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レース・イベント

■文:佐藤洋美 ■写真:赤松 孝






鈴鹿8耐3連覇を目指すTeam HRC with 日本郵便は、高橋 巧(34)、名越哲平(26)、MotoGPからヨハン・ザルコ(フランス・33)を呼び寄せた。リザーブライダーには荒川晃大(21)のラインナップで戦う。勝てば、高橋が鈴鹿8耐6勝と最多優勝記録となり単独1位となる。そしてホンダとしては鈴鹿8耐30勝となる。
勝利に賭けるHRC二輪レース部 部長 石川 譲氏 レース運営室 室部長 本田太一氏(HRC二輪レース部長)に訊いた。


Q Hondaが鈴鹿8耐に参戦する意味をどのように捉えていますか?


石川 譲(以下石川) 歴史を振り返ってみてもHondaが力を入れて来た大会ですし、日本のレースの中でも大きな意味を持っていると考えています。Hondaとしては、人材育成という観点もあります。どんな形でも継続参戦するべきレースだと捉えています。

本田太一(以下本田) 人材育成として、海外レースに行ってもらうのは、少しハードルが高いですが、その前のステップとして鈴鹿で世界選手権の経験を積むことが出来るのは現場経験という意味で重要だと考えています。

石川 鈴鹿8耐のための準備は春から始まり、エンジニアを含めメンバーが決まります。ライダーたちにとっての重要な経験の場であると同時に、エンジニアやメカニックにとっても経験の場です。

本田太一(以下本田) メンバーが決まるとピットワークの練習が始まります。必死にやっていて、モチベーションの高さが伝わります。事前テストから、本番に向けてチームワークが強くなって行くのが分かります。

HRC二輪レース部
(写真右)HRC二輪レース部 部長 石川 譲氏と、(写真左)レース運営室 室部長 本田太一氏(HRC二輪レース部長)に話を伺った。


Q その努力が実るために勝利を目指すわけですが、今季は、高橋 巧選手と共に鈴鹿8耐2連覇した長島哲太選手がダンロップ契約ライダーとなり、ブリヂストンを使用するHRCでは走れなくなった。日程がスーパーバイク世界選手権(WSBK)と重なり、2022年参戦したイケル・レクオーナ―、2023年参戦のチャビ・ビエルグらは参戦出来ず、ライダー選びが難航していると噂されていました。


石川 Hondaは今年、モデルチェンジしたので、そのマシンをテストしてくれている高橋選手を中心にメンバーを考えました。WSBKからライダーを呼ぶことが出来なくなり、当初は、日本人選手での構成を考えました。JSB1000の名越哲平選手に来てもらい、2022年の全日本ST600チャンピオンで、ST1000でも活躍してくれている荒川晃大選手にもチャンスを与えたいとテストに参加してもらっていました。


Q そして、MotoGPのカザフスタンGPが9月に移動になりました。


石川 MotoGPライダーの選択肢が増え、ヨハン・ザルコ選手に声をかけました。実は、ザルコ選手が耐久に興味を持っていたことを知っていたので、昨年から声をかけていたんです。テストにも参加できるスケジュールになり、打診したら「出る」と返事をくれたので、急遽、加わってもらうことになりました。
本田 高橋選手、ザルコ選手、名越選手が参戦となり、荒川選手がリザーブライダーでエントリーします。引き続き、荒川選手にはチームに加わってもらい経験を積んでもらいたいと思っています。

ライダー
ライダーは右からヨハン・ザルコ、高橋 巧(34)、名越哲平(26)、そしてリザーブライダーは荒川晃大となった。


Q 今年はドゥカティが参戦します。打倒HRCを掲げています。ドゥカティのパオロ・チアバッティ(2023年まではMotoGPスポーティングディレクター。現在はオフロードプロジェクトや国内選手権のゼネラルマネージャー)に鈴鹿8耐テストで取材した際に、フランチェスコ・バニャイア(2022~2023年モトGPチャンピオン)が本気で鈴鹿8耐に挑戦したいと言っているので実現させたいと。ライバルの出現は驚異ですか?


本田 どんな世界でも競合する相手がいてくれることを歓迎します。ライバルがいれば、競技のレベルが上がります。戦いのレベルが上がり、応援してくれるファンも喜んで頂けるわけですから。鈴鹿8耐にはお祭とイメージもありますが、真剣な戦いがあることが魅力ですから、そこが盛り上がることは良いことだと思います。

石川 MotoGP、WSBKと力のあるライダーが参加してくれることは嬉しいことです。もちろん、Hondaには長い経験があり、負けないという思いがあります。

高橋
高橋
高橋には、勝てば鈴鹿8耐6勝と最多優勝という記録がかかっている。


Q 全日本ロードレース選手権最高峰のJSB1000クラスに、今年はドゥカティワークスマシンが参戦、ヤマハファクトリーチームが参戦してトップ争いを繰り広げています。Hondaは市販キット車でサテライトチームが参戦しています。市販車であるにも関わらず、ファクトリーマシンとバトルを繰り広げているのは、素晴らしいという見方もありますが、勝つことが難しいというのはHondaファンにとっては辛い現実です。ドゥカティを走らせている加賀山就臣監督は、Hondaは鈴鹿8耐マシンを、カワサキはWSBKマシンを全日本に参戦させてほしいと言っていました。


石川 負けている現実は、非常に辛いことではあります。我々はキット車で勝てることを目指して、開発し戦闘力を上げるように取り組んでいます。キット車の開発は、日本だけでなく欧州、アジアでも展開しています。様々な情報を活用しながら、レベルを上げ、量産車につなげていけるものしなければなりません。

本田 レースをやっている以上勝たなくて良いということはない。そこに対抗できるようにしていきたいと考えています。

石川 伊藤真一さんからも苦戦していると現場の声を聞いています。その中で勝てるチャンスを掴めるようにと思っています。STクラスもHondaとしてはしっかりしていかなければならないので継続してやって行きたい。


Q 鈴鹿8耐のワークスマシンを駆るチームHRCライダーは、鈴鹿8耐事前テスト1回目に参加していたヤマハファクトリーライダーと互角のタイムを記録していました。それを全日本に投入する計画はありませんか?


石川 WSBK、MotoGPをなんとかしなければならない。今で言うと、ちょっと計画としてはない。


Q 世界GP参戦の年齢制限が18歳に引き上がったことで、全日本の役割が大きくなったように思います。世界を夢みているライダーたちが、全日本でレベルアップする状況が必要ではないでしょうか?


石川 参戦台数を確保しながら、活性化する状況を作らなければとは考えています。昔のように全日本の車両が、世界GPとイコールだった時代とは違い、日本人ライダーが世界へという道は厳しくなっていることは理解しています。アジアタレントカップなど若手育成に取り組んでいますが、全日本でもやっていかなればならないと思っています。今回の鈴鹿8耐で名越選手や荒川選手に参加して頂いたように、HRCと関わって頂ける機会を考えていけたらとは思っています。

ヨハン・ザルコ
鈴鹿8耐に興味を持っていたという、MotoGPライダーのヨハン・ザルコが参戦。


Q HRCの体制が変わり、ダカールラリーでHonda悲願の勝利を飾った本田さん、RCV211V、RC213-S、CBR1000RR-R FIREBLADE SPとHondaを代表するマシン開発を手掛けた石川さんには、多くの期待が集まっています。目標としていることはありますか?


本田 まずは、MotoGPで勝てる状況を作らなければならない。それが急務です。これまで、モトクロス、トライアル、ダカールラリーと、自分はオフロードで関わって来ましたが、それが、カテゴラリーが変わり、ロードレースとなったからと言ってやることは変りません。人と人が仕事をするということです。運営をしっかりと行い、MotoGPの最先端の技術開発が進むことを運営サイドからサポートして最大限、自分の出来ることをやり、良いチーム体制作りが出来たらと考えています。


Q 難易度としては?


本田 難しいですね。ですが、ダカールラリー、モトクロスでも勝てない長い時間もあり、決して簡単ではなかった。諦めずに粘り強くやっていくしかないと思っています。1日でも早く、この状況から脱しないといけない。いつまでも、負けているのは嫌なので……。

石川 コロナ渦があり、それが落ち着いて鈴鹿8耐が出来た2022年にHondaが勝ち、多くのHondaファンの方が喜んでくれた熱量がとてもありがたく感動的でした。あの時にように、応援してくれている人が喜んでくれるマシン作りをして行きたい。開発の手は止めません。直近は、鈴鹿8耐で勝つことです。

名越哲平
JSB1000に参戦している名越哲平。
荒川晃太
2022年の全日本ST600チャンピオンで、今シーズンはST1000で活躍している荒川晃大。

■取材を終えて
石川氏はバイクブーム真っ盛りの80年代が高校生で平忠彦の鈴鹿8耐を観戦。Honda入社後は社内チームのブルーヘルメットでタイヤ交換をするなど手伝った経験もあるそうです。鈴鹿8耐スタッフとはなれず、観客としてサーキットに足を運び応援。今年は現場に行くことが出来そう。HRCが鈴鹿8耐に3チーム参戦という時代は、8耐の季節には誰もいなくなり、お留守番になると、とても寂しかったそうです。
本田氏は鈴鹿8耐観戦未経験、関心がなかったわけではなく、運命の悪戯か、その時期には他の案件が重なるという事態となり、鈴鹿8耐は想像するにとどまっているとのこと。本田氏も、今年は現場に向かう予定、他のお仕事が入らないことを願っています。

Hondaは、モータースポーツに多大な影響を与え支えてくれている企業です。日本に鈴鹿サーキット、モビリティリゾートもてぎを作り、誰でもが走行しレースが出来る舞台を提供し、若手育成のためにアジアタレントカップやHonda Racing Schoolを実施、子供たちのために入門用のバイクも作り販売、多くの夢を育ててくれています。Hondaに出会ったライダーは、HRCに認められることを勲章に自らを鍛え高みを目指します。
1959年、創業者の本田宗一郎がイギリスのマン島TTレースを目指し世界を席巻、世界中にHondaファンの種を撒きました。65年もの間、Hondaがバイクに注いだ情熱は、安全で誰でもが楽しめるモータリゼーションを生み、レースが与えてくれる感動を作り続けています。Hondaの復活を誰もが信じ、疑ってはいません。

(文・佐藤洋美、写真・赤松 孝)

2024/07/09掲載