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試乗・解説

登場へのカウントダウン 2023に向けたホンダの力作を見てきた
バイク界でも最大級の見本市、EICMAがミラノで一般公開されている11月9日、ホンダは日本のメディアにも国内販売予定車として注目のバイクを公開した。レトロモダンなスクランブラー2機種、バガースタイルのクルーザー、そしてフェアリングのデザインをアップデイトしたCBR250RRの4モデルだ。公開されたのは市販を予定するバイクのプロトタイプ。これからさらに改良されることも充分考えられるし、スペックも非公開。だから見た目から感じたことや、こうではないか、というウラ摂りナシの記事となることをお断りするが、ワクワクするようなバイクを前に早くも2023年が楽しみになってきたのである。
■解説:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/




CL72~CL450のDNA?
カジュアルスクランブラー、見参。

 最初の一台はCL250。ネオクラシックなデザインパッケージで、モチーフになっているのは60年代から70年代初頭までにあったスクランブラー“CLシリーズ”が持っているエッセンスだ。スクランブラーは本格的なオフロードバイクが誕生する以前、ロードバイクをオフロード向けに仕立てた言わばクロスオーバーモデル。ホンダも60年代にCBをベースにしたCL72を皮切りに、その後もロードモデルに悪路走破性能を盛り込んだクロスオーバー性を持たせたバイクをラインナップしてきた。
 デビュー作となったCL72は1962年に登場した。並列2気筒の250㏄モデルで、CBをベースに前後に19インチの大径ホイール+タイヤを履き、サスペンションのストロークを延長、また排気系の取り回しをセミアップの2本出しとしたもの。
 

※以下写真は試作車のため、量産車とは一部仕様が異なる場合があります。

 
 当時、世界を席巻していたイギリスメーカーのスクランブラーは、500㏄~650㏄の並列2気筒だったから、世界で戦うには排気量が足りなかったが、世界グランプリで名を馳せたホンダが、高回転高出力を旗印に海外にも輸出を開始。特にアメリカではその性能表現のためにメキシコのバハカリフォルニア半島スピード縦断記録に挑戦。道なき道をノンストップで走り、40時間を切る記録がプロモーションで紹介されると、それが2輪、4輪のチャレンジャーを刺激し、伝統のレース“バハ1000”へとつながったのは有名なお話。
 そう、スクランブラーは冒険ライダーのアイコンだった。
 そのスクランブラー時代のあと、ホンダで言えばXL、XR、そしてCRFとオフロードモデルはスリム、軽量、コンパクトをコンセプトに大きく進化。ロードモデルベースの時代に終止符を打った。
 

 
 そうした情報を復習してあらためてCL250を見る。Reble250ベースの丸パイプを使ったフレームワーク、スイングアームといったスタイルと、エンジンもRebel 250やCRF250L系に搭載されるものがそのまま載っている。そしてフロントタイヤは110/80R19、リアは150/70R17とワイドかつ大径のタイヤをフィット。燃料タンクはRebel 250のものとよく似たスタイルながら容量を拡大した専用シェイプのものに、ニーパッドを装着してビンテージ感を演出している。

 前後のホイールは細身のスポークを使ったもの。400Xに採用されたホイールと似ている。シングルディスクでフロントはφ310mm、片押し2ピストンキャリパーを合わせている。
 そして前後のサスペンションもオンオフを走るスクランブラーらしいストロークが与えられているように見える。リアは左右2本ショック。CRF系モデルのように吸収性や重量物を車体中央に集める目的で1本ショックとリンクサスを使ってはいない。この方がシート高は抑えやすいし、スクランブラースタイルにマッチする。
 

 
 コントロール系で印象的なのは、ステップ、ブレーキペダルなどしっかりとオフ走行を意識させるようなごつい意匠のパーツを使っていること。これはCL250がカタチも走りも期待を裏切らない、という期待につながるし何よりオシャレだ。

 そして車体右側にドンとした存在感を与えているマフラー。これはCL250の姿を決定付けている。エンジンから出たエキゾーストパイプはステップ下からキックアップ。右側の丸パイプで造られたスイングアームや、リアショックの存在をしっかりクリーンに見せつつ、シート下側の高さまでガツンと上がってサイレンサーにつなげている。
 

 
 ヒートシールドも力作で、往年のCLモデル一連の縦スリットや丸穴形状の肉抜きをすることで軽さを狙った設計者の意図も再現されている。タンデムライダーの足が近いだけに安全性もしっかり確保されているだろう。現状ではマフラーは2気室。アクセル操作のリニアさを探求した設計となる。ライダーの耳に近づいた関係でパルス感ある排気音からの刺激成分も走りの気分を盛り上げるスパイスになるはず。
 それでも見事にまとまっている。この取材時、プロトタイプゆえ跨がりお断りだったため、実際にシートに座って確認出来なかったが触れても熱くない、もしくは触れ難い取り回しになっているハズだ。
 

 
 ヘッドライト、ウインカー、LCDを使ったメーターはRebel 250そのものにも見える。そのメーターは、ハンドルバー上にあるRebel 250とは異なり、パイプのガイドとともに、前側、ヘッドライトに寄せた形で搭載されている。この辺もタフさ、道具感をしっかりとデザインしている。
 

 
 シートは前後にフラットのダブルタイプ。それでいてライダースペースをタックロールに、パッセンジャースペースの表皮はプレーンな表皮を使うことで風合いを変えている。一人乗り+荷物のような場面での積載のしやすさ、あるいはシンプルにシートの長さを短く見せるトリックとして、いろいろ想像はできるが、このバイクで大きな荷物を積んでツーリングする。そんな休日を楽しむ姿が浮かんでくるようでワクワクする。
 マフラーやシートの取り回しなどから、Rebelベースのフレームはサブフレーム周辺をCL専用に新たにデザインしているだろう。Rebel同様、多くのライダーに楽しい走りを提供するハズ。兎に角、このバイク、またもやホンダの看板モデルになりそうな予感だ。
 

 

オプションパーツのナックルガード、ラリーステップ、アップフェンダー、ヘッドライトバイザー、リアサイドカバー、リアクッションカバー、フラットーシートを装着したCL250純正用品装着仕様車。

 

これ、ひょっとして遊びバイクのウエルバランス、取れてない?
そんな期待が膨らむCL500

 Rebel 250とRebel 500がそうであるように、同じ車体、排気量が異なるモデルが用意されるのはこのCLでも同様だ。500というとちょっとマイナーな排気量区分だが、CLという個性、舗装路や未舗装路でファンライドするためのバイク、ツーリングするバイクとして考えたら、この500のエンジンが持つ余裕、そしてビッグアドベンチャー系のようなずっしりした重量がないツール感、シンプルさ──様々含めてその存在は光る。

 今回用意されたプロトタイプモデルは、純正オプションとして予定されているアイテムを装着したアクセサリー装着サンプル車として紹介された。
 外観はRebel同様搭載されるエンジンが単気筒250から並列2気筒エンジンに置き換わったようにしか見えない。サイズ感もまったく同様。もちろん、エンジン重量の違いがあるのでサイドスタンドから車体を起こすと250と500で重みの違いはある。Rebel 250とRebel 500で19㎏の差があるから、CL500もその程度は差があることが予想できる。
 

 
 エンジンは並列2気筒。水冷DOHC4バルブ。Rebel 500を走らせた記憶から言えばこのエンジンは相当いい。アクセル操作に対してリニアながら開け口がマイルドに調教されていて、走りやすさを際立たせる。スムーズかつトルクフルに加速する印象は、Rebel 500のライディングポジションもあってか腹筋に直接作用するパンチのある速さももっている。CBR400Rの海外版、CBR500Rにも使われるエンジンだ。扱いやすさとスポーツネスを両立しているから、Rebel 500だと嗜好が合わなかったけど、CL500というパッケージだと俄然気になる人も少なくないはず。アップライトなポジション、ツーリングにももってこい。さらにサンプルで装着されたラゲッジキャリア、外装パーツなどがひときわ個性を引き立てる。

 ブレーキ周りは250と同様に見える。サスペンションも500専用のチューニングが成されているハズだ。リアショックユニットにイニシャルプリロード調整の機構がある点で共通だし、車高も同様に見える。嬉しいのは500のエンジンでもグランドクリアランスは250と同等に見える。それでいて足着きを心配するほどシート位置は高く無いし足着き性に重要なタンクとシートが接するエリアは充分にフレームも絞り込まれている。林道ツーリングに行ってみたい、という人でもこれなら臆すること無く出かけることができるのでは。
 前後のホイール、タイヤも250とサイズは同じ。フロント110/80R19、リアは150/70R17を履く。銘柄も同じでダンロップ製のトレールマックス・ミックスツアーだった。このサイズならアドベンチャー向けタイヤの中からカスタムとしてよりダート向けタイヤを選択することも可能だ。世界で人気のスクランブラースタイル、アドベンチャースタイルのセグメントだけにこれも楽しみの一つだろう。
 

 
 さて、気になるオプションパーツとしては……。
トップボックス38Lワンキーシステムタイプ
バックレスト
リアキャリア
サドルバッグ
アジャスタブルブレーキレバー
スポーツグリップヒーター
アクセサリーソケット
 などが装着されている。トップボックスを取り外した状態ならサイズフリーのダッフルバッグをバンジーコードで積載するのも簡単そうだ。機能性と多様性をライフスタイルにあわせこむアイテムが揃っていそうだ。

 CL250とCL500、2023年にはビギナーもエキスパート、男女、年齢などといったあらゆるボーダーを超えたライダーに注目を集めそうだ。ガソリンタンクが12リットル程度と小ぶりだが、このエンジン、意外にツーリング燃費が悪くないから、それほど気にならないだろう。でも、18リットルくらい入るビッグタンクに、かつてのXL600Rファラオのようなライトを着けたら、ますます行動範囲が広くて人気を呼びそうだ。そんな妄想すら掻き立てるCL500+オプション装着サンプルのプロトタイプだったのだ。
 

 

ボバーがバガーにいっちょ噛み1?
クルーザーってやっぱりカッコイイ。
Rebel 1100Tが開くその世界。

 2021年に登場して以来、250の人気と同様にポピュラーになったRebel 1100。アフリカツインに搭載される並列2気筒エンジンとマニュアル、DCTのトランスミッションの組み合わせは、270度クランクが生み出す不等間隔爆発がもたらす鼓動感と豊かな低中速トルクの恩恵で、走りはゆったりにもパワフルにもいける両刀遣い。シャーシの良さも含め、その特性がボバースタイルのRebelにマッチ。
 さらにフロントフォークのインナーチューブをフリクションロス低減を狙ってコーティングをしたり、リアショックにはリザーバータンク付きの高いグレードの足周りを組合せた点も既存のクルーザーモデルと一線を画するところ。
 

 
 そのRebel 1100に、バガースタイルを持つRebel 1100Tが加わろうとしている。まずはそのスタイルをみてみよう。
 プロトタイプはDCTを搭載するモデルだったが、マニュアルクラッチ車も用意されるだろう。カラーリングはガンメタルブラックメタリックという写真の色で展開される予定だ。

 前後のサスペンションやホイール、タイヤのチョイスはRebel 1100同様。タンクも大型化された様子はない。
 そこにバガースタイルの要素として大切な、ローライズしたウインドスクリーンを持つフェアリング。これはハンドルマウントのもので、ヘッドライトを中心に左右はグリップエンド周辺まで覆う、いわゆるバッドウイングタイプのスタイルだ。
 

 
 そしてバガースタイルには欠かせないサイドケースが左右に備わる。右側は縦オーバル形状のサイレンサーを避けるために左よりも容量がすくなくなるが、右が16リットル、左が19リットル、あわせて35リットルのラゲッジキャパシティーを与えられている。
 このサイドケースは専用のマウントフレームを使って装着されている。

 そして真横から見たとき、リアフェンダーのカーブとサイドケースの蓋が描くカーブが同調し、伸びやかにテールエンドに向かったカタチが摂られている。また、レイダウンしたリアショックとも角度を合わせているなど、ツボを抑えたスタイルだ。

 EICMAで展示されたモデルはパッセンジャー用のシートを取り外した仕様もあったようだが、それだとしっかりと各部がデザイン的に同期しているのがさらに解りやすく、かっこいい( https://mr-bike.jp/mb/archives/34005 参照)。
 

 
 ステップ周りなどポジションもスタンダードと変わらないように見える。つまり、走りはそのまま。スタイルとトレンドを封入し、楽しさと実用性も手にしたことになる。
 グリップヒーター、ETC2.0は標準装備なのはRebel 1100と同じだろう。オプションでトールサイズのスクリーンも展開するのではないか。バガースタイルとなってもその走りに重さやだるさは出ないだろう。つまり、1つの素材でボバーとバガー、二つの異なる個性をショールームでチョイスできることになるのだ。
 

 

空力改善、装備充実、
そう、正常進化なCBR250RR。

 外観からの情報やスイッチ類から見て取れる情報、あるいはフロントフォークのトップキャップに記載された文字から推察するに、2023モデルのCBR250RRは次のような進化が与えられている、と読める。
 まず外観。現行モデルとタンク、フェアリングサイドなどに使われるパネル形状が異なっている。ボリューム感があるサイドフェイスは、CBR1000RR-RにもひけをとらないほどのCBR250RR。初代からエンジンパワーの向上などの改善が行われてきたが、生産されるタイのモデルではエンジンスペックが向上。それが国内モデルに反映されるかは解らないが、フェアリングデザインの変更は空力特性向上が図れたようだ。
 

 
 あくまでもこれは想像だが、サーキット用途に限れば吸排気設定の変更でまだパワーは伸びるだろうが、ストリートモデルとしては乗りやすさとパフォーマンスのバランス点は現時点で相当に高い。ライバル、ZX-25Rの4気筒すらCBR250RR攻略には手を焼くほど。そうしたポジションをさらに強固なものにするため、外観の変更に見る空力特性向上、という視点でみてみた。

 たとえば、フェアリングのサイドパネル。アジアでのポジショニングもあり、CBR250RRは立派に見える必要がある。それでいてワインディングやサーキットを走る場面ではCBRシリーズが掲げる「トータルコントロール」というライダーの扱いやすさこそ速さに直結するというコンセプトだ。
 そこでレイヤードパネルデザインを活かし、ツアラーのウインドスクリーンに採用される導風口を設け、スクリーン内側にも空気の流れを通すことで、ライダー側の負圧を低減する、というのと同じ手法で、コーナリングアプローチの軽快性を上げつつ、後方に抜ける風を整えることで、ドラッグを低減。埋もれていた最高速への伸びを掘り起こす、というようなもの。バイクを寝かすロール方向に軽さがでれば、バイクの運動性は上がるし、サーキットでの高速コーナーでも狙ったラインを描きやすくなる……。
 

 
 リアシートカウルの横にあるウインドトンネル部分、これのアウトレット側のカタチも変更され、スタイルはエッジの効いたCBR250RRらしさを保ちながら、ここにも空力効果か!?と、期待されるものがある。

 性能をどんなカタチで追い求めるか。それを提示し続けるのが大切なカテゴリーだけにスペック向上の解りやすい進化も必要だ。その点で2023モデルはさらに一歩装備についても進化があった。
 フロントフォークがショーワ製SFF-BPを採用。セパレート・ファンクション・フォークービッグ・ピストンの略で、左右でプリロードアジャスター機能とダンパー機能を分けたもの。これによりダンピングを生み出す要でもあるダンパーピストンを大径化。左右でスプリング、減衰圧ダンパーと分けることでそれぞれの機能を最大化したもの、というのがSFF-BPの概要になる。
 

 
 そしてHSTCを新たに装備。TBWを装備する最新の電子制御を搭載するCBR250RRだけにその効き味とライディングモードにおける協調性の高さは期待できる。
 いずれにしても乗り手の「コレがあればいいなぁ」を一つ、また一つと搭載し魅力を高めるトップエンド250スーパースポーツ。それがCBR250RRの2023モデルと言えそうだ。
(解説:松井 勉)
 

 





2022/11/16掲載