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試乗・解説

YAMAHA MAJESTY S 『ステップスルーの正義』
軽二輪スクーターはいわゆる「ビグスク」と呼ばれた250ccクラスに代わり、今は「軽・軽二輪スク」とも言える150cc近辺のモデルが一般的になってきた。車格は125ccクラスとほぼ同等、しかしちょっとだけパワーに余裕があり、そして何よりもバイパスや有料道路、そして高速道路も乗れる「軽二輪枠」であることが魅力。そんな中の唯一のステップスルー車、マジェスティSである。
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:YAMAHAhttps://www.yamaha-motor.co.jp/mc/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ、http://www.okada-corp.com/




軽・軽二輪の魅力

 ホンダはPCXとADV、スズキはちょっと大柄のバーグマン200を展開するこのカテゴリーにおいて、ヤマハはこのマジェスティSに加えNMAX155、トリシティ155と「軽・軽二輪」クラスに3台ものスクーターをラインナップしている力の入れよう。かつて250ccのマジェスティで一世を風靡、またスクーターやオフロード車に強いイメージのヤマハだけに、このクラスの魅力を一番追求しているのかもしれない。

 ヤマハの軽・軽二輪ラインナップで、ホンダのPCXの対抗馬となる頂点モデルはNMAXだろう。しかしスクーターはラグジュアリー感や趣味としての満足度だけでなく、やっぱり実用第一じゃないか!? と誰かが言ったに違いない。だからこそこのクラスにわざわざフルフラットステップスルーのマジェスティSをラインナップしてくれているのだ。
 

 
 最近モデルチェンジしてLEDヘッドライトを採用するなどルックスをアップデートさせたものの、装備上はかわらず125ccのシグナスXとよく似た感じで、ステップスルーに加えコンビニフックや大きな開口部を持つフロントポケットを備え、50ccスクーターの便利さの延長線上に確かにある。それなのに市町村のピンクナンバーではなくちゃんと軽二輪ナンバーがついているというアンバランスさ、否、夢のような組み合わせ。マジェスティSこそが軽・軽二輪の「イイトコドリ」の見本のようなバイクだと思う。
 

 

スポーティなフィールもシグナス的

 そんなマジェスティS、もともとはもう少しのんびりしたルックスだったが、今回シャープな印象に変わったと共にさらにスポーティな感じが高まった印象。前後タイヤは太目で、シート着座位置は高く、モノショックを備え、ステップボードの位置もかなり高い。そのせいもあってか、実はホイールベースはPCXよりも長い(90mm長い1,405mm)にもかかわらず、前後ホイール位置とライダーの重心位置の関係上なのか腰高なイメージがあり乗り味もかなりスポーティ。いかにもシグナス的で、高い重心位置からダイナミックに寝かせていく感じはモタード的な感覚もありつつ、さらにかつて国内でも大変盛り上がったスクーターレース気分にすらなれる。

 ただ、ステップスルー故かどうかはわからないが高い速度で路面の悪い所に差し掛かると、フロント周りが上下方向にゴトゴトとゆすられるようなことが起きることもあり、こういう時はシートストッパーに尻を押し当て、足をステップボードに踏ん張り、身体でサブフレームを作ってあげて車体を落ち着かせてあげると収束するようだった。こういう場面での安定感はNMAXなどに一歩譲るかもしれないが、しかし「スクーターという便利目的の乗り物で、ちょっとムリしている領域をライダーが一生懸命カバーしてあげている感」みたいなものは、実はけっこう楽しい。
 

 
 加えてエンジンの設定もスポーティ路線。NMAXが採用する最新のブルーコアエンジンではなく、マジェスティSに搭載されるのは一つ前のユニットなのだが、NMAXやその対抗馬のPCXがスムーズ&トルクフル、ラグジュアリー路線なのに対し、マジェスティSはもっとストイックというか、どこか懐かしさも持ったような活発さが魅力だ。

 アイドリング時からそれなりに振動がありエンジンの存在感は大きく、発進でアクセルを開けると3700回転ほどでクラッチが繋がり、そのまま全開にすれば7500回転辺りを維持しながら一気に加速。その様がトルクで上品に引っ張るだとかそういうイメージとは対照的な「パワーバンドを駆使して激加速!」という気合を感じるもの。事実80km/hぐらいまでの加速はかなりのもので都市部の使用において不満が出るどころか、大抵の乗り物は置き去りにできることだろう。
 また目の前に位置するタコメーターの存在感が大きく、視覚的にも常に回転数を意識させてくれ、感覚的な部分でもスポーツ心を刺激してくる。

 こんなにモダンなルックスをしているのに、やはり乗り味はシグナスX。どこか懐かしさも感じて、「あの気合の入ってたスクーターの末裔」という感覚になんだか嬉しくなった。ちなみに試乗では高速道路も乗ったが、首都高などでは何も不満なくスイスイ走れたものの、一般的な高速道路で100km/h位で走るとさすがにパワー不足は認めざるを得ない。ずっと全開! ということになってしまい、燃費も落ちるし何よりも疲れる。混んでいる場面や速度域の高い場所だと車体の小ささゆえの恐怖感もなくはない。いざという時に首都高やバイパスに乗れるというのが軽・軽二輪の魅力だが、高速走行が多いならばやはりフルサイズの250ccスクーターにした方が良いだろう。
 

 

スクーターは便利! に立ち返る

 NMAXやPCXといったラグジュアリー路線の軽・軽二輪もあるが、マジェスティSは根底に「スクーターは便利」という信念があるように感じ、そして筆者はその部分に強く共感する。バイクは全般的に趣味のモノとして扱われることが多くなり、実用として乗る人は以前に比べると減っただろう。そんな中スクーターはそもそも実用として生み出された形態であり、このように時代が変わっても実用での便利さを優先していると感じるマジェスティSには好感を覚える。

 実用的だな、と感じるのは何をおいてもステップスルーである。何せ乗り降りが劇的に楽なのだ。ステップスルーではないモデルだって、別に一般的なバイクみたいにリアシートの方から足を跨げばいいじゃないかと言われればそれまでだし、車高が高いわけではないためそれが苦になるわけではない。しかしそもそもスクーターなのだから一般的なバイクと同じでどうする!? という気持ちにもなる。ステップスルーのマジェスティSは「跨ぐ」という感覚がなく、本当にただ「腰掛ける」だけであとは足を揃えるだけ。50ccの「原チャリ」と同等の接しやすさなのである。だから歩道をちょっと押すためにスッと降りたり、横断歩道を押して渡った後にまたスッと乗ったりするという、都市部では少なくない場面において本当に楽。また乗車姿勢がアップライトなため乗り降りに向いているとも言えるだろう。
 

 
 加えて、ステップスルーでハンドルから床までの距離が長いから、それこそ50ccと同じような「コンビニフック」という装備も可能となる。コンビニでビニール袋がもらえなくなった今だが、例えばビジネスバッグを足元に置いた時に、落とさないようにこのフックに取っ手部分をかけておくなど、やっぱりこれは便利な機能なのだ。さらには、このステップボードに物を置く(積載する)のは法的にはグレーゾーンではあるものの、地方でよく見る光景は灯油の18Lポリタンクをここに載せて走っている姿。これを考慮しているとも思えないが、マジェスティSもちょうどポリタンクが収まるスペースが、確かに確保されているのだ。「便利であること」が第一のスクーターにおいて、こういった使い方の拡張性、自由度は大切だと思う。
 

 
 さらに、ライバルには少ないがキーシリンダーの反対側の、かがまなくてもアクセスできる高い位置に給油口があるのも嬉しい装備。単純に給油の時にかがまなくて良いというのが腰痛持ちにはありがたく、それに加え給油完了時に給油ノズルをスイッと上に向けて給油を終えることがやりやすいため、ポタポタと最後の2滴ほどをステップボードにこぼしたりすることが少ない。これがステップボード近くにあると、ボードが邪魔でどうしても最後にノズルを上に向けにくく、何かとこぼしてしまう……とスクーターを2台所有する筆者は常日頃から感じているのだった。

 もう1点、いや2点、もうしつこいようだが便利ポイントを追加しておこう。キーシリンダーなのだが、これがいわゆる昔ながらの盗難抑止用シャッター付きのキーシリンダーで、シートの開閉もここででき、とても使いやすかった。シャッターも閉めやすく、盗難抑止対策をするのに手間がいらない。オン・オフ・シート開・ハンドルロック。単純明快。実は同時試乗したPCX160にはいわゆるスマートキーが装備されていたのだが、どうにも複雑でなかなか馴染めなかったのだ。便利さが大切なスクーターは、やっぱりシンプルイズベストだと思う。そしてそのキーシリンダー下のボックスなのだが、軽二輪や軽・軽二輪クラスではフタ付きが一般的な中、マジェスティSは50ccのように大きな開口部を持つポケット形状で、ペットボトルやら何やらを簡単に放り込める設定。これがまた便利で、マスクやら帽子やらちょっとしたバッグやらポイポイ放り込めて最高だった。もちろん飛び出してしまう可能性もあるわけだが、少なくとも試乗時には「あわや!」という場面はなく、日常的な使用では飛び出す不安よりも利便性の方が大きく上回ると思う。
 

 

100点の乗り物なんてないわけでして。

 ここまですっかり気に入っているマジェスティSだが、どんな乗り物でもそうだが、もちろん気になる点もなくはない。エンジンの活発さや車体のスポーティさはこのバイクの性格のため、これを取り上げて「リラックスできない」などというのはお門違いだが、しかしエンジンの性格や目の前のタコメーターのせいで常にスポーツ心を刺激され続けている感じはあり、ノンビリ乗るには向いていない、というのはあるかもしれない。

 またステップボードの地面からの高さや明確なシートストッパーがあるという設定はライダーの体格をある程度限定するだろう。筆者は185cmと比較的長身なのだが、最初は一体感が楽しかった一方で、距離が長くなるといくらか窮屈に感じることもあった。
 

 
 もう一点、アイドリングストップ機構や燃費表示がライバル機種では一般的になっているが、マジェスティSではそれらがなくメーター表示は必要十分ではあるものの、簡素な部類だろう。特に都市部においてはアイドリングストップしたい場面が多く、せめてキルスイッチが付いていればマニュアルでアイドリングストップができるのに……と思う場面は多かった。メインキーを一度切ればいいのだが、そのメインキーはなぜか途中で折れ曲がる設計で、これがまたちょっとトリッキーだったのだ。さらにはハザードもあればなお良かったが……。
 ただこれらは125ccや50ccと共通するマジェスティSの各装備と同じということだろう。こういったベーシックさもまた、125・50と共通だと思えば、パッケージとして自然なのかもしれない。
 

 

アクティブな都市型ユーザーに

 マジェスティSに限らず、軽・軽二輪クラスの魅力は125ccクラス相当のサイズ感による気軽さを持ったまま、原付不可のバイパスや首都高に乗れる、ということだろう。よって都市部ではその立ち位置がとても役立つことが多い。さらに今は125ccクラスのファミリーバイク特約が以前に比べお得感が薄れていることやその内容が一般的な保険と差があることなどから、125cc(原付二種)と~250cc(軽二輪)クラスのランニングコストに実はあまり開きがなくなっている。そうなるとまさに、この軽・軽二輪クラスが活きるわけである。
 

 
 そんな中でもマジェスティSはラグジュアリーではなく利便性に割り切った部分が多く、またちょっと前のスポーツスクーターのような活発な走りも持っているため、125ccクラスの延長線上として楽しみやすい軽・軽二輪だろう。逆にバイパスや首都高のない地方ではマジェスティSの125cc版と言えるシグナスXでもとても似た性格のためそちらを選んでも良い気がするが、アクティブに都市部を駆け回る人、首都高やバイパス含め便利にバイクを活用したい人、もしくはスクーターでもスポーツマインドを忘れずに日々エキサイトメントを楽しみたい人には、是非とも薦めたいモデルである。
(試乗・文:ノア セレン)
 

ライダーの身長は186cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

乗り降りには本当に便利なステップスルー。乗車姿勢も背筋が伸びたもののため、横断歩道や歩道など瞬時に歩行者になりたい時、スッと降りたり乗ったりしやすい。フラットだとちょっとした荷物を置いたりすることができるなど、使い方の自由度が高いのも魅力だろう。
シンプルなキーは単純明快で大変使いやすかった。右側にはシガーソケットも備えるため、ポケットに放り込んだ端末などの充電も可能。コンビニフックも便利な装備で、軽・軽二輪クラスながら50ccクラスと変わらない日常的な利便性がある。

 
 

給油口がこの高さにあるのがとても楽チンで、かつ給油後の数滴をこぼしにくくて使いやすかった。これも給油口を開けるのにカギを挿す方式となっていて、その分キーシリンダーそのものがシンプル化できているように思う。小さなキーシリンダーにシート開閉や給油口開閉などの機能が押し込まれていると丁寧な操作を要したりするもの。便利なスクーターだからこそ、多少雑な操作でも分かりやすく機能してほしいものだ。
中央にタコメーターがあることがまたスポーツマインドを常に刺激してくる。それは良いのだが、スピードメーターは右端に追いやられており、ブレーキのマスターシリンダーによってちょっと見にくいと感じたことも。アイドリングストップ機構、燃費計はなく、ランニングコストも含めて燃費は把握しておきたい気がしてしまった。せめてキルスイッチがあればマニュアルでアイドリングストップしやすいのだが……。

 

シートは明確な段付きがあるため身体をフィットさせやすく快適かつ、スポーティに走りたい時は一体感も高い。そのかわり長距離になると長身のライダーにはいくらか窮屈に感じる場面も。シート下スペースはモノショックということもあってちょっと浅い設計だが、その分タンデムシート下はえぐられておりジェットヘルメットは問題なく収納できた。

 

個人的にとても気に入っているのは、ステップボードの角度だ。ライダーの足に対して垂直ではなく、ちょっとだけ内側に傾斜しているため、例え靴が濡れているような場面でも、踏ん張った時に外方向にすっぽ抜けることがない。シートストッパーと共に車体との一体感を高める良い設計に思え、ここにもシグナスX的なスポーツマインドが潜んでいると感じた。
筆者はLEDのヘッドライトをもうひとつ信用しておらず、暗闇を押しのける絶対的な力や雨天時の照射能力では今でもハロゲンに分があるのではないかと思っているのだが、しかしマジェスティSのLEDヘッドライトは街灯のない田舎道でも力強い光を発してくれた。以前に試乗したMT-09にも感心した記憶から、ヤマハはこの分野で他の国産メーカーに対して強いというイメージもある。

 

●MAJESTY S主要諸元
■型式: 2BK-SG52J ■全長×全幅×全高:2,030×715 ×1,115mm ■ホイールベース:1,405mm ■最低地上高:90mm ■シート高:795mm ■車両重量:145kg ■燃料消費率: 40.0km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時) 37.5km/L (WMTCモード値クラス2-1 1名乗車時)■エンジン種類:水冷4ストロークOHC単気筒4バルブ ■総排気量: 155cm3 ■ボア×ストローク:58.0×58.7mm ■圧縮比:11.0 ■最高出力:11kw(15 PS)/7,500rpm ■最大トルク: 14N・m(1.4 kgf・m)/6,000rpm ■燃料タンク容量:7.4L ■変速機形式:Vベルト式無段変速 ■タイヤ(前/後):120/70-13M/C 53P /130/70-13M/C 57P ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前/後):テレスコピック式/ユニットスイング式 ■フレーム形式 :バックボーン ■車体色:シルキーホワイト、グレーメタリックM、ブラックメタリックX、ビビッドイエローソリッド2 ■メーカー希望小売価格(税込):379,500円

| YAMAHA MAJESTY S 『加速に力こぶ。 毎日がファンライドに』 |


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2021/07/14掲載