いつの間に……。
そうなのだ。400クラスの原稿を書くにあたって各メーカーの400㏄ラインナップを検索するとホンダがCB400SF、SB、CBR400R、400Xがあり、それにGB350、Sが加わる。そのうち、SFシリーズは生産終了がアナウンスされているから、ついに400クラスから新車で買える4気筒モデルが消える日が来るのだろうか。まさに400絶滅危惧種認定だ。ホンダにはまだ隠し球がある、と僕は考えている。あの人気機種、レブル250と500が同じフレームならば、CBRに搭載される400を積めば……、と日頃思っていた。海外でCBR400Rのネイキッド版も発表されたから、遠くない将来それがくるのかも知れないが。
スズキは現状ビッグスクーターのバーグマン400だけだし、ヤマハにはYZF-R3、MT-03という320㏄エンジンを搭載したモデルがあるだけ。SR400はヤマハのホームページには掲載されているが、店頭在庫のみという状況だ。カワサキもZ400とNinja 400の兄弟車2機種だ。
よりどりみどりだった時代を懐かしむのはよそう。バタバタと環境規制の波で多くのバイクがディスコンになったのが2008年。それ以降キャブレターからFIに換装するなど対応を図ってきたモデルもあったが、昨年、再び規制の強化により、メーカーは多くのモデルをマーケットから消す決断をした。
これは荒唐無稽な発想だが、普通二輪の上限が400㏄にあるからまだギリで400クラスが継続しているわけで、かつて軽自動車の規格がエンジンは360㏄から550㏄→660㏄へと拡大し、ボディーも安全性確保のために拡大したのと同様。環境基準クリアのためにしっかりと拡大した事実に倣い、50が125へ、250クラスが350へ、400クラスが600へとなったとして、免許制度も同様に変化をしていたら、400という枠組みもとっくに消えていたかもしれない。いや、だからと言ってユーザーの興味が各クラスの排気量にまんべんなく分散したか、と問われたらまったく自信を持てない。
親しみやすいキャラ。
話がそれた。Ninja 400を紹介しよう。Ninja 400は2017年まで650と車体を共有した、いわゆるスケールダウンモデルだった。その分、大柄で車重も200㎏を越えていた。ホンダで言えば現行のCBR400Rが海外向けの500㏄モデルといわば排気量違いのモデルであることに似ている。
それが2018年に行われたモデルチェンジでNinja 400は650ではなく今度は250と主要部分を共有するモデルとなった。価格を抑えつつ、性能は先代の400より向上。車体だって250と同等。タイヤやサスペンションの違いで全高、最低地上高、シート高に5mm~10mmの違いがある程度。車重もNinja250より1㎏だけ重い167㎏と正真正銘250並。
500㏄モデルの兄弟車たるCBR400Rは重量が192㎏だから、Ninja 400は25㎏も軽いことになる。その車体に35kW(48PS)、38N.mのエンジンを搭載しているのだ。Ninja250のエンジンは27kW(35PS)、23N.mだから、1㎏しか重さが変わらないバイクへの走りの期待は高まるばかり。ヤマハのYZF-R25とYZF-R3だって相当な違いがあるが、スペック的にそれ以上。そそるじゃないか。
車体は確かにスリムでコンパクト。フロントブレーキもシングルディスクだし見た目の軽快さはまるで250だ。というか、400だぜ、という主張はあえてしないタイプのようだ。跨がっても印象は同じ。リアサスのスプリングが少ししっかりしているかな、という程度で785mmのシートに腰を下ろすとスリムな車体だというコトが解る。400という実感は他のモデルでできあがった400感に照らしてもNinja 400にはそれがない。
そのシートの前部分がタンクを含めかなり細く絞り込まれて、足を開かずに地面に下ろせる。着いた足に届く重量感も圧倒的に250クラス。その場でバイクを左右に振ってみてもエンジンが重たいというような印象がなく、Ninja250との車重1㎏の違いを明確に言い当てられる人は多くないだろう。
なによりポジションがリラックス系。スポーティーな外観スタイルに反しない程度にライダーはアップライトなライディングポジションを取れる。この点でYZF-R3、CBR400Rと同様、乗り手が持つスキルや走る場面を問わない柔軟性を持っているとも言えるだろう。とにかくこの突っ付きやすさが魅力だ。
排気量はやっぱり正義!?
いざ走りだすと、ああ、やっぱり力がある、トルクがいい、さすが400だわ、と思わず唸ることに。エンジンはスムーズ。振動が大きいという印象はない。アシスト&スリッパークラッチ付きでとても軽いレバーを操作し、駆動を繋ぎ動きだした瞬間の押し出しはさすが400。2000rpm程度からもりもりとした加速を見せ、3000、4000と回転をあげるほどに厚みは増してくる。しかし、2000から3000、3000から4000と回しても、加速度は解りやすく強まるが、どこからかを境目にして猛然とダッシュするようなことはない。250と比較にならないゆとりがあるものの、2気筒エンジンが見せるマナーは250の延長線上にある印象だ。ただ、250では絶対に真似出来ないのがここ。低い回転から繰り出すダダダダという後輪の蹴る感じだ。扱いやすく引き出せるので回さずとも満足感が高い。これはNinja 400の大きな魅力だ。
一言でラクという表現も使えるが、そこに満足感と納得感がある。市街地レベルの速度で移動をする時も軽快さがあるのは167㎏の車体とトルクのハーモナイズだと感じた。個人的にはこうした速度域で少々リアからの突き上げが気になる。これは、以前乗った2022モデルのCBR400Rが劇的に乗り心地面の良さをお尻が覚えていたからでもあるが、ダブルディスクも特別な装備も不要だが、リアのショック、リンク周りの作動性(だろうか)の質感はもう少しアップデイトして欲しい。
価格を考えたら贅沢を言えないところだが、長く付き合うにはトップエンドの性能よりこうした部分で当たりの柔らかさも欲しいところ。とはいえ72万6000円はCBR400Rの84万1500円よりかなりお手頃。ここにも250と多くを共有するスケールメリットは出ているのだろう。
本題に戻る。市街地レベルの移動速度での扱いやすさ、軽さはツーリングエリアに来ても同様だった。スロットルバルブのサイズが250と同様、ということは、排気量を肺活量と捉えたら低い回転からより早い吸気流速を得られるとも想像できる。だからわずかなアクセル操作にも丁寧でスムーズなレスポンスを返してくれる。シフトダウンもせずに低い回転からポンと開けても同様。息付くことなくグルルルと気持ち良く回転上昇を見せてくれた。
回さずに得られる満足感。結果的に回しても6000から7000rpm程度。もっと言えば、5000rpm以上はツーリングで使う必要などないのではないか、という充実感がある。フロントのシングルディスクも制動力に不満はない。荒れた路面ではトトトと足周りが暴れるような場面もあったが、安定感は崩れないから心配ナシ。
ワインディングではさすがの走りを楽しめた。立ち上がり加速が速い、というか軽い。そしてコーナーへのアプローチで緊張感なく減速ができ、旋回に入る場面でも軽いのにしっかりタイヤが接地している印象があり安心感がある。なんだろう、軽いのに軽々しくない。これがNinja 400が持つライディングワールドなのか、と浸ってみる。
エンジンの回転はアドレナリンが出るほど回さず高めのギアで流すように走った時、その旋回性と走りのバランスがとても心地よい。個人的にこのギャップ萌えを楽しみつつ試乗を終えることになる。
400って世界はどうなのか?
じっくり時間を掛けて乗ったらどうだろうか。ブルーのNinja 400を眺めながらそう思った。400という排気量は確かに免許制度が生んだものかもしれないが、250の車体に400を載せるという手法は面白い。軽さ、コンパクトさこそ正義、とは思わないが、ここに一つの理想郷があった。大排気量、存在感、重量感。そのどれもないが、走るコトへの満足感はひけを取るモノでは無かった。ダークホース。実はそんな言葉がこのバイクに相応しいのではないか。それがNinja 400なのだ。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC4バルブ ■総排気量:398cm3 ■ボア×ストローク:70.0×51.8mm ■圧縮比:11.5 ■最高出力:35kW(48PS)/10,000rpm ■最大トルク:38N・m(3.9kgf・m)/8,000rpm ■全長×全幅×全高:1,990×710×1,120m、m ■ホイールベース:1,370mm ■シート高:785mm ■車両重量:167kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機形式: 常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):110/70R17M/C・150/60R17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式シングルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:メタリックマットトワイライトブルー×メタリックグラファイトグレー、メタリックマグネティックダークグレー×メタリックスパークブラック、ライムグリーン×エボニー(KRT EDITION) ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):726,000円
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