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試乗・解説






ブレイクアウトはもともとCVOという、数量限定の純正カスタムマシンという位置づけだったのであり、そもそも個性的なハーレーの中でもさらに極端な構成/味付けをしている「傾奇者(かぶきもの)」だった。そんなブレイクアウトが今や?
■試乗・文:ノア セレン
■撮影:Harley-Davidson Japan
■Harley Davidson Japan https://www.harley-davidson.com/jp
■ウエア協力:アライヘルメット https://www.arai.co.jp/jpn/top.html、カドヤ https://ekadoya.com/

えぇ? 今やフラッグシップ??

 そうなのだ、ブレイクアウトはもともとCVOだったのである。ということは、ちょっと他とは違う、しかもハーレーを選ぶライダーの中でもコアなファンに向けたというか、敢えて極端さを楽しむようなバイクだったはず。リアタイヤは240幅で、フロントホイールは21インチ径。先代でいくらかライディングポジションもフレンドリーにはなったものの、それ以前はハンドルもステップも遠くてけっこうハードルの高い乗り物だった……。
 それなのに、今やブレイクアウトは日本におけるハーレー販売では1・2を争う人気車種だというのだ。その1・2を争っている相手は先日新型の試乗記を公開したローライダーST。とっても真っ当というか、ハーレーらしくかつ現代のバイクとしての魅力も詰まった王道の一台。これと人気を二分するというのだから、ちょっと傾奇者的な立ち位置だと思っていたブレイクアウトはいつの間にか大脱皮を果たしたということになる。

#HD-BREAKOUT

小変更でクラシック回帰

 前回のモデルチェンジ時にライディングポジションを中心にかなりフレンドリーな構成になっていたブレイクアウト、今回のモデルチェンジではそんなに大きな変更は受けていない。見た目ですぐにわかるところでは、メーターがハンドルポスト上部に埋め込まれたミニマルなデジタルのものから、ローライダーST同様のアナログタイプになったこと、そしてヘッドライトも先代のどこか近未来的な異形タイプからこちらもコンベンショナルな丸目スタイルに戻ったことぐらいだろうか。
 細かいところではウインカーがLEDの新作であったり、タンクのロゴが変わったり、さらには吸気がいかにもカスタム色をアピールするようなヘビーブリーザーから、よりクラシカルなツーリングインテークに改められたことなどが挙げられる。これらを総合して、先代のまだどこかCVOらしい各種設定からクラシックに回帰したような雰囲気がある。ハーレースタッフの見解では「最近のアメリカ本国のトレンドがこういった方向みたいですね」とのことだったが、しかしブレイクアウトがスター商品になるにつれて、かつてのCVOを連想させるような極端な設定よりも、むしろ王道ハーレースタイルの方へと舵を切ったようにも感じられた。
 なお機能面ではエンジンにライドモードが加わったのがトピックだ。これまではシンプルにワンモードだったが、新型ではスポーツ/ロード/レインの3モードが選択でき、トラコンの設定なども各モードに連動している。またリアサスも変更されており、先代では車体右側にリモートプリロードアジャスターがあったのだがこれは廃されている。

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洗練された新型では一文字ハンドルにしがみついて突き進むといったココロモチで臨まなくとも、写真のように膝を開いて堂々とノンビリ、景色を見ながら走るような気分にもさせてくれる。ただステップの位置は割と遠いため、購入前にライディングポジションのサイズ感は確認しておいた方がいいかもしれない(筆者は身長185cm)。

極端の中の洗練

 試乗は先代モデルから。先代の時点でさらにその前のモデルからハンドルが手前に引かれて着座位置も前寄りになるという変更がなされていたため、ハンドルもステップも遠いという極端な設定はいくらか和らいでいた。とはいえ、240幅のリアホイール、21インチのフロントホイールによる操作感は独特で、ドラッグマシンのようにフル加速するとストロークの少ないサスペンションと相まって路面を蹴っ飛ばしてすっ飛んでいく感覚はとても楽しい。
 リアタイヤは240という幅ばかりに注目してしまうが、ハイトは40であり直線でもコーナーでもタイヤがたわむような感覚は皆無。持てるパワーやトルクがダイレクトに路面に叩きつけられる感覚が本当に楽しい代わりに、路面からの突き上げには弱く乗り味という意味では快適とは言いにくい。一文字ハンドルから伝わってくるビリビリとした振動も演出の一部かのようで、やはりブレイクアウトは極端な設定が楽しいのだなと再認識した。
 新型に乗り換えると、ローライダーSTがそうであるようにやはり大幅に洗練されていた。極端なポジションなどは先代から引き継いではいるのだが、エンジンのフィーリングは大幅に向上。ミッションの入りはスムーズで音や振動が少なくスルスルギアチェンジできるし、電子制御スロットルの制御も格段に向上しているのがわかる。右手の入力に対してラグなく反応してくれるし、アクセルを戻した時の回転の落ち方も先代ではドヨヨーンと曖昧な反応だったのに対して、新型ではピピッとしている。先代のファジーな反応こそがハーレーらしさだという向きもあるだろうが、乗り比べると扱いやすいのは新型の方でありかつハーレーらしい個性が薄れたとも思えなかった。

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王道モデルとしての責任

 どこかぶっきらぼうだった先代に対して、全体的に扱いやすくなった新型。リアサスの設定のおかげか先代ほどの突き上げ感もなく気軽に乗ることができるし、大きな21インチのフロントが曲がりたがらないリアの240幅タイヤをナチュラルに導いてくれる感覚もさらに良くなったように思う。
 ただこのような変化があると、先代では積極的にアクセルを開けて、一文字ハンドルにしがみついてドラッグレース的に加速を楽しむ感覚があったのに対し、なんだかのんびりと乗れる感じが勝ってきてしまった感もある。CVOだったというバックグラウンドを忘れるような親しみやすさ……。そこに一抹の寂しさを覚えないでもないが、逆に足を投げ出して景色を見ながら走るという「ハーレーらしい走り」の部分はかなり伸ばされただろう。
 堂々とした、煌びやかなハーレーで悠々と走る。そんなハーレーの世界観アピールが強まった今、人気にはさらに拍車がかかるのではないかと思う。もはやブレイクアウトは傾奇者のCVOモデルから、ハーレーブランドを引っ張るベストセラーへと成長したのだ。ブランドイメージを背負った時、今回のような変更は正常進化と言えるだろう。

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洗練されたとはいえ、強大なトルクを使ったドラッグレーサー的な加速が楽しいことには変わりない。シートストッパーに尻を当ててアクセルをガバっと開ければファットなリアタイヤが路面を後方へと蹴り飛ばしてくれる。そのダイレクト感が確かにありつつも、リアサスの設定の見直しによるところなのか他の要素も絡んでいるのか、ギャップの通過時などの突き上げは先代よりもだいぶ和らいでいる。

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1923ccのミルウォーキーエイト117エンジンはローライダーSTの「ハイアウトプット」型ではなく、トルク特性を重視した「カスタム」型。最高出力は103PSで、168N・mの最大トルクは3000rpmで発生させる。ちなみにハイアウトプット型の最大トルク発生回転数は4000rpmだ。ローライダーST同様に3種のライドモードが備わったのもトピック。ただローライダーSTではスポーツモードが滅法楽しかったのに対し、より低い回転数で強大なトルクを発するブレイクアウトではスポーツモードがちょっと「過ぎる」と感じる場面も。ロードモードの方がナチュラルに付き合えるような印象となった。なおスポーツモードでもローライダーSTのように高回転域へと誘ってくる感覚は希薄で、やはりブレイクアウトに搭載されるカスタム型ミルウォーキーエイト117は低回転域からガバっとアクセルを開けてトルクを楽しむのが正しい付き合い方のように思えた。

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21インチ径の、スポーク部が切削加工されたホイールは先代から引き継ぐスタイル。正立フォークもまたハーレーらしいというか、雰囲気がある。シングルディスクのブレーキのおかげで車体右側からはこのホイールが一層良く見えてなおカッコイイ。ブレーキの効きはそれなりなのだが、逆にリアは大変に良く効くため減速に不安はなかった。ローライダーSTがフロントのブレーキが強烈なのに対しリアがソフトだったのとは対照的だ。
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極太のタイヤがやはりブレイクアウトの最大のアピールだろう。サイズは先代から変わっていないが、リアサス作動性向上のおかげか突き上げ感はかなり減り快適性は向上している。先代では車体右側にリモート式のプリロードアジャスターがあったが、新型ではシートを外してのプリロード調整となった。ローライダーSTでは1本に集合していたサイレンサーはブレイクアウトでは右側に2本出し。音は抑えられていて上質だ。テールランプ・ストップランプは新たにLEDとなったウインカーと一体型。

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先代では異形の近未来的なヘッドライトだったのに対し、新型ではよりクラシックなスタイルとなる丸型を採用。ポリッシュされた上下ステムの輝きなどは、CVOのようなスペシャル感が色濃く残っていて美しい。
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新たに採用されたアナログタイプのメーターはとても見やすくて機能的だ。メーター下部のデジタル部も大きく視認性良好。ただヘッドライト同様にどこかクラシックな方向性に代わったのは確かであり、先代のハンドルクランプに埋め込まれたミニマムなデジタルメーターの方がチャレンジングでブレイクアウトらしかったと感じる人もいるようには思う。ただ、今やアナログメーターの方がコストも高いだろうに、そういったことを度外視してもアナログに戻ったのはハーレーらしいというか、国産ではやらないことだろうなと思った。スイッチボックスはローライダーST同様に新作になっており、左右独立式のウインカースイッチは親指に近づいただけでなく押した感覚が明確になりとても使いやすくなっている。

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タンクのエンブレムも、先代はカスタム色が強くかつ近代的なデザインだったのに対して、新型ではこれまたクラシカルなスタイルに回帰している。ヘッドライトといいメーターといい、やはりクラシックテイスト路線なのである。ただブレイクアウトという極端なモデルがこうして王道に寄せてきたのもまた、ハーレーファンの心を掴んでいるように思う。タンク容量はローライダーSTと同じ18.9Lを確保しており、先代から搭載されたクルーズコントロールを活用した長距離ツーリングにも対応する。

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ロー&ロングで、誰が見ても「カッコいいハーレー」という佇まい。シート高は665mmで足つきには余裕があり、309kgという重量でも取り回しは意外と自信を持って行える。今やローライダーSTと人気を二分するベストセラーというのも頷ける。

●HARLEY-DAVIDSON BREAKOUT 主要諸元
■エンジン種類:ミルウォーキーエイト117カスタム ■総排気量:1,923cc ■ボア×ストローク:103.5×114.3mm ■圧縮比:10.3 ■最高出力:103HP(77kW)/ 5,020rpm ■最大トルク:168Nm/3,000rpm ■全長×全幅×全高:2,375×940×──mm ■軸間距離:1,695mm ■シート高:665mm ■車両重量:309kg ■燃料タンク容量:約18.9L ■変速機形式: 6段リターン■タイヤ(前・後):130/60B21 63H BW・240/40R18 79V BW ■ブレーキ(前・後):シングルディスク+4ポットキャリパー・シングルディスク+2ポットキャリパー ■懸架方式(前・後):正立型テレスコピック式・スイングアーム式 ■車体色:ビリヤードグレイ、ビビッドブラック、センターライン、ブリリアントレッド、 ■メーカー希望小売価格(消費税10%込み):3,451,800円〜


[『2023年 BREAK OUT試乗インプレッション記事 ノア セレン編』へ]

[『2023年 BREAK OUT試乗インプレッション記事 濱矢文夫編』へ]

[Harley-Davidson JapanのWEBサイトへ]

2025/09/08掲載