街乗りから高速道路まで、幅広い乗りやすさ
今さら言うまでもないけれど、250ccクラスっていうのは、バイク業界にとって重要な意味を持つ。例えば免許取りたての初心者が初めて乗るバイクってケースも多いし、ベテラン勢やリターンライダーが久しぶりに乗るってハナシもよく聞く。
実際に乗り始めても、車検がなく、重量税や軽自動車税額も251cc以上と以下に分かれるし、消耗パーツのサイクルや燃費といったランニングコストだって250cc以下のメリットは計り知れない。
「久々にバイク乗りたいんだけど、なにがいいかな」
「普通二輪免許を取ったんですけど、どれにしよう」
そんな質問に「だったら250ccがイイよ」って答えることは少なくないだろうと思う。
その250ccクラスも、一時ヤバい時期があった。それが2006~08年頃。実はこの頃、「2006年排出ガス規制」があって、排出ガス規制値が厳しくなり、たくさんのモデルが生産終了を迎えたタイミングだったのだ。この頃、キャブレター車がインジェクション化されるケースが多かったのはそのためで、そこまでの改良コストをかけられない250ccクラスとしては、どんどんモデル数が減少。気が付くとビッグスクーターや空冷単気筒のお気楽トラッカーばっかりが250ccクラスのモデルとしてラインアップされるようになってしまう。
250ccがビギナーたちの入り口──ってことは、少年たちの熱狂を受け止めるモデルもあるべきなのに、そんなバイクなくなっちゃったな……。そんな2008年に発売されたのがNinja250Rだったのだ。フルカウルのスポーツバイク! 少年たちは沸き立った、と思う。
そして登場したNinja250Rは、既存のフレームに既存のエンジンを搭載し、フルカウルをまとって50万円以下の戦略価格設定でマーケットから大人気で迎えられた。買いやすい値段で、スポーツバイクの雰囲気ぷんぷん。
その少し前までのスポーツバイクの基準条件である「水冷4気筒DOHCエンジン+アルミフレーム+ラジアルタイヤ」なんてフルスペックじゃなかったけれど、ZZ-R250譲りのエンジンをフューエルインジェクションとし、ZZ-Rよりも出力は落ちたけれど、「オレたちの250」には充分なスペックを持っていた。
そう、初代Ninja250Rは、さして驚くほどのパフォーマンスを持っていたわけではない。それでも、水冷2気筒エンジンとトラスフレームの組み合わせのスポーツバイクは、軽快さや2気筒エンジンの期待値もあわせて可能性を見せていた。決してパワフルではないにしろ、充分に発進するトルクのあるエンジンは、常用回転域では穏やかに、高回転までブン回してみると、キビキビ走るパフォーマンスを見せてくれたのだ。
08年の初代モデル登場から15年。Ninja250Rは、車名から「R」がとれて(なんでだろーね)Ninja250となってフルモデルチェンジを2回。現行モデルは2018年に登場、23年モデルとして新規排出ガス規制をパスして発売されている。水冷2気筒エンジンを搭載したフルカウルスポーツモデル、という根っこは変わらず、初代モデルも、2度のモデルチェンジもテストしてきた身としては、こんなに完成度が上がったか、と感慨深い。
エンジンを始動するだけで、まずはエンジン回転がすごく上質になった。最新の23年モデルは、22年モデルに排出ガス対策を施したもので、ややガソリンを薄く吹くけれど、それが走りに影響を及ぼさない、という仕様。一発一発の爆発が、やや穏やかに角が取れたような印象だ。
発進もスムーズ。規制前までよりも2psもパワーダウンしているけれど、出足ではむしろ力強く感じるのは、ファイナルをショート寄りに変更しているからだろうか。発進やアクセルの開け初めで非力さを感じることはなかった。
発進からの常用スピード域の伸びは、パワーダウンを感じさせない軽快なもので、あっけないほど軽いクラッチは、ビギナーへの優しさを忘れていないことを物語っている。
穏やかに走ると3000~4000rpm、ちょっとペースを上げると6000rpmといったエリアに、ふたつの顔がある。スムーズに振動なく回る50~60km/hといったストリート域と、高速道路スピードの80km/h以上が6000rpm以上といったところ。120km/hで走っていると、エンジン回転数は約9000rpm、それでもエンジンに負担をかけてイジめている印象もないので、高速道路で距離を稼ぐのも苦にならない。街乗りから高速道路まで、軽快にも力強くも、スムーズに走ることができるのだ。
これをワインディングに持ち込むと、Ninjaのもうひとつの顔を見ることができる。Ninja歴代のキャラクターは、ずばり乗りやすさ。後発のCBR250RRは、ワインディングやサーキットランの強みがあるよう開発されたし、YZF-R25も倒立フォークを採用した後期モデルからグッとスポーツランに強くなった。
Ninjaだって、この方向のスポーツキャラクターを強めることはカンタンだったはずだけれど、街乗りからツーリング、それからワインディングもカバーする、幅広い乗りやすさを確保しているのがわかるのだ。
ワインディングでは、街乗りでソフトに感じた乗り心地のいいサスペンションも、荷重をかけていくとしっかり奥で踏ん張るコシを見せてくれるし、いつもフロントに荷重がかかっているような攻め攻めのハンドリングでもないのが乗りやすさを感じさせてくれるのだ。
スピードを上げていくと、リアサスの動きがよくて、ストロークしたところでまだ動く、余裕あるクッション性能を味わえる。キビキビ走るなら、メリハリをつけて、アクセルの開けと閉じをしっかり、車体をうまく上下に動かしてあげると気持ちがいい。
劇的に上手い人はCBRがいいかもしれない。初めてバイクに乗る人や、ほとんどワインディングに踏み入れないツーリングメインの人はGSX250Rがいいかも。それでも、街乗りでも高速道路でもワインディングでも、スポーツランを感じさせて、自分でコントロールする楽しさを味わいたいなら、これはNinjaだ。
この幅広さこそ、2気筒250ccスポーツの祖といえるNinja最大の魅力なのだと思う。
そしてNinja250Rは、ライバルメーカーにも小さくない影響を与えた。それは東南アジア生産で日本向けの仕様を作ること、水冷2気筒エンジンでフルカウルを採用し、そこそこの動力性能でも買いやすい製品とすること、という新世代250ccスポーツの基準点だ。
カワサキがNinja250Rを発売して以来、ホンダ、スズキ、ヤマハも同じ方法論で新世代250ccスポーツを発売。Ninja初登場から15年。あれから250ccは、国内4メーカーはもちろん、外国車にもモデルが増え、すっかり250ccマーケットも復調したと言っていい。これは、Ninjaはニッポンの250ccクラスを救った、と見ていいのだ。
さらにカワサキは2008年のNinja250Rで250ccスポーツにムーブメントを起こしたのと同じく、Ninja ZX-25Rで4気筒250ccスポーツに再度先鞭をつけ、また24年の秋にはNinja ZX-4Rで4気筒400ccスポーツモデルの発火点を作ろうとしている。
そして、カワサキが進めている電動やハイブリッドな「非ガソリンエンジン車」では、このNinja250を車体やサイズのべースをして開発が進められている。
Ninjaの存在意義は、ますます大きくなっている。
(試乗・文:中村浩史、撮影:森 浩輔)
■エンジン:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:248cm3 ■最高出力26kW(35PS)/12,500rpm ■最大トルク:22N・m(2.2kgf・m)/10,500rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:1,990×710×1,125mm ■軸間距離:1,370mm ■シート高:795mm ■タイヤ(前・後): 110/70-17M/C 54H・140/70-17M/C 66H ■燃料タンク容量:14L ■車両重量:166kg ■車体色:メタリックマグネティックダークグレー×メタリックマットトワイライトブルー、メタリックカーボングレー×メタリックマットカーボングレー[ライムグリーン×エボニー] ■メーカー希望小売価格:671,000円[671,000円] ※[]はKRT EDITION
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