カワサキのヴェルシスシリーズは、クロスオーバーモデルとして高い評価を受けている。ヴェルシス1000SEは、2019年に現行モデルにスイッチし、SEモデルには電子制御セミアクティブサスペンションを備えている。優れたハンドリングやツアラーに相応しいトルクを生み出すエンジンの組み合わせにより世界でも評判が高い。
スタイルは、カワサキNinja1000シリーズなどと並べたら一目瞭然、ヴェルシスがアッパークラスのカワサキ車であることを認識させるデザインランゲージで構成されている。エンジン上部を跨ぐ形状のフレームは、大容量の21リッター燃料タンクを持ちながら、 スリムなボディーラインを整え、ポジションにもに配慮が行き届く。全体にリラックスしたものとすることでロングライドを容易に想起させてくれるものだ。
環境規制もユーロ5対応へとアップデイトを果たしているのもニュースで、エンジンなども2020年モデルから基本的には継続採用されたもの。その出力、トルク値などはまだ未発表で10月半ば以降、世界各地で発表がされるというから、日本向けもそれ以降の発表を待とう。
外観はカラーリングの変更や、TFTモニターのレイアウト変更などが施されただけで2020年モデルがもつ完成度の高さを継承している。今回びっくりしたのは、先述したスカイフックテクノロジーを入れたサスペンションなのだ。
スムーズさが印象的なエンジン。
快適さのレベルを数段押し上げた足周り。
操作系のスイッチなども昨年モデルから変更はない。今回は乗り味をテストコースという環境のなかでどう感じたかを中心にお伝えしたい。
エンジンは始動から回転のスムーズさが光る。荒さがない。それでいて排気音はいかにもカワサキらしく、4気筒らしい整ったトーンの中に迫力を織り交ぜた骨太さが特徴的。クラッチ、シフトペダルの動きなど操作系も質感がある。クラッチを繋ぐと豊かなトルク感でグイっと押し出される。260㎏ちかい車重は軽くないが、重心が低く重さ感はない。前後150mmのホイールトラベルを持つストロークの長いサスペンションだが、腰高感はなく取り回しにも特段な重さを感じない。
アップ、ダウン双方のシフトに対応するクイックシフターの恩恵でクラッチ操作から解放されるメリットもある。街中レベルの低い回転域からシフトはスパッと決まるのも嬉しい。
まずはテストコースの直線路に向かう。長さは小型機専用の飛行場のような直線の端に定常円旋回コースがある。その直線路と平行して波状路が作ってあり、ギャップの連続が待ち構えている。かまぼこ状の凹凸を不等間隔で配置し、常にガタガタする設定だ。
その道を50km/hで走ってみる。タイヤからギャップを踏む音がする。しかし新しいスカイフックサスはそれを見事に吸収。ハンドルグリップに感触はあるが、上体はフラットな姿勢のまま通過する。サスのストローク速度で言うと高速側の動きがめちゃくちゃスムーズでまるで普通の道を走っているようだ。
この動きを可能にするのは、サスペンションに搭載されたストロークセンサー、IMUなどが検知する姿勢、運転状況などの情報から算出したベストなサスペンションの動きを生み出すための電子制御サスペンションのECUが減衰圧調整を1000分の1秒単位で行っていることによるもの。その減衰圧調整をソレノイドバルブで行うことでより滑らかな減衰圧変化を生み出すのがショーワ製電子制御サスの特徴でもある。
そこにスカイフックアルゴリズムを加えてより快適なサスペンションへと進化させているのが特徴だ。
ペースを上げても共振が起こったりタイミングが外れるようなこともない。80km/hでも90km/hでもその様子は変わらない。通過音だけが早まるだけだ。これはスゴイ。
直線路で加速をしてみる。エンジンのスムーズさ、シフトの滑らかさ、なによりエンジン特性とアクセルを開けた時の微少なアクセル開度でもスムーズに反応するので、ドンツキ感がない。キレイにまとまっている。
2度目の直線路で一つの実験をした。発進加速をイメージしてフロントがどのような伸び方をするのか。それを確かめた。1速で大きくアクセルを開けてみる。急加速だ。それでもフロントフォークはクっと踏ん張るように伸びが止まり姿勢変化を抑えているのが解る。それも自然に違和感なくだ。そこからアクセルを閉じても、フォークは伸びから縮む方向に変わるが、ガクンと車重が前輪にのしかかるような動きはない。フラットな姿勢を保つ。
直線路を140km/hほどでスラロームしてみてもその安定感、安心感は変わらず。切り返し時にグッと沈んだサスペンションが伸びすぎないから不安が無いのだ。こんな日常ではまずやらないことばかりを試してもしょうがない。ワインディング路をツーリングペースで走ってみた。
一周1キロ弱のコースは前半がEU路、後半がUS路と呼ばれている。US路はアメリカ郊外の一般路にある路面環境に近いもの、EU路はドイツのニュルブルクリンクに近い一般道を模したという。走ってみて解るのは、特にUS路は丘の頂点でカーブが右から左に変わるという縦ブラインドコーナーである。しかも丘を越えた瞬間、タイヤからはふわっと荷重が抜けるし、次の丘に向かって登り始めるボトムがまた切り返しになっていたりでとにかく、車体とサスをいじめるコースなのだ。しかもコース幅は狭く乗り手にプレッシャーを掛けてくる。
リラックスペースで流す時、ヴェルシス1000SEの走りは上質で滑らかな印象だ。アクセルを閉じ、ブレーキを軽く使う程度でそのコースとマッチングさせたペースで走ると、前後へのピッチングをほとんど感じない。縦長のコースに2箇所ある回り込んだコーナーで深めにバイクを寝かせても、しっかりタイヤのグリップを活かすよう接地性をコントロールしてくれる。切り返しも適度な手応えで軽すぎず重すぎず、程よさが印象的。このペースでこのコースを2時間走れ、と言われても全然平気な快適さがある。
少しペースを上げた。アクセルを閉じるとエンジンブレーキは強めにかかる回転数だ。それでも車体はピッチングをするが、フラットな姿勢感がある。車体の動きが滑らかで少ない。だからアプローチからクリップに付き、そこから加速する動作の一連がものすごく上質に感じる。ブレーキを適宜強めていっても姿勢変化の印象は同様。前のめりにならないのがありがたい。
狭く感じるテストコースの車線のなかでも自信を持ってバイクをコントロールできる。とにかくツアラーを走らせているのに体幹がしっかりした印象の車体がスポーツライディングへと誘う。
片側車線のなかで攻めてみる。5000rpmを越えるとワイルドな排気音が刺激的。重たいはずの車体の動きに一体感があり軽快さがある。スポーツツーリング用タイヤを履くためハンドリングもいい。サスペンションのストロークも余分なたるみを常に無くし、初期作動からしっかり減衰を活かしている印象だ。それでいて姿勢はやはりフラット。路面にあえてギャップやシワを作っているテストコースのはずなのに波状路同様、ロードノイズが変化するだけで気持ち良く走れる。
もっと攻めても印象は同じ。ヴェルシス1000SEは魔法の足を得たことでツーリングからスポーツライディングまで幅広く楽しめる用域を拡げているようだ。車体の良さ、タイヤの良さとも協調し、気温変化、天候変化でもこの印象はツアラーとしての強みを発揮するはず。このバイクとサスペンションは新たなベンチマークになる。そんな予感がする。
(試乗・文:松井 勉)
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