デザインも見所満載。
冒頭で結論を言ってしまったが、YZF-R3はとっても良いのだ。YZF-R25と車体サイズ、ホイールベース、シート高も同値。さらに重量も全く同じときている。直径を8mm拡大したピストンを入れたエンジンで、排気量をR25の249㏄から320㏄へと拡大したR3。
車体スペックは同じだが、エンジンスペックはもちろんR3のほうが上だ。最高出力は26kW(35PS)12000rpmから31kW(42PS)10750rpmへと8PSアップ。最大トルクは23N.m/11000rpmから29N.m/9000rpmへと6N.m、およそ26%上昇。排気量分のゆとりか、発生回転数はともに低くなっているのも特徴と言えるだろう。なによりスペック計測は全開でのパワー/トルク変動を測定するから、むしろ日常域で感じるわずかなスロットル開度で生まれるゆとりの方が実は僕たちライダーにはメリットが大きいと言える。
その同じ重さの車体に搭載することと、R3にはR25とは異なる専用のハイギアードな6速ミッションを与えた結果(一次減速、二次減速は両車とも同じ)、カタログ燃費データもR3のほうが良い結果になっている。ホンマかいな?
YZF-R3のスタイルは、ヤマハのYZFシリーズ特有のスポーティーさを纏ったフェアリングデザインを採る。じっくりとデザイナーが腕を振るった様子が各所から伝わってくる。「デザインで選んでもらう」ために、0.1mmの違いにまで拘ったという。ラインとラインの引き方、そのラインの延長線上でどう消えてゆくのかなどその思い入れはさすがヤマハだ。シリーズの象徴でもあるMotoGPマシン、YZR-M1が持つスキのなさ、プレミアムクラスを戦う気概のようなものまでもが、そのカタチに質感から伝わってくる。
だから、跨がってもライダーとボディーが触れるような場所に違和感がない。ルックスだけではなく、そうした部分にまでスポーツライディングをするために妥協なく作り込んでいるのが解る。上物のデザインだけではなく、骨格たるフレームだってそうした意図に合わせて造らないと完成しない。
スポーティーなルックスなのにハンドルのグリップ位置は低すぎず、市街地でもラクにコントロールができる。日帰りツーリングでも快適さがなくならないレベル。疲れないポジションと言えるだろう。
排気量拡大の正義。
トルクとはこのことだ。
さあ、走りを解説していこう。R3のエンジンが持つ余裕で、これほどまでにバイクが軽々と走るとは思わなかった。R25もよく走るし何の不満もないが、4000rpmあたりまでのトルクの厚み、6000rpmあたりまでの満足感とゆとり感がR3はスゴイ。ついつい回したくなるR25のような気持ちにならず、市街地でもすぐに6速までシフトアップ、流すように走れるのだ。排気量のなせる技なのだが、こうまでゆったり感があるとは。
エンジンは320㏄だけど400クラスと表現して差し支えない力量だ。出だしの軽さはR25と全く同じ車体重量というのも効いている。その分、半クラ操作に神経を尖らせる必要がないのだ。いつでも下り坂で発進するかのように軽快に動き出し、ドゥルルルと回るエンジンの音を楽しみつつ加速が頼もしい。
それはツーリング時も同様で、上り坂を一定速のままアクセルだけでラクラク6速のまま登ってゆく。こんな走りができるなら、燃費も良いはずだ。試しに車載の燃費計で計ったら市街地でも30km/l、高速で31km/l、ツーリング時には40km/lを軽くマークした。同じコンポーネントを使ったネイキッド版、MT-03ではもう少々良かったので、今回暫定的に測ったものながら、悪くないと思う。
もちろん、燃費は走り方によって全く異なるからあくまで一例に過ぎないが、軽い車体にゆとりのあるエンジンを搭載したYZF-R3はあらゆる場面で魅力を持っているわけだ。
ワインディングでの走りも紹介したい。カーブに向かってR3でアプローチする。ブレーキの効き具合はほどよく、その操作力を少し緩めつつもフロントサスペンションで前輪に荷重をのせたまま旋回へと入る。グリップ感もある。前後にラジアルタイヤを履くだけにサスペンションのグレードが1ランク上がった印象だ。
タイヤサイズは細身ながらしっかりと路面とコンタクトする様子が分かる。タイヤに熱が入ってくるとトレッド面から伝わるインフォメーションが細やかになり一体感が増してきた。鋭い旋回性を持つわけではないものの、スポーツライディングの醍醐味をしっかり享受できる。フレームも適度にしなやか。車体から来る手強さはない。その分ツーリングで出会うワインディングではマッチングが良好な気がする。楽しいのだ。
出口が見えたところでアクセルを開けてゆくのだが、このときのエンジン回転数をさほど高くキープしなくてもしっかりとリアタイヤに駆動力が掛かる。立ち上がり加速感が気持ち良い。これもトルクのなせる技。トルクバンドが広いのでライダーはラインや走ることへの集中力を高く保てる。
次のカーブに向けて切り返す場面でも車体の軽さと落ち着きのある車体の動きによって充実感のあるコーナリングへと変化してゆく。峠道の細かな切り返しの連続にあっても、こうした走りの対話を楽しめるのがR3のステキなところ。
最初に結論を言ってしまったが、こうした走ることの全てに一体感というか、連帯感のようなものが気持ちレベルで介入してくれるバイク、それがYZF-R3だったのだ。
このクラス、よいかも。
昨年、いわゆる300㏄クラスのバイクにまとめて乗る機会があった。MT-03、ベスパの300、BMWのG310シリーズ、トリシティ300……。そこで感じたのが250クラスと少なくない充実感の差だ。250が持っているメリット、例えば車検がないなどの維持費が車検付きバイクよりも安くなるといった部分は承知の上だが、もし維持費の安さを活かすなら、125クラスのほうがいい、と自分なら思う。なぜなら、高速に乗って出かけるたびに、絶対に大きな排気量が欲しくなる自分は、すぐにもっとパワーのあるバイク、排気量の大きなバイクに乗り換えるだろう。結局車検代なんかじゃ埋まらないコストを払うことを過去に何度も経験してきた。R3なら1台でも当分満足できそうな予感がしたし、250クラスの車体にちょっと排気量を増やしたエンジンを搭載したことで生まれるゆとりは「新しい」発見だった。
400はもっと余裕があるが、それとも違う。世界的に250クラスのバイクを300クラスまで拡大して販売しているケースがある。今回のYZF-R3もその一台だ。高速道路の一部120km/h規制などが広がりつつあり、環境規制のレベルがステップダウンすることは今後もないだろう。CO2排出削減もマスト。となれば、実走燃費が良好で走るのが楽しい、軽い、取り回しがラク、という一つの集約点としてこのクラス、注目してみるとよいのではないだろうか。と、いってもショップでは250と400の狭間で売りにくい存在だということは容易に想像がつく。乗れば良いバイクポジションなのだろう。原付バイクを125㏄へ、という動き同様、250クラスを300~350クラスまでにシフトすることもメリットがあるような気がした。モビリティーとしてもバランスがとっても良い、と感じたからだ。YZF-R3の結論としてちょっと的が広がってしまったが、それほど可能性を感じたからに他ならない。
(試乗・文:松井 勉)
■エンジン種類:水冷4ストローク並列2気筒DOHC 4バルブ ■型式:2BL-RH13J ■総排気量:320cm3 ■ボア× ストローク:68.0× 44.1mm ■圧縮比:11.2 ■最高出力:31 kW(42 PS)/10,750rpm ■最大トルク:29N・m(3.0 kgf・m)/9,000 rpm ■全長×全幅× 全高:2,090 × 730 × 1,140mm ■軸距離:1,380mm ■シート高:780mm ■車両重量:170kg ■燃料タンク容量:14L ■変速機:6段リターン■タイヤ(前・後):110/70R 17M/C 54H・140/70R 17M/C 66H ■ブレーキ(前・後):油圧式シングルディスク[ABS]・油圧式シングルディスク[ABS] ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:シアンメタリック6、マットダークグレーメタリック8、ディープパープリッシュブルーメタリックC、 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):687,500円
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