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混戦極めた熱きアジアの戦い! 来季は日本ラウンド含め全6戦開催予定

 アジアロードレース選手権(ARRC)は1996年にスタート、2018年まではスーパースポーツ600が最高峰クラスだった。カワサキの藤原克昭(2011)、ホンダの清成龍一(2012)、高橋裕紀(2015)らが参戦しタイトルを獲得している。ライダーだけでなく、日本人メカニックらも参加することで、アジアのレベルを急激に引き上げた。

 2019年にはASB1000クラスが始まり、アズラン・シャー・カマルザマン(マレーシア)が初の栄冠を得る。2020年は開幕戦のみの開催で、コロナ渦で中断されていた。

 3年ぶりに再開した戦いは、モハド・ザクワン・ザイディ(マレーシア)がホンダアジアドリームレーシング with SHOWAに所属し、ロードレース世界選手権MotoGPで活躍した玉田誠が監督として陣頭指揮を執る。ヤマハゲンブルレーシングチームASEANの伊藤勇樹(ヤマハ)は、2013年からアジアを拠点に戦っているスペシャリスト。2021年全日本ロードレース選手権ST600でチャンピオンとなった埜口遥希(ホンダ)がSDGモータースポーツ ハルクプロ PHが参戦を開始し、注目を集めた。


 開幕戦はチャン・インターナショナル・サーキット(タイ)で開催され、埜口はデビューレースからトップ争いに加わり、レース1で3位表彰台に上がる衝撃のデビューを飾る。勝利したのはヤマハを駆るカスマ・ダニエル・カスマユディン(マレーシア)。レース2も激しいトップ争いを繰り広げ、最終ラップの最終コーナーで勝負に出るがコースオフして4位。新たな才能に、アジアが注目することになる。

 埜口は2017年~2018年とアジアタレントカップでランキング2位、2019年にはレッドブル・ルーキーズカップで3位とロードレース世界選手権参戦を期待された逸材。その才能を、初めてのアジア、初めての1000で発揮する。2戦目セパン・インターナショナル・サーキット(マレーシア)で、レース1を2位に入ると、レース2では初優勝を飾る。


 レースの合間に、次戦のSUGO戦の準備として全日本ロードレース選手権ST1000にスポット参戦、國峰啄磨(ホンダ)と激闘の末2位となる。

 ARRC、3戦目は3年ぶりに開催された日本ラウンドのSUGO。埜口はダブルウィンを飾る。レース2では伊藤が3位に入り表彰台に登った。4戦目セパン・インターナショナル・サーキット(マレーシア)で埜口は、レース1はトラブルで4位。レース2は勝利する。残すは最終戦のみとなり、埜口はランキングトップで、デビューシーズンでのタイトルへと大きく歩みを進めていた。

 ARRC最終戦前に全日本最終戦が鈴鹿で開催され、埜口も伊藤もST1000に参戦する。タイトル決定戦の戦いは、昨年のチャンピオン・渡辺一馬(ホンダ)と國峰が同点トップで並ぶ緊迫した戦いで、アジア勢のふたりがそのタイトル争いに絡むのは必至で、注目を集めることになる。事前テストがなかったことからレースウィークの木曜日から走行が始まる。

 ST1000の走行開始直後に埜口、伊藤が、130Rで接触転倒する。赤旗が提示され、走行は即座に中止された。鈴鹿サーキットでもスピードが乗る高速コーナーでのクラッシュに緊張が走る。埜口は追突され転倒、第6胸椎を骨折とMFJのHPでアナウンスされた。伊藤は左足をケガして、ふたりは欠場となった。

 最終戦はチャン・インターナショナル・サーキット(タイ)で開催された。埜口は鈴鹿で負ったケガのため欠場がアナウンスされており、代役で全日本ロードレース選手権ST1000に同チームから参戦している榎戸育寛(ホンダ)が参戦する。ランキングトップは埜口で154ポイント(P)、2位にザクワンで135P、3位カスマとアヌパブ・サルムーン(タイ・ヤマハ)が115Pで並ぶ。

 グリッドでは埜口のカムバックを願うパネルを主催者が用意して参戦ライダーに配り、それをグリッド紹介の時に翳して、ARRCが埜口の復帰を願った。チームスタッフは「埜口遥希待ってるぞ!」と大きく描かれたTシャツを着込んだ。代役の榎戸は「埜口のぶんも」と誓い、初めてのARRCに挑む。ライバルチームではあるが、玉田は「埜口のためにも、ホンダがタイトルを取る」と決意する。


 レース1はカスマが勝つ。ランキングトップは埜口のまま154P、2位ザクワンが146P、3位カスマは140P、サラムーンが135Pとなる。

 レース2の路面コンデションは雨が降ったことで路面は濡れているが、ここから、どう天候が変化していくのかわからない状況だった。グリッドでは各チームがギリギリまでタイヤ選択に悩むが、トップライダーの多くはレインタイヤを装着する。

 榎戸は序盤から果敢な走りでトップに浮上する。榎戸、アピワット・ウォンタナノン(タイ・ヤマハ)サラムーン、ザクワン、伊藤がトップ集団を形成する。激しいトップ争いは周回毎、各コーナーで目まぐるしく順位を変える。このトップ争いに怒涛の追い上げを見せ抜き去ったのは、スポット参戦の地元ライダー、スタハイ・チャムサップ(ホンダ)だった。スリックタイヤを装着し、乾き始めた路面を別次元の走りで優勝を飾る。スタハイは「タイヤ選択は大きな決断だった」と語った。

 2位には激闘を制した榎戸が入り「2位だけど…自分の中では、優勝だと思っています」と語った。3位にアズラン(BMW)、4位にカスマ、5位ザクワン、6位サラムーン、7位で伊藤が次々とチェッカーを受けた。

 荒れたレースとなり、ピットではポイント計算に追われる。ザクワンが157Pを獲得してシリーズチャンピオンを決めた。2位に埜口が154P。その差は僅か3Pで、ザクワンの順位次第では戦わずして埜口のタイトル獲得の可能性もあったことを示す僅差で、ここまでの埜口の強さを示す。3位にカスマ、4位にサラムーンとなりシーズンが幕と閉じた。

 玉田は「チェッカー後はザクワンが埜口のポイントを抜いたのか、ライバルがポイントを加算して逆転されているのかもわからなくて混乱していましたが、スタッフからチャンピオン確定と伝えられて、やっと喜ぶことが出来ました。監督となってからの初タイトルです。今シーズンは埜口がリードしていたので、内容としては納得しているわけではありませんが、ホンダがタイトルを獲得できたことは良かったとほっとしています。でも、喜んでいる時間はなく、もう来季への戦いが始まります。気を引き締めて、チャンピオンチームとして、しっかりと戦いたいと思っています」と語った。

 伊藤はランキング6位となり今季を終えた。SNSで「このレースを最後に10年在籍したヤマハレーシングASEAN、つまりホンリョンヤマハマレーシアを卒業いたします。在籍の中で25回の表彰台、6回の優勝を獲得しました。心残りはチャンピオンを取らせてあげられなかったこと…ですが、それは次世代のライダーたちが叶えてくれると信じています!!アジアは卒業しますが、レーシングライダー伊藤勇樹は違う形でスタート致します!!」と綴った。

 埜口の来季のARRC継続参戦は同チームから発表された。来季は全6戦の予定で、第3戦は7月24~25日にSUGOでの開催がアナウンスされている。

(レポート:佐藤洋美)







2022/12/21掲載