Facebookページ
Twitter
Youtube

試乗・解説

Honda CROSS CUB110 レジャー&ファン、ポップで楽しそう、 でもクロスカブはクロス「カブ!」
登場以来1億台以上が作られたスーパーカブシリーズ。その歴史の中では様々な派生モデルも登場したが、近年の110ccカブではこのクロスカブがそのハシリ。2013年に登場してレジャーとしてのカブを再び、いや三度、……いや、もはや何ど目かはわからないが、そういう存在として登場して、レジャーとしてのカブをまたまた提案してくれた。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:折原弘之 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン https://www.honda.co.jp/motor/■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、KADOYA https://ekadoya.com/、アルパインスターズhttp://www.okada-corp.com/?from=mr-bike




当初からあったハンターへの憧れ

 カブが110になり、かつての外装を兼ねる鉄フレームから樹脂に覆われた姿になったのは、カブの歴史の中で大きなステップだっただろう。テレスコピックフォークになりより万人向けの操作フィールを得たことや、日本国内では目新しかったスムーズでパワフルな110ccエンジンの採用は、多くの人に歓迎され新たなスタンダードとなった。
 しかし発売当初からこれのバリエーションモデルを求める声はあったように思う。このエンジンでモンキーやゴリラといったレジャーバイクが出たらいいのに……さらにはハンターカブもあったらいいのに……。後にモンキーも、そしてハンターカブも登場するわけだが、それの道筋をつけてくれたのがこの「クロスカブ」だろう。
 ちょっとオフロードテイストで、冒険心を刺激してくれる乗り物。それでいてカブらしい汎用性や万能性を持つバリエーション展開。クロスカブは市場に歓迎されヒット作となる。が、当初からアップマフラー化といったハンターカブに寄せたカスタムが見られ、「ハンターカブを出してくれればいいのに」というユーザーの潜在意識が垣間見えた。
 後にC125をベースとしたハンターカブが実際に登場するわけだが、とはいえ今両車が同時にラインナップされていてもクロスカブにはクロスカブの魅力がある。なんといっても「カブらしい」のである。
 

 

スタンダードカブ直系という魅力

「カブらしさ」とは何かと問われればなかなか難しいトコロではあるが、実用性などと表現することの多い、いわゆる「使い倒し感」がソレではないかと思う。クロスカブを見ると鮮やかなカラーリングや無骨なイメージは確かにあるものの、細部はいい意味でほぼカブのままだ。110の足周りはスタンダードのカブと同様だし、チェーンは全体を覆うカバーがつくし、スイングアームもシンプルな鉄角パイプ。ヘルメットホルダーが装着されている所や、今の型ではなくなったが初期型はレッグシールドもついていたことを思えば、細部に「カブ色」が強く宿っているのである。

 対してC125やハンターカブを見るとあちらは別系統だということがわかる。基本的な成り立ちが「ビジバイ」ではないのだ。専用設計された部分が多く、それら機能部品にも高級感や色気が漂う。カブ系ではあるものの、完全に「趣味のバイク」へと脱皮しているのである。
 どちらが良い、ということはないのだが、クロスカブには「4ナンバー感」があり、それが魅力だと思う。C125やハンターカブがN-BOXならクロスカブはN-VAN、おしゃれで楽しそうだが、あくまで貨物車/実用車。だからこそ遠慮なく使い倒せるぜ! 的な魅力があるように感じ、それが「カブらしさ」なのではないかと思うのだ。
 

 

ルルルーと走る

 そんなクロスカブで走り出すと、スタンダードカブと同様のスムーズさに笑顔が漏れる。ミッションを操作した時のショックの少なさ、そこからアクセルを開けた時の遠心クラッチの素直なつながり方。そして各ギアで回転数を上げていっても振動が少なく静かに、確かにカブらしくフレキシブルに使えるトルクを出してくれる。近年の様々な規制に対応しているという都合もあるだろうが、4ストシングルらしいパルス感のようなものはほとんどないため、タタタンッというような感覚よりも「ルルルー」と走っているようなイメージだ。
 

 
 このスムーズさ、静かさはまさにビジバイ的。趣味の乗り物としての演出や感動というのが第一義ではなく、あくまでライダーの何かの目的を果たすためのツールとしての脇役、名サポート役として使命感のようなものを感じさせてくれる。主張しないからこそ、長距離でも、毎日でも、遠慮なく使い倒せるという部分が確かにあるだろう。疲れさせない「道具感」のようなものはソレこそがカッコイイ要素であり、N-VANをレジャーに楽しく使う人がいるのと同じように、クロスカブもまた、実用~レジャーへと幅広く使いたくなるツールであると、見た目だけでなくエンジンやミッションの設定からも感じられた。
 

 

意外やスポーティ

 エンジンの名脇役感がまず印象的なのだが、そうするとハンドリングもまたビジバイというか、あくまでオーソドックスなものを連想するだろう。ところがワインディングを走ると意外やクイックな操舵性に気付いた。フロントがとても軽く、スイッとコーナーへと倒れ込んでいく特性があるのだ。最初はちょっとクイックすぎると感じたほどなのだが、一度バンク角がついてくると逆に安定しているから不思議だ。ブロックパターンタイヤにもかかわらず、路面が良ければつま先やステップ先端が擦るようなバンク角も可能で、スポーツマインドを刺激してくれる。
 

 
 この特性はたぶんスタンダードなスーパーカブと共通しているように思う。あちらは入り組んだ市街地でスイスイと走り回り、気軽にUターンができるような、そんな意図でクイックなハンドリングなのだろう。ただそれをクロスカブで感じるととたんにレジャーに思えるのだからなかなか奥が深く、カブの絶妙な各種設定を見せつけられた想いだ。
 ただコレだけ活発に走れることを知ってしまうと、ついついペースアップしてしまい、エンジンのスムーズで静かな美味しい常用域ではなく、高回転域もギンギン使いたくなってしまう。ところがこうなると「ちょっと違うな」なんて思い始めるのだ。高回転域を使い、ギアを駆使し、ブレーキも強くかければ確かによりスポーティなペースも十分可能なのだが、そうなると「もっとパワーがあってもいい」だとか「ブレーキももう少し効いてもいい」などと思いはじめ、クロスカブの超絶バランス領域を踏み越えてしまっていることに気づいてしまう。これではイケナイ。クロスカブの楽しさや美味しさは、走りもライダーのメンタルも、活発に「なりすぎない」ところにあるだろう。
 

 

賢い選択肢

 今やカブはスタンダードの他にこのクロスカブ、ハンターカブ、C125、そしてカブプロや50ccも加えればよりどりみどりなブランドだ。その中から自分の好みに合った物を選べば良いのであって、必ずしもこのクロスカブがこのラインナップの中でとびぬけて良い、というわけではないだろう。
 クロスカブの立ち位置を見ると、スタンダードのカブ110よりも6万円高くて、7kg重い。ハンターカブよりは10万円安くて、14kg軽い。非常に上手にスタンダードカブとハンターカブの間に位置しているのだ。乗り味も同様で、あくまでビジバイとしての名脇役感がありながら、それでいてレジャーも楽しめそうなワクワク感がある。「いいとこどり」「ちょうどいい選択肢」といった言葉が浮かんでくる設定であり、ハンターカブという上位機種(?)が現れた今でもこういった立ち位置に共感する人は、特にカブ好きには多いのではないかと思えた。
 N-BOXではない、でもアクティでもない。なんか楽しく使えるちょうどいい道具=N-VANに惹かれるアナタは、クロスカブがきっとフィットすることだろう。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

跨った感じはスタンダードなカブとよく似ていて、サスの初期沈み込み、シートの柔らかさなどはとても安心感のあるもの。またハンターカブと比べると、ダウンマフラーであることや吸気口が上へ伸びていないといった設定のためシートの下あたりがスリムで足着き良好、質量もかなり軽く感じ押し歩き・取り回しは良好だ。

 

110ccユニットは数年前にオイルフィルターを追加するなど整備性・耐久性も向上させた、今やよきスタンダード。振動やメカニカルノイズも少なく、いつまででも走れそうな相棒感がある。ミッションは4速。もちろんセル付だがキックも備える。

 

スタンダードなカブと同様クロスカブはドラムブレーキ仕様。ハンターのディスクブレーキを知ってしまうといくらか見劣り(効き劣り)してしまうが、リアブレーキと併用すれば実際の減速能力は必要にして十分。

 

カブらしい見慣れたサイドカバーとシート下のクロスカブの文字がカブを主張(ハンターカブはどこにも「カブ」とは書いてない)。リア周りは角鉄のスイングアームなどスタンダードカブと同様の設定。

 

クロスカブはフロントフォークをスクーターなどと同じように三又下部のみで支持する方式で、このおかげもあってヘッドライトはフレームマウントである。これによりヘッドライト上には小さなキャリアが装着されていて、ここに荷物を載せてもハンドリングに影響しないという利点がある。重積載時にはこのフロントキャリアにも重量物を分散すると前後バランスが良いだろう。

 

ハンターカブになると硬めでダイレクト感のあるシートだが、クロスカブはスタンダードカブと似たフィーリング。長身でシートの後ろの方に座ってしまう筆者はハンターカブの堅牢なリアキャリアに尾てい骨を打ち付け痛い思いをすることもあるが、クロスカブの一般的なキャリアならそんなこともなかった。

 

チェーンを完全に覆ってしまうチェーンカバーを採用。静寂性、対候性、そして安全性などが高く、筆者お気に入りポイントである。
速度計と燃料計をシンプルにアナログ表示するメーターはカブプロと共通するイメージ。無骨な感じが全体のフィーリングにマッチ。

 

ダウンマフラーは排気口が耳から遠いということもあるだろうが、とても静かで高級にすら感じた。タンデムする際も熱くなるマフラーがダウンタイプというのは安心材料だろう。
フロントブレーキには握ったままロックできるパーキング機能が付属。遠心クラッチでもギアに入れておけば、エンジン停止時は車体が転がっていくことはないが、クラッチレスの乗り物はなんとなくパーキングブレーキが欲しい気持ちもわかる。本当に必要になる場面はエンジンをかけたまま下り坂に駐車する時ぐらいだろうが、しかし使いつけるとなんとなく結構使ってしまう機構だ。バーエンドには大きなウェイト。振動軽減に寄与しているだろう。

 

●Honda クロスカブ110(2BJ-JA45)主要諸元
■エンジン種類:空冷4 ストロークSOHC 単気筒2バルブ ■総排気量:109cm3 ■ボア×ストローク:50.0×55.6mm ■圧縮比:9.0 ■最高出力:5.9kW(8.0PS)/7,500rpm ■最大トルク:8.5N・m(0.87kgf・m)/5,500rpm ■ 全長×全幅×全高:1,935×795×1,090mm ■軸距離:1,230mm ■シート高:784mm ■車両重量:106kg ■燃料タンク容量:4.3L ■変速機形式:常時噛合式4 段リターン ■タイヤ( 前・後):80/90-17M/C・80/90-17M/C ■ブレーキ(前・後):機械式リーディング・トレーリング ■懸架方式(前・後):テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:クラシカルホワイト、パールシャイニングイエロー、カムフラージュグリーン、プコブルー(台スン限定カラー)■メーカー希望小売価格(消費税込み):341,000 円

 



| 『冒険の記号、クロスカブ』へ |


| 『遊び心がいっぱい、21世紀の“ハンターカブ”第二章』へ |


| 新車詳細へ |


| ホンダのWEBサイトへ |





2021/09/24掲載