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試乗・解説

エブリデイラグジュアリーが40万!? 確実な進化・バリュープライス PCX160
PCXと言えば125ccクラスで押しも押されもせぬ人気車、そして150cc版は250cc以下の軽二輪クラスにおいても不動の人気車。125と共通の車体に150ccエンジンを積んだ軽・軽二輪版が7ccアップと共に各部リファインしPCX160として登場。あれだけいいものがもっと良くなれるのか? なれるのだ!
■試乗・文:ノア セレン ■撮影:松川 忍 ■協力:ホンダモーターサイクルジャパンhttps://www.honda.co.jp/motor/ ■ウエア協力:アライヘルメットhttps://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズhttp://www.okada-corp.com/




軽・軽二輪クラスをメジャーに押し上げた

 遠い記憶をたどると、確かアベニス150というマニアックな150ccクラススクーターがあったが、近年の125ccの車体をベースにした150cc近辺の「軽・軽二輪クラス」スクーターの火付け役となったのは、このPCXだろう。かつてのビグスクブーム時に肥大化及び高価格化し続けてしまった250ccクラススクーターと、逆にあくまで便利さばかりを追求し過ぎてしまって趣味性には重きを置いていなかった(かもしれない)125ccクラスの橋渡し的存在として受け入れられた背景があるように思う。もっとも、先行してPCXの125があったわけだから、「このクオリティなら軽二輪版があっても良いのでは?」と、ワンクラス上のラグジュアリーな乗り味、仕上げに実際にワンクラス上の排気量で出してきてくれた、ということで産まれたイメージだ。

 PCXは125版も150版も初期型からとびぬけたクオリティを持っており、それまでの実用重視のこれらクラスのスクーターからは頭一つ抜け出たイメージ。ヤマハが後を追ってマジェスティSやNMAXを出してくれたおかげでカテゴリーとして成熟したのだが、やはりPCXは先駆者的な立ち位置だと思う。
 

 
 そのPCX150が160へとモデルチェンジ。ショートストロークの4バルブエンジンへと変更され、排気量アップはわずかながら非常にトルクフルな設定で軽量な車体をグイグイと引っ張ってくれるようになった。また先代以上の高いクオリティとラグジュアリーなスタイリング、スムーズでハイクラスな乗り味、そしてトラコンの搭載などアップデートしてくれた。
 ホンダでは125とこの新型160の他、バリエーションモデルのADV150と、さらに125ccクラスとなるe:HEV(ハイブリッド)、そして今のところリース専用ではあるがPCXエレクトリックも展開。PCXファミリーはますます幅広く活躍しているのだ。
 

 

見た目通りのラグジュアリーさ

 PCXは先代の150も大変に良いバイクだったが、160になって、この各種規制が厳しい世の中においてさらに良くなっていることに驚かされる。エンジンはとてもトルクフルで、わずか156ccのエンジンとは思えない程、アクセル半開領域でも力強く加速してくれる。車体の立て付けが良いのか振動や音も少なく、そのおかげで速さを「感じさせない」のだが、実際の加速力は車体が軽いということもあって相当なもの。ライバルに対して労せずに涼しい顔して同じ加速を披露してくれ、場合によっては先行するような力強さを持っている。また速度が乗る高速道路での絶対性能は排気量なりではあるものの、全開に近い領域でも「明らかに頑張っている感」がないのが不思議だ。限界域にも苦しさを見せずに到達し、平穏にその領域を維持できてしまうのだ。
 

 
 ラグジュアリーを感じさせるのは乗車姿勢もあるだろう。125ccクラスの便利なスクーター、もしくは同クラスだとステップスルーであるマジェスティSに対して乗車姿勢に余裕があり、ソファに座っているようである。特に筆者のように長身だと(185cm)こういったコンパクトなスクーターは距離がかさむほどに窮屈に感じてしまうこともあるのだが、PCXはステップがとても遠く、低くにあり、またシートの自由度が高いため膝の曲りが緩く長身でもリラックスでき長距離が苦にならない。絶対性能は排気量なりではあるものの、乗車時の満足感というか包容力というか、そういったものは完全にクラスを超越したもので、こんなコンパクトな乗り物でもこんなに快適に乗れるのか! と感動を覚えるほどだ。
 

 

都市部での使い勝手は

 軽・軽二輪クラスは日々の移動の中でバイパスや有料道路を使いたい人や、いざという時には首都高を有効活用したい人にはもちろん、コンパクトで疲れないバイクでノンビリツーリングしたい人にもお薦めできる。そういう意味ではとても間口の広いバイクで使い方を限定しない良い乗り物だと思うが、PCXはその中でもラグジュアリー方向のため、どちらかというと長距離向けなのかな、と思う場面も多かった。
 例えば125ccクラスの実用スクーターや、もしくはライバルとも言えるマジェスティSと比べると、ステップスルーではないということがアクセスのしやすさという意味で譲る部分。ノンビリした乗車姿勢との兼ね合いもあるが、パッと降りてちょっとだけ押してすぐまた跨って走り出す、なんていう場面が都市部では多いのだが、そういう時はやはりステップスルーには敵わない。また膝の前の部分の左右ボックスがフタ付きなのは安心ではあものの、50ccクラスのように開口部がそのまま開いていた方がペットボトルなど色々気軽に放り込めて便利に感じる場面も多い。

 移動のための道具だと考えると、こういったスクーターはどこか雑に、と言ってしまっては失礼かもしれないが、道具としての使い倒し感があると気兼ねないように思うのだが、PCXは高級感が高いゆえに、「大切にしてあげなきゃな」という気持ちが芽生えてしまい、道具と割り切って、時には非情に接することができないと感じたのだ。いやもちろん、それは良い事なのだが。

 ちなみに乗り味も装備もラグジュアリー路線なのに値段は税込40万と7000円なのだから、ライバルと比べても実はかなりお買い得物件。
 これだけ気軽に毎日ラグジュアリーな乗車体験を提供してくれる乗り物が40万円。ハンターカブが44万円なのだからいかにこれがバリューなのかがわかるというものだ。
 

 

 

便利と趣味の架け橋

 軽・軽二輪クラスは、125ccクラスの車体なのにバイパスや有料道路、首都高&高速道路に乗れるというのが一番の魅力で、これによりさらに利便性が増していると言える。しかし筆者はこのクラスにはバイクの未来を開いていく力、未来のライダーを育てていく力もあると見ている。
 というのも、本当に都市部の移動の手段のみとしてだけバイクに乗るのならば125ccクラスで良くて、免許も125ccオートマ限定で充分。しかしそうなるとバイクはいつまでも「便利な移動手段」という認識を出ないのではないか、という懸念がある。しかしこの軽・軽二輪クラスに乗るには普通二輪免許、いわゆる400ccまでの免許が必要になり、そういう意味で一つハードルが上がる。よって免許取得の時点で「400ccのバイクってこんな感じなんだ……」と趣味の乗り物としてのバイクを教習所で体験するわけだ。そうすると意識の中に「いつかは乗ってみたいな」が刷り込まれているはずで、将来的に趣味として、レジャーとしてバイクに乗るライダーへと孵化していく可能性が高まるだろう。
 

 
 さらに125ではなく軽・軽二輪クラスなら高速道路という環境も走れ、他の交通と対等の立ち位置を獲得している。走れる環境が増えれば視野も広がり、移動としてだけでなく高速道路で、バイクでちょっと遠くに出かけてみたいな! という気持ちもどこかに生まれるはずだ。
 そんな可能性に応えてくれるのが軽・軽二輪クラス、そしてその中でも非常にレベルの高いPCXではないかと思う。実用一辺倒ではなく、確かなホンダクオリティを感じさせてくれる高級感のある仕上げは趣味として所有する乗り物として十分満足&納得のいくもの。PCXユーザーでカスタムを楽しむ人やロングツーリングに行く人も少なくないが、そんな気持ちが芽生えるのもよく理解できる作り込みなのだ。便利で実用的であると同時に、趣味性も刺激してくれるからこそ、将来的にも色んなバイクに乗り続けたい気持ちを持ち続ける人が増えるような気がするのだ。
 

 
 そんな大切な役割も担っているんじゃないか、なんてことを考えさせてくれたPCX160の完成度。まずは何に乗って良いかわからないという人も、ある程度の実用性もないと奥様を納得させられないという人も、価格的にこのクラスが良いんじゃないかという人も、久しぶりのリターンという人も、幅広くお薦めできるモデルである。
(試乗・文:ノア セレン)
 

 

とてもコンパクトな乗り物ではあるが、乗車姿勢はノビノビとしていて窮屈じゃないのが嬉しい。筆者は185cmと比較的長身なのだが膝の曲りは少なく、距離を乗ってもどこかが痛くなるようなことはなかった。足をのせている位置がかなり前方で、しかも路面に近いため足を着くときもスッと出せ、そのおかげもあって足着きは良いイメージがあった。ただステップスルーではない設計のため、頻繁に乗り降りするような営業マンタイプの使い方には向かないかもしれない。(ライダーの身長は185cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます)

 

前輪は14インチと少し大きめなのだが、細さのおかげかレッグルームやハンドル切れ角は不満がなく、また操舵性もとてもナチュラルで軽快だ。またロー&ロングに見えるが実はホイールベースはライバルの中でもかなりショートで、それも軽快さに貢献しているだろう。
キーシリンダーは無く、スマートキーを採用。四輪や一部大排気量バイクですでに慣れている人にとっては便利な機能かもしれないが、こういった機能を使いつけない身からすると逆に複雑に感じた部分。普通にキーで不便さを覚えたことがなく、せっかくのモダンな装備なのに個人的にはちょっとマイナスポイント。

 

右のスイッチボックスにはアイドリングストップのオン・オフスイッチと嬉しい装備のハザードスイッチ。アイドリングストップ機構の進化は本当に素晴らしく、エンジンストップからアクセルを開けただけで、タイムラグなしですぐに発進できてしまう。初期の頃のアイドリングストップ機構は反応がイマイチで結局オフにしておく、なんていうこともあったが、今はもう最高の出来。エンジンが止まっていたことを感じさせないほどだ。
左のスイッチボックスは最近のホンダ車らしく、ウインカースイッチが下でホーンボタンが上という設定。慣れれば問題ないのかもしれないが、とっさにホーンが慣らせないのは危険だと感じるし、意図しない時にホーンを鳴らしてしまうのはロードレイジなどが社会問題化している昨今、いかがかと思う。これはPCXに限らず今のホンダ車全般の話で、筆者は改善(元に戻)されて欲しいと切に願っている。

 
 

●PCX160主要諸元
■型式: 2BK-KF47 ■全長×全幅×全高:1,935 ×740 ×1,105mm ■ホイールベース:1,315mm ■最低地上高:135mm ■シート高:764mm ■車両重量:132kg ■燃料消費率: 53.5km/L(国土交通省届出値 60km/h定地燃費値 2名乗車時) 45.2km/L (WMTCモード値クラス2-1 1名乗車時) ■最小回転半径:1.9m ■エンジン種類:水冷4ストロークOHC単気筒■総排気量: 156cm3 ■ボア×ストローク: 60.0×55.5mm■圧縮比:12.0 ■最高出力:12kw(15.8 PS)/8,500rpm■最大トルク: 15N・m(1.5 kgf・m)/6,500rpm ■燃料供給装置:電子制御燃料噴射装置(PGM-FI) ■始動方式:セルフ式 ■点火装置形式 :フルトランジスタ式バッテリー点火 ■燃料タンク容量:8.1L ■変速機形式:無段変速式(Vマチック) ■タイヤ(前/後):110/70-14M/C 50P /130/70-13M/C 63P ■ブレーキ(前/後):油圧式ディスク/油圧式ディスク ■懸架方式(前/後):テレスコピック式/ユニットスイング式 ■フレーム形式 :アンダーボーン ■車体色:マットディムグレーメタリック、キャンディラスターレッド、パールジャスミンホワイト、ポセイドンブラックメタリック ■メーカー希望小売価格(税込): 407,000円

 



『PCX160のあっぱれな進化っぷり! PCX160試乗 松井 勉編』へ
https://mr-bike.jp/mb/archives/22253


『世界で磨かれ10年、また一段と輝きが増した! PCX160 / PCX試乗』へ
“https://mr-bike.jp/mb/archives/17602


『二代目PCX150の試乗はコチラ』(旧PCサイトへ移動します)
https://www.mr-bike.jp/?p=71006?p=129607?


『三代目PCX150の試乗はコチラ』(旧PCサイトへ移動します)
https://www.mr-bike.jp/?p=144065?


『初代PCX150試乗インプレッション記事 Part1はコチラ』(旧PCサイトへ移動します)
http://www.mr-bike.jp/?p=25154


『初代PCX150試乗インプレッション記事 Part2はコチラ』(旧PCサイトへ移動します)
http://www.mr-bike.jp/?p=26193


PCX160新車詳報へ
https://mr-bike.jp/mb/archives/17403


ホンダのWebサイトへ
https://www.honda.co.jp/PCX/type/





2021/06/28掲載