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レース・イベント

2022年全日本ロードレース選手権は、JSB1000は中須賀克行(ヤマハ)が11回目のタイトルを決め、ST1000は渡辺一馬(ホンダ)がV2を達成。ST600は荒川晃大(ホンダ)が初の栄冠に輝いた。J-GP3は尾野弘樹(ホンダ)が2年連続チャンピオンを決めた。その熾烈な戦いでチャンピオンとはならなかったが印象に残る戦いをしたライダーにフォーカスを当てて、今季の戦いを振り返ってみた。パート3はST600編だ。
■文:佐藤洋美  ■写真:赤松 孝

 全日本ロードレース選手権ST600は、スーパースポーツモデルとして2001年に創設された。スタンダードマシンで戦っていたが、2007年からフロント、リアともサスペンションの変更が出来るようになり、セッティングの幅が広がった。2015年からブリヂストンタイヤのワンメイクとなり、タイヤ使用本数が設けられている。ホンダCBR600RR、ヤマハYZF-R6が熾烈な争いを見せている。全日本で一番の参戦台数を誇る人気クラスだ。

以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

 昨年チャンピオンを獲得した埜口遥希(ホンダ)はアジアロードレース選手権(ARRC)ASB1000に参戦、ゼッケン1不在の戦いとなった。ホンダ勢は世界で戦っていた羽田太河(TN45withMotoUPRacing)、國井勇輝(SDG Motor Sports RT HARC-PRO.)らが参戦を開始した他、タイトル奪還を狙う実力者・小山知良(JAPAN POST HondaDream TP)、若手有望株の荒川晃大(MOTOBUM HONDA)。ヤマハ勢は長尾健吾(TBB TEAMKENKEN YTch L8・ヤマハ)、阿部恵斗(Team 51 GARAGE YAMAHA)、井手翔太(AKENO SPEED・YAMAHA)と充実したラインアップで、開幕前から激戦が予想されていた。

 開幕戦もてぎ、予選は上位5台がレコード更新、荒川がポールポジション(PP)を獲得、唯一の1分52秒台で速さを見せる。決勝は6台の激しい争いが最終ラップまで続き羽田が勝つ。2戦目SUGOは2レース開催となり、荒川がPPを獲得。レース1を制したのは小山、レース2は荒川が優勝。3戦目のオートポリスでもPPは荒川、決勝は井手が首位に立ち、荒川、阿部の3台が熾烈なトップ争いを展開、阿部が最終ラップの攻防で前に出て勝ち、荒川、井手の順となった。井手は「残り5ラップで勝てたと思った。その瞬間にペースが落ちた。チェッカーまで全力という当たり前を思い知った」と語る。

 5戦目岡山国際、激しいタイムアタック合戦が繰り広げられ上位16台がレコード更新、PPは阿部が獲得する。決勝は台風の影響を考え周回数減算、決勝スタートするが序盤に転倒者が出て赤旗中断、レースディレイとなるが、スタート直後の雨で1コーナーで多重クラッシュが発生し、再び赤旗。再々スタートで10周の戦いとなり長尾が優勝する。ここまで5戦を消化して、全て勝者が異なる激闘が続いた。

 最終戦はタイトル決定戦となり、荒川が97ポイント(P)と小山が81Pで、この2人にシリーズチャンピオン争いが絞られた。荒川がコースレコードを更新する2分10秒776をマークしてPPを獲得する。決勝でホールショットは小山が奪い荒川、長尾、國井が続く。S字の進入で荒川が小山をかわしてトップに浮上。S字の國井が小山をパス、130Rで井手が小山を交わして3番手に浮上する。3周目のS字で井手が國井をかわして2番手浮上、4周目にはトップに浮上する。井手は最終ラップに入ってもペースを緩めることなく2番手以下を突き放して優勝を飾る。2位に小山、3位國井となる。4位に入った荒川がタイトルを決めた。新たな王者誕生にサーキットは沸いた。荒川は6戦中5戦でPPを獲得、常にトップ争いに絡む走りで表彰台をゲット、昨年逃したチャンピオンを引き寄せた。

 そして井手は、6人目の勝者となった。

「最終戦鈴鹿は、レースウィークに入って走り始めた時から勝てるという予感があった。PPは荒川選手だったけど、自分のアベレージに自信があった。セッティングを変えずに走り込んで、ずっと、落ち着いてスケジュールを消化することが出来た。決勝ではスタートから冷静で、1周毎にターゲットのライダーの走りを観察して勝負所を判断することが出来た。その計画通りに前に出た。チェッカーの瞬間は勝ったと思ったけど、嬉しいとかの感情が沸いてきたのは夜、ホテルに戻ってベッドに倒れ込んだ時。ひとりになって、あぁ~、勝ったんだなって実感があふれ出た」

 井手は2017年にヤマハ主催の若手アジアライダーの育成プログラムでイタリアのロッシスクールに参加した期待のライダーだ。2018年に全日本参戦を開始するが、低迷してレースを辞めようと考えるほどに落ち込むが「やっぱり走りたい」と留まり、2020年からST600参戦開始。昨年からトップに迫る走りを見せるようになるがランキング12位。それが、今季はランキング4位へと急位浮上した。

 この飛躍には「鈴鹿8耐に参戦したことが大きい」と語る。ロードレース世界選手権チャンピオンの原田哲也が初の監督に挑んだNCXX RACING & ZENKOUKAIからARRC・ASB1000の伊藤勇樹、全日本ST1000の南本宗一郎と組んでSSTクラスで参戦、SST予選ポールポジション獲得、総合11位、SST決勝2位、総合16位となった。チームの末っ子として監督、ライダーから厳しくも温かい指導を受けてメキメキと腕を上げ、初めて駆る1000でそのポテンシャルを示した。

 伸び盛りの才能がひしめくST600、2020年チャンピオンを獲得した岡本裕生は、2021年はST1000にステップアップして、2022年はヤマハファクトリーに迎えられ、王者・中須賀克行のチームメイトとなった。2021年の埜口はARRC・ASB1000に新たな活路を見出す。2022年タイトルを獲得した荒川は、来季はST1000に挑戦を開始することを表明している。

 井手は「来年はしっかりチャンピオンになって、実力を付けて岡本選手のようにヤマハに入れるようなライダーになりたい。みんなは世界に行きたいというけど、自分の憧れは中須賀さんです。あんなふうに勝ち続けるライダーになりたい」と語る。

 来季も、レース界を担う才能が渋滞するクラスから、新たなスターが生まれる。

(文:佐藤洋美、写真:赤松 孝)

[Part2 ST1000編へ]

2023/01/11掲載