今から10年前、季節は春だった。鈴鹿サーキットへと向かってNC700X(MT)を走らせた。デビュー間もないNCの燃費性能がネット界隈で驚くべきものだったので、ホントのところ、「燃費はどうなの?」という実証体験をしたかったのだ。だから移動の足にNC700Xを選んだ経緯がある。今も「NC700X燃費」でググると、WEBミスターバイクの過去記事が上位に上がってくる( http://www.mr-bike.jp/?p=19732 参照)。
だがしかし、NC700Xが現役だったのは2012年から2014年の間のみ。NC750Xへとシフトして久しいハズなのに、あれ以来NCの燃費はスゴイ!という刷り込みと思い出が消えないでいる。これって、うっかり人にNCの燃費は凄かった、なんて古い話が口を突いたら、いわゆる「あのコロはよー、今のワケーのはよー……」的酔っ払いオヤジのうざい昔話マウント(でエンドレスリピート)と変わらないじゃん!!
これは刷新の必要あり。ということでNC750X DCTを駆り、再び燃費計測の旅に出たのである。
とくに現行型のNC750Xは2012年にデビューした当時のNC700Xとはパッケージデザインこそ親和性があるが、その内容はだいぶ変化している。まずスポーティーなフィーリングが高まった。当時、700Xはクロスオーバースタイルなのは今も変わらないが、エンジン特性はクルーザーライクなもの。低い回転で生み出すトルクを活かしつつ走る点は今も同じだが、せいぜい4000rpmまでも回せば充分。というか、回そうという気持ちにならなかった。姿カタチから想像できないほどテイスティー路線だと僕は思っていた( NC750Xの試乗インプレッション記事はコチラ→ https://mr-bike.jp/mb/archives/28778 )。
それが3000rpmでも、いや、2000rpmから2500rpmで2000rpmから2500rpmで満足度の高い走りは700時代のほうが色濃いのを思い出す。
そしてニュー・ミッド・コンセプトという耳慣れないジャンルに触れた僕たちは、キャラの掌握に戸惑った。ヘルメットの入るトランクを通常燃料タンクがある場所に据え、タンクそのものはシートの下に配置するレイアウトとした。その絵を描いたためにエンジンは何が何でも前傾シリンダーが必要だった。低回転高トルク、低燃費。これも世界で得たユーザーアンケートから見えた通常使用する速度は140km/h以下、エンジン回転数は6000rpm以下という範囲でベストな特性でまとめ上げられている。
エンジンの企画段階でそんなフィーリングがバイクで成立するのか、という検証に用いられたエンジンが「ホンダのフィット用4気筒を2気筒にスライスしたもの」だったのだが、ボア×ストロークがそのまま同じ値で市販されたので、フィットベースのエンジンという風に直結されて都市伝説として残ったのだった。もちろん、開発過程でバイク用に専用設計されたのは言うまでもない。
低価格の開発コストも関係するから、スライスしたフィットのエンジンはその点では役にたったハズ。それよりも個人的に印象深いのは、前後のディスクブレーキ用ディスクを1枚のパネルからプレスで打ち抜き、材料の歩留まりを改善。ブレーキのインナーローターも省き、ローコストに貢献、でも制動力などは落としていない、という説明があったとき、バイクは趣味のものだから高くてもしかたない、というベクトルじゃない手法をむしろ商品魅力として表に出してきたことに新しさを感じた。
まとめると、今までの自分のモノサシでは計りきれないものがあるなと。もっとハッキリ言えば、当時NC700S、NC700X、インテグラと3モデルが登場したホンダのラインナップに、近い将来バイクはこうなるの? というそこはかとない不安に似た感情があったことも告白しよう。エモさ一択で育ってきた自分のバイク人生において初めて直面する「日常」推しのナナハンクラスのスポーツバイクだったのだ。
あのときとの違いは?
NX700Xで鈴鹿へと出発した段階では、バイクが持つエンジンの波長はVツイン時代のアフリカツインのようで好き。バイクとしてのハンドリングは、メッツラータイヤを履くなど乗り心地を含め、しっかりと作り込まれて好き。正直自分の中にはみんなが「うーん。新しいけど不思議系、スキかキライかは難しいね」と聞けば聞くほど燃え上がるフェチのような思いがあった。
パシフィックコースト800が実は好きだった自分には案外悪くなかったのだ。でも、総じて言うとエモさ成分が少なめなのでテンションは普通だったように記憶している。長々前置きになったが、その分、素のNC700Xを受け止められたので、その時走った1000キロでこのバイクの本質を理解できたし、その良さが伝播しているからこそ、今なおキープコンセプトで続いているワケだ。つまり、NCって唯一無二。NC登場以前、アプリリアがMANA850というCVTでトランクスペース付スポーツバイクを上梓したが、そのバイクも今はない。
今回、NC750X DCTモデルの紹介は、インプレ記事などに譲るとして実走燃費を計る前にあの時の違いを簡単に列記したい。まず……、
・NC700XはMT6速モデル、今回はDCTモデル。
・当時の計測は満タン法だったが、今回はメーター内にある平均燃費計を使う。
・西には向かったが、距離は620㎞たらず。
・あの時よりも峠道を含む一般道ツーリング燃費計測区間を多くした。
・あの時にはなかった高速道路の120km/h制限区間でも計ってみた。
・ガソリンの値段が高止まりしている今こそ、燃費性能は重要度を増している。
カタログスペックだとNC750Xは60km/h定地走行燃費が43km/l、WMTCクラス3~2の燃費が28.6km/lとなっている。これはMTもDCTモデルも同値。WMTCの燃費値は一定の気温に管理されたシャーシダイナモで走行モードに合わせた加減速をして計測。そこで排出された排出ガス成分から逆算して燃料消費量を割り出したもの。テスト時の速度領域は日本のそれより高く、またアップダウンや50km/hで郊外を数分間以上走ることは想定していないから、60km/h定地燃費値よりは実走に近い、という程度の認識でいる。
ちなみにNC700Xの燃費値は60km/h定地燃費値が41km/lだった。
燃費ログを採る手法は満タン法がポピュラーだが、計測誤差があることを否めない。もちろん「厳密に給油口の口きりいっぱいまで入れたらよいではないか」ともいえるが、今や燃料タンクから蒸発する気化成分までキャニスターで受け止める仕組みになっている。取説にもある燃料の給油油面の制限も口きり一杯まで入れることはむしろ御法度だ。そのキャニスターに入れすぎたガソリンが回り、燃焼室に蒸発した気体でなく生ガスが還元されることでエンジン不調につながるケースも発生するから、現実的に満タン法での計測は難しい。取説どおり給油口にあるプレート以上、入れない、という線までを満タンとするのだが、その油面を毎回同じに止められる精度を僕は持ち合わせていない。距離はオドメーター、速度は速度計などから拾うわけで、ならば平均燃費計の数字を基準とすればそれで良いと思うのだ。
燃費ログ、2022年版がこちら!
今回、一般道を3ステージ、高速道路を4ステージ、一般道+高速道路混合で1ステージの燃費を計測。ルートと燃費を報告しよう。
■高速道路1
都内から首都高→東名高速→小田原厚木道路・二宮ICまで73.4㎞。首都高の流れは合流地点を先頭に渋滞気味の場所もあり東名高速にアクセスするまではまさに信号のない一般道的で、停止もあり全体のペースは遅めだ。東名高速も横浜町田インターを先頭に渋滞があり、その先も厚木ICまでの区間は80km/h程度の速度で流れている。そして小田原厚木道路は70km/hの制限速度。逆に言えば燃費的には悪くない条件だと思う。NC750X DCTはここで33.8km/lだった。
渋滞があったせいでゴーストップも存在したからこんなものでしょうか。
■一般道1
二宮ICから一般道で移動。途中、秦野中井ICを通過し、国道246号経由で東名高速の御殿場ICまで49.3㎞を進む。全体にアップダウンが多く国道246号線に入ってからは秦野周辺で渋滞が続く。信号、信号、また信号という区間で移動速度がガクっと落ちた。その先、松田を過ぎ山北周辺からは快調なペースに戻るものの、バイパス的にペースがあがったところで登り区間が続き、燃費ログ的には厳しめな一般道だったと言える。結果は28.7km/l。
停止時、アイドリング時間の長さが燃費結果の伸び悩みに直結か。いずれにしてもナナハンでこの燃費は凄いけど。とはいえ、ハイブリッド車全盛の今、クルマでも20km/l越えは当たり前だからクルマ目線で言えばバイクって軽いのにどうしたの? と思われても仕方あるまい……。
■高速道路2
御殿場ICから東名高速富士川SAのスマートICまで44.8㎞。ペースは100km/hで流れる区間が大半。2012年の時は富士ICから由比、薩埵峠を目指したが、今回もそこに向かう。30分程度の走行での燃費結果は、33.5km/l。首都高→東名→小田原厚木という渋滞あり、ペース遅めの高速道路1と、100km/h程度で流しても燃費データに差は少なく、コンスタントスロットルは燃費に効果的なことが分かった。
■一般道2
この区間では途中、由比漁港、薩埵峠などに寄り道しながら浜松へと移動する一般道区間。旧東海道の風情を求め彷徨いしつつ後半は国道1号のバイパスを通りながら西へと移動。国道1号のバイパスはもはや高速道路のように信号がなく一度流れに乗れば文字通り快調に距離を稼ぐことができた。
今回、浜松駅に近くに宿を取った。でもこのまままっすぐ浜松にゆくのだけではオモシロクないので、天竜にある本田宗一郎さんが生まれた町にも寄り道することにした。Google先生が導くままに途中から内陸沿いの道へとアクセス。茶畑が続く森町などを通過。バイパスよりもペースは落ちるものの、ツーリングを楽しめた。同時に、アップダウンのある丘陵地を通過しつつ軽トラとともに40km/h~50km/hで進む区間もあった。
また、天竜二俣周辺では夕方のラッシュにもぶつかり信号待ちが多くなった。天竜から浜松へは天竜川沿いの道へとエスコート(Google先生に)され、夕暮れの河原を眺めつつ走り浜松駅前周辺へ。合計140㎞を走り31.2km/lという結果だった。
一般道で峠に向かう。
二日目、まずは給油をしてから走りだそう。往路をスタートするまえ満タンだった14リットルのガソリンタンクに、レギュラーガソリンを9.79リットル給油。ここまでの区間距離合計で307.5㎞だから、ここまでの全体燃費はいわゆる満タン法だと31.45km/lとなった。
■一般道3
浜松市内を出発する前、本田技研工業発祥の地という場所を訪ねてみた。そこは市内を東西に走る六間道路沿いにあり、道標のような碑が歩道にポツンとあった。そこに支社があるとかお店がある訳ではない。
朝、忙しそうに学校に通う生徒達、クルマで通勤する人々が活発に行き来する。凝った記念写真を撮るような空気ではなく、スマホでポツンとあった碑を撮るだけでノスタルジーに浸る時間はなかった。
NC700Xで走った時は浜松から高速で鈴鹿に向かったが、今回は浜松が折り返し地点。再び北上し、天竜を経て国道362号線で静岡市を目指し、新東名高速の静岡SAのスマートICを目指す。のどかな川沿いの道を走る国道は途中から、いつ終わるともしれない山岳ルートへと変化。山の斜面を開拓した茶畑がある集落も通る。東名高速や新幹線などで通過する静岡とは別の風景がそこに広がっている。
センターラインすらない狭い山岳路。植林された山を進むと、道には風で落ちた木々の枝、葉が堆積しアスファルトがクルマの轍分しか露出していない場所が続く。こんな時、NC750Xのクロスオーバーモデルとしてのライディングポジション、ハンドリングがイキイキとしてきた。それにDCTだ。カーブに向けて手元のシフトパドルでダウンシフトをしても、滑りやすい場所でも安心。瞬時にエンジントルクが途切れなく後輪の接地点に伝わるイメージは心強い。
気がつけば次から次と終わりなきように現れるタイトターンを切り取るのに夢中だ。見通しが悪いタイトターンでは1速まで落とすこともある。旋回性に鋭さはないが、バイクをコントロールして快走し続ける感触は最高。
好燃費を狙う企画ではないので普通に楽しんでしまった。もちろん、全域がそんな道ではなかったが、浜松~天竜、そして春野へ。また、川根本町から大井川鐵道の千頭駅までは対向二車線の気持ち良い道も含まれる。浜松市内で給油し129.3㎞の一般道を走ってたどり着いた新東名高速の静岡SAでNC750X DCTの平均燃費を確認すると、28.8km/lだった。これは渋滞を含めた一般道1の結果と同等となる。
■高速道路3
今でも記憶しているが、2012年、鈴鹿に向かったのが4月のとある金曜日。新東名が開通する前日だった。鈴鹿からの復路は真新しい新東名を通ったのが懐かしい。そして今は実勢速度に合わせ制限速度が120km/hの区間となる。
ここまでの高速は100km/h制限がマックス。連続して120km/hを維持出来る区間を長く走り、足柄SAまで走って燃費ログを採る。新型のNC750X DCT の美点として、100km/h、120km/hでも速度が維持しやすく、追い越し加速もシュンと速度が乗り完了する点でストレスがない。NC700Xの時、もちろん700㏄でパワーもトルクもあり、速度は出るものの、その速度を維持するより80km/hから90km/hで流してるのが最高に心地よい、という性格だったので知らぬ間にスピードがそのへんに落ち着いてしまう。逆に言えば知らぬ間に低燃費結果が出てしまうワケで、当時、浜松ICから伊勢湾岸道路のみえ川越ICを出て近くのガソリンスタンドまであえてガンガン走った。その時、134.8kmを走り結果は29.18km/l(満タン法で)だった。
当時、このバイクの燃費に一番驚いたのはここ。イメージとしては良くて23km/lぐらいだろう、と思っていたからだ。
今回、120km/hの制限区間はそれをキープ。NCはその速度からでも気がつけばスムーズに速度が増すので、クルーズコントロールが欲しいとすら思った。この区間、86㎞を走行して燃費は27.2km/lだった。
満タン法だったあの時、バッフルプレートが浸る程度、としたが、計算してみれば300㏄ちょっとの違いで同様の結果にもなる。当時も体験したが、セルフのスタンドでジワジワ入れると300㏄程度では油面高の高さ変化が解り難い、ということを考えたら、現行NC750X DCTの燃費はあながちNC700X MTと大差なしとも言えるかもしれない、と思う。
今の流れには断然現行型のNCのほうがマッチしている。それが120km/h区間を走った印象だ。
■高速道路4
足柄SAからは下り傾向、80km/h制限と状況はがらりと変わる。厚木の手前で100km/h制限になるが、この日は交通量が多く東名高速の終点の手前、港北パーキングあたりまで100km/hキープの巡航が難しく、90km/h程度で移動するイメージだった。その意味ではNC700Xで走った高速道路でのペースと同様でもあり、66㎞を走行した平均燃費は36km/lと今回のベストとなった。当時もそう思ったが今回も同様に、このバイク、リッター25km/lなんてなかなか出ない。燃費性能は相変わらずだ。
■最終区間は高速道路+渋滞した都内の道
港北パーキングから東名の用賀出口までが15㎞ほど。そこから都内まで12㎞ほどを移動した。東名高速はその後も大河のように通行する車達が90km/h程度で流れ、用賀出口から環状八号線、国道246号線で渋谷方向に向かったが、あちこちで渋滞があり、バイクの機動性を活かして空いている車線を選びながら移動する。
赤信号からのスタートでは状況が許す限り流れに乗るまで一気に加速をしてみた。燃費的には悪くなりそうな乗り方である。それでも26.2㎞の移動を27.4km/lでまとめたあたりはさすが。
到着後の給油をしてみたら……!
この日、合計307.9キロを走行。初日が307.5kmだったから、思わずデジャブかと思った。なんたる偶然。そしてもう一つの驚きは、これで満タン、とした給油量が9.79リットルと浜松市内で入れたガソリンの量と10㏄単位まで同じだったこと。これも単なる偶然だが、往路の31.45km/lに対し、復路は31.40km/lとウソみたいに数値が揃った。
往路、復路では走る状況、速度が異なっていただけに走った本人が一番首をかしげることに。バイク記者歴ウン十年になるが、ここまでニアピン、ここまでの偶然は初めて。驚きました。このネタをもとに、あの時はよー、数字が同じでよー、オドロイたぜ……、等々うざいこと言わないよう気をつけます。
結論はそれでなく、NC750DCTは、高速で乗りやすさが増し、ツイスティなルートでもコントロールを楽しめ、しかも燃費が良かった、ということ。とはいえ、25年前、3リッタカー(100㎞を3リットルの燃料で走る燃費性能)なんて夢に違いない、と思ったものが、ディーゼル、ハイブリッド車などが路上でもそれに近い数字を出している今、NCだってうかうかしていられない。それに、ツーリング先からガソリンスタンドの数が少なくなった今、遠慮なくさらなる低燃費を探求して欲しい。となると、いよいよMANAのようにCVT? 楽しい未来、待ってます。
(試乗・文:松井 勉)
■型式:ホンダ・8BL-RH09 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列2気筒OHC4バルブ ■総排気量:745cm3 ■ボア×ストローク:77.0×88.0mm ■圧縮比:10.7■最高出力:43kw(58PS)/6,750rpm ■最大トルク:69N・m(7.0kgf・m)/4,750rpm ■全長×全幅×全高:2,210×845×1,330mm ■ホイールベース:1,525[1,535]mm ■最低地上高:140mm ■シート高:800mm ■車両重量:224 [214]kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式:電子式6段変速(DCT) [常時噛合式6段リターン] ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C・160/60ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:グランプリレッド、パールグレアホワイト、マットバリスティックブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):990,000円[924,000円] ※[ ] はMT
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| 2012年型NC750X 『 “DCT”ってホントのところどうなんだ?』はコチラ(旧サイトへ移動します) |
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