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アンドレア・ドヴィツィオーゾがドゥカティのライダーではなくなってすでに2週間以上が経過した。2020年シーズンに話していたとおり、彼の側から見たボルゴ・パニガーレとの〈協議離婚〉について、そろそろ口を開いてもらうことにしよう。
■取材・文:パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri) ■翻訳:西村 章
―アンドレア、この冬はどうやって過ごしているんですか。今はプレシーズンテストに備えたトレーニングをする必要もなく、いろんな意味で気持ちの変化があるのではないかと思うのですが。

「家で時間を過ごしたりトレーニングしたり、という日課は特に変わっていないよ。今はモトクロスに夢中で、そのためにも鍛えなきゃいけないんだ。だから、日々を行き当たりばったりに過ごすのではなく、しっかり計画を立てて自分を律していかなきゃダメなんだ」

―とはいえ、精神的に少しはリラックスしたほうがいいのでは?

「多少はね。でも、緊張感の張り詰めたシーズンを過ごさなくてもよいので、それだけでも充分に、精神的にはラクになっているよ。MotoGPの開幕に向けて備えるのではなく、モトクロスの準備をするだけなんだからね。とはいっても引退したわけではないから、取り組むべきことの方向を少し変えてみた、といった程度のことさ」

―2020年をひとことで表すなら、どんなシーズンでしたか?

「長かった」





Round 6-Styria

Round 4-Czech
Round 5-Austria
※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

―その長いシーズンを、年間ランキング4位で終えましたね。外から見る限りでは、家に帰らず来る日も来る日もずっとレースをし続けているようでした。自分自身では、どんな印象でしたか。

「まあ、たしかにほぼそんな状態だったよね」

―その間に契約更改の交渉が行われていたのでしょうが、ドゥカティ側はドヴィツィオーゾ選手の能力や今後などについて評価検討していると言っていました。失礼な態度だと感じましたか?

「失礼かどうかはわからないし、その問いにもあまり答えたくはないなあ。ただ、2020年シーズンについていえば、ダニロ・ペトルッチが翌年のシートはないと開幕前に告げられていたのに対して、僕に対する彼らの振る舞いは正直で率直ではなかったよね。ジジ(・ダッリーニャ:ドゥカティコルセのゼネラルマネージャー)の最近のインタビューによると、ペトルッチの場合は、2019年のドイツGPとオーストリアGPの間にミーティングがあって、そこで継続がない旨を了解したそうだよね」

Round 5-Austria Gigih
ジジ・ダッリーニャ

―そのダッリーニャ氏のインタビューでは、彼の側とあなたの双方で契約更改の意志がないと合意したのだ、と言っていましたが。

「それは事実じゃないよ。僕たちのミーティングはあくまでテクニカルミーティングの予定だったんだ。だから、ちょっと見解が異なるね。行き違いがあったので、エンジニアたちとジジと僕とで集まった。最初は技術的なことについて話をしていたけど、やがてジジと僕の意見が対立した。それできっと、ジジは自分が責められていると思ったのかもしれない。僕にしてみれば、目の前でドアを閉められたようなものだ。しかも、ドアを閉めたあと、向こうからはうんともすんともいってこなくなった。で、彼がこういうふうにしたいと思っていたことが形になり、あとは、なるべくしてなるように事が運んだ、というわけさ。シーズン中には、僕のモチベーションが原因であるかのようなことも言われたけど、事実はそうじゃない。正直で率直な振る舞いとはいえないよ。僕は2018年や2019年と同じように、ドゥカティの2020年を過ごしていたんだから」

―ドゥカティはもうあなたを必要としなくなったのだ、と感じましたか?

「どうだろう。2020年には一度も向こうから実際的な提示がなかったからね。ドヴィツィオーゾはいつも金のことばかり言ってきたとか、向こうが僕にオファーをしていたんだとか、そんなのは全部でたらめだ。交渉なんて一度もなかったし、そもそも提示さえ受けたことがない。だから、拒む以前の問題だったんだよ。ジジにとっては、2019年のあのミーティングでなにもかも終了した、ということなんだろうね」

―そんな以前の話が、なぜ?

「僕に聞かれても困るよ」

―あなたを必要ないと思っていたのは、ジジだけなのでしょうか?

「だね。あそこの中で物事を決めているのはジジだから。皆が考えるような、ドゥカティとして何かの意志決定をしているわけじゃないんだよ。ジジが来てからというもの、判断をするのはいつも彼なんだ。2017年にマルケスじゃなくてロレンソと契約したのもそう。2016年序盤に、マルケスを獲得するチャンスがあったんだけど、ジジはロレンソがいいと思っていたので、ロレンソと契約することになったんだ」

Round 4-Czech
Round 5-Austria
ドヴィツィオーゾにとって第5戦オーストリアGPが2020年シーズン唯一の勝利。

―ドゥカティで過ごした日々はどうでしたか?

「これはいつも言ってきたことだけど、レース部門で仕事をしている技術者たちのレベルはすごいよ。目から鼻に抜けるような回転の速い切れ者揃いなんだ。ジジはそんな卓越した水準のエンジニアたちを巧みに束ねて陣頭指揮を執っている。これはドゥカティの大きな長所だと思う。でもその反面、いい関係を作るのにすごく苦労する技術者たちもいた。彼らを信用させて、僕の望む方向性へ開発を進めてもらうのはとても大変だった」

―ロレンソ選手が2017年に移籍してきたとき、彼はあなたと同じ問題点を指摘していたので、エンジニアたちのあなたに対する信頼が高まったのではないですか?

「実際はそうじゃない。ジジとうまくやっていこうと思ったら、彼に逆らっちゃダメなんだよ。そして、僕の発想は彼とは対極にあった。ライダーの囲み取材の時に技術者が出てきて、メディアの前でライダーへの謝罪を表明したメーカーがあったよね(註:2018年オーストリアGPの際に、マシン開発が進捗しないためにライダーの能力に見合った成績を出せないでいるとして、ヤマハの津谷晃司氏が取材陣の前で〈公式謝罪〉した一件)。そんなことは僕には一度もなかったよね。ドゥカティの場合、『もっと走れるはずだ』『もっといい成績を出せるはずだ』というプレッシャーが強烈なんだ。世界ランキング2位だろうが、ドゥカティでトップの成績だろうが関係ない。それが向こうからのメッセージなんだ。そしてこれが長期間ずっと続くと、あまりいい影響をもたらさない。自分の背中を支えてくれるような応援を感じなくなるんだ。成績がいいときはまだいい。好成績を出せなくなると悲惨だよ。それが1戦、2戦、1年……と続くと、もうまったく気持ちの余裕を持てなくなる」

―つまり、ライダーよりもバイクのほうを信頼している、ということですか。

「ライダーとは考え方が違うんだろうね。ライダーがあることを言ったとする。エンジニアたちはライダーの話は聞くけど、違った風に解釈されて運用されていくんだ」

―ドゥカティCEOのクラウディオ・ドメニカリ氏はこの数ヶ月、公の場ではコメントを発していませんが、あなたと何か意見交換はあったのでしょうか。

Round 4-Czech
Mission Winnow Ducatiチームのプレゼンテーション
2020年1月、ボローニャ(イタリア)のマッジョーレ広場にある歴史的なエンツォ宮殿で行われたMission Winnow Ducatiチームのプレゼンテーションにて。

「何も連絡がないね。オーストリアで僕が(契約更改をしない旨の)発表をした後も、誰からも連絡はなかった。ドメニカリ氏からはシーズン最後にさよならというメッセージが来たので、僕もさよならと返信したけどね」

―そんな対応が、あなたの新しい落ち着き先を探す障害になった、ということですか。

「先に話したとおり、正直で公平な対応じゃなかったからね。僕はいい形でレー スを継続できる道を模索していたから、KTMの選択肢はもっと前向きに検討していたかもしれない。能力あるライダーを探していた人々が開幕前から可能性を模索していたけど、結果的に様々なドアがかなり早い段階で閉ざされることになってしまった」

―レザースーツの腰の部分に記されていた〈DesmoDovi〉のロゴが〈Undaunted〉(不撓不屈、の意)に変わったのは、あなたを捨てようとしているドゥカティへの暗黙のメッセージだったのでしょうか?

「いや、それは違う。だって僕はそんな状況を知らなかったわけだから。あれは、2020年シーズンを強靱な意志で戦う、という意味だよ。ああいう不明瞭な状況で、バイクのスピードにも問題があり、好リザルトを目指すにはあまりに精神的に不穏な要素が多い状況をひとことで言い表すには、とても的確な言葉だったと思うよ。そんな環境で走り続けて、僕は年間ランキングを4位で終えたんだよ」

Round 2-Spain

―自分たちに落ち度があるとすれば、何でしょう。

「僕たちはいつも、もっとうまくできるはずだ、と思っている。でもミスはミスだ。いい方向性を見つけ出すことができなかった。それはおそらく、平静を保つことができず、後ろから背中を押してくれるような応援もなく、ただひたすら勢いだけで戦っていたからなのかもしれない。いずれにせよ、厳しいシーズンだった」

―そしてオーストリアのレースウィークでは、ドゥカティとの訣別を発表しました。あの瞬間は、どんな気持ちだったのですか。

「こんな状況はもう続かないんだと思うと、それだけで充分に爽快だったね」

―2020年のジジ・ダッリーニャ氏との関係はどうでしたか。

「ゼロ。でも前年は……30パーセントくらいかな。まあ、それ以上ではないよ。ホルヘが2017年に加入して以降は ―ホルヘのせいで問題がこじれた、といって いるわけじゃないからねー、ジジと多少のやりとりはあったものの、僕たちのチームはどんどん孤立していった。完全に孤立してしまうのは生産的ではないので、そこまでにはならなかったけれども、バイクの開発について話すことはまったくなかった。その折々に発生している事象についてのコメントはしていたけどね。僕たちのアイディアを押しつけるのはよくないだろうと考えていたから、ミーティングでみじめな思いをするよりも、今のパッケージを最大限に活かすことに専念した。そうしたほうが精神的にラクだし、気分の悪い思いもせずにすむ。目の前のことに集中できるからね。でも、MotoGPのファクトリーチームなんだから、本来は開発のためのパフォーマンス向上に邁進すべきだよね。でも、バイクの開発を話し合うミーティングはまったくなかった。ドゥカティには、それだけのことをできるパワーと技術力が充分にあるんだけどね」

 この8年間は厳しいなかでかなりよくやってきたと思うけれども、その年数を振り返ってなによりも腹立たしいのは、もう少し違ったアプローチを取っていれば、もっといい成績を修めることができていたかもしれない、ということなんだ。ある方向性についてはいろんなことに挑戦して卓越していたけれども、ものすごく遅れている分野もあった。それでも、3シーズンにわたって僕たちはチャンピオン争いをしてきたよね」

―今、ドゥカティ時代の8年間を振り返ってどんな気持ちですか。

「やはり、いいリザルトが最も強く印象に残っているよ。2017年、18年、19年は波瀾万丈でスリリングなシーズンだった。〈デスモドビ〉というニックネームには、それなりの理由があるんだよ。当時の僕は、このプロジェクトを本当に信じていたから、どこを改善すればバイクが良くなるかということをいつもずっと考えていた。ドゥカティの中には、僕が一所懸命やってないと考えている人たちもいたみたいだけどね。ごく一部とはいえ、そういう人たちは自分がライダーであった経験がないから、ある種の事柄については理解をできなくて、むしろ違ったふうに解釈してしまうんだ。僕が自分にできるかぎりの全力を注ぎ込まなかったと考える人がいるなら、それはまったくの間違いだ。その人は仕事を代わったほうがいいだろうね」

Round 2-Spain
Round 6-Styria

―あなたが訣別を表明したとき、ケーシー・ストーナー氏があなたを擁護するツイートをしていましたよね。

「ケーシーもいろいろと思うところがあったんだろう。彼もドゥカティではたくさんの成功を収めたライダーだけど、勝てないときはロクな扱いを受けなかったんだってね。僕にはそう言っていたよ」

―ドゥカティの未来はジャック・ミラー選手とペコ・バニャイア選手の手に託されることになります。

「ジャックは才能も経験もあるライダーで、細かいことにあまりこだわらないおおらかな性格だから、ある意味ではドゥカティ向きのライダーなのかもしれない。あそこの技術者たちは、自分たちで全部コントロールしてやりたいようにやるからね。

 ペコのことはよく知っているわけじゃないけれども、強さを発揮するときにはものすごく強いライダーだから、才能があるのは間違いない。でも、大切なのは、なぜ自分が強いのか、あるいはなぜ自分は弱いのか、を自分で理解していなければならない、ということだ。そこをわかっているかどうかで、チャンピオンシップを戦う明暗が分かれるんだ」

ジャック・ミラー
ジャック・ミラー
ダニロ・ペトルッチ
ダニロ・ペトルッチ

―アラゴンでは、ペトルッチ選手が、ライダー同士だからあなたとは友だちになれない、と発言して物議を醸しました。

「他人との関係については、それが自分にとって不愉快なものではないかぎり、僕はとくに問題だと思わない。友だちにはなれないと彼が言っているのであれば、まあ、そういうことなんだろう。僕の側には悪意はないし、こちらからドアを閉ざすこともない。僕からダニロに何かを渡すときは、それが彼にとって良かれと思うからだ。もしも彼がそれを受け取りたくないのであれば、それならそれで結構。僕もそれで不服はないよ」

―昨年終盤に、ヤマハはテクニカルレギュレーション違反により、違反をした当該レースでのコンストラクターズポイントとチームポイントを剥奪されましたが、ライダーのチャンピオンシップポイントには影響がありませんでした。この裁定にドゥカティが抗議をしていれば、あなたはランキング3位になっていたかもしれません。

「あれは、ちょっとよくわからない判断だったよね。ルールに外れた行為があったのであれば、ポイントを獲得したライダーではなくメーカーが罰せられるのはちょっと筋が通らないようにも思う。とはいえ、メーカー側はそれでよしとして納得しているんだろうから、僕があえてそこに深入りするべきことでもないけれども。でも、もしもドゥカティは自分たちが正しいと思っていたのなら、僕に打ち明けて抗議なりなんなりをすべきだったかもね。実際にはそういう事態にはならなかったので、僕がランキング3位になることはなかったし、その賞金を得ることもなかったんだけどね」

―まもなく2021年シーズンが始まります。マルケス選手とホンダの状況に注目が集まるでしょうね。

「1月中に何らかの動きがあるかもしれないね。いつ、どういう内容のものになるのか、僕にはわからないけど。こちらからホンダに対して交渉のテーブルに載せる材料が特にあるわけでもないし、この先どうなるのかは、ホンダのみぞ知る、さ」

―マルケス選手が復帰するまで、その代役を務める気はありますか?

「それには答えたくないな、あくまで先方次第の物事だから。もし先方から何かの提案があるのなら、こちらとしても考えるものはあるけれども」

―マルケス選手から何か連絡はありましたか?

「こちらからメッセージは送ったけれども、特に何かを訊ねたりしたわけではなく、今の厳しい状況を乗り越えるように激励しただけだよ。今は、スポーツ云々は二の次さ。あれだけ元気でいつも世界中を飛び回ってた人物なんだから、肉体的にも精神的にもとても辛くて厳しい時期だと思うんだ」

―あなた自身は、当面はモトクロスに専念ですか?

「そうだね。バイクナンバーも、今回の再出発に合わせて34番に戻したんだ。地方選手権やイタリア選手権の日程は、すべてカレンダーに書き込んでいるよ。全部で28戦もあるんだ。全部に参戦するのは無理としても、最初のレースは2月28日の予定だ」

―MotoGPのカタールテストの前、ということになりますね。

「もちろん、それもすでにチェックしている。プレシーズンテストから最終戦までしっかり観戦させてもらうよ!」

ダニロ・ペトルッチ

【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。


[第15回 ジョアン・ミル インタビューへ]





2021/01/29掲載