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レース・イベント

クリスマス休暇は明けたばかりだが、バレンティーノ・ロッシの冬休みは一般人が休みに入る前にすでに終了していた。ルイス・ハミルトンとマシンを交換してメルセデスのF1マシンに試乗するイベントの後に、フェラーリ488GT3でアブダビ12時間耐久レースに参戦を果たした。クリスマスプレゼントはいつの世も子供たちを熱狂させるものだが、ロッシもこのプレゼントを愉しんでいたところを見ると、どうやら彼もいまだに無邪気な童心を残しているようだ。
■インタビュー・文:パオロ・イアニエリ  ■翻訳:西村 章

―ハミルトン選手とのマシン交換は、単なるイベントやショーの域を超えていたようですね。

「とても楽しませてもらったよ。この話を最初にもらったときは『お、いいじゃん』と思ったんだけど、実はこういったイベントというものは見かけ倒しの場合が多いんだ。20周程度ぐるぐる走ってからあとの4時間は写真撮影に費やす、といったふうにね。だから『もちろんやらせてもらうけど、走る以上は真剣に取り組ませてもらいたい。以前にフェラーリの試乗をしたときみたいなやりかたで、終日かけて70~80周くらいは走らせてほしい』とお願いしたんだ。で、希望が通った、ってわけ」

―楽しそうでしたね。

「ルイスとは過去にも何度か話をする機会があったけど、15分や20分程度の話がせいぜいで、長くてもせいぜい1時間程度だった。彼はモータースポーツをすごく愛しているし、性格的にも素晴らしい人物なんだ。今回は二日間を一緒に過ごして、食事も共にしたし、たくさん話したよ。謙虚で礼儀正しい、好人物だね。とても楽しかったよ」

―ライダーとしては、どうでしたか?

「たいしたものだよ。いままでバイクに乗った経験は数えるほどで、しかもMotoGPじゃなくてふつうのバイクだった、という話だからすごいよね。それにあのときはあまりコンディションが良くなかったから、実は少し心配だったんだ。風があって、バイクに乗りにくい状況だったけど、走り込んでどんどん上達していった。たくさん周回して、最後には全開からハードブレーキングまで持っていったから、『それだけ乗れりゃあMotoGPライダーになれるよ』って言ってたんだよ」

―F1に乗るのは9年ぶりですね。V8やV10は過去に経験がありますが、現在はハイブリッドマシンです。

「今回試乗する前夜にちょっと思ったんだけど、実はフェラーリとメルセデスに乗った人間って、ぼくが初めてなんじゃない? 世界で自分ひとりだけなんて、クールだよね。以前に乗ったF1は乗りやすかったし、首にかかる負荷もそれほど大きくなかった。メルセデスはエンジンが凄くてターボも並外れている。タイヤもいいからグリップ力もバツグンだったよ」

―かつてジャック・ヴィルヌーヴやミハエル・シューマッハのファンだったあなたは現在、ルイス・ハミルトンの友人というわけですね。

「子供というものは反抗心が強いから、ヴィルヌーヴみたいな選手に憧れるものなんだよね。成長してフェラーリの世界を知り、シューマッハと彼のチームのことを理解するようになった。子供時代にはわからなかったかもしれないけど、ハミルトンという人物はとても豊穣な性格で懐の深い人物なんだ。なんといっても、クールだしね。レースが終わるとパーティに直行して、あんなふうに切り替えることのできる人物は見たことがないよ。それで次のレースでまた勝っちゃうんだから、そんな姿を目の当たりにしたなら彼のファンにもなろうってものさ」

ルイス・ハミルトンとヘルメット交換
ルイス・ハミルトンとヘルメット交換。※以下、写真をクリックすると大きく、または違う写真を見ることができます。

ハミルトン
ヤマハのMotoGPマシンを駆るハミルトン。
ロッシ
メルセデスAMGのF1マシンを駆るロッシ。

―もしも2006年にタイトルを獲得できていればF1に転向していましたか?

「それはないね。2006年のバレンシアで二月にテストしたのはかなり真剣なヤツだったけどね。フェラーリのスタッフとの会合で、自分は本当に転向する意志があるのかどうか熟考したよ。本格的なプログラムで、まずは少し遅いクルマで慣れてからフェラーリに進むというものだったけど、じっくり考えた末に自分がやりたいのはこっちじゃない、と決めたんだ」

―スポーツ界の成功者は偶像視されがちなものですが、マックス・フェルスタッペン選手はロッシを観るためにMotoGPを観戦している、と公言しています。

「大勢の人が応援してくれるのはとてもうれしいし、他の競技のトップアスリートたちと知り合いになれるのも幸せなことだ。特にF1の世界には、ランド・ノリスやシャルル・ルクレール、フェルスタッペン等々、MotoGPの熱狂的なファンが多いみたいだね。ハミルトンのチームはバイク乗りが揃っているそうだよ。ミーティングの最中でも、MotoGPの予選が始まると話が停まるんだってさ。ぼくはぼくでクルマ好きだし、お互いがお互いの熱狂的なファンだから、どっちもどっち、ってことだね」

―チャンピオンといえば、ケーシー・ストーナー氏はあまり体調が優れないそうです。

「ああ、記事を読んだよ。慢性疲労症候群なのだとか。お気の毒に」

―ポッドキャストの番組で告白したのですが、そこではあなたについても言及していましたよ。まず2008年のラグナセカについて。あのレースであなたに負けたことで、さらに強靱でタフなライダーになれたのだ、と。

「それはよかった」

2008年アメリカGP
ラグナ・セカで行われた2008年アメリカGPでの有名なパッシングシーン。

―ストーナー氏はあなたについて甘言を弄したことは一度もない、とのことですが、今もあなたの走りを観ているそうで、本気を出せばトップを走れる力量はまだあるし、マルケスに挑みかかるところをぜひ観てみたい、とも言っていました。しかし同時に、アカデミーの若い選手たちが見せるイチかバチかの走りから学ぶところもあるのではないか、とも言っていました。

「イチかバチかの走りにかけては、彼は達人だったからね。バイクが完璧な状態ではないときでも、いつも彼は限界まで攻めていた。とても貴重なアドバイスだね。ストーナーは本当に卓越した才能の持ち主で、ぼくのキャリアのなかではたぶん最強のライバルだった。短い現役生活だったけど、いくつもの偉業を達成したライダーだ。きらめくような素晴らしい才能の持ち主だったけど、キツい性格だから彼といい関係を作るのは難しかったし、正直なところ、僕と彼はあまり仲が良くはなかった。まあそれはともかく、体調がよくなって、ふつうの生活を送れるようになってほしいね」

―あなたのクルーチーフだったジェレミー・バージェス氏とフィリップアイランドで話をした際に、あなたがもし今もラグナでストーナーを倒したときと同じなら現役を続行できるだろう、と言っていました。

「ぼくはあの頃と同じだと思うよ。ジェレミーのことばはいろんな解釈の余地があるかもしれないけど、あのラグナのレースからは12年が過ぎてもはやいろんなことが変わってしまった。ライバルたちは強くなり、ぼくは歳を取っていく。でも闘争本能はまだ老いていない。もしその気持ちが萎えるようなことがあれば、おそらくそれが引き際なんだろう」

―来季はクルーチーフがシルバノ・ガルブセラからダビド・ムニョスに交代しますね。交代が一年遅かった、とは思っていませんか?
ジェレミー・バージェス
ジェレミー・バージェスは長きに渡ってロッシのクルーチーフを務めた。

「シルバノとは2014年から16年まで、すごくいい仕事をできた。2017年の半ばから苦戦するようになったけれども……たしかに、もう1年早く交代できていたかもしれない。でも、それはあくまで結果論だよ」

―2020年は、継続するか辞めるかを決める重要な年です。今はいつもとちょっと違うシーズンオフでしょうか。

「まあね。もう少し時間がほしい、というのが本音だけど、今のMotoGPはすべてがさっさと決まっていくからね。できればシーズン半ばまでじっくり考えたいんだ。リン(・ジャーヴィス)やヤマハとも協議して彼らの考えも聞いてみるつもりだ」

―決断を下す前に誰に相談するのですか?

「たいていの場合、相談するのは父と母、アルビ、ウーチョ、カルロなんだ。父と母をはじめ、多くの人が現役を継続してほしいと考えている。でも、まずは現実を見据えなきゃ。2020年は2019年よりも高いレベルで戦わなくてはいけない。それができないなら、続けないほうがいい。そこは間違いないね」

―ヤマハの人たちは、もしあなたに継続する意志があるならバイクは用意する、と言っているようですが。

「本当かな。そう言ってくれるのはうれしいけどさ。ヤマハはいつも前向きにぼくを受け入れてくれるので、ほんとうに感謝しているよ」

―彼らが言うには、あなたを捕まえて離さないのではなく、あくまであなたの能力を信じている、ということのようです。

「そこは本当に大事なことだね。ありがたいことだとつくづく思うよ。引退を自分で決めることができる、ということ自体がそもそも贅沢な話だよね。ふつうはクビにされるんだから」

―あなたは、ヤマハはクアルタラロ選手を重用するべきだとも言っていましたよね。そうすると、彼とヴィニャーレス選手とあなたと、三人がふたつのシートを競うことになりますが??

「そこが問題なんだよ」

―ヴィニャーレス選手はペトロナスチームへ移籍するつもりはないと言明していますし、きっとクアルタラロ選手もあそこにずっといたくはないでしょう。

「あのチームがそんなに違うとは思わないけどね」

―では、あなたなら行きますか?

「今いる場所のほうがそりゃあいいけど……でもまあ、3人がふたつのシートを競うのであればみっつ目の場所も検討はしなきゃならないよ。ぼくは、ペトロナスがそんなに悪いチームだと思わない。でも、ヴィニャーレスはイヤなんだろう。あるいはクアルタラロのバイクが変わるのかな。他人の考えはわからないからなんとも言えないよ」

―ところで、ヤマハはロレンソ氏をテストライダーとして検討しているという話もあるようですが。

「彼にテストライダーになってもらうのはいいアイディアだと思う。問題は、ホルヘ自身がどう考えているか、だ。ホルヘは年間20戦を走るプレッシャーにはもう耐えられない、と言っていたけど、もしも自分が彼の立場でまだバイクに乗ることを楽しいと思えるのであれば、たぶんやるだろうね。ヤマハのバイクに乗れば、ホルヘは速いと思うよ」

―まもなくダカールラリーが始まります。今年はフェルナンド・アロンソ選手の参戦が注目を集めています。

「ダカールは大好きなんだ。彼がどこまで健闘するか見ものだね。自分自身が参戦することはたぶんないと思うけど」

―その決心が変わる可能性はありませんか?

「アスファルトの上でレースをする方が好きなんだ。ぼくは砂や土の上よりもアスファルトの方が速いと思う」

―アブダビ12時間耐久では、弟のルカと一緒に参戦しましたね。

「すごく楽しかった。ルカには、カーレースのコツを教えているところなんだ。すでに充分速くて、見どころがあるから期待できるよ。なにより、楽しんで走っているのがいい」

ガルフ12時間耐久レー

ガルフ12時間耐久レー
ガルフ12時間耐久レー
アブダビのヤス・マリーナ・サーキットで行われたガルフ12時間耐久レース。

―まもなく2020年シーズンが始まります。どんな一年になるでしょうか。

「ひとつハッキリしているのは、ぼくは全力で戦う、ということだね。高いレベルで戦えるように万全に準備を整える。いいレースをしてランキングトップスリーで争えるように全力を尽くすよ」

―個人的な願望は?

「ヤマハのバイクが直線であと10km/h速くなること。ホンダやドゥカティと互角になればいいんだけど、難しいだろうなあ……」

【パオロ・イアニエリ(Paolo Ianieri)】
国際アイスホッケー連盟(IIHF)やイタリア公共放送局RAI勤務を経て、2000年から同国の日刊スポーツ新聞La Gazzetta dello Sportのモータースポーツ担当記者。MotoGPをはじめ、ダカールラリーやF1にも造詣が深い。

[第十三回 マルク・マルケス インタビューへ| 第十四回 |第十五回 ジョアン・ミルインタビューへ]

2020/01/17掲載