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レース・イベント

2022年全日本ロードレース選手権は、JSB1000は中須賀克行(ヤマハ)が11回目のタイトルを決め、ST1000は渡辺一馬(ホンダ)がV2を達成。ST600は荒川晃大(ホンダ)が初の栄冠に輝いた。J-GP3は尾野弘樹(ホンダ)が2年連続チャンピオンを決めた。その熾烈な戦いでチャンピオンとはならなかったが印象に残る戦いをしたライダーにフォーカスを当てて、今季の戦いを振り返ってみた。今回はST1000編だ。
■文:佐藤洋美

 全日本ロードレース選手権ST1000クラスは2020年にスタートした。Honda CBR1000RR-R、YAMAHA YZF-R1、SUZUKI GSX-R1000R、KAWASAKI ZX-10RR、BMW S1000RR、Aprilia RSV4など国内外の最新リッタースーパースポーツによって争われている。
 JSB1000に比べ、より改造範囲が狭く、市販状態に近い(ストック仕様)。だが、ベース車両は200馬力近いハイパワーを持ち、JSB1000より重く、ブレーキも市販車のキャリパーを使わねばならない。タイヤはダンロップ指定のワンメイク、ドライタイヤが2スペック登録され、どれを使うかは自由だが、予選、決勝とタイヤ使用本数は限られている。

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 JSB1000へとステップアップする若手育成のためのクラスだが、実力派のライダーたちがこぞって参戦して熾烈な戦いが繰り広げられている。初年度チャンピオンはロードレース世界選手権(WGP)参戦経験のあるJAPAN POST HondaDream TPの高橋裕紀が獲得した。2021年は高橋が世界耐久選手権参戦をメインとし、カワサキワークスライダーの経験もあるAstemo Honda Dream SI Racingの渡辺一馬がチャンピオンに輝いた。

 今季、高橋は全日本の戦いに専念、V2を狙う渡辺とのチャンピオン対決になると思われていた。だが、ST1000参戦を開始したTOHO Racingの國峰啄磨が割って入る。國峰は海外レースを経験、帰国して2013年にJ-GP3でトップ争いを見せるが、最上位ランキングは2位。2017年からST600参戦を開始するが、ここでも最高ランキングは2位と、速さを生かし切れずにいた。自身が「メンタルが弱くて、いい流れで来て、予選でポールポジションを取れても、決勝ではガチガチになってしまう」のだと悩みを抱えていた。足りないのは「自信」だけだと、本人も回りも気が付いていた。

 2022年JSB1000に参戦する清成龍一がチームメイトとなった。清成は世界で活躍した実績を持ち日本を代表するトップライダーだ。清成の存在が國峰を救う。清成は開幕前のテストでケガを負い欠場を余儀なくされる。國峰は開幕戦もてぎのST1000に参戦して4位となり、清成の代役ライダーとして鈴鹿2&4とオートポリス2&4の4レースをJSB1000参戦する。9位&12位、9位&7位で走り切り、清成から「これだけ走れたらST1000は行ける」と背中を押してもらう。

 清成は國峰のグリッドにも駆けつけ、國峰の緊張をほぐそうと、レースとはまったく違う話をして國峰を笑わせた。「清成さんから自信をもらい、リラックス出来て、レースに集中することが出来た」とST10002戦目となったSUGO戦で、ワイルドカード参戦したアジアロードレース選手権の埜口遥希と激しいトップ争いを見せ初優勝を飾る。2位埜口、3位高橋、4位渡辺となる。最終ラップまでガチガチのトップ争い、競り負けない強さを示した國峰に、関係者は「やっと一皮剥けたな」と称賛の声を挙げた。この勝利でタイトル争いにも名乗りを挙げることになる。

 3戦目オートポリスはST1000が2レース開催となり、ここで熾烈なトップ争いに加わるが渡辺がダブルウィン、國峰はどちらも2位で涙を飲む。高橋は3位&4位となる。

 4戦目の戦いとなった岡山国際は、チームの地元から近くホームコース、國峰は勝利に向けてテストをこなした。テストを組んでくれたチームに報いるためにも勝ちを狙った。國峰はレコードを更新してポールポジション(PP)を得る。2番手には渡辺で1分32秒台を出しているのは國峰と渡辺のみ、ふたりの一騎打ちに注目が集まる。決勝は渡辺が0.394秒先行して勝利、國峰は2位となる。ポイントランキングは98の同点トップでふたりが並ぶ。ランク3位の高橋は「勝つことでしかタイトルはないので、最終戦優勝を目指す」とこの3人にタイトルの可能性が絞られた。

 最終戦鈴鹿、予選では國峰がコースレコードを更新してPPを獲得する。だが、渡辺のアベレージタイムは抜きんでており、安定した速さに自信をのぞかせていた。12周で争われた決勝。ホールショットを奪ったのは高橋。これに國峰、南本宗一郎(AKENO SPEED・YAMAHA)が続き渡辺は出遅れる。

 2コーナーでは高橋のインから國峰が前に出ていく。S字コーナー進入では、南本が高橋をかわして2番手に上がるとヘアピンで國峰をパスしてトップに浮上する。5周目には追い上げてきた渡辺が130Rで國峰をかわして2番手に上がるが、國峰も6周目のシケインで抜き返す。7周目、渡辺がトップに浮上。國峰は渡辺にスプーンカーブで並び9周目の1コーナーでインに入るが、2コーナーでは渡辺が前に、S字で國峰が前に出てトップを奪う。続く130Rでは渡辺が抜き返す。

 トップ争いは渡辺、高橋、國峰、南本の順で最終ラップに突入した。スプーンカーブ立ち上がりで高橋がわずかにコースアウトし、國峰が2番手に上がるが、渡辺が逃げ切り優勝し、2年連続チャンピオンを決めた。國峰は2位。3位に高橋、4位に南本となる。

 國峰は「悔しさしかない」と語った。そこには、力があるのに、それを発揮出来ないのだと悩んでいた國峰の姿はなかった。ST1000デビューシーズンで初優勝を飾り、チャンピオン争いを繰り広げた自信は、國峰を次のステージに連れて行くはずだ。
 
 V2を決めた渡辺は開幕戦でトップチェッカーを受けるが、グリッドでのタイヤ交換のペナルティーで6位降格、それがなければもっと楽にシーズンを戦えていたはずだ。後半戦4連勝は、その実力の高さを示す。高橋は開幕戦2位チェッカーで繰り上げの勝利のみとなった。今季のマシンセッティングがかみ合わずに「やっと最終戦でバトルが出来た」と悔しさをにじませた。

 そして、この実力者に戦いを挑んだ國峰の成長は誰の目にも明らかだった。来季はST600チャンピオンの荒川がST1000の参戦を開始「國峰選手のように初年度からトップ争いをする」と誓う。ベテランライダーと若手の戦いが続く。

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2022/12/30掲載