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レース・イベント

2022年全日本ロードレース選手権は、JSB1000は中須賀克行(ヤマハ)が11回目のタイトルを決め、ST1000は渡辺一馬(ホンダ)がV2を達成。ST600は荒川晃大(ホンダ)が初の栄冠に輝いた。J-GP3は尾野弘樹(ホンダ)が2年連続チャンピオンを決めた。その熾烈な戦いでチャンピオンとはならなかったが印象に残る戦いをしたライダーにフォーカスを当てて、今季の戦いを振り返ってみた。ラストはJ-GP3編だ。
■文:佐藤洋美  ■写真:赤松 孝

 全日本ロードレース選手権J-GP3クラスは、4ストローク250単気筒のレーサーで争われている。コーナーリングスピードの高さが特筆、そのスピードを維持しながら抜きつ抜かれつのバトルは、小排気量ならではのテクニックが必要であり、見どころでもある。ホンダNSF250Rが主流だが、KTMも参戦している。

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 2021年は、世界ロードレース選手権(WGP)経験もある尾野弘樹(P.MU 7C GALESPEED・ホンダ)が2016年ぶりに小排気量クラスに復帰した。その尾野と、引退を決めた小室旭(KTM)との対決が焦点となり、同ポイントで並び勝利数で尾野がチャンピオンを決めた。

 2022年、小室は引退し、尾野はV2を目指す。誰もが尾野の独壇場となることを予想した。尾野は「全戦全勝」を掲げる。だが、開幕戦もてぎでは、昨年ランキング7位、最高位は5位の木内尚太(Team Plusone・ホンダ)がただ一人、1分59秒921と2分を切りポールポジション(PP)を獲得、決勝は尾野との激闘を制して初優勝を飾る。尾野の全戦全勝の目標が崩れる。

 尾野は2戦目のSUGO戦で上原大輝(Team Plusone・ホンダ)、若松怜(Bowcs.SRK Racing・ホンダ)、木内とのトップ争いを繰り広げた。木内が転倒し、3台のバトルを制したのは尾野。3戦目筑波、尾野がPP、2番手に木内、3番手は上原がつけ、この3人の戦いとなる。上原はファステストラップを更新する走りを見せレースをリード。最後は赤旗中断でそのままレース成立となるが、昨年はST600参戦しランキング21位だった上原が、今季はJ-GP3参戦開始して3戦目で初優勝を飾り、2位尾野、3位木内となる。

 4戦目オートポリス、木内がPP、予選2番手の上原が決勝グリッドでマシンが倒れ、レースディレイで最後尾スタートとなる。尾野と木内とのトップ争いに上原が追いつき、3台のバトルに発展。尾野が制して2位木内、3位に驚異的な追い上げを見せトップ争いに追いついた上原が入る。

 5戦目岡山国際、尾野が自ら持つレコードを破りPP。台風の影響を考え19周から15周へと短縮された決勝は、雨の影響が残る微妙なコンディションの中、尾野が3連勝を飾り、2位上原、木内は3位で表彰台に登る。

 最終戦鈴鹿、尾野が115Pでランキングトップ。2位上原は97P、3位木内が77Pで、チャンピオン争いは尾野、上原のふたりに絞られた。予選では尾野、上原、木内の3人による熾烈なタイムアタック合戦となる。PPを獲得した木内は「尾野さん攻略のため、チームメイトの上原とスリップを使いあって、タイムを上げようと作戦が上手く行った」と終盤に木内がコースレコードに迫る2分16秒592に入れてPPを獲得、2番手上原、3番手尾野となる。

 晴天となった決勝日は13周でスタートするが、転倒者が出て赤旗中断。6周終了時点での順位で周回数は5周でレースが再開される。ホールショットは尾野、木内、上原と続いて1コーナーに進入。ダンロップコーナーで木内が尾野をかわしてトップ浮上、バックストレートで尾野がトップを奪い返す。上原も木内をかわして2番手に浮上。上原はシケイン進入で尾野をかわすとトップに浮上する。木内と尾野がバトルをしている間に上原が逃げ2勝目のチェッカーを受け、木内は尾野をシケインで抜くが、ホームストレートで尾野が抜き返して2位を死守。3位に木内、その差は0.005秒の瞬きにも満たない差だった。尾野は2位に入り、2年連続でシリーズチャンピオンを獲得した。

 最終戦鈴鹿を終え、尾野は「いつもの自分なら勝つことに拘って、無理に攻めて転んでいたかも知れない。でも、その気持ちをコントルールすることが出来たことが嬉しい」と自身の成長を語った。その尾野の前を走った上原は「最終戦は最高の勝ち方が出来た」と語り、木内は「悔しいレースになった。自分の足りないことを考えて、力のあるライダーになる」と誓った。

 シーズン開幕前は予想もしていなかった上原、木内の台頭が、レースを興味深いものにした。世界GPのMoto3ライダーとしてトップ争いをしてきた尾野のプライドと力、チャンスを掴もうとする若手ふたりの戦いがレースを盛り上げた。上原、木内の所属するTeam Plusoneは、小排気量の王者を輩出している名門チーム。尾野のP.MU 7C GALESPEEDも同様にチャンピオンを数多く生んで来た名門チームだ。そのチームの力に支えられた戦いはレース毎に熾烈さを増した。また、木内、上原がブリヂストンタイヤを装着、尾野はダンロップタイヤの開発ライダーとして参戦、タイヤメーカーの対決でもあった。

 オートポリスで勝利した尾野の喜ぶ姿が新鮮だった。世界を知る実力者の尾野が、驚喜するほどの激烈な戦いに、上原、木内が押し上げたことの証だった。尾野は「ふたりのおかげで、今年の戦いはレベルが各段に上がった」と言う。来季、何事もなければ尾野はV3を目指す。その尾野を倒そうと、今度は、誰が立ち上がることになるのか興味は尽きない。

(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)

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2023/01/16掲載