最終戦オートポリスは、勝利を求めるライダー、タイトルを考えるライダー、ライダー人生の最後を表彰台にと賭けるライダーたちの熱気と緊張感が張り詰める戦いとなり、そこへ台風の来襲で、レースウィークは雨と風に翻弄され、金曜日の午後で走行が打ち切られた。予選日のコンデションは、ウェットからドライへと変わり、決勝日には晴れるという状況となり、それぞれの思惑が交錯し、空模様同様に荒れた戦いとなった。
■JSB1000 圧倒的強さを見せた“絶対王者”中須賀克行
最高峰クラスJSB1000はYAMAHA FACTORY RACING TEAMの中須賀克行の10回目のタイトル獲得に注目が集まる戦いとして開幕戦を迎え、中須賀は危なげない走りで連勝を重ねた。そして第5戦鈴鹿でその目標を達成し、第6戦岡山国際も勝ち、最終戦には全戦全勝という記録に挑むことになった。
コンデションの変化も、王者には関係なく、レース1、2共に圧勝し全戦全勝という快挙を成し遂げた。最多優勝記録を63と伸ばす圧勝だった。絶対王者の強さを、これでもかと見せつけたシーズンを最高の形で締めくくった。
そのライバルとしてAstemo Honda Dream SI Racingの清成龍一の躍進に期待がかかったが、市販マシンであるHonda CBR1000RR-Rで、中須賀の駆るファクトリーマシンYAMAHA YZF-R1に挑む戦いは厳しいものがあり、セッティングに関して大きな賭けともいえる変更を施してグリッドに並んだが勝利することはなかった。上手く機能した時にはトップ争いをし2位となるが、外すと下位に沈み、結果ランキング3位となった。
代わって2位に浮上したのはHonda Dream RT 桜井ホンダの濱原颯道(Honda CBR1000RR-R)で、トップ争いに絡むことはなかったが、確実に上位でフィニッシュしてポイントを加算した。表彰台の常連ライダーとなり、その存在感を示した。
■ST1000 渡辺一馬、意地のチャンピオン!
2020年に新設されたST1000は、2年目を迎え、エントリー数の増加に伴い人気クラスとなった。初代チャンピオンとなった高橋裕紀(日本郵便 HondaDream TP /Honda CBR1000RR-R)は、開幕戦となったもてぎで最後尾スタートから勝利するという離れ業を見せたが、その後は、世界耐久選手権参戦のため全日本は欠場することになった。
第2戦のSUGOで初優勝を飾ったのは渡辺一馬(Astemo Honda Dream SI Racing/Honda CBR1000RR-R)。3戦目は筑波での2レース開催で、1レース目は榎戸育弘(SDG Motor Sports RT HARC-PRO/Honda CBR1000RR-R)が初優勝を飾り、2レース目には作本輝介(Astemo Honda Dream SI Racing/Honda CBR1000RR-R)が勝ち、初優勝ラッシュとなる。
第5戦鈴鹿で渡辺が2勝目を挙げ、第6戦目には作本が勝ち、最終戦へとチャンピオン争いが持ち込まれる。渡辺、作本のチームメイト対決の舞台となった最終戦のオートポリスでは岡本裕生(bLUcRUニトロレーシング51 YAMAHA/YAMAHA YZF-R1)と作本の一騎打ちとなり、岡本が勝利しホンダ勢優勢の戦いに一矢報いた。ヤマハにとっては唯一の勝利となった。2位に作本が入るが、ポイント争いでは4位でチェッカーを受けた渡辺が勝りタイトルを獲得した。昨年はJSB1000を戦っていた渡辺にとって、ST1000のタイトルは意地でも譲れないもので、それを確実な走りで手にした。
■ST600 昨年のランキング14位からの大躍進、埜口遥希がチャンピオン。
血気盛んな若手ライダーが躍動するクラスで、最終戦のエントリー台数は35台に上った。タイトル争いの最右翼であるベテラン小山知良(日本郵便 HondaDream TP/Honda CBR600RR)が開幕戦もてぎを制する。第2戦SUGOは荒川晃大(MOTO BUM HONDA/Honda CBR600RR )が勝ち、第3戦筑波のレース1は長尾健吾(NCXXRACING&善光会 TEAMけんけん/YAMAHA YZF-R6)が優勝。レース2は埜口遥希 (MuSASHi RT HARC-PRO./Honda CBR600RR)が勝ち、ここまで毎レース勝者が違う激戦となった。
だが、第5戦鈴鹿で小山が3勝目を挙げると、そのまま小山がタイトルに突き進むと思われたが、第6戦岡山国際でフライングのペナルティでライドスルーとなり、追い上げるも14位でチェッカー。2勝目を挙げたのは、埜口でランキングトップに浮上する。
最終戦では小山は強さを見せて2勝目を挙げ、タイトルの可能性を残した荒川は転倒リタイヤとなり、熾烈な2番手争いを繰り広げるのは埜口、長尾、阿部恵斗(Webike チームノリックヤマハ/YAMAHA YZF-R6)。1コーナーのブレーキングで埜口がアウトに振った時、長尾に接触。長尾は1コーナーで飛び出し、グラベルで転倒のアクシデントが起きる。2位に阿部が入り、3位は埜口となった。接触アクシデントでペナルティが課せられたならば、タイトル争いに影響すると見られたが、お咎めなしで埜口の初チャンピオンが決定する。昨年のランキング14位からの躍進を見せて、初の栄冠に輝いた。
■J-GP3 尾野弘樹が逆転チャンピオン!
ロードレース世界選手権Moto3ライダーだった尾野弘樹が、古巣のP.MU 7C GALE SPEEDからHonda NSF250Rで参戦。今季タイトルを獲得し、全日本フル参戦に終止符を打つことを決めた小室旭(Sunny moto Planning/KTM RC250R)との一騎打ちのタイトル争いとなった。
開幕戦もてぎを制したのは尾野、第2戦SUGOでは小室が勝ち、そこから3連勝を挙げランキングトップとなる。第5戦の鈴鹿で尾野が勝利するも、1戦ノーポイントがあり、第6戦岡山国際で小室が勝利すれば、最終戦を待たずにタイトル決定となる。だが尾野が勝利し、小室は3位となりチャンピオン争いは最終戦へともつれ込んだ。
最終戦オートポリスで尾野が優勝しても、小室が3位に入れば、小室悲願のチャンピオン決定となる。15周で行われた決勝、尾野はポールポジションを獲得し、ホールショットを奪い独走優勝を飾る。注目となった小室の順位だが、2位を走行するも細谷翼(realize racing team/Honda NSF250)、徳留真紀(マルマエMTR/Honda NSF250)、木内尚汰(EAM PLUSONE/Honda NSF250)が迫り、11周目に細谷が3番手に上がり、12周目には徳留にも抜かれ4番手となるという熾烈なバトルが続いた。2位に徳留が入り、注目の3番手争いは、小室が仕掛け、2台が並んでコントロールラインを通過するが、細谷が0秒008差で3位。小室は、その僅差に涙を飲み4位となる。その結果、尾野が逆転チャンピオンを獲得した。
最高峰クラスJSB1000は、中須賀の圧倒的強さが印象に残り、清成の苦悩が色濃く表れた戦いだった。濱原、名越哲平(MuSASHi RT HARC-PRO./HondaHonda CBR1000RR-R)、亀井雄大(Honda Suzuka Racing Team/Honda CBR1000RR-R)ら若手の躍進もあり、表彰台争いは常に熾烈なものだった。
ST1000はエントリー数の増加を受け、人気クラスの位置を確立しつつある。渡辺が実力を発揮しタイトルを得たが、そこに追いつく作本、榎戸、岡本ら力を持ったライダーたちの躍進も顕著だった
ST600は、大ベテラン小山に挑む、実力者長尾、若手の埜口、荒川らの躍進。後半戦に来て調子を上げた阿部、速さを見せた國峰啄磨(TOHO Racing/Honda CBR600RR)らの存在も、レースを盛り上げてくれた。
J-GP3は尾野に追いつこうと闘志を燃やす細谷、本領発揮した徳留、トップ争いの常連となった高杉奈緒子(TEAM NAOKO/KTM RC250R)らの活躍が目立った。小室は圧倒的な速さを示しながら、タイトルに届かずに、来季は新たな道を歩む。
大記録を達成した中須賀が「この結果を残せたのも、新型コロナウィルスの影響がある中で、全日本を開催してくれた関係者のおかげ。感謝しています」と最終戦の会見で述べた。早々に、2022年の全日本スケジュールが発表された。来季に向けてのストーブリーグもいろいろ囁かれており、また新たなスター誕生を願いつつ、長いオフシーズンを過ごす。
(レポート:佐藤洋美)
■2022年度 全日本ロードレース選手権暫定カレンダー
第1戦 4月2日~3日 ツインリンクもてぎ 全クラス
第2戦 2&4 4月23日~24日 鈴鹿サーキット JSB000
第3戦 2&4 5月21日~22日 オートポリス JSB1000
第4戦 6月4日~5日 SUGO 全クラス
第5戦 6月25日~26日 筑波 ST1000、ST600、J-GP3
第6戦 8月27日~28日 オートポリス 全クラス
第7戦 9月17日~18日 岡山国際 全クラス
第8戦 11月5日~6日 鈴鹿サーキット 全クラス
※全クラス=JSB1000、ST1000、ST600、J-GP3