全日本ロードレース選手権J-GP3クラスは、4ストローク250単気筒のレーサーで争われている。コーナーリングスピードの高さが特筆、そのスピードを維持しながら抜きつ抜かれつのバトルは、小排気量ならではのテクニックが必要であり、見どころでもある。ホンダNSF250Rが主流だが、KTMも参戦している。
2021年は、世界ロードレース選手権(WGP)経験もある尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED・ホンダ)が2016年ぶりに小排気量クラスに復帰した。その尾野と、引退を決めた小室旭(KTM)との対決が焦点となり、同ポイントで並び勝利数で尾野がチャンピオンを決めた。
2022年、小室は引退し、尾野はV2を目指す。誰もが尾野の独壇場となることを予想した。尾野は「全戦全勝」を掲げる。だが、開幕戦もてぎでは、昨年ランキング7位、最高位は5位の木内尚太(Team Plusone・ホンダ)がただ一人、1分59秒921と2分を切りポールポジション(PP)を獲得、決勝は尾野との激闘を制して初優勝を飾る。尾野の全戦全勝の目標が崩れる。
尾野は2戦目のSUGO戦で上原大輝(Team Plusone・ホンダ)、若松怜(Bowcs.SRK Racing・ホンダ)、木内とのトップ争いを繰り広げた。木内が転倒し、3台のバトルを制したのは尾野。3戦目筑波、尾野がPP、2番手に木内、3番手は上原がつけ、この3人の戦いとなる。上原はファステストラップを更新する走りを見せレースをリード。最後は赤旗中断でそのままレース成立となるが、昨年はST600参戦しランキング21位だった上原が、今季はJ-GP3参戦開始して3戦目で初優勝を飾り、2位尾野、3位木内となる。
4戦目オートポリス、木内がPP、予選2番手の上原が決勝グリッドでマシンが倒れ、レースディレイで最後尾スタートとなる。尾野と木内とのトップ争いに上原が追いつき、3台のバトルに発展。尾野が制して2位木内、3位に驚異的な追い上げを見せトップ争いに追いついた上原が入る。
5戦目岡山国際、尾野が自ら持つレコードを破りPP。台風の影響を考え19周から15周へと短縮された決勝は、雨の影響が残る微妙なコンディションの中、尾野が3連勝を飾り、2位上原、木内は3位で表彰台に登る。
最終戦鈴鹿、尾野が115Pでランキングトップ。2位上原は97P、3位木内が77Pで、チャンピオン争いは尾野、上原のふたりに絞られた。予選では尾野、上原、木内の3人による熾烈なタイムアタック合戦となる。PPを獲得した木内は「尾野さん攻略のため、チームメイトの上原とスリップを使いあって、タイムを上げようと作戦が上手く行った」と終盤に木内がコースレコードに迫る2分16秒592に入れてPPを獲得、2番手上原、3番手尾野となる。
晴天となった決勝日は13周でスタートするが、転倒者が出て赤旗中断。6周終了時点での順位で周回数は5周でレースが再開される。ホールショットは尾野、木内、上原と続いて1コーナーに進入。ダンロップコーナーで木内が尾野をかわしてトップ浮上、バックストレートで尾野がトップを奪い返す。上原も木内をかわして2番手に浮上。上原はシケイン進入で尾野をかわすとトップに浮上する。木内と尾野がバトルをしている間に上原が逃げ2勝目のチェッカーを受け、木内は尾野をシケインで抜くが、ホームストレートで尾野が抜き返して2位を死守。3位に木内、その差は0.005秒の瞬きにも満たない差だった。尾野は2位に入り、2年連続でシリーズチャンピオンを獲得した。
最終戦鈴鹿を終え、尾野は「いつもの自分なら勝つことに拘って、無理に攻めて転んでいたかも知れない。でも、その気持ちをコントルールすることが出来たことが嬉しい」と自身の成長を語った。その尾野の前を走った上原は「最終戦は最高の勝ち方が出来た」と語り、木内は「悔しいレースになった。自分の足りないことを考えて、力のあるライダーになる」と誓った。
シーズン開幕前は予想もしていなかった上原、木内の台頭が、レースを興味深いものにした。世界GPのMoto3ライダーとしてトップ争いをしてきた尾野のプライドと力、チャンスを掴もうとする若手ふたりの戦いがレースを盛り上げた。上原、木内の所属するTeam Plusoneは、小排気量の王者を輩出している名門チーム。尾野のP.MU 7C GALESPEEDも同様にチャンピオンを数多く生んで来た名門チームだ。そのチームの力に支えられた戦いはレース毎に熾烈さを増した。また、木内、上原がブリヂストンタイヤを装着、尾野はダンロップタイヤの開発ライダーとして参戦、タイヤメーカーの対決でもあった。
オートポリスで勝利した尾野の喜ぶ姿が新鮮だった。世界を知る実力者の尾野が、驚喜するほどの激烈な戦いに、上原、木内が押し上げたことの証だった。尾野は「ふたりのおかげで、今年の戦いはレベルが各段に上がった」と言う。来季、何事もなければ尾野はV3を目指す。その尾野を倒そうと、今度は、誰が立ち上がることになるのか興味は尽きない。
(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)
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