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試乗・解説

カワサキ流ネオレトロの描き方。 ビッグバイクの老舗の技、 いただきます。 Kawasaki Z900RS CAFE
ミスターバイクBGの連載企画『現行車ニチギチレポート』と連動して「コチラ松井 勉の意見箱」的試乗インプレッション。
テーマとなる機種はカワサキのZ900とZ900RS。名は似ていても、見ても乗っても似て非なる二台。今回はZ900RS視点で見てみたいと思います。実はあまりに違い過ぎるので、共通点を探しても、「同じカワサキのお店で売っているモデル」程度しか思いつかないくらいだ。
それほどZ900にはZ900の、Z900RSにはZ900RSの味付けがされていたと理解した。そして、カワサキがずっと護ってきたつぎ足しつぎ足し秘伝のタレの味を、Z900RSにしっかりしみこませたその技に素直に感服したのです。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:富樫秀明 ■協力:カワサキモータースジャパン https://www.kawasaki-motors.com/ ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、56design https://www.56-design.com/






 Z900とZ900RS(今回試乗したのは、Z900RS CAFE)。これまで仕事で新型カタナとZ900RSとか、CB1100とZ900RSという企画は体験済みですが、ノア・セレンが今回提案してきたこの組合せ。「エンジンやフレームは同様なのに値段がこんなに違うのって、そこも気になりますよね。ストリートファイターとレトロモダンだけでこんなに違うって良いのかな」と、コスト管理が厳しいノアは両者に介在する25万3000円の価格差に軽く噛みつきます(今回試乗したZ900RS CAFEとの差額だと28万6000円)。

 なるほど。欲しい欲しくないが最大の選択となるバイク選びをしてきた自分にとって「好きな方選べばいんじゃないの?」とまるで議論になりません。そこで客観的に両車の値段の違いがここではないのか、という分析から開始しましょう。

 まず、外観。ペイントなどZ900RS/RS CAFEは往年のZ1ムードが充満してます。なかでも、あえてニーグリップ部分に少しペイントがはげたようにしたり、褪せにも見えるぼかしを入れるなどエイジングされているのが解ります。しっかりコスメが行き届いているのです。なによりティアドロップ型モチーフのタンクやテールカウルを4気筒エンジンと組み合わせてできあがったカワサキ「らしさ」。もはやこのデザインに差額を投じてもいいのでは? 空冷4気筒のZ1100GP乗りだった僕はこの「らしさ」に寛容かつ弱いのです。
 

 
 いや待て。まだある。このホイール、今流の技術を使いまるでスポークホイールをイメージさせるような細身のスポークが魅力だし、仕上げ加工もしっかりしている。Z900RS/RS CAEF用に専用品を用意する粋さ。プライスレス。そして足周りで言えばフロントの倒立フォークを併せつつ、正立フォークにフェンダーを付けたようなブラケットを造って時代考証を合わせ、120/70ZR17というタイヤの太さを感じさせないのは、レトロモダンなルックスで大切な「今」という風味もしっかり持たせたシェフの盛り付け技かと。

 エンジン周りでも、シリンダーヘッドの空冷フィン的造形や、高級感あるステンレスのエキゾースト周り。それをしっかりバフ仕上げとしている点もマル。しかも、そのデザイン、ぜったいに集合管モチーフですってこれは。

 長い休みに北海道や九州へと遠征したその翌週、ガレージでピカールと細く切った古着のコットンTシャツで輝きを取り戻しつつ、旅の思い出を反芻する持ち主……。そこからまた新しい物語が始まるコトを祈念したかのようなパーツ使い。これも見事です。
 

 
 しかもです。その持ち主が旅に出る早朝の場面で「俺のカワサキ、五月蝿いんだよね……」とか思いつつ、表通りまで荷物を積んだZ900RS CAFEを押すわけです。かつて最高にセクシーな4本マフラーや満タンにすれば250㎏を軽く越えたであろう空冷時代のカワサキとは異なり、満タンでも217㎏のZ900RS CAFEならそれはつらくない(Z900RSは215kg)。まだ明け切らぬ表通りでエンジンを掛ければ、なるほど、その音は五月蝿いレベルの快音です。4気筒って幸せ!ってヘルメットの中で叫びながら走り出すに違いありません。

 さらに嬉しいのは、エンジンを掛けて3秒後にスタートしても、今のエンジンはまるで普通に走り出すこと。あばよ! と言って暖機もせずに走り出した空冷乗りの主人公が次の交差点でプラグをカブらせ押しがけで汗をかくなんてシーンは無論ありません。

 さらにブレーキ周りのパーツ使いもZ900と比較するとZ900RS CAFEが一枚上手。制動力は互角でも、フロントのブレーキマスターがラジアルポンプなのと、ラジアルマウントキャリパーの組合せだからなのか、レバーを引いた距離と力に応じた触感、そして減速を味わい深く楽しめるのも魅力です。そこにカツンと効くような無作法な所作は存在せず、じんわりと効いてくれる。Z900と比較すればホイールベースが15mm長いとはいえ、このあたりの感じ方はかつてのZに似た雰囲気で、もっと大きく長いバイクの止まり方という印象です。
 

 

加速にあるタメが往年のバイク風。

 Z900とまるで違う加速感。どっちが速いとか遅いとかの加速感ではなく、加速ざまとでもいいましょうか。ファイナルがZ900よりロングで、1速はZ900RS CAFEがショート、6速はロングという設定になるミッションなので、同じエンジンをベースとしながら、求める加速感に合わせ込んだ姿勢はさすが。

 吸気やカムプロファイルも専用にチューニングを施したとあるし、排気系の諸元も異なる。ライポジもZ900の前傾でスポーティーなものと比較すれば、Z900RS CAFEのそれはステップ位置が前で低く、ハンドルバーはアップハンだった往年のZを思わせるような両腕を開いた姿勢となる。でもアップハンというものではなく、あくまで広さで上半身のゆったり感を出している。
 

 
 加速をすると、ギュンと加速するZ900に対して、Z900RS CAFEはアクセルを開けた瞬間ズボっと空気を吸ってそれが加速につながるかのような間合いを感じさせます。実際、それは「間」と呼べるほどのものではなく、加速感があるリッチな味わい。ここに例の排気音のマリアージュが。

 常にZ900より高いギアを選んで走っているような印象なのです。実際、ファイナルが異なるので、そのへんは1速高い感は間違いない部分ではありますが、Z900がこのエンジンが持つ諸元通り、ショートストロークな感触なのに対し、Z900RS CAFEのエンジンは、同じはずなのに、ロングストロークになったかのような加速表情を見せるのです。お見事。
 

 

曲がる充実感をもったハンドリング。

 加速同様に曲がり方もきっちり練られている。Z900RS CAFEのハンドリングは、Z900と車重が数㎏しか違わないとは思えないほど手応えがある。曲がるのにもタメがあるという印象だ。けっして曲がらないとかどんくさい、と言うのではなく、曲がれ、とモーションを起こしたライダーへのフィードバックに上質な手応えを伝えた後、オンザレールで曲がり出すという印象。Z900が履くダンロップのロードスポーツ2とのキャラクターの違いや、サスペンション設定やジオメトリー設定の違いによる初期の応答性の違いを巧くZ900RS CAFEが持つ「川重感」に重ねているのです。過去の自分の経験に照らせば、19インチフロントだったZ1100GPが重たいのに意外とフロントから軽快に走る印象だったのに対し、車重40㎏は軽いZ900RS CAFEが履く前後17インチのワイドラジアルなどがもたらす重心の集中した現代的なパッケージにも関わらず、往年の風味を楽しめる、想像させる面白さ。

 とにかく、どこを切っても「物語」があるZ900RS CAFE。ここまでの作り込みには頭が下がる。Z900のレポートで価格がW800と同じ、と記したが、むしろ味比べではZ900RS CAFEとW800でどちらにするのか頭を悩ますことはあっても、Z900とW800で値札だけをみて悩むことはまずないだろう。
 

 

今後、モダンをどうするのか。

 2台はやっぱり別物だ。比較対象にならないし、結局、好きな方を選ぶし、選んで下さい、としか言えないのが結論。その上で今後のZ900RS CAFE像として一言。ここまで充実した完成度の高いパッケージだけに、ハンドル周りの見え方として、スマホホルダーにスマホでナビとか、スマホで音楽、というような林立する最新デバイスとのマッチングはどうなのか、と思おう。今の四輪車はもはやTFTモニターにそうしたメーターをアニメ的に写しだすのが常套手段。スマホのミラーリングもお手のもの。ならば、レトロモダンのモダンパートをカッコいいメーターハウジングの中にそうしたモニターを備え、必要な情報を適宜見せてくれるというのも一つの方法かと思った。
 

 
 もう一つ、Z900RS CAFEですごいと思ったのは、オプションパーツリストの中に35mm肉厚を増したハイシートが用意されていること。単純に長身な人にはこれがあります、というものかも知れないが、このシートで走らせたら、ワイドなハンドルバーのグリップを少しだけ高い位置からコンタクト出来るし、ライダーの位置も上がるから、曲がりざまに少なくない影響が出ると思う。個人的な予想では、運動性リッチな方向にいくのでは、と思う。Z900RS CAFEもハイシートで変わる世界も覗いてみたい気もする。

 カワサキらしさ。大きさ、重さではない方法でそれを伝える乗り味。眺めれば間違いなく感じるDNA。逆にいえば、ノア、この差額はもっとあって良いんじゃないの? そう思うバイクだったのです。
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm。写真の上でクリックすると両足着き時の状態が見られます。

 

Z900とボア×ストローク、排気量は同じながら、シリンダーヘッドには空冷風のフィンが入る。また、圧縮比がZ900RS/RS CAFE用のエンジンは10.8と低めの設定になっている。クランクマス、カム、吸気ボックス内のファンネル形状なども合わせ作り込む。これも特性の味付けだろう。燃料はZ900ともどもプレミアムガスを要求する。

 

Z900がペタルディスク、こちらは丸形ディスク。サイズはともにφ300mm。キャリパーは対向4ピストンながら、こちらはラジアルマウントを採用。フロントフォークはφ41mmのインナーチューブでZ900と同じ。フロントフェンダーを支えるステーの造形にもこだわりがある。

 

後輪用のブレーキディスクはφ250mm。シングルピストンのキャリパーを採用。タイヤはダンロップのGPR-300を履く。

 

排気系はエキゾーストパイプからエンドまで高い質感を持つ。そのサウンドチューニングも専用で、外観イメージにピッタリの重厚な4気筒サウンドを出す。
ホリゾンタルバックリンクサスペンションを採用するリアサスペンション。モノショックながらシート高を抑えやすいレイアウトでもある。

 

カフェを象徴するパーツの一つがシート。明確な段付き、シングルシート風なタンデムシートを備える。シート下はみっちりと電装パーツが詰まっている。その中にETC2.0が置かれている。

 

ハンドルバーは独特のベンドを持つ。車体はコンパクトなのに、やや腕を前に伸ばすことでバイクの存在感をしっかりとライダーに味わってもらおうという造り手のメッセージだろうか。メーター周りも伝統的なスタイルと中央のモニターには様々な情報表示をする。

 

それらの操作は左スイッチボックスにあるセレクトボタンとシーソースイッチから行える。
フロントブレーキマスターはラジアルポンプ式。ブレーキのタッチや制動感の質を高めている。

 

17リットル入りのガソリンタンク。サイドカバーに隠れているが、シートの下までタンク部は伸びている。外観の特徴でもある塗装はこのバイクのみどころ。フェアリングもしっかりタンクとカラーマッチしている。

 

フェンダーの中に埋まるように配置されたリアの楕円テールランプはカワサキ伝統を思わせるもの。ウインカーはLED光源を使う。
エンジンのカバー類に使われるボルト同様、各部のボルト類がこのバイクの質感を上げているように、視覚的に目立つ荷掛フックに糸巻きのような形状のアルミ製を使うのはさすが。キャップボルトと合わせて外観意匠のアクセントになっている。

 

●Z900RS / Z900RS CAFE 主要諸元
■型式:8BL-ZR900C ■エンジン種類:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4×56.0mm ■圧縮比:10.8 ■最高出力:82kw(111PS)/8,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/6,500rpm ■全長×全幅×全高:2,100×865×1,150mm [2,100×845×1,190mm] ■ホイールベース:1,470mm ■最低地上高:130mm ■シート高:800mm[820mm] ■車両重量:215kg[217kg] ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR 17M/C・180/55ZR 17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,353,000円[1,386,000円] ※[ ] 内はZ900RS CAFE


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2021/06/09掲載