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試乗・解説

ビモータ──モーターサイクルエンスージアストならだれもが知るそのブランドとカワサキが協業することになった。デリバリー、メンテナンス、パーツサービスなどをカワサキディーラー、50拠点とモトコルセから行うという今までにないスタイルを確立して。量産車であるが、マスプロダクトの世界から見ればKB4は手作りの領域。437万8000円という価格によるインパクトもあるが、それ以上のなにがあるのか。体験してみることにした。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:赤松 孝 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、SPIDI・56design https://www.56-design.com/ 






 ビモータはイタリアのリミニに拠点を置くモーターサイクルメーカーだ。規模は小さいが、ホンダCB750フォアのエンジンを搭載した初号機から連綿と、軽くハンドリング性能に優れたマシン作りを続けている。基本的にパワーユニットは信頼のあるメーカーから調達、シャーシと外観を自分たちでデザインするスタイルで50年を超すキャリアを重ねてきた。その間、紆余曲折はあったが、2016年、カワサキと協業に向けたプロセスが始まり、2019年にその本契約を締結し、現在に至る。

 ビモータの新時代の一作目はテージH2。独自のシャーシコンセプトを持つビモータテージ。それにカワサキが送り出す唯一無二のスーパーチャージドエンジンを組み合わせたモデルだ。ビモータの現社長にしてテクニカルディレクターであるピエルルイジ・マルコーニは、テージで展開したフロントスイングアームとハブセンターステアリングシステムをボローニャの大学在学中から研究し、その研究車製作にあたり彼の地元、ビモータを尋ね研究用車両を製作するための支援を依頼し、そして受け入れられたという経緯も持つ。大学を卒業後はそのままビモータに就職し、テージを商品化したその人だ。
 そのアニバーサリーモデル、テージH2の発表時にデザインイラストが公開されたのがKB4だった。そのイラスト通りに仕上がった現車が2022年に日本にも届いたというワケだ。
 

 

美しさ、軽さ、唯一無二。

 目の前にあるKB4は一言で表現するなら、まさしく美の集合体。それは塗装、本革製のシート、削り出されたアルミプレートのデザインや仕上げ、サスペンションやブレーキのパーツ使いにプレミアムさがにじみ出る。いや、むしろカーボンコンポジットなどコストのかかるマテリアルでほとんどの外装パーツを仕上げているが、ことさらそれをひけらかしていない。むしろ、少量生産にマッチした造り方としては削り出しもカーボンを使った繊維強化プラスチックも王道だ。その上で軽さ、美しさを求めたらこうなった、といういわば粛々と上質な素材を集め造られたからこそ、存在そのものがプレミアムさが出ているのだ。だから、シート下にあるラジエターの冷却ファンを支えるステーすらカーボンで造られている。

 ビモータオリジナルのシャーシにNinja1000 SXのエンジンを搭載。ボディもオリジナルだ。フレームは鋼管トラスフレームとアルミ削り出しのプレートを組合せ、スイングアームも3つの削り出しパーツを組み合わせたもの。
 特にリアサスはリンクを使うがショックユニット本体がスイングアーム内に搭載されたユニークなもの。リアサスのアッパーマウントがフレーム本体になく、これによりフレーム全体の剛性バランスの最適化や全体のコンパクト化を狙うには大きなメリットだろう。

 リアカウル内にエンジンの冷却水を冷やすラジエターを搭載しているのも、重量バランスの最適化だ。そのためにライダーひとりだけがこのバイクを楽しむコトになるが、その時間を最上質なものとするためのビモータの拘りだろう。
 KB4の車重、194㎏。ホイールベース1390mm。このパッケージこそビモーターのなせる技。なるほど軽く400万円を超す価格にもうなずける。
 

 

純粋なるライディングプレジャー。

 その走りはどうか。実際に跨がるとボリューミーなカウルに、250と同等サイズのホイールベースという印象はない。また、エンジンは扱いやすさで定評のあるNinja1000 SX用を搭載。排気系もカワサキのそれを流用しているだけに、いわゆるスペシャルメイドのマシンから連想される刺激過多な成分も発散されていない(いや、車体各部の美しいパーツから出いるオーラはハンパないが)。

 そもそも40㎏以上重たいNinja1000 SXを軽々と動かすパワーユニットだけに、KB4の動き出しは「トルクフル」という印象が強く、ことさら軽々と動き出す。クラッチレバーの操作力も軽いし、オリジナルのステップ周りのレバー比やストロークも適切。操作系も当たり前のように動くから走り始めたらすぐに乗り慣れた日本車を走らせているような感覚もある。シートのエッジが角張っているのが唯一昨今の市販車とは一線を画するところか。

 しかし、左右へのロールは安定感の中に軽さがありオーリンズサスペンションはさらに高い速度でのスポーツ性に照準を合わせているが、上質な作動性により市街地レベルの速度からゴツゴツ感がない。ブレーキのタッチも初期の制動力が車体に加わる瞬間、フロントフォークのフリクションロスのないストロークを開始する上質さ。つまり、どこにも尖った部分がなくただただ質感が高い乗り物という印象がライダーに染み渡る。
 

 
 これはワインディングでも同様だった。例の短いホイールベースの威力を発揮するようなセットアップというよりしっとり落ち着いたスポーツツアラーにもにたハンドリングとでもいおうか。リアの車高を少しあげて、フロントにもう少し仕事をさせるようなセットアップに変えるのも簡単そうなKB4。とても半日付き合ったレベルでは奥行きまで試すことが出来なかったが、トラスフレームとアルミ削り出しプレートを組み合わせたフレーム、フロントフォークとトリプルクランプ(これも芸術品のように美しい)など、ライダーが感じる剛性バランスは硬い尖った印象はほとんどない。それでいてライダーの動きをきっちりとバイクの動きに変換してくれる。

 また、その奥にまだまだ広がりがありそうだ、という予感のようなものを伝えてくれるあたり、量産バイクとはことなる「詰めた」造りも感じられた。ハードな走りへの期待が高まるものの、サーキットでの試乗が出来るタイミングがあればその時に譲りたい。終始ツーリングペースで楽しんだが、ハード過ぎることがなくこうした走りでもバイクとの濃厚な対話を楽しめたこと。それが解ったのは収穫だった。
 

 

美しき人生に。

 おそらくバイク文化が成熟した国においてビモータはバイク版のスーパーカーのような存在として受け止められているはずだ。少数生産だからこそ製造手段として手のかかるパーツで構成し、世界で売れたプロフィットをベースに次なるドリームマシンを設計する。KB 4に乗る。KB4を所有するということは、ビモータの歴史、その一部を担い、ビモータのパトロンになるようなもの。カワサキとの協業により所有するハードルも下がった面もある。
 

 
 その発火点は創業メンバーの一人、マッシモ・タンブリーニが自らのレース活動のために理想の車体を造りたかった、というドリームプロジェクトに端を発している。企業としては紆余曲折をたどりつつ長い年月を過ごしカワサキとともに歩むことになった。
 もちろん、国産モデルとの比較では至らぬ点もある。例えばミラーが見にくい、調整しにくい、という部分もあったが、一つの素材を自分に合わせ込む余地を残した、と考えたらどうだろうか。たぶんそんなメッセージにすら感じるKB4なのだ。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

●bimota KB4 Specification
■エンジン種類:水冷4ストローク並列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,043cm3 ■ボア×ストローク:77.0×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:104.5kW(142PS)/11,000rpm ■最大トルク:111N・m(11.3kgf・m)/8,000rpm ■全長×全幅×全高:2,050×774×1,150mm ■ホイールベース:1,390mm ■シート高:810mm[+/-8mm] ■車両重量:194kg ■燃料タンク容量:19.5L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17・190/50ZR17 ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):4,378,000円

 



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2022/08/15掲載