900だけ独自。
国内でラインナップされるZシリーズには125、250、400、650、900、そして1000がある。そしてZとNinjaという兄弟構成のような成り立ちで、ネイキッド(ストリートファイター)とフェアリング付きスポーツツアラーが各クラスに存在している(125はネイキッドのみだが)。
しかしZ900だけはNinjaがなくZ900のネイキッドモデルがソロで存在するのみ。価格的には110万円(税込み)というもので、それはZ1000から7万1500円安く、Z650とでは25万3000円高い。ちなみに、比較検討するかどうかは別としてW800とまったく同価格になる。
言うなればZ900だけちょっと独自の路線なのだ。目の前のバイクを見てもそこに排気量やクラス的な誇張はなく、400クラスと言われても納得できるサイズ感。それゆえ、軽く扱えそうな中にゆとりのパワーを持つ4気筒エンジン、という希有な存在感が魅力として伝わるもの。そんな独自性をもつZ900がどんなバイクなのか紹介したい。
乗っても400クラス的なフレンドリーさ。
もちろん、パワフルだった。排気量は900ではなく948ccあるから、本当は950を主張してもおかしくない。Z900のパワーユニットは、最大出力は92kW(125PS)/9500rpmと最大トルクが98N.m(10.0kgf・m)/7700rpmを発揮する。4気筒だからエンジンの回転は滑らかかつスムーズ。排気量の威力が魅せる排気音の音圧はさすが迫力があるリッタークラス。それでいて400クラスのようにしっくりとくる無駄のない体躯はどうだ。走りへの期待感がストレートに伝わるじゃないか。
1速で走り出した瞬間、もうアイドリングでも後輪が蹴り出す力強さと、213㎏というこれまた400クラスのような車重が功を奏して軽々と動き出す。アシストスリッパークラッチを備えるためクラッチのレバー操作にも力は大して必要がない。これもこのバイクとの距離感を縮める一因だ。今回、Z900RSカフェとの対比もテーマだから少し言及すると(※注:Z900RS カフェの試乗インプレッション記事は近々アップします)、この辺の軽快さが段違いでZ900のほうに軍配が上がる。車重は2㎏とガソリン数リッター程度の差でしかない2台にある決定的な違いはギアレシオだった。
まずファイナルが違う。Z900のドリブンスプロケットは、Z900RSカフェより2T大きくショートなギア比になっている。それだけではなく、1速はZ900が2.692なのに対し、Z900RSカフェは2.916。こちらは逆にZ900がややロングな設定。2速から5速は同じレシオながら、6速はZ900が1.034、Z900RSカフェが0.966とロングになっている。吸排気の諸元も異なるから、エンジンの特性を含め、しっかりと両者がキャラ分けをして作り込んだ様子がよく分かる。
走りだして「まるで400のように軽々扱える!」感の源泉としてあった、街中なのに50km/hで6速に入り、そこから加速をトルクとパワーでしっかりと使える! という印象。シフトする回数が多く、すぐにトップにシフト出来るのも400風味を感じる部分。エンジン回転数がZ900RSカフェと比べると同じ速度、同じギアならば高い回転数となるため、Z900は常に右手だけでシャキシャキと加速し、エンジンブレーキで減速できる印象だ。
前傾姿勢がもたらす「やる気」と「その気」
市街地ではクルマと同じような速度で流していても、乗り手が感じる内なる気持ちがZ900RSカフェとはかなり違っている。Z900の場合、気分は常に迎撃準備完了という印象。だからといって急かされるのではなく、あくまでシフトダウンひとつでアクセルをひねればビュンと出る安心感があり、じっとその時を待つ感じだ。ここで良いのは、その出方が少ないアクセル開度でも充実の加速につながるから、パワーを感じるし、それを受け止めやすい前傾姿勢もそうしたフィーリングとマッチングしている。
その分、高速道路では飛ばさなくてもエンジンの回転域がZ900RSカフェより同じ6速でも高めになり、市街地同様いつでも追い越し加速を瞬殺で決めることができた。このタメのない加速への移行がこのバイクにとても合っている。フェアリングを持たないからこの瞬間増速を楽しんだら再び走行車線で追い越す獲物(笑)を探すのが楽しかった。
これはワインディングでも同様な印象で、とにかくレスポンスの良い走りが持ち味。ちょっとギクシャクする、と感じたら1速高めのギアを選択すれば、穏やかになるから心配ご無用。対向2車線の道を5速、6速でアクセルレスポンスを充分に享受して、旋回中にはトラクションがタイヤに掛けられるのも面白い。ギアレシオが低いから、というのが一番なのだが、回り回って脳裏には4気筒の炸裂するパワー感とトルク感としてZ900は語りかけてくる。全体として頑張らなくても楽しめるパッケージだと実感。ブレーキ周りもZ900RSカフェと比較するとグレード感は一歩譲るが、その効き味などのチューニングはしっかり取られているし、不満はなかった。
また、4.3インチのTFTカラーモニターを採用するメーター周りがもたらすインフォメーション性や、ライディングモードの選択肢もあるから乗り味を変えられて面白い。ローパワーモードではフルパワーの55%の出力に制限されるというから、滑りやすい状況でも安心して走れるだろう。実際、そのモードでも意外に走り4気筒らしい加速を楽しめた。
そして、スマホに RIDELOGY THE APPを入れてバイクとコネクトすれば、スマホの通話、音楽アプリの情報がディスプレイされるのはもちろん、スマホに車両情報も取り込める。こうしたコネクションはマスト! と考える人はZ900を選ぶ価値ありと評価するはず。
ツーリング派にはローギアードな分、少々燃費に響くかもしれないが、WMTCクラス3-2の測定速度領域は日本より断然高い速度域での加減速を入れているので、カタログ値の18km/lはツーリング燃費のボトムラインでは、と想像する。もちろん、箱根の峠を麓から芦ノ湖までガンガン楽しんだらもっと悪いだろうけど。
日常域でも常にバイクの活きの良さを享受出来るZ900。日常6割、休日4割というライフスタイルのライダーで、スパイシーさを探していたらベストなツールかもしれない。
結論として、Z900はストリートファイターというカテゴリーが持つ深淵を覗かせてくれた一台だった。Z兄弟の中で捉えるより、Z900という個で考えると、なるほどワン&オンリーな魅力を持つ存在だと自信を持って言えるバイクなのでした。
(試乗・文:松井 勉)
■型式:8BL-ZR900B ■エンジン種類:水冷4ストローク4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:948cm3 ■ボア×ストローク:73.4×56.0mm ■圧縮比:11.8 ■最高出力:92kw(125PS)/9,500rpm ■最大トルク:98N・m(10.0kgf・m)/7,700rpm ■全長×全幅×全高:2,070×825×1,080mm ■ホイールベース:1,455mm ■最低地上高:145mm ■シート高:800mm ■車両重量:213kg ■燃料タンク容量:17L ■変速機形式:常時噛合式6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70R17M/C・180/55R17M/C ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク(ABS)/油圧式シングルディスク(ABS) ■懸架方式(前・後):テレスコピック式(倒立)・スイングアーム式 ■フレーム:ダイヤモンド■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,100,000円
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