鳴り物入りの大物のその後
2018年10月のドイツ・インターモトで姿を現わしたKATANA。あの、80年代の名車、GSX1100Sカタナを思わせるスタイリングで、150psという現代のパフォーマンスを発揮するロードスターの登場は、世界中のカタナファンたちを歓喜させてくれた──わけじゃなかった。
「あれはカタナじゃないよ」から始まって、カタナの名前にそぐわない、空冷カタナと一緒にしてくれるな、もっと専用設計のディテールが欲しかった等々、賛否両論でいえば「否」の意見も少なくなかったように思う。
ただし、KATANAを否定的に捉えるのは、オーナーをはじめとした「空冷カタナ」が大好きなファンたち。期待しただけに、がっかりしたんだろうけれど「コレジャナイ」感は確かにあった。年齢は、カタナのリアルタイムを知っている40歳代後半、50歳以上のバイク乗りたち。
けれど、問題は新しいファンだ。これから先のバイク界を背負ってくれる若いファンたちは、この水冷KATANAを歓迎していた。カタナが好き、スタイリングがカッコいい、けれど空冷カタナは、彼らに簡単に買えるバイクではなくなってしまっていたのだ。
カタナといえば81年デビュー、94年に日本国内販売が開始され、ファイナルエディションが2000年。もう、軽く20~30年以上が経過しているクラシックバイクだ。もちろん、名車ゆえに現存数は多いけれど、きちんと走るカタナを買おうとするなら、200万円ならお買い得、300~400万円は当たり前、手に入れたって純正補修パーツすら満足に手に入らないことも多い、乗り続けることが困難なモデルになってしまっているのだ。
だからこその水冷KATANA。ABS付きの150psを発揮する水冷4気筒エンジン、アルミフレームでトラクションコントロール付き。空冷カタナを思えば、160万円出せば、これから20年30年乗っていくことができるのだ。
何にも似ていない、現代のバイク
その水冷KATANAは、GSX-S1000をべースとしながら、やはり乗り味が独特なストリートバイクだった。150psを発揮する水冷4気筒エンジンは、中回転でのトルクが印象的なパワー特性で、発進トルクを出すために、スロットルプーリーの形状を楕円形としたり、極低回転での回転ドロップを防ぐローrpmアシストやスリッパークラッチも装備している。
扱いやすいエンジンを搭載している車体は、短く小さいボディで、コンパクトでくるくる回るスポーツバイクとしている。ベースとなったGSX-S1000との違いはライディングポジションで、アップハンドルのおかげでアイポイントも高いし、フロントに荷重をかけすぎない分、軽く自然なハンドリングを味わうことができる。
つまり、小さく扱いやすい、軽く自然なハンドリングのビッグバイク――それが水冷KATANAなのだ。
もちろん、空冷カタナを思わせるスタイリングは、何にも似ていない。これは、カタナが外してはならない絶対条件だから。
2022年モデルの水冷KATANAは、ベースモデルのGSX-S1000のアップデートに合わせて、新規排出ガス規制に対応し、TbW(=スロットルバイワイヤ)を採用し、電子制御のアイテムを充実させた。シフトUP&DWN両方向のクイックシフト、トラクションコントロールは3段階設定から5段階に増え、ドライブモードセレクタを追加。初代の水冷KATANAに「ぜひ欲しい」と切望されていたメカではないが、最新モデルとして標準装備されていて当然、なメカを追加しているのだ。
走ったフィーリングは、強い中速トルクがさらに強化された印象。あれれ、こんなパワーアップした?? と思うほど力強く、スロットルの開け閉めにすごく敏感。無造作に開けると、ドンとトルクがやってくる強さなのだ。
だからこそ、パワーモードセレクトがA/B/Cと3段階に選べるのはありがたかった。ピックアップがシャープなフィーリングが楽しい時間帯もあるけれど、長時間乗った後に穏やかに走りたい時は「B」モードにすればいいからだ。先代の水冷KATANAよりも、明らかにスロットルコントロールがダイレクトになっている。
ただでさえ小さくコンパクトなボディだと思っていた水冷KATANAは、力強いエンジン特性があって、もっと小さく、軽く感じられるようになった。もちろん、これだけの変更でバイクのキャラクター自体が変わってしまうことはないが、先代よりももっとストリートをキビキビ走れる――そんな側面がより際立っていると思う。
けれどKATANAは何になりたいのだろうか
ただし、僕は正直いうと、やはりKATANAの素性をつかみかねている。
走りはキビキビとストリートを駆け、ロングランだって快適にこなすことができる。けれど、1000ccのバイクだというのに12Lしかないタンク容量はツーリングバイクになり得ないし、ショートシートはタンデムがしづらいし、荷物も積みにくい。ワインディングを走るにはGSX-R1000Rの方が気持ちいいに決まっているし、ツーリングに出るならVストローム1050がいい。
実は、僕はGSX1100Sカタナのオーナーだ。もう20年の付き合いで、僕はカタナをツーリングバイクとしても使ってはいるけれど、ひょいと街乗りをして「お、カタナだ」って見られるのも大好き(笑)。
自分のバイクを「愛車」と呼べること。自分のバイクに誇りを持って、この先20年を乗っていこうと思っていること。それってバイク乗りとして幸せなことだ。そんな人に、水冷KATANAを勧めたい。
(試乗・文:中村浩史)
■エンジン型式:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:73.4×59.0mm ■最高出力:110kW(150PS)/11,000rpm ■最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9,250rpm ■全長×全幅×全高:2,130×820×1,100mm ■ホイールベース:1,460mm ■シート高:825mm ■装備重量:215kg ■燃料タンク容量:12L ■変速機:6段リターン ■タイヤ:前・120/70ZR17 M/C(58W)、後・190/50ZR17 M/C(73W) ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):\1,606,000
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