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試乗・解説

2018年のモデルチェンジで大きな進化を果たした、パラツインのニンジャ250。登場から10年、車体もエンジンも全面的に見直し、輸出もされる400cc版と共に生まれ変わったのが、実はそんなに前の話ではない。わざわざオートポリスでプレス向け試乗会が行われたほど熱の入ったこのニンジャ、話題の4気筒Ninja ZX-25Rと同時試乗で改めて感じてみた。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信 ■協力:Kawasakihttps://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/ アルパインスターズ https://www.alpinestars.com/




熟成熟成また熟成

 カワサキは、例えば最初のZ1だとか、最初の900ニンジャなどのエンジンを長く使って熟成させた。いずれも最初からかなり余裕を持たせて作り、その後の進化や排気量アップも考慮していたのだろう。パフォーマンスアップと共に初期型に対して出た要望や改善点に対処し熟成させるのは、得意なメーカーかもしれない。
 ニンジャ250は遡れば1985年のGPZまで辿れる。もう少し最近の車種では、ZZR250に搭載されていたエンジンの系譜で、それを様々な環境規制に対応させるため作り直し、インジェクション化してタイで作るようになったのが、このニンジャ250。現行ニンジャ250は2018年にモデルチェンジしたばかりである。
 このモデルチェンジ、車体を根本的に見直して軽量に仕上げ、しかも400と共通にし、そしてエンジンはダウンドラフト吸気になってパワーもアップ。輸出メインとなるであろう400で妥協なく作り込んだのを250にも落とし込んだことで、ものすごく内容の濃いフルモデルチェンジとなり、もはやGPZの熟成版とは言いにくいほど素晴らしい現代のバイクに生まれ変わっているのだ。
 

 

隠れてしまった名機

 同時に試乗できたZX-25R、いわゆる4気筒ニンジャが出たおかげで(そちらの記事も併せてお読みくださいませ!)、今はツインのニンジャがちょっと隠れた存在というか、目立たなくなっているタイミングかもしれない。話題を4気筒に持っていかれるのは仕方がないことかもしれないが、しかし改めて2気筒と比べて乗るとツインの良さもたくさん見えてきた。
 特にエンジン、これは非常に良い。存在価値や思い入れなどそういった数値化しにくい尺度は置いておいた場合、個人的にはZX-25Rよりもこのツインの方が使いやすく、フレキシブルなうえ、公道ワインディングという環境においては楽しいと感じる場面もより多いんじゃないかというのが本心だ。
 レッドゾーンは13500回転からのためかなり高回転型と言えるだろう。以前の型や先祖であるZZRに比べるとツインらしい低回転トルクでラクして走るというよりは回して楽しむタイプの味付けになっており、アクセルに回転がついてくるのは5000回転から先というイメージ。元気なパワーが出始めるのは9000回転からで、そこから上の領域で走らせていると峠道レベルでは4気筒と遜色ない元気な加速が得られて滅法楽しい。レッドに近づいていっても苦しさが出てこず元気に回り切り、レッドに入ってからの頭打ちもナチュラルで電気的にカットされる感覚はない。だからコーナーによってシフトアップするべきかどうか悩むような場面で、シフトアップせずにそのまま引っ張り切って飛び込んでいくというようなこともでき、そういう意味でもフレキシブルで使いやすかった。
 

 
 一方で低回転域はツインだからと言ってそんなにトルクフルというわけでもない。3000回転付近でダラダラ走ることも可能だが、意図した加速を得るのは難しくやはり5000回転は維持しておきたいところ。ただ、この5000回転までの回転域がとてもスムーズで何のストレスもなく到達してくれ、かつ5000回転を維持するために低めのギアで四輪の後ろについていっても、気になる振動や排気音のうるささなど、その回転域で何もイヤな感じが無いのだ。フリクション感は皆無で、意識せずとも自然と使いやすいパワー域を使わせてくれるのは素晴らしい特性に感じた。
 なお5000回転を割ったとしてもそういった低い回転域でのトルクフルさは4気筒に比べればまだまだ使いやすいもので、クルージング中に緩やかな登り坂に差し掛かったような場面でシフトダウンを強いるようなことはなかった。
 話題という意味では確かに4気筒に持っていかれてはいるニンジャ250。しかしモデルチェンジしてまだ日は浅く、しっかりとアップデートされているモデルだと認識したい。特にエンジンについては名機だと強く訴えたい。
 

 

引き継がれる接しやすさ

 エンジンが絶品で思わず先に書いてしまったが、跨った瞬間のホッとする感じは、この型ではだいぶスポーティ方向へのモデルチェンジであったにもかかわらず、ニンジャらしく健在だった。初代ニンジャもフルカウルモデルではあるもののかつてのレプリカたちのようにスポーツだけを見据えたものではなく、90年代ネイキッドのように低いシート高と楽チンポジションのハンドル、良好な足着き性を持っていたが、この型も同様。とにかくシートの低さと車体のスリムさが素晴らしいと感じ、万能感が変わっていないことに安心できる。
 特にシートの低さからくるライダー重心の低さは走る時の安心感にも大きく繋がっているだろう。路面が近いと普段使いにも、そしてワインディングを楽しむときにも感覚的に怖さが少なくなるようなイメージで、またハンドル位置が高いため上体が起きていて、公道においては特に遠くまで見渡せることでそれもまた安心感、そして安全に繋がる。
 4気筒の方から乗り換えるとスリムなのも印象的だ。少し前までDトラッカーのシングルエンジンを搭載したニンジャSLというモデルがあり、スリムでヒラヒラとした運動性の魅力を発信していたが、4気筒がある今このツインがその役割を引き継いでいると思う。手の内、股の内に収まっている感覚が強く、「これなら何とかなるな」と走り出す前から、そして走り出してからも自信をもって接することができると感じた。
 

 

軽快さは危うさを内包する?

 パワー的には4気筒に譲るが、こっちにはスリムさや軽さといった強みもある。実際にワインディング路を走り回るとそれら要素が相殺され、実際のスポーツペースはほぼ変わらないと言えた。速度域の低い道ならむしろツインの方が有利にも思える。
 やはり軽さは武器であり、スピードを保ったままコーナーに放り込める感覚はツインの方が上。またブレーキはシングルディスクにピンスライドキャリパーというベーシックな装備なのにこのツインの方が鋭い。ヒラリヒラリとコーナーをこなしたならば、早め早めにアクセルをワイドオープン。パワーバンドが広く、また先述したように回し切った時の我慢が効くうえ、エンジンブレーキもマイルドなためコーナーのアールが想定外だったような場合でも帳尻合わせが容易で、走りのリズムを乱すことなく楽しいペースを維持することができた。
 しかし一方で4気筒のような安定感は少ない。スイングアームや正立フォークなど足周りはベーシックなものだし、タイヤもこちらはバイアスの設定。特に路面が荒れている場所や、減速帯舗装が施されている路面ではサスのバタバタ感が車体に伝わり、それを抑え込むためしっかりとニーグリップしたりする必要がある。それがわかっていれば対処は難しくないのだが、4気筒の方は同じ場面でもグッと安定していたため高級感が感じられたのは事実だ。もっとも、ラジアルタイヤの恩恵によるところも大きいだろうが。
 

 

 
 またライダーの姿勢が起きていることは余裕を生む一方で、特にZX-25Rと比べると前輪が遠くに感じてしまうこともあった。フロントタイヤにしっかりと仕事をさせるために、コーナーでは意識的に前傾姿勢をとったり、ブレーキを活用してピッチングモーションからフロントに荷重を乗せるようなことをした方が旋回力が生まれ、接地感も同時に増えるため安心感も増えるようだった。
 こういった特性はかつてのニンジャSLがそうであったように、ライダーが意志や意図をもってバイクを操作する感覚につながりそれが楽しさでもあるため「危うさ」とは言いたくない。そんな感覚は「バイクを操る感覚を楽しむ」ということとオーバーラップしている部分だからだ。しかしZX-25Rと直接乗り比べると、あちらの方が楽ができるというか、外乱に強いぶんどんな路面でもびっくりさせられるような反応にでくわすことが少ないというか……そういう感覚は「高級感」にも変換されるため、相対的にツインのニンジャはベーシックに感じることもあるかもしれない。
 

必要十分だけど、比べると、ね。

 直近のモデルチェンジは、それはもう熱の入ったもので素晴らしい進化をしていると感じるが、当然というか、それに伴い値段もアップしている。それでも4気筒よりはかなり抑えた価格で手が出しやすいということがあるのだが、ZX-25Rと比べると、モデルチェンジ時にコストをかけた部分は主に走りの性能だったんだな、などとも思ってしまった。
 というのも、例えばブレーキやクラッチのレバーに握り代を調整するダイヤルがなかったり、スイングアームのチェーン引き機構の所の作りがベーシックであったり、ETCの表示灯がメーター内ではなく独立して付けなければいけなかったりと、そういった部分ではまだコストを重視した設定だと感じたためだ。ツインのニンジャだけ乗っておけば別段これらの項目が気になることではない。機能としては申し分ないし、走りに直接影響する部分ではない。しかしひとたび気付いてしまいZX-25Rと色々見比べ始めると、車体細部のデザイン処理など含めて、やっぱり4気筒の方が全体的にそういったプラスアルファの部分が充実しているだけでなく、色気というか高級感というか、ワンランク上だと言わざるを得ない。
 重ねて言うが、あくまで直接比べて初めて気づくことである。しかもツインがチープと感じるわけでもない。ただ、その車両の、カワサキラインナップ内でのポジショニングが、各種装備や細部の処理から読み取れることは、事実だな、と思ったわけだ。
 

 

万人受けする「良いヤツ」

 ZX-25Rの方の記事では、4気筒にはベテランよりもむしろ若手ライダーに乗って欲しいと書いたが、このツインに関しては誰にでも薦められるな、というのが感想だ。ZX-25R同様にスポーティな250ccを楽しみたい層にも、通勤通学含めたストリートバイクとして乗りたい層にも十分薦められるスポーティさと汎用性を備えたモデルであり、価格的にも4気筒に比べると手が出やすい。もう一つ加えたいのは、排気音が静かなのも良いポイントだと思ったこと。4気筒よりもそもそもの消音が良いという印象だったし、ツインの特性ゆえ4気筒ほど回さずとも走れるため、音が大きくなる高回転域を使う機会が少ないということもあるかもしれないが、何にしても、日常的に使うバイクなら生活環境的にも対外的なイメージ的にも静かに越したことはない。
 幅広い場面で活躍できる実用スポーツ車として万能に使うほかに、ベテランライダーにとっては手を加える趣味のバイクとしての楽しみもあるだろう。ラジアルタイヤに交換しただけでかなり性格が変わるだろうし、既にロングセラーモデルであることを思えばカスタムパーツやカスタム手法もたくさん存在するわけである。そして例えばサーキットを走ろうといったことを思っても、サスペンションのセットアップ等、既に様々なノウハウがもう確立されているわけで、セカンドバイク、サードバイク的に、アソビの一台として楽しむのもアリだと思う。
 4気筒の登場と人気で話題に上る機会が減ったツインのニンジャだが、今回は2台を乗り比べて大変に興味深く、ツインの実力・魅力もまた再確認することができた。250ccクラスにツインと4気筒両方をラインナップしてくれるカワサキに感謝しつつ、大いに悩んで選びたい。
 

 

ライダーの身長は185cm。

 

熟成を重ねてきた、と本文中に書いたが、このエンジンになってからはまるっきり生まれ変わったような印象。フリクション感少なくとてもスムーズにフケ上がり、高回転域も大変元気だ。日常領域でも以前の型ではたまに見られたトルクの谷というか、回転のつながりの不安定さのようなものは全くなくなっており、完全に生まれ変わったと言っていい。ダウンドラフト吸気を採用するなどしてパワーは37馬力を発揮する。

 

1000ccまでラインナップするニンジャシリーズと共通する顔は、LEDのヘッドライトも同様に採用。ツインニンジャでは空気の取り入れ口はなくツルッとスマートな印象だ。
テールランプユニットはZX-25Rと共通ながら、テールカウル自体はむしろこちらの方が凝った作りで、こまかなレイヤードデザインが魅力的だ。タンデムや荷物の積載を考えるとタンデムシートの面積は少なめか。

 

定番の正立フォークと110幅のバイアスタイヤは、ヒラリとした軽い操作感を提供。シングルディスクに2ポッドのピンスライドキャリパーも一見ベーシックな装備に見えるが、ブレーキの効きは(車体の軽さも手伝ってか)ZX-25Rよりもむしろ良く感じた。
スイングアームは直線的な、一般的なもの。リアホイールは4インチ幅に140サイズのバイアスタイヤを装着。サスペンションはZX-25Rのような水平に近いレイアウトではなく、直立に近い一般的なリンクタイプを採用する。

 

新設計のフレームはピボットレスタイプのため、スイングアームはプレートを介してエンジンへと直付けされ、最適な車体剛性と軽量化を実現している。ツインニンジャはオプションでもクイックシフターは設定されていないが、しかしミッションは非常にスムーズでクラッチを使わずともアクセル操作のみでスルリとギアチェンジできて爽快だ。
右側に筒状のサイレンサーが出る排気系。ZX-25Rの腹下マフラーに対して、この点だけでもマスが分散している感覚がある。ただそれは悪い意味ではなく、どこか安心感も伴うもの。排気口がライダーから遠いということも手伝っているだろうが、排気音はかなり静かに感じられた。

 

14LとZX-25R比では若干容量が少ないタンクだが、燃費効率を考えると航続距離はむしろ有利だろう。スリムな形状は足着き性にも寄与している。
低いシート高とスリムな車体で足着き性が良好なだけでなく、ライダーの重心とバイクの重心が近くに感じられ、自信を持たせてくれる大切な要素になっていると思う。タンデムシートは車体横のキーで、メインのシートはタンデムシート下のワイヤーでワンタッチ着脱。ETCユニットやバッテリーへのアクセス良好だ。

 

多機能デジタルとアナログのタコメーターという一般的なメーターはZX-25Rと極めて似たデザイン&各種機能。ETCの表示がメーター内に出ないのだけが残念だが、近いうちにアップデートされることだろう。ハンドルはトップブリッヂの上に装着され楽チンポジション。ブレーキの握り代調整機能がないのは寂しい。

 

カワサキお約束の荷掛けフックはもちろん装備。独立タイプのヘルメットホルダーも備え、デイリーユースをサポートしてくれる。
車体左にはオプションのDC電源ソケットが装着されていた。他にフレームスライダーやハイシート、大型ウインドシールドなど純正オプションは豊富だ。

 

Ninja 250 [KRT EDITION] Specification
■エンジン:水冷4ストローク直列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:248cm3 ■最高出力27kW(37PS)/12,500rpm、23N・m(2.3kgf・m)/10,000rpm ■変速機:6段リターン ■全長×全幅×全高:1,990×710×1,125mm ■軸距離:1,370mm ■シート高:795mm ■タイヤ(前・後): 110/70-17M/C 54H・140/70-17M/C 66H ■燃料タンク容量:14L ■車両重量:166kg ■車体色:メタリックカーボングレー[ライムグリーン×エボニー] ■メーカー希望小売価格:643,500円[654,500円] ※[]はKRT EDITION

 


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| 2018年、『Ninja250の逆襲が始まった』の記事はコチラ旧PCサイトに移動します→) |

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2021/01/04掲載