全日本ロードレース選手権ST1000クラスは2020年にスタートした。Honda CBR1000RR-R、YAMAHA YZF-R1、SUZUKI GSX-R1000R、KAWASAKI ZX-10RR、BMW S1000RR、Aprilia RSV4など国内外の最新リッタースーパースポーツによって争われている。
JSB1000に比べ、より改造範囲が狭く、市販状態に近い(ストック仕様)。だが、ベース車両は200馬力近いハイパワーを持ち、JSB1000より重く、ブレーキも市販車のキャリパーを使わねばならない。タイヤはダンロップ指定のワンメイク、ドライタイヤが2スペック登録され、どれを使うかは自由だが、予選、決勝とタイヤ使用本数は限られている。
JSB1000へとステップアップする若手育成のためのクラスだが、実力派のライダーたちがこぞって参戦して熾烈な戦いが繰り広げられている。初年度チャンピオンはロードレース世界選手権(WGP)参戦経験のあるJAPAN POST HondaDream TPの高橋裕紀が獲得した。2021年は高橋が世界耐久選手権参戦をメインとし、カワサキワークスライダーの経験もあるAstemo Honda Dream SI Racingの渡辺一馬がチャンピオンに輝いた。
今季、高橋は全日本の戦いに専念、V2を狙う渡辺とのチャンピオン対決になると思われていた。だが、ST1000参戦を開始したTOHO Racingの國峰啄磨が割って入る。國峰は海外レースを経験、帰国して2013年にJ-GP3でトップ争いを見せるが、最上位ランキングは2位。2017年からST600参戦を開始するが、ここでも最高ランキングは2位と、速さを生かし切れずにいた。自身が「メンタルが弱くて、いい流れで来て、予選でポールポジションを取れても、決勝ではガチガチになってしまう」のだと悩みを抱えていた。足りないのは「自信」だけだと、本人も回りも気が付いていた。
2022年JSB1000に参戦する清成龍一がチームメイトとなった。清成は世界で活躍した実績を持ち日本を代表するトップライダーだ。清成の存在が國峰を救う。清成は開幕前のテストでケガを負い欠場を余儀なくされる。國峰は開幕戦もてぎのST1000に参戦して4位となり、清成の代役ライダーとして鈴鹿2&4とオートポリス2&4の4レースをJSB1000参戦する。9位&12位、9位&7位で走り切り、清成から「これだけ走れたらST1000は行ける」と背中を押してもらう。
清成は國峰のグリッドにも駆けつけ、國峰の緊張をほぐそうと、レースとはまったく違う話をして國峰を笑わせた。「清成さんから自信をもらい、リラックス出来て、レースに集中することが出来た」とST10002戦目となったSUGO戦で、ワイルドカード参戦したアジアロードレース選手権の埜口遥希と激しいトップ争いを見せ初優勝を飾る。2位埜口、3位高橋、4位渡辺となる。最終ラップまでガチガチのトップ争い、競り負けない強さを示した國峰に、関係者は「やっと一皮剥けたな」と称賛の声を挙げた。この勝利でタイトル争いにも名乗りを挙げることになる。
3戦目オートポリスはST1000が2レース開催となり、ここで熾烈なトップ争いに加わるが渡辺がダブルウィン、國峰はどちらも2位で涙を飲む。高橋は3位&4位となる。
4戦目の戦いとなった岡山国際は、チームの地元から近くホームコース、國峰は勝利に向けてテストをこなした。テストを組んでくれたチームに報いるためにも勝ちを狙った。國峰はレコードを更新してポールポジション(PP)を得る。2番手には渡辺で1分32秒台を出しているのは國峰と渡辺のみ、ふたりの一騎打ちに注目が集まる。決勝は渡辺が0.394秒先行して勝利、國峰は2位となる。ポイントランキングは98の同点トップでふたりが並ぶ。ランク3位の高橋は「勝つことでしかタイトルはないので、最終戦優勝を目指す」とこの3人にタイトルの可能性が絞られた。
最終戦鈴鹿、予選では國峰がコースレコードを更新してPPを獲得する。だが、渡辺のアベレージタイムは抜きんでており、安定した速さに自信をのぞかせていた。12周で争われた決勝。ホールショットを奪ったのは高橋。これに國峰、南本宗一郎(AKENO SPEED・YAMAHA)が続き渡辺は出遅れる。
2コーナーでは高橋のインから國峰が前に出ていく。S字コーナー進入では、南本が高橋をかわして2番手に上がるとヘアピンで國峰をパスしてトップに浮上する。5周目には追い上げてきた渡辺が130Rで國峰をかわして2番手に上がるが、國峰も6周目のシケインで抜き返す。7周目、渡辺がトップに浮上。國峰は渡辺にスプーンカーブで並び9周目の1コーナーでインに入るが、2コーナーでは渡辺が前に、S字で國峰が前に出てトップを奪う。続く130Rでは渡辺が抜き返す。
トップ争いは渡辺、高橋、國峰、南本の順で最終ラップに突入した。スプーンカーブ立ち上がりで高橋がわずかにコースアウトし、國峰が2番手に上がるが、渡辺が逃げ切り優勝し、2年連続チャンピオンを決めた。國峰は2位。3位に高橋、4位に南本となる。
國峰は「悔しさしかない」と語った。そこには、力があるのに、それを発揮出来ないのだと悩んでいた國峰の姿はなかった。ST1000デビューシーズンで初優勝を飾り、チャンピオン争いを繰り広げた自信は、國峰を次のステージに連れて行くはずだ。
V2を決めた渡辺は開幕戦でトップチェッカーを受けるが、グリッドでのタイヤ交換のペナルティーで6位降格、それがなければもっと楽にシーズンを戦えていたはずだ。後半戦4連勝は、その実力の高さを示す。高橋は開幕戦2位チェッカーで繰り上げの勝利のみとなった。今季のマシンセッティングがかみ合わずに「やっと最終戦でバトルが出来た」と悔しさをにじませた。
そして、この実力者に戦いを挑んだ國峰の成長は誰の目にも明らかだった。来季はST600チャンピオンの荒川がST1000の参戦を開始「國峰選手のように初年度からトップ争いをする」と誓う。ベテランライダーと若手の戦いが続く。
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