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ヨーロッパ大陸の南西イベリア半島に位置し、日本からは遠い国スペイン。正式名称はスペイン王国。情熱と太陽の国と称され、温暖な気候とその歴史文化の深さから観光に訪れる人々が後を絶たない。また、日本のライダーにも馴染みのマルケス、ロレンソ、ペドロサといえばMotoGPで世界に轟くチャンピオンたちもスペイン出身のライダーだ。そんな魅力ある国をバイクでツーリングしながら観光したいと思い計画した。気軽に、そして手頃な予算で実行できる方法のヒントも合わせてご報告しよう。
■文・写真:泉田陸男
MAP

海外ツーリングへの道

「海外ツーリングを気軽に手頃で」と言うのは簡単だが、いざ実行しようとするとそう簡単ではないと思う。一番手っ取り早いのは、ツアー会社が主宰するツーリングツアーに参加費を払って参加する方法だ。最近では魅力あるツアーも豊富に組まれているので、財布に余裕のあるライダーは参加してみる価値はありだろう。しかし、その費用についてはけっして手頃なお値段とは言い難い。誤解のないように言っておくが、参加費用がツアー内容に比べて高いと言っているのではない。実際にはマシンのレンタル費、トラブルに対する対応や参加者の安全、スケジュール管理などのための伴走車やガイドの随行など、一般の海外旅行とはその内容が異なるためにかかる費用であることは理解しておかなければならない。

では、どのようにしたら手軽な海外ツーリングができるのだろうか。まずは、一人で海外旅行ができることが条件となることは理解してもらいたい。この条件が最小限であることは、細かく説明しなくともご理解いただけるだろう。次に、最大の難関はバイクの調達だが、これが一番の問題だろう。以前は私もバイクメーカーさんの協力をいただいて取材ツーリングに出かけていて、正直、マシンの調達の心配などは殆どしたことはなかった。
現在ではレンタバイクが普及しており、ネットで予約できるサイトがあるのでこれを利用しよう。今回は「Hertz Ride」という「Hertz Rental car」の運営するレンタバイクを利用した。ネットのページで直接予約を入れることも出来るのだが、自分の旅行日程と借りたいバイクのスケジュールが合わないことがあるので、私はHertz Rideのホームページからマドリード・オフィスのメール(contact)を使用して担当のLuisさんとやり取りをした。

バイクの予約ができれば準備の半分はできたようなものだ。続いては簡単至極、パスポートと運転に必要な国際免許証を取得すればオーケーだ……と簡単に書いたが、日本の国際免許には運転できる国とできない国があるので注意が必要だ。基本的にジュネーブ条約の批准国(日本も批准国)は運転が可能。ウィーン条約批准国は運転ができない。
次に渡航費用だが、こちらは海外旅行の経験者なら利用、検討をしたことがあると思うが、格安航空券の手配だ。ヨーロッパの場合は北回り直行便が速くて便利だが値段が高いので、今回は南回り中東乗り継ぎ便を利用してマドリードへ入った。渡航費はシーズンや航空会社によって値段の変動があるので、スケジュールも十分検討の必要はあると思う。今回は相対比較ではあるが通常時の半分程度の費用で済んだ。

パスポートと国際運転免許証P
パスポートと国際運転免許証
海外ツーリングに必須のパスポートと国際運転免許証。国際運転免許証はパスポート取得後最寄りの運転免許センターで申請受給する。

さてツーリングを実行する上で費用にばかり気を取られていると、思わぬアクシデントに見舞われる可能性があるので、できるだけ細かいところまで気をくばり余裕のあるスケジュール、行動計画を立てることが重要だ。見知らぬ地で迷子になれば相当の時間的ロスを強いられるし、行動計画の変更だってせざるを得ないことも考えられるので熟慮が必要。そのようなこともあり到着当日のバイク受け取りは避け、翌日余裕を持って受け取ることにし、市内のゲストハウスに投宿した。

マドリードバラハス空港
メトロ空港ターミナル駅
メトロ1号線ティル・ソ・デ・モリーナ駅
(左)マドリードバラハス空港(中)メトロ空港ターミナル駅(右)メトロ1号線ティル・ソ・デ・モリーナ駅、これらを経由して市内へ移動。

宿泊は節約を兼ねてゲストハウスとホテルとを織り交ぜて前もって予約しておいた。マドリード・バラハス空港から市内までの移動もタクシーは使用せず、公共機関であるメトロ(地下鉄)を利用して移動したのだが、宿のあるプエルタ・デル・ソルに近いティル・ソ・デ・モリーナまでは二回も乗り換えのため荷物を持っての連絡通路移動はしんどいの一言だった。翌日、メトロで4駅先のHertz RideのオフィスでセニョールLuis を訪ね、予約しておいたBMW G310GSを受け取り、海外ツーリングに最も重要な装備「携帯ナビ(Google Map NAVI)」を装着して、いざ出発。5年前にスコットランドを回った時は印刷物のロードマップだったが、現在は「Google Map NAVI」が最強かつ不可欠の神器だろう。

Hertz Ride
Hertz Rental car
(左)「Hertz Ride」オフィスで手続きをしてくれたセニョール・ルイス・ガルシア氏。(右)「Hertz Rental car」ガレージ内にあるストックヤード。
BMW G310GS
クイックタイプ・スマートフォンホルダー
(左)レンタルしたBMW G310GS リアのトップケースは標準装備で、オプションでサイドケースもつけてもらえる。タンデムシートにはタナックスのミニフィールドバッグを装着。(右)最重要装備、携帯NAVIを装着するためのDAYTONA製クイックタイプ・スマートフォンホルダー。

■ラ・マンチャの男、ドン・キホーテとロシナンテ

マドリードから最初に向かったのはトレドの街、実は以前にもスペインには来たことがある。その時はツーリングではなかったのだが、トレドの街の歴史感あふれる風景に驚愕し再訪の折には是非もう一度見たいと思いコースの最初にスケジュールしたのだ。マドリードの街を出てすぐに高速A42号に乗りトレドまで約1時間なのだが、走り始めてすぐ右側走行の違和感とヨーロッパに多いランダバウトというロータリー式の交差点に神経をすり減らし、トレドに着いた頃には早くもヘトヘト。年寄りの逆走よろしく無神経で走れたら疲れないのにと思ったのは不届きでしょうか。しかし、トレドの街を見渡せる「ミラドール・デ・バイエ」という場所に着いてその風景を見た瞬間に全てを忘れたのは言うまでもありません。

トレドの街
テージョ川を挟んで反対側からトレドの街全体を見渡せる場所「ミラドール・デ・バイエ」からの眺望は異次元の世界に身を置いたようだ。
風車
モリノス・デ・ビエントにはドン・キホーテが巨人と見間違え、ロシナンテと共に立ち向かった風車が立ちはだかっていた。そこは小説の世界そのものだった。

トレドはテージョ川に囲まれた城塞都市で、中世の街がそのままに残された世界遺産の街。世界中からの観光客も多い魅力あるところで、ちょうど昼時だったので街のカフェで昼食をとりアルカサル・デ・サンファンへと向かうことにした。アルカサル・デ・サンファンは近くにモリノス・デ・ビエントというところにスペイン独特の昔の風車がある風景、そう、あのラ・マンチャの男、ドン・キホーテが巨人と勘違いしたラ・マンチャの景色が見られるということで立ち寄ることにしたのだ。トレドから自動車道CM42号を南下するのだが、この自動車道は高速道とは違う一般道に近いのだがみんな90kmくらいで飛ばしていく。最も高速道では地元の車は120km以上でビュンビュン行く。ラ・マンチャ地方を走っていて目に入るのは広大な農地と青い空ばかり。時折木々が現れるのは栽培されているオリーブ畑のオリーブの木だ。それでも、モリノス・デ・ビエントに着くと、そこには丘の上に風車が並ぶセルバンテスが描いたドン・キホーテの世界が広がっていた。まさしくBMW G310GSはドン・キホーテの股がるロシナンテ。私はラ・マンチャの男、ドン・キホーテになってロシナンテに跨っていたのだ。

マンチャ
マンチャ
ラ・マンチャ地方の名の「マンチャ」とは「乾いた土地」の意味。果てしなく広がる農地は赤茶け乾いていて、巨大な散水パイプがあちらこちらに設置されていた。
高速A4号線
高速A4号線はアンダルシアの大地を果てしなく地平を目指して続く。交通量も少なく車は皆120km超で走っていく。スペインの高速の大半が無料だ。

■アンダルシアをBMWロシナンテで疾る

ところでなぜBMWG310GSを借りたのかといえば、見知らぬ地を走るに当たって信頼性の高いマシンであるということが第一条件だった。そして同じBMWの大排気量モデルや日本製マシンもあったのだけれど、大排気量車はレンタル料が高いのでG310GSに決めたのだ。BMWロシナンテを走らせてみると、さすがBMWと言わせる作りに感心する。アドベンチャーと呼ばれるクラスを踏襲した広めのハンドルとシートはライダーへの疲労軽減には貢献しているようで、やや重く感じる車重も扱いがダルというわけでなく、過度にならない適当な車体の反応が良い。ただオフロード走行も前提に作られているための車高の高さは、足着きで停車時に神経を使う。併せてサイドスタンドが外しづらいのはなんとかならないだろうか。後傾単気筒エンジンは必要にして充分なパワーとスムーズさを備えており単気筒離れしている。しかし、巡航速度120km超のスペインでの高速走行はややストレスかもしれない。

 そんなBMWロシナンテでカスティーリャ・ラ・マンチャ地方を後にし、高速A4・A44号線をさらに南下してアンダルシア地方の名都市グラナダを目指した。A4はひたすら真っ直ぐに地平線に向かって走るのだけれども、周りの色や匂いの変化に、呆然として運転するには勿体無い景色と乾燥した程よい気温が眠気を誘うことは全くなかった。また、日本の高速道路は山や起伏があると山裾を巻いたりトンネルでルートを作るけれど、スペインでは起伏が少ないせいだろうか山の尾根と尾根を一直線で結ぶルートを作ってしまうようだ。だから下り坂の場所では眼下に広がる広大な大地が見渡せる場所が多くあって、その大きさ、広さに、つくづくヨーロッパは大陸だったのだと気づかされその広大さに驚愕していた。マドリードからの初日としては走りすぎの約470kmを走破しグラナダのホテル「アンダルシア・センター」に夕刻無事チェックイン。ちなみに此の頃のスペインの日の出は現地時間の朝8時ごろ、日の入りが午後8時ごろだから夕刻と言っても結構遅くまで明るいので安心して走ることができる。
アルハンブラ宮殿
アルハンブラ宮殿全てがチケットを求められる訳ではなく無料で観れる場所もあります。写真は裁きの門。

グラナダはイスラム王朝ナスル朝グラナダ王国の首都で世界的にも有名なアルハンブラ宮殿がある街。これを見逃すわけにいかないということで翌朝7時30分にはアルハンブラ宮殿に向かいチケットを購入のため窓口に行くも、本日のチケットは売り切れ。ガビーン! アルハンブラ宮殿は一日の入場制限があり、あまりの人気に此のようなことが日常だそうだ。ちなみにチケットはインターネットで前もって予約購入ができるのだが、アルハンブラの中でも特に人気のナスル宮殿は時間指定をされるのでバイク・ツーリングでは当日券を当てにするしかない。ということでチケット購入に溢れた観光客とともにグラナダの旧市街へと引き返し、早々に次の目的地コルドバへとBMWロシナンテを走らせた。
コルドバもグラナダと同様に、かつてイスラム世界に支配された歴史を持つ異文化の融合都市で、イスラム教のモスクとキリスト教会とが合体した世界遺産メスキータで有名な街だ。スペインの街中はバイク駐車には便利というか寛容というか、路上や歩道上に駐車スペースが設けられていたり、そうでない場所でも勝手に停めているバイクが多く観光客の多いコルドバでも簡単に路上にBMWを停めてメスキータを観光できた。

カラオーラの塔
観光馬車
メスキータ
(左)カラオーラの塔は城塞都市コルドバの象徴。(中)街中には観光馬車が観光客を待っている。(右)イスラムとキリスト教の融合したメスキータの美しい装飾壁。
礼拝所
イコン
モスク
(左)メスキータ中央に位置するキリスト教会の礼拝所。(中)キリスト教会の証、イコン。(右)モスクであった証の馬蹄形アーチが連続する祈りの大空間は最も有名。

コルドバを後に高速A4を約140kmほど走り向かったのはスペイン文化の発祥の地、フラメンコと闘牛の本場と言われるセビーリャ。セビーリャには世界遺産で世界で三番目に大きいというセビーリャ大聖堂があり、多くの歴史遺産が残された観光都市で大きな街だ。到着早々に予約してあったゲストハウスにチェックインして、近くにあるスペイン広場へと観光に出かけた。セビーリャは観光都市なので良い宿泊施設が取りづらくホテルの値段も一般的に高いということで、お手軽でロケーションの良いゲストハウスにした。

スペイン広場は1929年に開催された万国博覧会の際に作られた比較的新しい施設なのだけれど、映画好きの私には外せないスポットなのだ。それは、1962年の映画あのイギリスの名車「ブラフ・シューペリア」にまたがるロレンスが主人公の『アラビアのロレンス』でイギリス軍が逗留するカイロのホテル、そして2002年公開の「スターウォーズ・エピソード2/クローンの攻撃」でアナキン達が惑星ナブーに着いた直後のシーンのロケ地なのだ。もちろんセビーリャ大聖堂も見学して街歩きも堪能したのだけれど、情けないことに早くも体調が下降気味、スペインに来る前にかかったインフルエンザが完全に治りきっていなかったせいと、スペインに入ってからの毎回の食事の量の多さが原因のようで早々にゲストハウスに戻って就寝。

観光馬車
スペイン広場
(左)セビーリャの街中にはたくさんの観光馬車が走っている。乗る前に値段交渉をするのが重要。(右)世界に数あるスペイン広場の中でもセビーリャが一番美しいのだそうだ。
セビーリャ大聖堂前
セビーリャ大聖堂前
(左・右)世界で三番目に大きいセビーリャ大聖堂前にはノスタルジックな馬車の駐輪場所と、並んで近代的なトラムの停車場があり、そのコントラストは形容しがたい不思議さがありました。また、大聖堂内にはあのコロンブスの墓があり、これから行くポルトガルと大航海時代を想起させてくれました。

翌朝はいよいよスペインからポルトガルのリスボンに向けての越境ツーリングへの出発だ。出発準備をしてBMWのエンジンをかけると燃料計が残り3分の1程度しか示していない。これはマズイとGoogle NAVIでガス・ステーションを検索するも適当な近さには見つからない。今まで燃料補給は高速道路上のサービスエリアで行ってきたが、意外と街中ではガス・ステーションが見つからない。おまけに高速上もガス・ステーションのあるサービスエリアの間隔が遠いところ(40〜50km)が多く、気をつけていないと焦る場面があったのだ。そこで是が非でも高速に乗る前に燃料補給をしなくてはと街中を流していると信号のある交差点のすぐ脇の歩道上にスタンドがあるではないか。後で解ったことだがスペインの街中では此の類のスタンドが多いようだ。給油するガソリンはE5 95という日本のレギュラーガソリン相当、日本のハイオクに相当するのはE10 98で銘柄はご存知「レプソル」と「セプサ」だ。ちなみにスペインの信号機は停止線の真上にあるため非常に見づらく、信号機の支柱に補助信号灯がつけられている。燃料が満タンになったところでリスボンに向けていざ出発。
(後編に続く)

信号機

信号機

(左)信号機の支柱には信号補助灯(赤色点灯)が付けられている。同じ支柱の上に本信号灯が付いている。(右)信号補助灯の上に付いているのが歩行者・自転車用信号機。歩行者用は時間表示も付いている。

ガソリンスタンド

街中のガソリンスタンドは交差点の歩道上に設置されていて、給油している車両の他一台分の待ちスペースしかない。


後編へ

2019/11/05掲載