『新世代スポーツバイクの“ちょうどよさ”』( https://mr-bike.jp/mb/archives/44435 )で技術資料をおさらいしたスズキの新スポーツ・GSX-8Rにやっと乗るチャンスが来ました。
先にデビューしたGSX-8Sのフルカウルバージョンは、
ベースとなった8Sと、どう違いを作ったのか。
そういうイジワルな見方を、ついしちゃうのだ。
はじめはイジワルな見方で
スズキの新世代ツインスポーツであるGSX-8R。この8Rは、先にデビューしたGSX-8S(https://mr-bike.jp/mb/archives/37862?from=mr-bike )、さらにVストローム800DE( https://mr-bike.jp/mb/archives/36664 )と兄弟モデルで、車体とエンジンを共用するバリエーションモデル。この775ccの水冷並列ツインが、スズキの今後のスポーツバイクの軸となる――そんな存在です。
とはいえ、前後ホイールサイズやタイヤが全く違うVストロームはまだしも、同じロードスポーツの8Sと8Rでは、なかなか違いを表現しにくいのではないか、とイジワルに勘ぐってしまうのです。
かつてはRGV250ΓとWOLF250、GSX-R250とCOBRAのように、同じプラットフォームで2つ、またはそれ以上のバリエーションを作るのが上手いスズキだけに、新世代ツインスポーツのベーシックな存在を、バリエーションモデルで強化しているんじゃないか、ということ。
考えてみれば現行モデルでも、専用設計のパートは多いとはいえ、KATANAとGSX-S1000/S1000GX/S1000GTも同じプラットフォームだし、GSX250RとVストローム250、ジクサー250/250SFとVストローム250SXも同じ手法。
ホンダでもアフリカツインとNT1100、HAWK11や、Rebel250とCL250、CB250Rとか、ヤマハもYZF-R25とMT-25とか、MT-07とYZF-R7、テネレ700なんかもそうですね。カワサキも、VERSYS1000とNINJA1000SXとか、Z650RSとNINJA650、VERSYS650も同じ手法。これをモジュールコンセプトモデルと呼んだりもします。
そしてGSX-8Sと8R。これは、ノンカウルモデルとフルカウルモデルで、ストリートバイクとスポーツバイクを成立させよう、というものです。今回は8Sにカウルを装着したというものではなく、新設計の並列ツインとフレームを開発した当初から、Vストローム800/800DEとGSX-8S/Rの4モデルの発売は決まっていたというから、着せ替えモデルではなく、同時開発モデルと呼ぶ方がいいのだと思います。
その8Sと8R、大きな違いは下のようになります。
GSX-8S→GSX-8R
■ネイキッド→フルカウル
■パイプハン→セパハン
■バルブウィンカー→LEDウィンカー
■KYB製フロントフォーク→SHOWA製フロントフォーク
■KYB製リアショック→SHOWA製リアショック
バイクのパフォーマンスを決定づけるエンジン/フレームが共通なだけに、8Sと8Rはさほど差が出ないんじゃないかな、と考えていたんです。前後サスが変わっているからって、ねぇ、と。あんまりこういう先入観を持って乗っちゃいけないんだけど、今回はそうしよう、と決めていたのでこのままで(笑)。もちろん、こういう疑問を抱いて「8Sも8Rも好きだけど、どっちにしよう」と思っているユーザー予備軍はぜひ、参考にしてください。
けれど、少しも大げさではないけれど、乗り出しの瞬間に「違い」は分かりました。シートに腰かけた時に、8Rは座り心地がソフトなのです。ユサッとリアサスが沈むのは、おそらくリアサスのバネレートかプリロードでソフト目にセッティングしているからで、そのままエンジン始動もせずにフロントブレーキレバーを握って前後にユサユサと揺らしてみると、なお一層、違いは分かる。これは新たに採用されたSHOWAのビッグピストンフォークの効果ですね。おそらくこれは、このフォークを使用すると決めて、前後のバランスをとるためにセッティングを変更したのだと思います。
走り始めるとまず、乗り心地がいい。フロントフォークがよく動くのと、リアサスもスプリングやプリロードでソフトに設定してダンパーを効かせている設定のようで、よく動いて節度がある感じ。よく動くだけでは、ふにゃふにゃして決して乗り心地よくはなりませんから。
スピードを上げていくと、ソフトなサスがピシッと安定します。よく動くのはそのまま、ふわふわではなく、路面の凹凸やギャップをきちんと拾って吸収している感じ。路面の様子がお尻によく伝わってきます。これは「サス、どうかな」と気をつけて乗っているからもありますが、体感上GSX-8Sよりもハッキリと感じられる変化です。
高速道路に乗り入れると、この「乗り心地良さ」が「ピシッとした直進安定性」に効いているのが分かります。それも、ビシッというより、適度な動きのあるピシッ、という感じ。直安のいい動きといっても、路面のうねりやギャップをコツコツ拾うタイプもありますが、高速道路によくある路面の継ぎ目も、8Rはシュッシュッといなしてくれるフィーリングです。
レーンチェンジも軽く、確実に。車体剛性のことまでは把握していないのですが、たとえばGSX-S750のようなツインチューブフレームよりもフレームが動きを吸収してくれているようなフィーリングで、軽く確実にレーンチェンジができます。それは8Sも同じ感じでしたが、継ぎ目やギャップを乗り越えた衝撃吸収が速い印象でした。
ワインディングに踏み入れると、さらにサスの効果を感じます。フォークの動きがよくなったことで、前後方向の荷重の移動がスムーズで、たとえばコーナリングの一連の動きがきれいに行なえます。コーナー進入にむけてアクセルオフ→ブレーキング→バンクして旋回→アクセルオンから脱出というアクション(=ウェイトトランスファーとも呼びます)がすべてスムーズ。これはペースを上げても上げなくてもフィーリングが変わらず、開け開けで行くとクルッと回ったり、ゆったりペースではスーッと自然にコーナーをクリアできます。この、どんなスピード域でも、というのが重要。乗り手のキャリアやスキルを選ばないということなんです。
細かく言うと6速2500rpm=60km/hでダラーッと走っても、2速で力が一番盛り上がる7500rpmあたりを使っても、自然なフィーリングが崩れない。これがGSX-8Rの目立ったキャラクターだと思います。走り始めからすぐにペースを上げられるのも特徴のひとつですね。今度はサーキットランもしてみよう。
さらにもうひとつ。サスペンションが変わったことで、ブレーキも効力が上がってコントロールしやすくなりました。ローターもパッドもキャリパーもホースもまったく同じものでも、サスペンションがかわるとブレーキングが変わりますね。
エンジンのフィーリングは、当たり前ですがGSX-8Sと同じ。アイドリングすぐ上からトルクが出ていて、エンジン回転数を上げなくても、車体を前に進ませる力があります。スーッと穏やかに出るよりも、パンチ力があってグイッと前に進む感じ。そこに振動を感じないのは、スズキがこの2気筒エンジンシリーズのために開発したクロスバランサーのおかげでしょう。ズドドドド、というよりもスタタタタ、と。なんか擬音が多いな、スイマセン(笑)。
そこから加速していくと、クイックシフターが使いやすい。通常、クイックシフターは、回転を上げなかったり、アクセル開度が小さい時にはスムーズにいかないものなんですが、そこもすごく上手く制御されている印象。ただし、シフターの存在を忘れて、つい加速してのクラッチワークなしシフトアップの時にアクセルを一瞬戻すと、カクッとスムーズにつながらない瞬間がありました。これは、慣れてそのアクションをしなければ済む話ですね。
パワーが持ち上がるのは7500rpmくらいからですが、4000rpmくらいを使っていれば、充分にリアタイヤが路面を蹴っ飛ばす感覚が味わえます。このトラクション感が、この並列2気筒シリーズの美味しいところ。それでも街中や郊外のバイパスなどをスイーッと流すときは、3~4000rpmでいいですね。ギア高め、回転数低め(=たとえば6速2000rpm)でガクガクとスナッチングする場面も少なく、6速2500rpmで60km/hがすごく気持ちいいエンジンです。
高速道路に入ると、トップギア6速で80km/hは3400rpm、100km/hは4200rpm、120km/hが5000rpmあたり。このクルージングな時は、エンジンの振動を感じさせず、エンジンが軽くフリクションなく回って、静かな巡行が味わえます。そこからの加速も、アクセル一発!です。
最終的に、8Rはすごく出来のいいスポーツバイクでした。
たとえば同じ排気量のクラスで言うと、今までの4気筒モデルではGSX-R600や750、そして最近に生産終了となったGSX-S750なのでしょうが、8Rは静かに軽く、速い、意のままに扱えるバイク。いちばん最近のモデルで言うと、GSX-S750を気持ちよく走らせて『あぁ、やっぱりナナハンはいいなぁ、1000ccだとこんなに扱えないもんなぁ』と思っていたんですけれど、8Rはその気持ちの上を行きます。
今は『ナナハンの4気筒もこんな風に扱えなかったなぁ』という気持ちが強い。4気筒の気持ちよさはもちろんあるけれど、270度クランクの並列ツインのビートも、慣れ始めると結構クセになります。スゴすぎないスポーツバイク――これがスズキがGSX-8Rに込めた、新しいスポーツバイクへの想いなのです。
(試乗・文:中村浩史、撮影:森 浩輔)
■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■ボア×ストローク:84.0×70.0mm ■圧縮比:12.8 ■総排気量:775cm3 ■最高出力:59kW(80PS)/8,500pm ■最大トルク:76N・m(7.7kgf・m)/6,800rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:2,115mm×770mm×1,135mm ■軸間距離:1,465mm ■シート高:810mm ■車両重量:205kg ■燃料タンク容量:14L ■タイヤ(前・後):120/70ZR17 M/C 58W・180/55-17 M/C 73W ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:トリトンブルーメタリック、マットソードシルバーメタリック、マットブラックメタリック■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,144,000円
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