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試乗・解説

Kawasaki Z900RS CAFE 伝家の宝刀で切れ味鋭い、 良質なセルフカバー。
やっぱり900だ。1972年、世界を揺るがし、その後のバイクの歴史を大きくシフトさせたカワサキZ1。並列4気筒DOHCという当時のドリームスペックがライダーをどれだけ沸かせたことか。そして1984年に再びGPz900R Ninjaで世界のバイク最高速をシフトする。その後、バイク界は年輪を圧縮するかのように短い期間に幾重にも進化を遂げた。
そして今、900再び。3シーズン目を前にしたこのZ900RS CAFEが示したのは、今までとは異なるもの。QOL(Quality of Life)とも言える深みを提示している。またもや世界を揺らしたカワサキに許されたこの手法は、メニューにある美味しい定番料理。切れ味衰えぬその手法でスパっとこしらえたこのバイクで、朝の埠頭を散歩した。
■試乗・文:松井 勉 ■撮影:松川 忍 ■協力:カワサキモータースジャパンhttps://www.kawasaki-motors.com/

5:55 AM

 空に朝の気配はないが、すでに仕事に向かう車の数が増え出す時間。もうしばらく待とう。明かりの数が次第に増えはじめた高層住宅の窓に空が白み出すのが写る。ファントムブルーという灰色と青を絶妙に混ぜた主色に、太く白いストライプが走る。それはカウルからタンク、テールカウルへと続く。カワサキの歴史書の1ページに、Z1開発時によく似たグラフィックを持つモックアップの写真が掲載されていた。モノクロだから色は解らないが、Z1、Z2と言えば火の玉がお馴染みだが、このグラフィックも、RSのティアドロップタンクによく映える。

 キーをひねるとヒューと燃料ポンプが動く音。LED照明のメーターパネルはコントラストを明瞭に数字を踊らせる。低く広めのハンドルバー、シングルシート風カフェシートなど、現代のカスタムカルチャーを取り入れたプロダクトの一つとしてしっかりとまとめ上げられているのがこのZ900RS CAFEだ。
 Z1の開発時、ニューヨークステーキの愛称で呼ばれたとは先述の本の受け売りだが、通りすがりのダイナーでNYステーキを頼み、肉の巨大さとフレンチフライの山に驚くような語感を持つそれとはことなり、このZ900RS CAFEはコース料理で供される繊細なメインディッシュのようだ。シンプルなのに味があり、しっかりと伝統も味わえる。
 

 

6:32 AM

 明るくなるまで待ったあと、まだクルマの少ないコンテナ埠頭を抜ける道に出た。広い道を流すと、このバイクがスタイルだけでは無く、その走りにも「らしさ」を封入したことがよく分かる。ベースとなったZ900は、ご存じストリートファイター系ネイキッドだ。水冷4バルブDOHC4気筒は同じ73.4×56mmのボア×ストロークを持ちながら、バイクのキャラクターに合わせ、最高出力は92kW/9500rpm→82kW/8500rpmへと若干落とされているが、最大トルクは98N.m/7700rpm→98N.m/6500rpmとより低いところで同値のトルクを生み出すチューニングになっているのだ。

 これは、エンジンクランクシャフトの慣性マスの調整や、カム山のプロファイル、そして吸気ファンネルの形状へのこだわりはもちろん、サブスロットルを取り付けることで、作り込まれた特性だ。アイドリングからブリッピングをすると、さすがに初代Zが持つような重厚感ある回転上昇ではなく、シュンと吹けるが、重み感が加わった回転フィールと、なによりマフラーから届く音に存在感が増している。
 走りはじめてテンポ良く6速まであげても、アクセル操作だけで市街地レベルの速度から加速が立ち上がるのは4気筒ならでは。スムーズでしっかりと加速感がある。良い意味で飛ばすよりこの領域が気持ち良い。
 

 

7:19 AM

 いわゆる湾岸地帯を走りながらあれこれZ900RS CAFEを楽しむ。低くやや幅広に思えるハンドルバーに手を伸ばすと、車体サイズでいえば初代のZ1より150mmも短いにもかかわらずそれを痛感する場面がない。広がった両腕の間にある丸みを帯びた燃料タンクの存在感や、ハンドリングにも手応えを加えている。例えばそれは、交差点を右折する、左折する、というレベルからどこか重厚感を持っているのだ。

 それは重量由来のものではなく、嫌みなく演出されている。以前、峠道でZ900RSを走らせたとき、CAFEよりもアップライトなポジションにもかかわらず、大径タイヤを履いているバイクを思わせる舵の入りの良さ、しかしそこから寝かせるときの手応え感のようなものにかつてのモデルに思いをはせていた。
 実は50半ばを過ぎた自分でも現役時代のZ1、Z2を走らせたことはない。いまでこそ取材を理由に乗るチャンスはあるが、新車のころのフレッシュさは想像するほかない。しかし、きっとこれはその名残を持たせた味わいなのだろう。同時に、今の時代の中でZ900RSはこうですよ、という主張にも感じた。

 ダブルクレードルの中にエンジンを抱えるのではなく、トレリスフレームにエンジンを吊り下げ、それ自体を剛体に使うなど車体設計の目標地点は「楽しさ」で一緒なのかもしれないが、アプローチはだいぶ違っている。

 しかし、それを越えても「これがZの味か」と思わせてくれるのだ。ハンドリングがそれなら、ブレーキのタッチ、効き具合もその動きに合わせた印象だった。握り込めば制動力は充分。しかし日常使いではあえてとんがった部分を見せず、穏やかな気持ちで乗ることを促してくる。エンジンの特性、足周りの性格にピタリとあったものだった。峠で乗ったZ900RSも、このCAFEも同様。全体がうまくチューニングされていると思う。早起きをして寝起きの悪い頭の中でも安心して乗れるリズムなのだ。
 
 

 

8:02 AM

 東京湾の行き止まりに点在する人工島。四角い島を結ぶトンネルを何本か抜けた。70年代後半にバイクに感染した私としては、鼓動感あるVツインより圧倒的に4気筒が吐く整った高まりのほうが好みだ。そしてこのCAFEが聞かせる音。回してクオーンと盛り上がるパワー感ある音質もオツだが、6速50km/hあたりからアクセルを大きく開けた時に聞かせる音圧の高まりのような部分もいい。それがトンネルの壁に反響するのだ。道路が空いているのを良いことに、思わず往復したくなる瞬間だ。
 

8:53 AM

 もう何十年も前、自分が初めて手にしたビッグバイクもカワサキで、あのときも1リッターの空冷4発が発する太い和音にシビレたのを思い出す。巨大に思えたあのバイクも、今見れば見慣れたサイズだ。
 Z900RSはZ1をオマージュしているが、私が乗っていたのは角系タンク時代になった空冷だ。今後、Z900RSが伝統の1台をオマージュしたように、様々な世代を賑わせたカワサキ車を、カワサキ自身が同様の手法でセルフカバー。新たなカタチでリメイクするのだろうか。それはそれで楽しみだ。
 ZRXやDAEGだってその手法でファンを喜ばせてきた。カワサキだとそれが成立するのを世界中のバイクブランド、何よりファンが知っている。
 
 湾岸道路の大きなカーブを流しながら、ビッグバイクに初めて乗ったときの大きさや、逆に人には言えないほど意外なる乗りやすさ。その双方に満たされた記憶もない交ぜになりながら、帰路につくことにした。低いギアで引っ張れば、あっという間に目的の速度に達する加速力。重厚感だけではないパワフルさの二面性も楽しめるZ900RS CAFE。後で調べたら、アメリカ仕様のZ1の最高出力が82PS/8500rpm、Z900RSが82kW/8500rpmと馬力単位こそ違うが、ピタリと同じ数値なのに気が付いた。これがトリビュート版ならではのリスペクトだとしたら、カワサキ、やるなぁ!
 
(試乗・文:松井 勉)
 

 

ライダーの身長は183cm(写真の上でクリックする両足着き時の状態が見られます)。

 

シリンダーヘッドに空冷ライクなフィンを切った造形、カバー類にもZスタイルを継承するなどこだわりの造形を持ったエンジン。クランクのマス、カムシャフトのプロファイルのほか、吸気系ではエアファンネルの口径、長さ、曲がり方などエンジンの特性作りに関わるチューニングにこだわっている。サブスロットルバルブも設け、右手の指令に時に重厚に従うよう味付けがされている。

 

アイドリング、低回転域などライダーの耳に届く速度域のサウンドをしっかりとチューニングしたマフラー。4本のエキゾーストパイプからエンジン下部のコレクターに一度流れ、そこからサイレンサーへと吐き出される。一見、サイドから見るとストレートな形状に見せているのも上手いデザインだ。

 

Z900RSシリーズが採用するリアサスシステムはホリゾンタル・バックリンク・サスペンションと呼ばれるモノサスだ。そのフレーム側のマウントはエンジン直後。ライダーのヒップポイントよりも前方になる。こうしたレイアウトもバイクのコンパクト感作りに貢献している。サスペンションストロークは140mmを確保。
アルミ製スイングアームの重量は3.9㎏と軽量。スポークホイールのような細身スポークのキャストホイール。リアブレーキはφ250mmのディスクプレートと、シングルピストンキャリパーを組み合わせる。OEMタイヤはダンロップのGPR300。

 

フロントブレーキは、φ310mmのディスクプレートと対向4ピストンモノブロックキャリパーを備える。キャリパーにはKawasakiの文字がレーザー加工で入るスペシャル感あるパーツ。フロントフォークはφ41mmのインナーチューブを持つ倒立フォーク。ストローク量は120mm。フロントフェンダーを支えるストラットの造形もなかなか。

 

Z900RS CAFEの特徴の一つ、ハンドルマウントのフェアリング。ヘッドライト周りやライト下の折り返しなど細かい部分まで造形にこだわったカタチ。胸周りへの風のあたりはしっかりとサポートしてくれる。ウインカー、ヘッドライトはLED光源。
Z1時代のスタイルをここでも見事にセルフカバー。2眼メーター、タコメーターのレッドゾーン表示エリアが12,000rpmまで続くこと、メーター間にあってファンクション表記をするモニター部分の形状が富士山型であることなど、伝承のスタイルをここにも盛り込んでいる。

 

17リッター入る燃料タンクは、初代Z900RSのように長さや幅を持たないが、その造形はしっかり受け継いでいる。ライディングポジションからはさほど意識しないサイズながら、信号待ちなどで足を着いたとき、ヘルメット越しにでもZ900らしさを乗り手に伝えてくる。
Z900RS CAFEはRSよりも低いハンドルバーを装備する。その幅は広め。適度な前傾姿勢が特徴となる。ミラーの形状は否が応でも「ゼッツーミラー」的な丸ミラーを装備している。

 

カフェレーサースタイルのシート。前席部分が低く、パッセンジャーサイドが一段高いカタチに。シート表皮もシングルシート風味を出す渋い演出がなされている。シートはキーで取り外して開閉できる。バッテリー、ETC2.0の車載器はパッセンジャーシートの下に搭載される(写真の上でクリックすると、シートを外した状態が見られます)。
伝統的なディテールを盛り込みながら、現代風にショートなテールをさりげなく取り入れたリア周り。テールカウルの伸びやかさは、シート下まで伸びた部分でアピールし、小ぶりなテールエンドに潜り込むように装着される楕円のテールランプで完結。その後方はナンバープレートステーを兼ねたフェンダーでまとめている。

 
■Z900 RS CAFE(2BL-ZR900C) 主要諸元

全長×全幅×全高:2,100×845×1,190mm、ホールベース:1,470mm、最低地上高:130mm、シート高:820mm、車両重量:217kg、燃料消費率28.5km/L(国交省届出値 定地燃費値 60km/h 2名乗車時)、20.0km/L(WMTCモード値 クラス3-2 1名乗車時)、エンジン:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ、総排気量:948cm3、最高出力82kW(111PS)/8,500rpm、98N・m(10.0kgf・m)/6,500rpm、燃料タンク容量:17L、タイヤサイズ:前120/70ZR17M/C 58W、後180/55ZR17M/C 73W 。メーカー希望小売価格:1,386,000円。
 



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2020/01/06掲載