CBの頭文字が何を意味するかは諸説あるが、Creative Benchmark とする解釈がある。「進化する基準」、待望のNEW「CB」はここから始まる新たなCB像を作り上げ、提案し、そして今後の基準となって進化を続ける。
- ■試乗・文:ノア セレン ■撮影:渕本智信
- ■協力:ホンダモーターサイクルジャパン
- ■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、アルパインスターズ https://www.instagram.com/alpinestarsjapan/
後出しジャンケンでちゃんと勝つ!
CB1000Fはネオレトロというカテゴリーだとするならば完全なる「後出しじゃんけん」。Z900RSが2017年にデビューしてから破竹の勢いで売れまくってきた。いろんな過去のカラーリングを復活させたり、豪華足周り仕様を作ったりしつつ、じわじわと価格も上昇しているにもかかわらず人気に陰りが見えないのだから本当にすごい。これにはホンダも素直にすごいなぁ!と見ていたはず。
スズキはKATANAを復活。これまたスキモノファンを唸らせて、スズキにとってのヘリテイジをアピール。販売的にはZ900RSほどのスマッシュヒットではないみたいだけれども、それでも注目度は高い。この2台が既に存在する中での、CB1000Fデビューである。
カワサキとスズキの2台の性格は意外と正反対ぐらい違うというのが面白くて、Z900RSはポジションもラクチン、エンジンもカワサキらしいジュルジュルトルクで常用域が使いやすくてテイスティ、だけど足周りは乗り心地がいい代わりにハイペースになってくるとちょっと天井が見えてしまう感じ。カスタムを楽しむマージンを残したとも言える。
対するKATANAはエンジンはキンキン、車体もビシーッとしていて、性能的にはベースのGSX-S1000と変わらないぐらいストリートファイター然としているため、限界域は高いものの逆に常用域ではちょっと硬質でToo Mutchな感があったりする場面もある。性能アップのためのカスタムは不要。むしろ日常的に乗るにはサスペンションなど各部を柔らかく改めてあげたいイメージ。
そんな2台のちょうど真ん中を行くのがこのCB1000F。ホント、CB1000Fの乗り味はこの2台のばっちり中間なのである。足周りはZ900RSより数段頼りがいがあり、しなやかでいてストローク感があって動きがわかりやすく、ハイペースに持ち込んでも「惜しい」と思うことなくどこまでもしっかりと付き合ってくれる。それでいてKATANAほど硬質でもなく乗り心地は良好。
エンジンは軽やかで元気なのだけど、KATANAのようなキンキンさは抑えられていて(最高出力も124PSに抑えられているが)これまた付き合いやすい。
そして何よりも感動的なのがフレームのしなやかさ。ホーネットと各部寸法が同じというのだからシンジラレナイ話なのだが、ホーネットのスッパスパの切れ味はどこへやら。超しなやかに、全く不安感なく、どこまでも寄り添ってくれる感覚に過度なシャープさはみじんもなく、足周りの設定と合わせて本当に極上。
そうだよ、後出しジャンケンってこうじゃなくちゃ! 確実に勝ちにいかなくちゃ!! ただ、CBはネオレトロという枠に収まらない、ホンダの新しいフラッグシップでもあるのだった。
文句なし! 感動の公道性能
■舗装林道編■
舗装林道という道路の形態がある。実際の道路の区分としてではなく、いわゆる「舗装林道的な」道というのは、日本のツーリングシーンではよくあるもの。道幅は大体1.5車線ぐらいで、すれ違うためにはお互い気をつけねばならず、路面はたいがいツギハギがあったりしてグリップはさして良くない。加えてコケが生えていることや、落ち葉があって予想外のところが濡れていたりもする。だいたいは山の中でくねくね道のため見通しが悪く、よくよく路面状況と交通状況を把握しながら、マージンをたっぷりとって走らなければならないトリッキーなシチュエーション。でありながら、めっぽう楽しい。
そんな場面で、CB1000Fは光り輝いた。リッターマシンでこういったところをそれなりのペースで走るのは怖かったりもするもの。パワーを持て余すし、想定速度域が高いモデルだと車体や足周りが固すぎて神経質さが出てしまう。ハイギアードすぎるミッションが使いにくいことも多い。本来ならモタードやミドルアドベンチャーが得意とする場面にもかかわらず、CB1000Fで走る舗装林道的道路は無敵感に包まれた。
肝となっているのは足周りの良さだ。フロントフォークはスプリングこそホーネットと同じながら内部ダンピングを調整。リアはリンク比を専用として、合わせてサス本体もよりバネレートの低い専用品とした。こう見るとホーネットに対して変更点は少なそうだが、加えて絶大なる安心感を提供しているのは38.5㎜後方へと移された着座位置と大アップハンドルだろう。これによって常に後輪を尻に感じながらグリップ感を探れるし、逆に遠くに感じる前輪は19インチのアドベンチャーモデルかのように泳がせておけば大丈夫。フロントからすっぽ抜けてしまうような怖さは全くないのだから常に自信をもって走らせられる。
そしてブレーキがまたイイのだ! フォークの作動感とパーフェクトマッチで、かなり強めに握り込んでいっても怖さゼロ。前輪の接地感、グリップ感が手に取るように分かるため、せっかく搭載しているコーナリングABSに至っては「出る幕ナシ」である。トリッキーな路面でも思いのままの減速が可能で、これによりさらに「まだイケる!まだイケる‼」と楽しさが増幅されていく。
エンジンは1~3速がホーネット比でショートに振られていること、そして最大トルク発生回転数が下げられていることで、舗装林道という速度域の低い場面でもリッターバイクのポテンシャルを積極的に引き出せる。大パワーにもかかわらずアクセルを積極的に開けていける設定なのもスポーツ心を高めてくれる。
舗装林道で怖がらずに楽しめるのかどうか。これはバイクのフトコロの深さを測るには絶好のバロメーターなのである。舗装林道でこれだけ安心してこねくり回せるのならば、どこに持って行っても大丈夫! の太鼓判が押されたようなものだ。
■中速ワインディング編■
舗装林道が最高だと分かった時点で、もう他の場面は試さなくてもこのバイクの良さは確定したようなものなのだが、中速ワインディングにも行ってみる。
中速といっても公道なわけで常識の範囲内の速度域。その中で走らせると、先ほどの柔らかさ、安心感が高いのが変わらず魅力的だ。着座位置が後方のためいいペースで走っていてもアグレッシブな感じはなく、常にバイクと一体となってスイスイと走っているイメージ。腰を少し落としてハングオンしてもいいし、しなくてもいい。リーンウィズでも軽快にコーナーを楽しめた。
ペースが上がって如実に分かったのは車体の軽さ。ここまでの万能さやしなやかさにはベースモデルとなったホーネットよりもCB1300SF的なイメージを抱いていたのだが、特にブレーキング時にはCB1300SF比で約50㎏も軽くなっている恩恵を感じた。ビッグネイキッドの感覚からしたら半分ぐらいの距離で減速できてしまっているぐらい、ブレーキングに余裕があるのだ。
もちろんそれは車体の切り返しなどでも軽快さを生んでいるのだけれど、しかしそれが機敏とかシャープではないのが安心だ。低めのシートにドッカと座り、大アップハンドルで積極的に振り回す感覚は常にライダーがバイクに対して優位にいるか、あるいは共に楽しんでいると感じる場面も多い。決してバイクのパフォーマンスや切れ味に「オワッ!」と驚かされることがなく、常に仲良しなのだ。
スピードが乗りやすい中速ワインディングもまた気を付けなければいけない場面は多いが、先が良く見えるポジションと絶妙な足周りをはじめとするCB1000Fがもたらす余裕はここでも生きていて、オールラウンドなスポーツバイクとしての万能さを見せつけられた。
■高速道路編■
リッターバイクで高速道路がニガテ、ということはあまりない。124馬力もあれば加速も巡航も楽勝。巡航速度からの再加速も余裕だ。加えてCB1000Fはギア比の関係で高速巡航がけっこう得意。4~6速はホーネットと同じギア比ながら、ファイナルがロングに振られているため、結果として高速巡航時は回転数が抑えられている。
ホーネットでは例え6速巡航時でもアクセルを開ければいつでも弾け飛んでいける臨戦態勢! という感じなのに対して、CB1000Fはもっと落ち着きがあって、本格的に加速するなら1速落とすといい。この設定がまたストリートファイターではなくスタンダードネイキッドとなっていて、構える必要が一切ない。
速度域があがってくると、大アップハンドルによって起きている上半身が風の抵抗を受けるため、体のホールドが難しくなってくる場面も。しっかりとニーグリップしようにもタンク側面が意外と滑るため、高速域あるいは急加速を楽しみたい人は純正アクセサリーのタンクサイドステッカー(滑り止め効果あり)を張り付けるといいだろう。
ネイキッドスタイルのバイクで高速道路を走るなら2眼のメーターの後ろに潜り込んでそのメーターの間から先を見る、みたいなロマンがあるかと思うけれど、CB1000Fはモダンな四角メーター。メーターステーの周りからの風の流れは徹底的に作り込んであるらしく、ネイキッドスタイルならではの空力をしっかりと追及しているそう。
ちなみにこの四角メーターに対しては否定的な意見も多いらしいが、これも時代である。スマホが生活の一部になった今、二眼メーターのロマンよりも実を採ったというのもホンダらしい。なおSEについているカウルもまた空力を徹底追及しているというから、高速道路走行が多い人、四角メーターのルックスがフィットしない人はカウル装着を検討したい。
■ストリート編■
CB1000Fの懐深いスポーツ性と付き合いやすさゆえ、速く走ること、コーナーを楽しむことばかりに没頭してしまった試乗初日。しかし翌日の試乗は冷たい雨で無理が効かない状況だったためツーリング想定のペースやストリートを中心に走った。
そういった難しい状況で生きるのはやはり余裕のあるポジションと足着き性。こういった要素が自信を持たせてくれ、フルウェット路面でも怖がらずに走ることができた。取り回しも、ハンドル切れ角そのものはホーネットと同じはずなのに、大アップハンドルのおかげかUターンがとてもしやすく、その点でもビッグネイキッドらしい自在さを実感できた。
特に感じ入ったのは、2車線以上の幹線道路における6速固定での使いやすさ。ペースもそれなりに速い中、3000rpmあたりでシフトダウンせずにビューゥビューゥと車の間を抜け、労せず加速できるのは本当に気持ちがいい。この時の感覚はまさにビッグネイキッドでありCB1300SFに近い。潤沢なトルクはCB1300SF比で300㏄も少ないとは思えないほどで、車体の軽さもその排気量差を補ってくれているだろう。
ストリートでの使い勝手はいい意味で実用車的な部分も見えた気がする。リッターバイクだから、スポーツバイクだからと我慢を強いられるような場面はひとつもなかった。
懐古かモダンか
ハイテク味付けの妙
様々な場面を、晴天雨天両方で走り回って、CB1000Fの特に足周り、フレーム、ライディングポジションなどには深く感銘を受けた。40代も半ば、ビッグネイキッド世代の筆者からすると、こういった万能でありつつスポーツも決して犠牲にせず、それでいて低い速度域でもしっかりと一体感を持って楽しめて怖さがないバイクというのは、個人的な「大好き」の枠を超えて「ストリートスポーツバイクはこうあるべき」と思うほどである。加えてビッグネイキッドたちにはなかった「軽さ」が加わったことで完全なる次世代のCBへと生まれ変わったと感じる。
一方で、「味付け」という部分がある。特にネイキッドモデルはベースとなる頂点モデルがあり(CB1000SFにはCBR1000F、CB1000Fにはホーネット1000経由でCBR1000RR)、そのモデルを常用域で楽しめるように設定しなおすとともに、失われたピークパワーと引き換えに扱いやすさや楽しさ、加えて定義しにくい「味」というものが求められるようだ。
CB1000Fも同様。開発時には「魅力的となる個性を与えないと、ただのパワーダウンしたホーネットと捉えられてしまいそう……」という心配もあったそうだ。そこで採用されたのが、あの空冷CB1100でネオレトロ市場に新しい提案をした、気筒間でバルブタイミングをずらすカムを搭載するという手法だ。しかもCB1100は空冷のテイスティエンジンが出発点だったためその特異なカムシャフトは吸気側のみに使われ十分なテイストを生んでいたが、CB1000Fは元がCBR由来のハイテクエンジン故、さらなるテイスト・雑味・個性を求めて排気側にもこのカムを採用。結果として王道直四のフォン! という排気音ではなく、どこか旧車然としたヴァララァ!という排気音となっているのだ。
これは主にフィーリングや音のための設定であり、性能面では特に影響はなくあくまで「個性」や「味付け」の部分。この個性をさらに増幅させるべく、吸気ファンネルの長さや径も不均等とするなど細かな設定がなされていて、「エモーショナルな燃焼パルス」を追求している。またこの雰囲気や世界観をさらに突き詰めるべく、アクセルレスポンスも電スロのこと細やかな設定により意図的に「タメ」を作り出しており、アクセルの開け口がファジーになっている。
CB1000FのスタイリングイメージとなったCB750Fの時代、あるいはそれ以前のCB750フォアの時代は、当時の技術的限界として頂点スポーツバイクでもこういったバラツキやタメのある反応が実際にあった。そんな時代を懐かしんで、今は超ハイテクな各種技術によってこういった特性をあえて作り出しているのである。
性能という面ではもはや公道で楽しむには過剰なほどになっている昨今、いかに絶対性能とは別のところで「面白い」バイクを作り出すかが問われる。そんな中でホンダはカムタイミングをずらすというハード面からのアプローチと、インジェクションの作り込みというソフト面からのアプローチ、二つの面からこの課題に取り組んだわけだ。
フィーリングとしてはベテランも懐かしんでくれる、ネオレトロらしい懐古的味付けをしているのだが、その手法はあくまで最先端。性能の追求とは別のアングルで、「味」や「フィーリング」という曖昧であり正解を定義するのが難しいものを追求すべく、ハイテク技術が最大限活用されているのだ。
これからのCB
1969年に生まれた世界初の量産4気筒CB750フォアこそがCBであり一つの原点である、という認識の人は多いはず。そして10年後には今回の新型CB1000FのデザインイメージともなったCB750Fが登場し、こちらもまたホンダの高性能空冷4気筒として、胸を張ってやはり「CB」だ。高性能の空冷4気筒という意味ではCBX750Fがそれに続き、頂点モデルは順次CBRブランドへと引き継がれていったが、その後CBという名前は頂点モデルとは別のところでさらに広がりを見せた。
CBR1000Fをベースとした水冷のリッターネイキッド「CB1000スーパーフォア」は、今回同様にまさに新たなベンチマークの登場であり新たなCB像を作り上げた。公道でフルに楽しむにはすでに行き過ぎていた高性能から脱却し、ライダーが真に楽しめ、所有し、愛し、共にバイクライフを育め、それでいてホンダらしいクオリティや味わいも実感できる新しいCB。その後30年も続いたCB「スーパーフォア」ブランドは新たなCB像を確かに構築し、駆け抜け、そして役目を終えた。
そのスーパーフォアブランドからバトンを受け取ったのがこの新型CB1000F。CBブランドにとってのリセット。「進化する基準」を掲げているのだから、CBの新たなる章の幕開けであり、この先さらなる進化・熟成も見据えているということだ。CB1000スーパーフォアが登場したあの時のように、性能一辺倒ではなく、味わいや楽しさを最大限追求し、それでいてホンダのフラッグシップとしての存在感や、ビギナーからベテランまで「うん!」と言わせる確かな走りと魅力も備える……そんな一台としての華々しいデビュー。今後が楽しみである。
新たな「CB」として、ホンダの代名詞となるフラッグシップとして、CB1000Fは次の30年を引っ張っていく。そんな節目に立ち会えてうれしく思う。
(試乗・文:ノア セレン、撮影:渕本智信)
■型式:ホンダ・8BL-SC94 ■エンジン種類:水冷4ストローク直列4気筒DOHC4バルブ ■総排気量:999cm3 ■ボア×ストローク:76.0×55.1mm ■圧縮比:11.7 ■最高出力:91kW(124PS)/9,000rpm ■最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/8,000rpm ■全長×全幅×全高:2,135×835×1,125[1,170]mm ■ホイールベース:1,455mm ■最低地上高:135mm ■シート高:795mm ■車両重量:214[217]kg ■燃料タンク容量:16L ■変速機:6段リターン ■タイヤ(前・後):120/70ZR17M/C (58W)・180/55ZR17M/C (73W) ■ブレーキ(前/後):油圧式ダブルディスク/油圧式ディスク■車体色:ウルフシルバーメタリック、ウルフシルバーメタリック、グラファイトブラック[ウルフシルバーメタリック] ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):1,397,000円 [1,595,000円] ※[ ]はCB1000F SE
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