強烈にZを感じさせながら
Zであることを忘れる運動性
クラシカルな対向2ポッドキャリパーながら、現代の一般的な対向4ポッドより強力に効くフロントブレーキ。それは思わず笑ってしまほど。軽いとは言えない1970年代空冷4気筒を指1本で軽々と減速。履いていたコンチロードアタック2CRは、外気温度計に“0”という数字が表示され、日陰は凍結防止剤で真っ白になっていた場所でも、想像以上に早く熱が入った。グリップしている手応えがあり、追い込んだ減速で、積極的にコーナーへ飛び込んでいけた。
車体が寝ていく動きが驚くほど素早い。無駄な動きをしないんだ。この見た目の空冷Zとは思えないほどフットワークが軽く、だけどトリッキーではなく、安心して深いところまでリーンできるハンドリング。
乗る前から予想はしていた。これがブルーサンダース・岩野さんが作るZの大きな特徴だ。走りのレベルが高い。数年前に同ショップのZ1000マークⅡのフロント19インチカスタマイズ車に乗せてもらったときに驚いたのが懐かしい。
今回のRSは、フロントホイールの18インチ化にともない、Z650ザッパーの50mmオフセットステムを使ってトレール不足に対処しており、低速での切れ込みもなくセルフステアに節度がある。前のマークⅡとは成り立ちが違うのに、独特の共通性を感じるから面白い。作り手である岩野さん自身がとても速く走れるライダーだから、きっと自分の中にビジョンというか、許せる範囲がしっかりと決まっているのだと思う。
古いオートバイのスポーツ性能を上げる方法はひとつじゃない。例えば現行モデルと同じ太いラジアルタイヤの前後17インチを高い剛性の足周りとセットにして旋回性を得るというのもある。好みの問題は別として、どれが正解というのはないと思う。ただ、どういう仕様でも、様々な場面でもネガティブな要素がなく気持ちのいいスポーツ性能に仕上げるには、作る側の経験と、走りに対してのロジカルな理解度がものをいう。
1166ccになっているエンジンは、低中回転域でも十分すぎるトルクがあったから、これがメインで高回転はおまけかな、なんて思いながら回すと、さらにロケットのように発射して、リミット設定されていた9千500回転まであっという間。鼻水をたらしながら少年のように駆け回った。もっと良い季節にもっとサスを縮ませながら走りたい、と悔いる。
(試乗・文:濱矢文夫)
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