一目でハヤブサだと判るデザインだ。膨らみを持ったフェアリング、低く構えたウインドスクリーン、後部に流れるように大きくなるサイレンサー、マッシブな燃料タンクと大きなサイズを持つパッセンジャーシート。流線形を思わせるが、尻すぼみではない。黒に、銅色と金色を混ぜたような差し色がインパクトを強める。
リアに履く190/50ZR17という太いラジアルタイヤすらどことなく役不足に見せるほどアッパーが持つサイズ感は大きい。大迫力、まさにハヤブサそのものだ。細かく見ると、フェアリングのインレット、アウトレット、側面や上面を流れる空気が剥離する箇所に設けたリブ状のエッジ、特にサイドにあるエンジンの熱を吐き出す部分のそれはクロームに輝き、スタイルを飾りながらも引き締めるアクセントとして仕事をしている。
跨がると歴代ハヤブサのイメージ通り。大きな燃料タンクながらシートの先端やライダーがコンタクトする部分は綺麗にまとめられているので、なんともフィット感がよく自分が車体の一部になったよう。メーターパネルは二代目のイメージを引き継いだ部分と新しい部分が混在しつつも進化の痕跡が一目で分かる。
ライディングポジションは比較的大柄にして前傾姿勢が強い。ここはホメどころ。最高の性能の中に含まれる速度無制限の道なら、それこそ素晴らしい走りを堪能するためのポジションが容易に取れる。シートの前後長もタップリあり、伏せればヘルメットは低く広いスクリーンの中にすっぽり収まる印象なのだ。とはいえ、市街地、ツーリングなど速度が低く風圧を受けない一定速で走る道では腕に自分の体重が掛かるのを実感することに。
実際に走り出してすぐに「お!」と思ったのは乗り心地のマイルドさ。ソフトなサス、というのではなく、低速走行からバイパスの流れに合わせた高速道路以下の速度域でのサスペンションの動きの滑らかさ。フロントブレーキを掛けた時のファーストタッチすらスっと吸収する。オイルシールやダストシールがインナチューブを擦るようなフリクションはもちろん、嵌合部分の動きもとにかく滑らか。標準装備されるタイヤはブリヂストン・バトラックスハイパースポーツS22。スポーツ寄りにしてリアの50扁平なれど、乗り心地はロングクルーズでも一切不快さがない。
それでいて低速から一般道レベルのハンドリングにも切れ味が良く重ったるさがない。スパッと車線変更したいときでも思い通りに新型ハヤブサは動いてくれる。乗り心地、そしてハンドリング……、アルティメット! と思わず口に出た。これまで高い速度域に照準を合わせた足周りの設定だったのか、こうしたフィニッシュまで手が回らなかったのか、はたまた生産技術の進化が同調したのか。低速での乗り心地に拘った部分はプレミアムクラスのバイクには嬉しいニュースだ。
高速道路では豪腕ぶりをいとも簡単に発揮、な予感。
そして乗り心地に加え、エンジンのスムーズさが加わった。排気音はしっかり耳に入るが、エンジンノイズは少ない。グリップ、シート、ボディ、ステップなどに4気筒的なジィーンとくる嫌な振動も少ない印象だ。上質感がここでも〇。
それは高速道路に入っても同様だった。正直、制限速度で流すハヤブサは、空高く獲物を探し、ゆったりと旋回する姿にかぶる。獲物めがけて急降下するその速度こそハヤブサの持ち味。新型ハヤブサで急降下に当たる行為は、ライダーが意思を込めてアクセルをひねった瞬間だ。
一旦、制限速度以下に落とし、ギアを3速、いや4速で充分だ。グワっと右手をひねると、高速道路上にいる車両全てがブレーキを掛けたかと思うような勢いでハヤブサは加速を開始する。そして生まれる速度差の大きさたるや……。その続きを妄想しながら走る時、やはり心にあの言葉が広がる……、アルティメット! グワっと猛然と加速をしながら、その時エンジンが生み出すトルクは粗暴ではなく、かといってただの整った行進でもない。川にたとえれば大雨のあとの濁流ではなく、上流にある清らかな激流。美しき加速なのだ。
その時、胸を燃料タンクに合わせるほど伏せれば、戦闘機のキャノピーに入ったかのように、ヒュルヒュル、ビャービャー言うようなタービュランスから隔絶してくれる。しかも肘、膝まわりに当たる風も、轟々と流れる空気の流れとの間に緩衝材のような緩やかでソフトな、まるでジャグジーの泡のような肌触りを持ってジャケットの袖や肩などを盛大にばたつかせないのだ。
まだまだ2倍近く高速度領域にゆとりを持たせた中でのハナシだが、120km/h制限の高速道路でも空を旋回するハヤブサのごとく悠々と快適に走り続けられるだろう。
ワインディングは良質な手応えを維持。
初代ハヤブサが出た当時、雑誌の仕事で乗るにあたって、編集部に「170馬力もあるエンジンを搭載したバイクですが、安全に運転出来る方に取材をお願いして下さい」という趣旨のアドバイスがあったそうだ。最初期型は、速度計がまるでクロノグラフの盤面のように360度数字に埋まる340km/hメーターだった。僕が最初に体験したハヤブサはそのモデルではなかったが、当時、ハヤブサに乗る、ということは想像しただけで緊張したもの。
でも、それはまさに杞憂で乗ればなんて乗りやすくナチュラルなバイクなんだろう! と嬉しくなったのを覚えている。一般道でも高速でも、ワインディングでも良質なスポーツバイクだったからだ。もちろん、開けたらものすごいのは今も同じだが、乗り手を威嚇したりするようなコトは一切なし。今から思えば、エンジンの振動も空力も音もパンチがあったが。
そして二代目にモデルチェンジしたタイミングでのプレス向け試乗会は快晴の富士スピードウエイだった。ご存じストレートの長いサーキットでハヤブサをお楽しみ下さい、というコトだったのだろう。そしてそれはものすごく楽しかった。数ラップすれば最終コーナーからホームストレートにあるコントロールラインの手前で速度計が299km/hに達し、加速するのに到達速度は想像の中、という事態に最高速への興味は次第に薄まった。
速い。ものすごく速い。でも、それよりも、1コーナーから最終コーナーまでの区間がめちゃくちゃ楽しかった。むしろ、コーナーでのハヤブサの走りのほうがインパクト大で、快適、大排気量のGSX-Rに乗っているようなイメージだった。
そして今日、新型ハヤブサを走らせた印象も全くそのまま。レプリカ系とは異なる車重や扁平率の低いタイヤ、そしてそれを狙って作られたハンドリングのまとめもあって、ハヤブサは代々受け継がれた意思通りだが鋭すぎる旋回性ではなく、体をイン側に入れた時に遠心力で起き上がろうとするバイクとバランスが取れるような適度な手応えを持つハンドリングだ。ガンガン飛ばさないと旋回性とのバランスが取りにくいほど能力が高いレプリカとは異なり、高いギアでも1300㏄超のインライン4が繰り出す柔らかく厚みのあるトルクにより後輪はグイグイ蹴り出してくれるから、穏やかな気持ちでワインディングを楽しめる。
S字での切り返しもこれだけ面の張り出したボディを持つバイクでありながら空気に妨げられている感じが少ない。ボディ側面を流れる例のジャグジー的シュワっとした空気の流れる層が、軽快な切り返しを後押ししているのかもしれない。ペースの速さではなく、バイクで走る一体感、スポーツ感がしっかりある。ここもまたアルティメット。
スーパーカーより、マッスルカー。
三代目のハヤブサを端的にまとめるとすれば、走りの上質感を一段と上げながら、初代から貫かれた一目でハヤブサと判るスタイルを踏襲したということだろう。
開発段階ではターボや6気筒も試したが、やっぱり加速の風合い、走りのアルティメットさで初代からのパッケージを磨くが一番、という結果になったという。6気筒やターボマシンはまた別の何かで是非見せてもらいたいと思うが、スズキにハヤブサありを今回もしっかりと印象付けられた。
正直、昨今の輸入車や200万円クラスのバイクを見れば、ハンズフリーキーだったりメーターパネルが大判のTFTモニターだったするから、ハヤブサもその路線でもよかったのでは、と走り出す前はそう思った。しかし、乗り心地、ハンドリング、そして加速。そのどれにも満たされた今、なるほど、背伸びしてスーパーカー的ポジショニングより、乗ってみて初めて判る極めて乗りやすく楽しいマッスルカー的なイメージを継承してくれたことが嬉しくなった。そして、ここからモデルライフの中でどのようにアップデイトするのかも楽しみ。ハヤブサ物語の第三章は、今始まったばかりだ。
(試乗・文:松井 勉)
■型式:8BL-EJ11A ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:1,339cm3 ■ボア×ストローク:81.0×65.0mm ■圧縮比:12.5 ■最高出力:138kw(188PS)/9,700rpm ■最大トルク:149N・m(15.2kgf・m)/7,000 rpm ■全長× 全幅× 全高:2,180 × 735 × 1,165mm ■ホイールベース:1,480mm ■シート髙:800mm ■車両重量:264kg ■燃料タンク容量:20L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤサイズ:120/70ZR17M/C/ 190/50ZR17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■車体色:マットソードシルバーメタリック×キャンディダーリングレッド、グラススパークルブラック×キャンディバーントゴールド、ブリリアントホワイト×マットステラブルーメタリック、この他カラーオーダープランも有 ■メーカー希望小売価格(消費税込み):2,156,000~2,222,000円
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