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試乗・解説

BRP Can-Am Ryker『バイクとも車とも違う! その驚く運動性 攻めの三輪』
何だか最近、3輪のバイクが流行っているというか、ヤマハがスクーターだけでなくスポーツバイクでも投入したこともあって、注目を集め始めているように思う。しかしカナダのBRP社は以前から「カンナム・スパイダー」を展開。でもこっちはバンクしないが?
■文:ノア セレン ■撮影:富樫秀明 ■協力:BRP JAPAN https://jp.brp.com/on-road/

3輪の楽しさ・怖さ

 車に乗る人はたくさんいるし、それよりもグッと少ない数だけれどもバイクに乗る人もそれなりにいる。しかし3輪となるとさらにググっと少ないだろう。なかなか接する機会がないし、サイドカーやトライクなど色んな形態があって何がどう違うのか理解するのも難しい。
 一般論ではないかもしれないが、個人的経験から3輪を簡単にカテゴライズしてみる。
 いわゆる普通のバイクの横に船と呼ばれる1輪の車をくっつけたのがサイドカー。バイクがベースなのだから、前後の車輪は整列していて横にもう一つついている。加速すれば船に引っ張られ、減速すれば船に押され、操作にはなかなかコツがいるが、それが楽しくてハマってしまう人がいるのもわかる。当然だがバンクはしないものの、船を持ち上げた2輪走行は余興的にはできる。
 一般的にトライクなどと呼ばれるのはバイクをベースに、後輪をもう一つ足し左右に均等に張り出させたもの。ハーレーやゴールドウイング、もしくはスクーターなどがカスタムされトライク化されているのを見ることが多いが、これは駆動輪が2つになり、操舵輪が車体中央にあるためサイドカーのような複雑さはなく比較的誰でも運転しやすいと思う。ただ路面が悪いとハンドルをとられたりすることもあって、ハンドルにいつでも力を入れられる心構えが必要なのと、コーナーを頑張りすぎると曲がっている反対方向斜め前方にひっくり返るという力が働きちょっと怖いことも。そもそもコーナーを頑張るものでもないが。
 さらに3輪でもバンクするものもある。よく見るのはピザ屋さんのジャイロなどが代表で、あれはリア2輪にもかかわらず普通にバンクするためトライクのように慎重になる必要もなく、乗車感はバイクに近い。たくさんの荷物を載せるための、実用的3輪車だろう。そして最近注目されているトリシティやナイケン、こちらはジャイロのようにバンクするが、フロントが2輪というパターンでフロントの接地感やブレーキングを重視した設定だ。
 このように一口に3輪と言っても様々なものが存在し、ひとくくりにはできないカテゴリーなのだ。それぞれが独自に3輪の魅力を追求しており、むしろカテゴリーともいえないかもしれない。
 そんな中、カンナムシリーズはフロントに2輪、リアに1輪、そしてバンクはしないという設定。同じ3輪でもまた違うわけで、ハーレーなどにみられるトライクの前後逆版といった感じだ。

スパイダーシリーズに比べるとかなりシェイプされた印象で、いかにも軽そうである。サイズは幅1509mm、長さ2352mmのため、バイクの感覚からすればかなり大きい。乾燥重量は600で270㎏、900は280㎏。

どちらかというとクルマ・絶大な安心感

 この、フロントに2輪でバンクしないタイプの乗り物は、実は以前ショップレベルで作られものに試乗したことがあった。これがすこぶる楽しい! いくら攻めても斜め前方にひっくり返る感じはなく、限度を越えたらリアの1輪が滑りだすか、車のように曲がっていく方角にある前輪が浮いてくるという挙動となるため、とにかく怖くない。バイクや、3輪でもバンクするタイプの乗り物はどうしても頭の片隅に「転ぶかも」がこびりつくわけだが、前2輪で後ろ1輪かつバンクしない3輪車は、4輪並みに転倒しにくいと言えるだろう。
 これにより、アクティブに走りたいという気持ちのタガが外れる。バイクだと転倒が嫌だから、ケガをしないためにも「無理はしない」というセーブがどこかしらで入ってくるものだが、車だとそのセーブの領域ははるか先。コントロールを失ってもせいぜいスピン。何かにぶつかってもボディが守ってくれると思うと、少なくとも筆者はバイクよりもよっぽど楽な気持ちで、もっと極限に近づいてやろうという気持ちで攻められる。カンナムシリーズはいざという時に守ってくれるボディこそないが、操作においては車のような安心感を持っており、かなりその気にさせる。

スポーツする3輪

 カンナムと言えばスパイダーシリーズが有名だが、スパイダーシリーズはアクティブというよりはラグジュアリーの路線だろう。バイクでも車でもない、他の人が乗っているのとは違う高級車。注目度は抜群で、ここまで書いてきたように安定感も高く、操作はバイクのようなハンドルではあるもののオープンカーに近い感覚で乗るものだろう。
 しかし今回試乗できたのは、「ライカー」という名前の比較的新しいシリーズ。これまでのラグジュアリー路線からアクティブ路線に大きく変更したと同時に、車重、排気量、パワー、そして価格帯においてより現実的というか、広い層が楽しめる新たなシリーズとして展開しているのだ。
 サイドカーやトライクなど、3輪の乗り物は基本的にはラグジュアリー路線で、不便さというか操る難しさというか、そういった特別感を楽しむものという向きがあったし、何よりも他と違う乗り物に乗っているという面白さがあったものの、NIKENの登場まではスポーツを前面に押し出して販売するものはほぼなかったと言える。ライカーはオンロード、そしてラリーエディションを設定することでオフロードも含めアクティブな乗り方を提案するもので、3輪スポーツを真面目にアピールしていると感じる。

バイクとも車とも違うことを理解する。

 3輪を取り巻く環境についての前置きが長すぎて申し訳ない。実際のライカーに移ろう。試乗前にスタッフがしっかりと「これはバンクしません。ハンドルをちゃんと切らないと曲がりません」ということをはっきりと説明してくれ、さらに電源を入れると「あなたはこの乗り物の特性を理解し、操作方法を習得していますね?」と確認の表示がメーターに現れる。こういった乗り物はあまり浸透していないという証拠であると同時に、これだけ入念に警告するのだから操作方法が分からずコントロール不能になる人もいるのだろう。初めての人は気を付けたいが、スノーモービルや4輪バギー、もしくは水上バイクなど乗った経験があればすんなり乗れるはずだ。ハンドルを切って、遠心力に負けないよう内側に体を入れていくという感覚をつかむのに、初めてでもそう時間はかからないだろう。
 こんな特殊な操作だからこそ、ライダーに合わせたポジションが大切である。ライカーはハンドル位置もステップ位置も前後に大きく移動させることができるため、ふんぞり返ったアメリカンスタイルで高速道路を走っていくのもOKだし、逆にハンドルは前に、ステップは後ろにすればよりバイクとの一体感を得られるようなポジションも作り出せる。この変更は工具が要らずワンタッチでできるためありがたい。
 ハンドリングだけでなく、操作の入力もいくらか特殊だ。アクセルはバイクと同じでグリップをひねる操作。オートマのためギアチェンジはなく開けるだけでどんどん進む。車のオートマのようにクリープ現象はなく、バイクのスクーター同様開ければクラッチが繋がる仕組みだ。ブレーキはフットブレーキのみ。バイクのように右足で踏めば3輪ともブレーキがかかり、しかもこれが大変に良く効く。最初は効きすぎるぐらいで、繊細な入力ができるようになるまで少し慣れが必要だろう。バックギアも備えるため車庫入れなどは安心だ。

独特の操作感はすぐ慣れ、オートマチックのイージーさと合わせて早々にスパルタンな走りをさせてくれる。身体を直立されていれば曲がっている方向の前輪が持ち上がりたがり、逆にフロントに荷重すればリアがスライドを始める。それでいて転倒の可能性は低く、2輪の格好をしているのに4輪の安心感を伴って乗れるという楽しい乗り味だ。

最高に楽しい!!

 ライカーは600cc版と900cc版の二本立て。600は並列2気筒、900は並列3気筒でいずれもロータックス製のエンジンを搭載すること、オートマチックであることを含めて操作は共通である。今回試乗したのは600の方で、カンナムラインナップではもっともベーシックで価格もリーズナブルな、3輪スポーツのエントリーモデルといったところだ。
 ハンドルとステップのポジションを合わせ走り出すと、600のツインがこんなに走るかな! とちょっと驚くほど良い加速。車体がバイクに比べると大きいこともあって実速度以上にそう感じる部分もあるかもしれない。独特のハンドリングに慣れるのに少し時間がかかるわけだが、一方でオートマであることがその他の部分の操作をイージーにしてくれるため、ハンドリングの特徴を掴むことに集中できる。
 5分も走ればペースがどんどんと上がってくる。コーナリングスピードの高さはバイクの比ではなく、前2輪のグリップ力が強大なためブレーキもコーナーのかなり奥まで差し込んでいける。コーナリング感覚は四輪車にとても近く、ライダーの重心も低くて車体と一体感があるため、遠心力によって振り落されるような感じもない。
 限界域が高いため、「まだ良いのかな?」なんて探りながらどんどん攻めの度合いを高めていくと、やはり内側のタイヤが持ちあがってくる感じがある。余裕があれば持ち上がってくるタイヤを楽しむことすらできそうではあるが、試乗会場を走っているほかの二輪車と実質上の追いかけっこをしているわけで、ペースを上げるためにはやっぱり接地していた方が良い。となると持ち上がってくる前輪の方に体重を乗せていくのだが、そうすると今度はリアが流れ出す。フロント2輪は逆ハンが当たり、リアの1輪はスライドさせながらコーナーから立ち上がっていく感覚はたまらない快感。バイクでドリフトするにはかなりの腕が必要だが、ライカーなら誰でもすぐにできるだろう。
 ちなみに600の方は安全装備としてのABSやトラコンなどベーシックなものが備わっているが、900の方はその介入度合いなども自由に設定できるそうで、もっと激しいドリフトも許容するというからさらにもうワンランク高い領域でこの乗り物のスポーツ性を楽しめるだろう。600の方はスライドが始まるとかなり早い段階でスタビリティコントロールが介入し、3輪全てのブレーキをそれぞれ適量効かせたり、また同時にトラコンが入ってパワーも間引かれてしまうため、ペースは上がらない。いかにスライドしないように曲がるかが600の走らせ方だろう。
 完全に感覚をつかみ、600版の許す限りのドリフトをしながらバイクを追いかけていると、やっぱり加速領域ではバイクに敵わないと思う場面はあった。なんと言っても車重が重いし、600のパラツインではパワーもそこまであるわけではない。ブレーキとコーナリングはバイクより良く、加速では一歩譲るという意味では4輪と2輪の関係そのままだが、これが900版になればまた話は違うだろう。モアパワーと、高性能電子制御による更なるドリフトコントロールが可能なら加速もかなり改善されるはずだ。
 とはいえ600版も十分に速い。公道のワインディングレベルならバイクと変わらないペースが可能ではないかと思うほど、キビキビと走らせられる、非常に楽しい乗り物だ。

リーズナブルさが魅力

 こういった3輪車はカンナムの上級ラインナップ「スパイダー」や各社のトライクなどがそうであるように、基本的には高級志向だ。しかしライカーはスポーツを推しているだけに、もっと気軽に、アクティブに走って欲しいという思いを込めて、価格はなんと約135万円(600版)なのである。これなら磨き倒したりする時間よりも積極的に乗る時間を多く設けたいと思いそうだし、カスタムなども気軽にしたくなるだろう。今や2輪だってリッタークラスなら200万円クラスなど当たり前だし、さらにライバル3輪モデルと比べると破格とも言えるこの価格設定は大きな魅力だ。安ければいいというわけではないが、品質は高く感じるのにこの価格はかなりリーズナブルに思える設定。そしてリーズナブルならばその分ちょっと冒険しようという気も起きるというもの。
 そもそも3輪に乗ろうという人は他とちょっと違うものに乗りたい、ちょっと違う魅力を知ってみたいという気持ちで乗るわけで、ある意味飛び道具的な、そんな存在のハズ。そういったジャンルのものが、この手の届きやすい価格帯で用意されるだけでなく、モータースポーツとして確かな魅力を持っているのは、もう、最高じゃないか! と思ってしまった。何か違うものを、そしてそれが違うがゆえ色んな事を妥協するのではなく、本当に楽しい体験がしたいと思っている人に是非とも薦めたいライカー。

599mmというシート高は多くのライダーにとって両足ベタベタだろうが、そもそもリーンしないため信号などで足を出すこともなく、足着きを重視する必要もない。ただこの低いシート高が車両との一体感を演出しており、4輪のスポーツカーのような地面を這うような走行感が得られるのだ。写真中と右はステップを前後に動かしたところを写しているが、このように大きく乗車姿勢を変更することがワンタッチでできる。加えてハンドルも前後に動かせるのだ。

 

ロータックス製600ccツインと900ccトリプルがラインナップされる。600が50馬力で900は82馬力。いずれも縦置き搭載され、ミッションはオートマCVT。リバースギアも備える。
エンジンが縦置きのおかげもあり、ファイナルはメンテフリーでクリーンなシャフトドライブ。スイングアーム構造で、ザックス製モノショックを搭載。タイヤは16インチ。

 

フロントはダブルウィッシュボーンにザックスのサスペンション。ブレーキはフロントに270mmのディスクとニッシンの2ポッドキャリパー、リアは220mmディスクに1ポッドキャリパー。フットブレーキの操作一つで3輪共に良い配分でブレーキが効く。
4.5インチのデジタルディスプレイは一般的な情報を簡素に表示するといったイメージ。ちなみにABS、トラコン、及び車体の姿勢をコントロールするスタビリティコントロール、そして坂道発進をサポートするヒルホールド機能も備えている。

 

2019/08/30掲載