これらはすべてツーリングで実証しよう。
ハンドルとメーター周りはシンプルでスッキリしている。フル液晶デジタルメーターは時計や電圧計、ギアポジション表示など必要にして充分な機能を備えている。表示される情報は左右のセレクトスイッチ/アジャストスイッチで切り替えることができ、操作性も申し分ない。表示される文字は大きく視認性は申し分ない。エンジンをかける時はクラッチレバーを握りながらスタータースイッチを押すのだが、私は最初このやり方が分からなくて一瞬途方に暮れてしまった。Vストローム250と同様、センタースタンドが標準装備されており、メンテナンスする時に便利だ。今回乗車したモデルの色は現在のスズキの主流となっているブルー系(トリトンブルーメタリック)。個人的にブルーが好きなので非常に好感が持てる。他にグラススパークルブラックとソニックシルバーメタリック/パールブレイズオレンジが用意されている。
こうしてジクサー150の特徴をザッと見てきたわけだが、私も含めて読者の方々も「じゃあ150ccの何がいいの?」って思っているだろう。そのギモンの答えと、インド生まれのジクサー150の実力を確認すべく、ちょっと過酷な(?)ツーリングに出かけてみることにした。(後編に続く)
(試乗・文:毛野ブースカ 撮影協力:玉井久義)
●ジクサー150 主要諸元
■型式:2BK-ED131 ■エンジン種類:空冷4ストロークSOHC単気筒 ■総排気量:154cm3 ■ボア×ストローク:56.0×62.9mm ■圧縮比:9.8 ■最高出力:9.6kW(13PS)/8,000rpmm ■最大トルク:13N・m(1.3kgf・m)/5,750rpm ■全長×全幅×全高:2,020×800×1,035mm ■ホイールベース:1,335mm ■最低地上高:160mm ■シート高:795mm ■車両重量:139kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機形式:常時噛合式5段リターン ■タイヤ(前/後):100/80-17M/C 52S/140/60R17M/C 63H ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク/油圧式シングルディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック・スイングアーム ■フレーム形式:ダイヤモンド ■車体色:トリトンブルーメタリック、ソニックシルバーメタリック×パールブレイズオレンジ、グラススパークルブラック ■メーカー希望小売価格:385,000円
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